モンペリエ大学をはじめとするフランスの複数の研究機関の研究者たちは、ビタミンDのサプリメントが多発性硬化症(MS;Multiple Sclerosis)の治療に有効である可能性を示す臨床的な証拠を発見しました。
MSは、中枢神経系(脳と脊髄)に影響を与える自己免疫疾患であり、患者の生活の質を大きく損ないます。
今回の研究では、ビタミンDの高用量摂取が病気の進行を遅らせる可能性が示唆されました。
研究者たちは、「ビタミンDは安価で副作用が少なく、特に高価なMS治療薬にアクセスしにくい患者にとって有望な選択肢となる可能性がある」と述べています。
本記事にて、研究の背景や研究結果について解説します。
参考研究)
・High-Dose Vitamin D in Clinically Isolated Syndrome Typical of Multiple Sclerosis(2025/03/10)
ビタミンDと多発性硬化症(MS)の関係

ビタミンDは、脂肪の多い魚(サーモン、マグロ、サバなど)や卵、キノコ類などの食品に多く含まれている成分です。
人間の体内では主に日光に当たることでも合成することができ、皮膚が紫外線を浴びることで、コレステロールの一種がビタミンDに変換され、肝臓と腎臓で活性型ビタミンDへと変化します。
ビタミンDには以下のような機能があります。
• カルシウムとリンの吸収促進(骨の健康を維持)
• 免疫機能の調節(感染症や自己免疫疾患の予防)
• 細胞の成長と分化の調整
• 神経筋機能のサポート
近年の研究では、ビタミンDの欠乏が自己免疫疾患(特にMS)のリスクを高める可能性が指摘されています。(Vitamin D as a Risk Factor for Multiple Sclerosis: Immunoregulatory or Neuroprotectiveより)
MSの原因とビタミンDの関係
MSは、免疫システムが誤作動を起こし、神経細胞を覆う髄鞘(ミエリン)を攻撃する自己免疫疾患です。
髄鞘が破壊されると、神経信号の伝達が妨げられ、運動機能や感覚、認知機能に影響を与える可能性があります。
ビタミンDは、免疫系を調節する働きを持ち、MSの発症や進行を抑える可能性が示唆されています。
特に、ビタミンDの不足がMSの発症リスクを高めることが過去の研究で明らかになっています。
臨床試験の概要:ビタミンDがMSの進行に与える影響
今回の研究では、臨床的に孤立症候群(CIS)と診断された303人の患者を対象に、ビタミンDの摂取がMSの進行に与える影響を検証しました。
CISは、MSと類似した症状を持ち、多くの場合、数年以内にMSへと進行することが知られています。
試験は以下の通りに実施されました。
• 303人のCIS患者を2つのグループに分ける
• グループA(実験群):2週間ごとに高用量のビタミンDサプリメント(コレカルシフェロール)を投与
• グループB(対照群):2週間ごとにプラセボ(偽薬)を投与
• 試験期間:2年間
• 観察ポイント:脳と脊髄のMRIスキャン
で病変の発生を記録
研究結果:ビタミンDの有効性が示唆される
試験の結果、ビタミンDを摂取したグループは、脳や脊髄にできる病変が少なかったことが明らかになりました。

病気の活動性が観察された割合
• ビタミンDグループ:60.3%
• プラセボグループ:74.1%
この差は統計的に有意であり、ビタミンDがCISやMSによる損傷の一部を防ぐ可能性があることが示唆されました。
さらに、特に改善が見られたのは以下の条件を満たす参加者でした。
1. 重度のビタミンD欠乏があった人
2. BMIが正常範囲の人
3. 試験開始時に脊髄病変がなかった人
研究者は、「コレカルシフェロールは、CIS後の低コストで副作用の少ない治療選択肢となる可能性がある」と述べています。
これは特に高価なMS治療薬にアクセスできない人々にとって有望です。
今後の課題と展望
今回の研究結果はビタミンDとMSとの関連性を示す点では有望ですが、以下の要因を明らかにするためにさらなる検証が必要とされています。
• MSの症状に関する明確な差
磁気共鳴画像(MRI)による中枢神経系の損傷度合いの評価では明確な差がありましたが、実際の症状の差は小さかったです。
再発率の差も統計的に有意ではなかったため、MSの進行を完全に防げるかどうかは不明です。
• ビタミンDの作用メカニズムの解明が必要
ビタミンDが免疫系を強化することは知られていますが、MSは免疫系の誤作動によって引き起こされるため、どのようなメカニズムで効果を発揮するのか詳細な研究が必要です。
• さらなる臨床試験が求められる
研究者たちは、「パルス高用量ビタミンD療法の追加効果も検討すべき」と述べており、今後さらなる臨床試験が計画される可能性があります。
MSの治療法を見つけるための研究は現在も進行中です。
リスク要因の特定、病気の進行の抑制、発症メカニズムの理解が進むことで、MSのみならず、その他の自己免疫疾患治療へも有益な情報が得られることでしょう。
まとめ
・ビタミンDの高用量サプリメントは、MSの進行を抑える可能性がある
・特にビタミンD欠乏者やBMIが正常な人に効果が見られた
・さらなる研究が必要だが、低コストで副作用が少ない治療法として期待される
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