時間よ止まれ
娘が大学を卒業した日のこと。
自宅マンションの玄関ホールで袴姿の若い女性とすれ違った。
娘と同じ大学に通う同級生だった。
そばにいた彼女の母親は、頭がボサボサでスウェットを着ている僕に気づいて振り返った。
「あれ、安武さん。はなちゃんの卒業式に行かなかったの?」
卒業式の数日前、娘に「親は出席できないの?」と尋ねた。
「普通、大学の卒業式に親は出てこないやろ」
やられた。ちゃんと、確認しておくべきだった。
娘は過去の出来事が頭をよぎったのかもしれない。
中学や高校の卒業式で、僕が人目をはばからず「おめでとう!!!」と叫んだり、いきなり娘にハグをしたりしたので、今回はそれを避けたかったのだろう。
残念だけど、まあ、いいか。
娘は謝恩会には参加せず、「幼いころから世話になったパパの友達との食事を優先したい」。そう言ってくれたのだから。
娘が言う「世話になった人」とは、セイジとヨウイチ。少し遅れて、娘の彼氏の寧守太(ねすた)とセイジの妻みっちゃんも駆けつけた。
「今日は、みんなと夜更かしがしたいな」
自宅で鍋を食べた後、娘のリクエストで、行きつけのバーに繰り出した。
向かった店は親不孝通りのBassic.だ。
ここのオーナー渡辺圭一さんにも、僕たち親子はずっと世話になっている。
みんなで乾杯した。
このまま時間が止まってくれないだろうか。
そう思えるほど、幸せな夜だった。
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