米国の子どもたちの間で慢性疾患や注意欠陥、多動性障害などが急増していることが、カリフォルニア大学による新たな研究によって明らかになりました。
これらの疾患の多くは予防可能ですが、適切な医療や支援が受けられなければ、大人になっても影響を及ぼす可能性があるとされています。
今回のテーマは、そんな時代の進みとともに増えてきた病気についての研究結果です。
参考研究)
・Prevalence and Trends in Pediatric-Onset Chronic Conditions in the United States, 1999-2018(2025/03/07)
研究の内容と結果
この研究は、230,000人以上の若者を対象に行われた長期調査のデータを基にしており、家族が報告した子どもの慢性疾患(喘息など)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの有無を分析されました。
その結果、1999年には約23%だった慢性疾患や機能制限を持つ子どもの割合が、2018年には30%以上に増加していることがわかりました。

これはほぼ3人に1人の子どもが深刻な健康問題を抱えていることを意味します。
慢性疾患の増加傾向
また、研究では、慢性疾患の増加が年齢層ごとに異なる特徴を持っていることが判明しました。
• 5〜17歳の子どもでは、ADHD/ADD、自閉症、喘息が増加の主な要因
• 18〜25歳の若年成人では、喘息、てんかん(発作)、前糖尿病の増加が顕著
また、機能制限の増加についても詳しく調査された結果、以下のような要因が主に関与していることがわかりました。
• 言語障害(発話に関する問題)
• 筋骨格系の問題(関節や骨、筋肉の発達に関する問題)
• うつ病や不安障害
• 感情的問題やその他の精神的健康問題
この結果は、身体的な疾患だけでなく、精神的な問題も深刻化していることを示唆しています。
社会経済的な背景と慢性疾患

研究を主導したのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のLauren Wisk氏とHarvard UniversityのNiraj Sharma氏です。
研究チームは、「現在、米国には5〜25歳の若者が8,740万人おり、そのうち2,570万人が何らかの慢性疾患または機能制限を持っている」と報告しました。
これは、毎年120万人の若者が慢性疾患や機能制限を抱えたまま成人を迎えていることを意味します。
しかし、研究者たちは、こうした慢性疾患の増加が単なる医学的要因だけでなく、社会経済的な状況とも深く関係していると指摘しています。
特に、慢性疾患を持つ子どもたちの多くが以下のような状況に置かれていることが明らかになりました。
• 低所得世帯に属している
• 親が失業中である可能性が高い
• 公的医療保険に依存している(民間保険を持たない)
これらの要因が、子どもたちが適切な医療を受ける機会を制限し、結果として疾患の管理が不十分になってしまう可能性があります。
成人期への移行における課題
米国の医療システムは、慢性疾患を持つ子どもたちが成人期に適切に移行できるように設計されていません。
小児科から成人になるにあたって経済的な補助がなくなったり、他の医療機関への情報伝達が不十分だったりと、継続医療システムへの移行がスムーズに行われないことが若者たちの健康リスクを高めているのです。
2014年に発表された研究では、多くの若者が成人医療に移行する際に、年齢に適した医療を受けることができず、必要なケアを受ける機会を失っていると指摘されています。(Transition Care: Future Directions in Education, Health Policy, and Outcomes Researchより)
これにより、治療の継続性が確保されず、慢性疾患が悪化するケースが増えていると考えられます。
Wiskは次のように指摘しています。
「慢性疾患を持つ子どもたちは、生涯にわたって医療や社会的サービスを必要とする。しかし、現在の医療システムは、小児科から成人医療へスムーズに移行できる仕組みになっておらず、多くの若者が医療から取り残され、病状が悪化するリスクを抱えている。」
データ収集の課題と今後の研究の必要性
今回の研究で使用されたデータは、National Health Interview Survey(NHIS)という全米規模の健康調査によるものです。
しかし、2019年以降、この調査では慢性疾患に関する詳細な質問項目が減ってしまいました。
この変更により、研究者たちは最新のデータを基にした正確な傾向分析ができなくなっていると懸念を示しています。
特に、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが子どもたちの健康にどのような影響を与えたのかを分析することが難しくなっているのです。
Wiskは「若者の健康状態を引き続き監視し、研究を継続するための新たな方法を見つける必要がある」と強調しています。
今後、慢性疾患の増加を防ぐためには、医療制度の改善、データ収集の強化、そして社会的格差の解消に向けた取り組みが求められるでしょう。
まとめ
・米国の子どもたちの慢性疾患は1999年から2018年の間に約23%から30%以上に増加した
・慢性疾患の増加はADHD/ADD、自閉症、喘息、てんかん、前糖尿病などが要因
・医療システムの不備により、慢性疾患を持つ若者が成人期に適切な医療を受けられない可能性が高い
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