豊嶋康子 発生法ー天地左右の裏表
豊嶋康子 発生法ー天地左右の裏表東京都現代美術館2024年1月29日(日)作品の作り方は人それぞれだ。思想、構成、知識、道具、材料、技法、云々。しかし、人間は意外に同じような方法で作品を作ってきた。これまでに無い独自な方法により作品を作るにはどうすればよいのか。豊嶋康子の作品は作り方そのものだ。ある意味できたものには意味はない。この展覧会ではすべての出展作品の制作方法が開示されている。いくつかの作品をその説明と共に見ていこう。38 パネル本来は鑑賞する部分ではないパネルの裏面に、他にあり得るであろう骨組みのパターンを増やし続ける。壁に斜めに掛けてあるので、鑑賞者は作品の横から裏面を覗き込むことができる。見たことないものを作るために普段見せない部分を使う。骨組みであれば決まったパターンが出来上がるが、骨組みの機能を持たない組み合わせならば新しいパターンが生まれる。こうして、本来見る必要のない部分に作られた見たことない模様を鑑賞できるようになる。37 隠蔽工作キャンパスやパネルの裏面の骨組みをつなげて、何かを収納できる部分や解体しない限りあらわれない密封空間をつくる。裏目の構造強化で作品を保護するのと同時に隠す仕様そのものが形体を決定する。何か独自の目的、理由、独自のルールに基づいて作られたものは、他のものとは違って見えます。例えば何かの機能を実現する構造です。その機能が実際に役立つものではないとしても、何らかの意図の存在を見るものに感じさせます。05 ジグソーパズル既製品のジグソーパズルのピースを横一列につないでいく。無作為に手に取った順番ですべてのピースを使い、本来完成させるべき絵柄(面)ではない線をつくる作る本人も最終的な完成形は仕上がらなければわかりません。はめ込む部分が限定されているジグソーパズルを無作為に繋げた結果、壁に蟻の巣のようパターンが現れます。機械やコンピュータとは違う有機的な印象を与える線です。04 サイコロ展示会場でサイコロを振る。片手に一握り、箱ごと一気に、アンダースローで、など私が決めたさまざまな振り方によってサイコロの目が出る。純粋に無作為をもって制作する作品。しかしながら、サイコロは必ず6通りのアウトプットしか持たないし、確率的には6つ目はほぼ同じ数現れる。散らばるサイコロの位置関係もそこそこ均等に配置される。無作為の集積は自然の法則を暗示しており、予測のできないものの先にある大いなる必然です。07 浮き水中と空中の境界である水面を貫く浮き。釣り雑誌に掲載されている制作手順に従って、へらぶな釣り用の浮きをつくる。作り方は作者が決めなくともよい。作者の意図を、極力排除する方法として他者が決めた作り方(ここでは釣具雑誌の制作手順通り)をそのまま、引用する。出来上がるものはもちろん「浮き」である。34 固定/分割「発生」の初期段階にある卵割のように、2つに割れる球体としてくす玉をつくる。展覧会終了後、搬出時に溜め込んだ息をを吐くかのごとく(私が)、くす玉を割る(私が)。垂れ幕と紙吹雪と紙テープが落ちてくる。「初期段階の卵割のような」というが何の変哲もないくす玉だった。くす玉は元々球体で2つに割れるものだし。卵割は細胞分裂であり割れるのではなく増えるもので、イメージが誤っているような気もするがそこは大目に見るところかもしれない。展覧会開始時に1つだった細胞が時間の経過とともに増殖する比喩として、会期終了時に割ったくす玉が紙吹雪と紙テープを撒き散らすといことだろうか。一連の行為は作者による一種の願掛けのようにも見える。安全ピン安全ピンの針先に向かって折り曲げられた部分を、さらに折り曲げる。あるいはまっすぐにのばす。シンプルな加工ではあるが、確実に安全ピンが安全でなくなる。ちなみに安全ピンの素材はスチールのニッケルメッキ。意外に硬いので、見ていて少し力が入る感じ。定規直角定規、三角定規、雲形定規、分度器をオーブントースターで加熱する。プラスチックの素材とともに目盛りも歪む。不作為の作為を取り込んでいる伝統的な美術といえば、陶磁器だろう。窯で焼くことで生じる釉薬の変化は運任せだ。電子レンジの加熱により生じるプラスチックの変化もまた、運任せ。ダリの絵画の柔らかい時計のようにいい感じに歪んでいる。15 口座開設銀行口座での口座開設の手続きで1,000円を入金して、2週間後に届くキャッシュカード待つ。カード到着後に口座開設時の1,000円を引き出し、別の銀行で口座を開設する。この手続きを繰り返すいわゆる制作活動でなくとも成果物があれば、それを作品とすることが可能だ、制作費1,000円で拡張し続ける作品。近年、残金ゼロの銀行口座は手数料が取られる場合があるが、どのように対応しているのだろう。その変化も作品として取り込むのか、定義が変わった時点で終了とするのか。14 ミニ投資株式投資のために証券会社に口座をつくる。開始時の1996年には当時の四大証券会社だった大和證券、日興證券、野村證券、山一證券に開設し、2000年にマネックス証券、2006年にカブドットコム証券を追加。株式の購入日、銘柄、変動をすべて列挙し続け、購入した株式は生涯売却しない。現代アートでよくある活動を作品とする形式。証券だけでなく変動する株価も作品。証券会社との合作とも言える。しかし説明文を読む限り、単なる株式のバイアンドホールドにしか見えない。他に工夫した部分があるのだろうか。さて、いろいろ見てきました。わかったような、わからないような妙な気持ちではないでしょうか。こんな声が聞こえてきそうです。どこが美しいのですか?美しいかもしれないし、美しくないかもしれない。何の意味があるのですか?意味はないかもしれないし、あるかもしれない。何が面白いのですか?作っている人は面白いのかもしれない。このようなアートは、純粋数学のような知的な思考の遊びに近い。そしてこの世の中にはこのようなことばかり考え続けてしまう人間が少数ながらいる。現実の生活、今日の社会では意味がない制作方法も、違う価値観、文化の中であれば重要な意味を持つかもしれない。さらには、次の時代の人間の思考のあり方を先取りしているかもしれない。もちろん、ただの戯言かもしれない。アートの最先端はそんなものです。この最先端の領域を楽しめるなら、あなたは私と同類です。↓ランキング参加中!押していただけると嬉しいです!