瑞霊に倣いて

瑞霊に倣いて

  
  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

・「『異病同治』からみた麻黄附子細辛湯の評価」  水島宣昭

 

 “「傷寒論」の冒頭に「少陰の病たる脈微細、但寝んと欲すなり。少陰病吐せんと欲して吐せず、心煩して但寝んと欲し、五六日自利して渇する者云々……。少陰病始め之を得て反って発熱し、脈沈なる者は、麻黄附子細辛湯之を主る」と記載されているように、麻黄附子細辛湯(以下麻附細辛湯と略す)の応用はこの証より始まるのである。

 この麻附細辛湯の有効性については、すでに多くの評価をみているが、「ただ寝んと欲するなり」と言う証についての評価はいまだなされていないように思われる。そこで筆者はこの証に大変興味を覚え、傾眠傾向をもった患者に果たしてどれほどの効果が期待できるものか試してみることにした。

 

 その前に「ただ寝んと欲す」る状態の分析についてであるが、傷寒論当時はこの状態をどのように把握していたものやら全く知るよしもないので、今回、臨床試験の対象に供するため、今日的視点から次の三通りの状態を考えてみたい。

 その一つは、虚証からくる単なる元気がなくて、疲れてどうにもならず、ただ横に伏していたいという状態。

 次は、熱のあるなしにかかわらず、無気力、脱力のために眠くてどうにもならないで、一日中傾眠傾向が続く状態。

 今一つは老人痴呆、老人せん妄による睡眠-覚醒リズムの障害のため、昼と夜とが逆様になり傾眠の状態、などであろう。

 そこで、中医学の「異病同治」1)2)の概念に基づいて、各種の疾患でこの証をもった患者に麻附細辛湯を投与し、覚醒の状態並びに種々の症状改善について「傷寒論」をもとに検討を加えてみた。

【臨床方法】

A)対象患者:

 1)脳梗塞後遺症兼自汗、78歳女性

 2)老人痴呆、90歳女性

 3)末期関節リウマチ、80歳女性

 4)気管支喘息発作、79歳男性

 5)慢性骨髄炎兼慢性気管支炎、79歳男性

 6)急性肺炎、88歳男性

 7)習慣性偏頭痛兼貧血、79歳男性

 8)急性湿性胸膜炎、77歳男性

B)治療法:

  麻附細辛湯1日6g分3回投与。その他、抗生剤、漢方方剤など必要に応じて併用した。

C)効果判定:

 覚醒状態、疼痛、浸出液、自汗、皮膚乾燥などの自他覚所見について、本方剤を使用してから症状改善までの日数により、総合的に判定した。著効は2日以内、有効7日以内、やや有効8日以上。

 

【成績】

 第1症例は、拒食のため強制栄養を行なっていた患者であるが、表1の如く、2日以内に質問にもきちんと答えられるまでに覚醒した。さらに自汗がひどかったが、次第におさまった。

 第2症例は、同じく2日以内で昼と夜との区別がつくほどに覚醒した。

 第3症例は写真1の如く骨破壊の高度なリウマチで、入院時、ただ痛い痛いと寝たきりの状態で、胃内停水も認められたので、六君子湯を併用したためか、5日ほどで痛みの訴えはなくなり、粥を食べられるほど、回復が早かったように思われる。

 第4症例の喘息発作に対しては、以前から麦門冬湯、麻杏甘石湯、八味地黄丸など、方剤を変え与えて経過はよく、寛解期にあったが、厳寒時に発作をおこした。西洋薬も試みたが効き目もなさそうなのですぐに麻附細辛湯に替えてみたところ、3日位で喘鳴、呼吸困難もとれ、覚醒についても効果は顕著であった。

 第5症例は、かなりひどい悪臭をもった膿性分泌物が、大腿骨中央部より流出していた。発熱はないが、喀痰多く、傾眠が認められたので、麻附細辛湯に切り替えてみた。分泌物の減少に関しては決して切れ味はよくないものの、減少傾向は認められた。

 第6症例の肺炎患者には、滋陰降火湯も併用していたためか、高熱も次第に下がり、喀痰、呼吸困難も7日以内で消失し、意識も清明となった。

 第7症例は、貧血以外とくに変化はなかったが、入院時から、元気がなく、「頭が痛くてどうにもならん、いっそ死んだ方がましだ」と訴えていた。頭を冷やしても、温めても、西洋薬、呉茱萸湯などでも、一向によくならず、麻附細辛湯によって1日でうそのようによくなり、患者もほがらかになり喜んでくれた。

 第8症例は、以前よりるい痩のはげしい患者でゲートボールに熱中するあまり、風邪をこじらせて40度の熱を出して入院してきた。肺炎の徴候は全くみられず、皮膚は乾燥し、辛うじて胸部X線(写真2)で、右肋横隔膜角に胸水が認められる位であった。それが投与後4日目で、熱も下がり、胸水もほぼ完全に消失した(写真3)。さらに、脈は洪大、数、緊であったものが、正常にもどり、覚醒も見事であった。

【考察】

 上述の8症例から、麻附細辛湯の応用について種々の問題点をさぐってみたい。本方剤における適応症、例えば脈診、舌診、頭痛、発熱などについて、最近なにかと議論の多いところである。まず筆者は、本症例すべてにおける見事な覚醒ぶりについて考えてみたい。葛根湯を夜分に飲むと興奮し、眠れなくなると言う患者の訴えをよく耳にする。この事からも覚醒の作用機序は、麻黄の含有アルカロイドであるアンフェタミン様作用3)4)に基づくことはほぼ間違いのないところである。ことに脳波においては覚醒パターンに移行すると言う事実もある。それがあらぬか、患者らは眠気をさまし、元気をとりもどし、自発運動も盛んにみられるようになったのである。

 次の大きな問題点は、自汗、多汗にあろう。第1症例は自汗のはげしい患者、第7、8症例は皮膚乾燥の顕著な患者である。そのいずれにも奏効したことは、一見、矛盾しているようでもあるが、決してそうではない。中医学の考え方をかりれば、慢性弛緩などで陽虚となり、全身機能が衰弱して循環不全、あるいは、自律神経の機能が不均衡となって、交感神経系の相対的興奮が現われた場合によく自汗が認められる。つまり、肺気症、営衛不固、営衛不和5)の状態であるので、勿論この場合は麻黄それ自身は禁忌であることはわかるが、附子が入っていることである程度相殺されるのである。なぜならば、麻黄によって表邪を出しすぎないように、あるいは陰虚になりすぎないように、附子が裏を温め、陽気を高めて、新陳代謝を盛んにし、全体のバランスを計っているのである。このバランス、つまり営衛調和の目的に対し麻黄、附子が止汗にもつながるのである。一方、胸膜炎の高熱患者は、皮膚乾燥、胸水の認められる、いわゆる水毒のかたよりがある。本来なら急則治標、緩則治本2)6)が建前ではあるが、この場合はどちらも急であって、標本同治の必要があると思う。この目的にかなったものが、麻黄、附子、細辛である。なぜならその時点の病態のあらゆる状況に応じてみられる個体全体のホメオスターシスに対して、この麻附細辛湯が助太刀すると考えれば理解に難しくはない。即ち、この場合、高熱に対しては麻黄が、胸水、無汗に対しては附子と麻黄、さらに附子と細辛が、最小限の生薬によってそれぞれ速効的に働きかけているのである。この駆水、利尿の作用については、矢数7)は附子の働きを最大限に認めておられることからも理解できる。このように実証と虚証に用いられる生薬が一つの方剤に入っていて、しかも作用が相乗し友好的に働く例はいくらもある。(図1)

 次は、喘息発作時に麻附細辛湯が奏効した点であるが、これは、大友8)の報告にもあるように、全く同意見である。

 次に、頭痛の問題である。「傷寒論」によると寒邪、冷えからくるものとなっているが、本症例は必ずしもそうとはいえず、患者は冷やしている方がまだ気持はよいといっているところから、単に貧血による虚証とみるべきではないかと思う。この場合、附子細辛の働きが大きいことは当然である。

次は脈診について、多くは沈、細、弱となっているが、本症例の中には、浮、緊、洪大、数もみられ、藤平9)もこの点、必ずしも沈でなくてもよいと述べられている。

 おしまいに、舌診である。少陰病では、湿潤、無苔で多くは淡白、舌質は紅の事が多いとされているが、本症例中には、乾、白膩、深紅のものもあって、必ずしも「傷寒論」通りとは限らないようである。なお、三谷10)は最近の食生活状態から、飲食不調和による風邪が多いため、必ずしも無苔ではないと興味ある事実も述べられている。が、黄苔、粘膩、黒苔にも麻附細辛湯が有効であるとする考えには些か異論もある。黄苔から黒苔の状態となる場合は、裏の実熱症11)を反映して、陽明膩実であり、陰液が消耗してくるので、清熱瀉火、育陰すべきではないかと考えられる。

 以上を総括するに、麻附細辛湯は老人の風邪ばかりではなく、中医学でいわれるように、異病同治、つまり異なった病気(西洋医学では全く関連性のないと思われる病名)に対しても、ある一つの大きな証が共通していれば、治療法(方剤)は同じであってもよいとする概念から、麻附細辛湯は更に多くの疾患に用いられる可能性が示唆される。

 

【結論】

1)病名の異なる疾患、8症例に麻附細辛湯を投与し、患者の覚醒、胸水消失、呼吸困難、咳嗽、喀痰に対し、それぞれ顕著な効果が認められた。

2)今後、さらに多くの疾患にも用いられ、その有効性が期待されるものと信じている。

 

――文献――

1)沈自伊: 腎概念の研究、エンタープライズ社(1980)

2)中国漢方医語辞典: 中医研究院(1980)

3)高木敬次郎: 和漢薬物学、P206

4)山田重男: 薬理学、講談社、P186(1978)

5)中医学基礎: 燎原書店、P190(1979)

6)中医学基礎: 燎原書店、P313(1979)

7)矢数道明: 日本東洋医学会誌、14,4(昭和39)

8)大友一夫: 日本東洋医学会誌、33,4(昭和58)

9)藤平健: 漢方の臨床、21,8(1974)

10)三谷和合: 漢方研究、6(1984)

11)温病学: 成都中医学院編、自然社刊(1982)

 

(「月刊 漢方研究」1985年7月号より)

 

*先日、コロナ後遺症に関する記事を目にしました。様々な症状があるようですが、特に目立つのが、ひどい倦怠感や疲労感で、多くの方が日常生活に支障が出るほどの深刻な病状に苦しんでおり、そのために仕事をやめなければならなくなった方もいるという内容でした。それで思い出したのが、ここに紹介させていただいた水島宣昭先生(医博。尚仁会真栄病院副院長(当時))の論文です。この麻黄附子細辛湯は、本来は風邪や気管支炎の薬で、いくつもの漢方薬メーカーが製造販売していて比較的入手しやすく、それほど高額なものでもありません。漢方薬とは、本来は患者の体質や証に合わせて処方されるもので、その点は注意せねばなりませんし、もちろん服用に当たってはまずは漢方医に相談すべきなのですが、治療のための選択肢の一つとして、こういう薬があるということを知っておいて損はないと思います。コロナ後遺症だけでなく、認知症や慢性疲労症候群などにも効果が期待できるのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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