最近日本に一時帰国したときに、10年越しの願いだった高倉健・倍賞千恵子共演の東宝映画「駅 Station」を鑑賞する機会に恵まれました。
公開されたのは1981年、まだ私がよちよち歩きの頃の作品ですが、小学生時代から何度かTVでの再放送があって、両親や祖父母の傍で見ていました。オリンピックの射撃選手であり、警察官でもある健さん演じる三上英次と、彼の人生と交錯する女たちを描く情緒的作品。「直子(いしだあゆみ)編」、「すず子(鳥丸せつこ)編」、「霧子(倍賞千恵子)編」という3部作からなる大河ロマンであり、「北の国から」の倉本聰が脚本を担当、そしてメガフォンを撮ったのが降旗康男監督です。物語の主な舞台は、北海道の増毛町。映画を見る前に、ロケ地を訪問したのは後にも先もこの映画が初めて。しかも2回も。
幼ながらに健さんをはじめ、共演俳優陣が渋くてかっこいいと思ったものでした。そんな昔から私はイケオジが好きだったんです、というツッコミはさておいて、やはり子供には男と女の機微を理解できるはずもなく、ストーリーの全容は理解せずにいました。やがてYouTubeが一般的になった15年くらい前から、なんとなく気になって、この映画の予告編やアップされている名シーンを何度も眺めては、健さんの世界にハマっていたものでした。特に、邦画史上の名シーンと言われる、健さんと倍賞千恵子さんが、吹雪の夜に小料理屋のカウンターで、TVから流れてくる八代亜紀の「舟唄」を聞きながらいつの間にか惹かれ合うシーンは圧巻で、いつか全編を鑑賞したいと思っていたのです。
2時間半近い長編ですが、観てよかった!
冒頭は英次の前妻・直子との別れのシーン。函館本線銭函駅から旧型客車に乗って敬礼をしながら去っていくいしだあゆみ。涙を堪えながらも笑顔を保とうとする姿がいかにも切ない。いしだあゆみは「北の国から」でも、田中邦衛演じる夫五郎の元を去っていく役を演じていましたね。田舎が似合う不器用を愛しながらも、彼のもとを去っていくというような都会的な女性が似合います。「すず子編」は、鳥丸せつこ演じるすず子と連続殺人容疑者である彼女の兄を軸に話が展開しますが、鳥丸せつこの小悪魔的魅力と深い闇が交錯する狂気的な演技に引き込まれました。
そして、この作品の本編とも言える「霧子編」。留萌本線の終点(当時)増毛駅で、英次が誰かを待っている霧子を見かけるところから始まります。その夜に霧子の店に行き着く英次は、霧子を見て「昼間、駅にいたでしょう?一度見たら忘れないよ、いい女は」と口説き文句を投げかけて二人の距離は一気に縮まります。こんなセリフを言って似合う俳優は後にも先にも健さんくらいではと思ってしまいます。健さんと倍賞千恵子さんはこの映画以外にも「遙かなる山の呼び声」や「幸福の黄色いハンカチ」など北海道を舞台にした映画でも共演しています。どの作品の中でも、ベストカップルという称号がふさわしいですが、この作品での相性は中年男女の悲哀が滲み出ていて圧巻だったように思います。居酒屋霧子のシーンが豪華邦画史上に残る名シーンと言われる所以でしょう。
健さんやいしだあゆみ、倍賞千恵子など、物語のキーとなる登場人物を演じる俳優以外の共演者も超豪華です。英次の先輩刑事・大滝秀治、義理の兄の名古屋章、すず子の兄を演じる根津甚八、彼女の恋人を演じる宇崎竜童、英次の故郷雄冬の幼馴染に田中邦衛、小松政夫などなど。霧子の昔の男で、英次が追う殺人犯でもある森岡茂を演じた室田日出男、また、健さん演じる英次の弟・永島敏行、妹・古手川祐子らは、ほんの数分の登場なのに、その存在感で記憶にしっかりと刻まれる好演。そういった豪華俳優陣がそれぞれほんの数分のシーンに次々と登場しても、しっかりと記憶に残る印象的な人物に描く降旗監督と倉本聰の脚本力には脱帽です。
男鑑賞視点でも見どころの多い映画でした。まず、中年に差し掛かった健さんを鑑賞するプロモーション映像と言ってもいいくらい男の魅力がムンムンしています。脱いだりするようなシーンはありませんが、狙撃トレーニングや夏のシーンのポロシャツ姿では、服の上からでも分厚い胸板と上腕筋のが素晴らしく、健さんの恵まれた体型を鑑賞できます。そして、私的には、根津甚八、永島敏行、室田日出男の3人の印象が推しでした。
連続殺人犯である根津甚八が、近親相関的なニュアンスを含むくらい愛している妹すず子の前にあわらる緊迫のシーン。妹を愛おしく思いつつも、警察の囮捜査にはまったことを察知するときのなんともいえない表情。この後、演技派俳優として活躍していく片鱗を見せています。また、増毛神社の年越しのシーンで、英次と霧子が一緒に歩くのを遠巻きに眺める室田日出男演じる森岡はマスク・サングラス姿でも彼とわかる存在感。そして、私の1番のお気に入りの登場人物は永島敏行演じる英次の弟。実家に帰省した英次(健さん)が寝床に入る前に、英次の子供に密かに会いに行った話をする永島敏行の様子は可愛すぎて困ってしまいました。ゲイ的要素は全くないんですが、男兄弟同士の何気ない会話をした時のなどの表情は色っぽくて艶っぽくて、その後2枚目俳優として頭角を表しいていく片鱗を見せていました。
健さんの弟を演じた永島敏行
古手川祐子も美しかった。右は実生活での元夫で俳優の田中健
倍賞千恵子さんは今年84歳になられるそうです
と、見どころ満載の日本映画の傑作中の傑作、「駅 Station」を観た感動をどこかでシェアしたくてこのブログで紹介させていただきましたが、奇しくも観たのは、健さん没後およそ10年たった年。もしご存命なら今年95歳になります。色々いい日本の俳優さんはたくさん出てきてはいるけれど、高倉健という男は唯一無二の存在と改めて認識した映画でした。そして、倍賞千恵子さんは、今年84歳。まだまだご活躍中です。ちょうど日本に滞在中に新聞で、バースデーコンサートを開催する広告を観ました。ぜひ行ってみたいものです。
続編は、実際に増毛を訪問した時のお話を書きたいと思います。