新国立劇場バレエ「不思議の国のアリス」@オペラパレス | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付 クリストファー・ウィールドン

音楽 ジョビー・タルボット

装置・衣装 ボブ・クロウリー

池田理沙子/井澤駿/速水渉悟/本島美和/スティーヴン・マックレー/宇賀大将

 

 本島さんのハートの女王が第一のお目当てでしたが、奇しくもマッドハッターをマクレーが! しかも応援している理沙子さんが初役アリスだし、奥村くんが出ないのは残念だけど、速水くんの初役白ウサギも観られて、自分としてはベストキャストの日でした。カーテンコールでは本島さんへの拍手がマクレイと同じくらい大きくて嬉しかった🎊

 

 本作、打楽器をふんだんに使ったタルボットの音楽があまり好みではないのですが💦 いわゆるノンセンス文学である原作を脚本に起こした(バレエ化した)ニコラス・ライトの脚色がよくできている。原作では7歳のアリスを、恋を知る思春期の15歳の少女に変え、子供の無邪気さと大人の思慮分別の間で揺れ動くアリスが上手く描かれていると思うのです。

 冒頭のガーデンパーティーに出てくる人や出来事やアイテムが、彼女が迷い込んだ「不思議の国」で重なり、庭師ジャックとアリスとの淡い恋愛を軸にしてあるのも名案。アリスの母/ハートの女王の好物ジャムタルトを盗んだと濡れ衣を着せられたジャックが、現実世界では解雇されるけど、「不思議の国」ではアリスに(原作通り)救われる、その過程でアリスとジャックとの恋が育っていくわけで。

 最後は現代になり、ただの夢オチで終わると思いきや、そこに現れたカメラ青年とアリスがどこかで会った気がする仕草を見せるとか、そのカメラ青年が白ウサギと同じ癖(耳の後ろを掻く)をするとか、夢と現実が混ざり合う幻想的なエンディングは好みです。

 プロジェクションマッピング、パペット、装置などがとてもよくできていて視覚を十分に刺激し、実際、それが「楽しい」のかなりの部分を占めているかも。例えば女王がハートのオブジェに入って登場するの、秀逸なアイディアです。圧倒的な存在感を主張できるのに、どんなに威張っても誰かに押してもらわないと動けない😅 自分を置いて行っちゃった臣下を呼び戻してカカカーッて怒る本島女王が可愛かったりしました。

 

 理沙子さんがアリスって、大抜擢なのでは?(木村優里さんかなと思っていた)。理沙子さんはアリスのイメージに合っていると思っていたので、これは嬉しいです。アリスは、好奇心旺盛で現実対応能力があり、大胆で恋には素直。好きな人を守るために勇気を持って行動する(現実ではできなかったから)。理沙子さんはくるくる変わるシーンごとに表情や動きを自在に変えての健闘ぶり、愛らしいアリスでした👏 マッドハッターのお茶会のあと、Who are youで自分を見つめ、幻想の中で姉2人と踊るところが良かった。踊りそのものは要所ごとにひとつひとつの形がもう少し正確に決まれば……と思うけど。

 ジャックは井澤くんで、やはり初役。ジャックって引っかかりのない役柄という意味で個性を出すのが難しい中、一貫して好青年ぶりを発揮し、サポートも危なげなく、ソロはエレガントでした。2幕、花のワルツの後のPDDは息を合わせることに集中している感のある2人だったけど、3幕、判決前のPDDでは良いパートナーシップを見せていたと思う。ただ、ウィールドンの男女の愛のダンスってあまりロマンティックではないのよね😔

 

 ハートの女王の本島さん、まさに期待通り、それ以上でしたー。威厳と気品を体から発散させる、問答無用の強権者、癇癪と歓喜が入り混じったあの目力、高笑いする時の上半身の大仰な動き、「打首!」と命ずるときの指を首の前で横にシュッと動かす時の表情、なのに、何をやっても隠せない華やかさ、もう、さいっこうでした🎉 タルトアダージオのダンスと演技も本当に素晴らしかったし、相手をする4人の臣下も良い~。全く相手にされない夫君の貝川さんとの小芝居も目が離せなかった。本島さんの女王は、英国ロイヤルバレエのオリジナルキャストであるゼナイダ・ヤノウスキーと重なります。2人ともゴージャスな美形で、あのキラッキラの怖さが魅力なんですよね。

 

 マッドハッター役にマクレイが招かれたのにはびっくりでしたね。都さんの采配に拍手です。まずは彼の健在ぶりを見られてひと安心。タップダンスに詳しくないタップ鑑賞シロートの私でも、マクレーの音楽性、リズムの取り方、軽やかで敏速な足捌き、そしてキレや音の強弱の出し方などに感嘆しました。なおかつ、マッドハッターという、やや狂気が混じっている役柄の表現も外さず、物語の中に強烈なアクセントを作っていました。マクレイ、日本で踊ってくれて本当にありがとう!😭

 

 速水くんの白ウサギですが、難しい役なんだなと改めて分かりました。ダンステクニックだけでなく、物語を引っ張っていく力と役柄を表現する演技力が必要。なんと言ってもオリジナルキャストはエド・ワトソンですからねー。ガーデンパーティーではルイス・キャロル、つまり物語を作る人物で、不思議の国でも物語を進めていく白ウサギ。そういう存在としての役の形を自分なりに作る必要があると思った。速水くんは初役だから当然ですが、まだ手探りの感じ。でも、ダンスは魅せるし、要所ごとの演技は面白い。アリスとジャックがラブラブでPDDを踊っている時に、ヤレヤレまだかよって感じでため息ついたり所在なさげにぼーっとしたり😆

 宇賀くんのイモ虫が良かったな。腰回りのクネクネが色っぽい。群舞で好きなのはカードたちのシャキッとした幾何学的な踊りで、今回も切れ味がありました。

 

 本作の初演は2011年。ロイヤルバレエでは1995年トワイラ・サープ振付の「Mr. Worldly Wise」以来16年、全幕もの物語バレエ作品が創られていない状況下での待望の新作だったそうです。ちなみに、そのサープの作品はどうやら不成功に終わったらしく、しかもそれに出ることになっていた熊川哲也が公演直前にロイヤルバレエを退団するという……あ、ここでは関係ないですね🙇‍♀️

 

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