「アルスター アメリカン」@「劇」小劇場 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 デイヴィッド・アイルランド

演出 大澤遊

池田努/椙山さと美/前田一世

 

 2018年イギリス初演のブラック・コメディーです。作者のデイヴィッド・アイルランドは北アイルランド出身の劇作家。同作家の「サイプラス・アヴェニュー」という作品をリーディング上演で観たことありますが面白かった記憶がある。両作で賞を獲っているらしい。

 

 ネタバレあらすじ→俳優のジェイ(男)はアイルランド系アメリカ人でカトリック。北アイルランド紛争を題材にした芝居で主役を演じることになり、その打ち合わせでロンドンにやってきた。演出家のレイ(男)はイギリス人で無宗教でイギリスのEU離脱反対派。2人は、自分たちはフェミニストでありハラスメントや差別は許せない行為だと雑談している。そこに到着した戯曲家のルース(女)は北アイルランド在住でプロテスタントでイギリスのEU離脱賛成派。ジェイは自分が演じる主人公は「アイルランド統一を目指すカトリック」であり、ルーツを同じくする自分にぴったりだと思っていた。しかし実は「それに敵対するプロテスタント」の役だと知り、戯曲を書き直せとルースに迫る。ルースは、自分は北アイルランドに住んでいるがイギリス人であり、その立場で戯曲を書いたのだと書き直しを拒否。レイは演出という立場から日和見的な態度。そこから3人のバトルが始まり、さらに男2人のミソジニーなど隠れた偏見もあらわになり、それぞれの言い分は飛躍し互いに罵倒し合うまでになる。とうとうルースはレイを絞殺し、ジェイを傷つけて不具者にする😱 おわり。

 

 最後はとんでもないことになるんですが、全体をブラックコメディー風に仕立ててるところが味噌。風刺や皮肉に富んだ会話が繰り広げられ、男同士のマウント取り合いみたいなやり取りやハリウッド映画がらみの小ネタは結構笑えました。

 2人の男は冒頭で進歩主義を装った会話をするんだけど、実はそれとは真逆の “無意識の” 偏見の持ち主だということが見え隠れします。そしてそれが最後にあらわになる。ルースはオスカー俳優であるジェイに対して最初は媚びるけど、立場の違いが分かると豹変し態度を硬直させ強くなる。最後に彼女が暴力的行動に走るのは、男2人が女性のレイプを正当化するような会話を面白おかしく交わしていたのを知ったのが引き金になったんだけど、彼女が2人にした行為は、彼女が支持するプロテスタント系右派組織(アルスター義勇軍)の過激テロ集団が市民に行った残虐行為と同じなんだよな😑

 

 で、面白くなかった訳ではないんだけどねー💦 3人の言葉のバトルシーンが結構長くて、そのぶん会話がグルグル回り、次第に人物描写が画一的になり、観ている途中から話の収拾先が見えなくなってちょっと疲れてしまった。

 そもそも、3人の文化的・政治的・社会的アイデンティティーが多様&対立しすぎていて、戯曲として焦点がぼやけてしまったように感じました。北アイルランドにおけるナショナリスト(カトリック)vs ユニオニスト(プロテスタント)問題なのか女性差別問題なのか、どっちかにしてほしい。そこにさらにレイシズムやマンスプレイニングや政治(ブレグジット)問題の話を入れるとややこしくなるだけでは?……ってなる。また、男性2人がたとえ話として雑談するレイプに関するジョークが too much、しつこかったー😔

 役者さん3人ともセリフは良かったけど、バトルが激しくなって身体表現(掴み合いとか)になると、段取りめいたぎこちない動きになっていた。初日すぐだったので絡みのアクションがまだこなれていなかったのだと思う。

 

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