前回のデータを参考に電源トランスを探しながら、黎明期の送信機と受信機に使う電源を考えてみることにしました。
 
当時のアンカバー(無免許)を含む素人無線局は、自励発振を使ったリグが多かったようで、周波数変動(QRH)は普通だったようです。現代に再現するとき、周波数変動を少しでも抑えるために、電源電圧の変動は大きな課題になると思います。
 
当時の水晶発振子(振動子)は大変高価で素人には手が出なかった。また軍用無線、公衆無線、船舶無線など業務通信と異なり、決められた周波数で交信する訳ではなかった点もある。
 
三號型水晶
三號型水晶片(昭和18年)
海軍型水晶
海軍型水晶発振子(昭和17年)
旧型水晶
海軍旧型水晶振動子(戦前)
当局が開局した1950年代に使われていた水晶発振子はFT-243、HC6/Uになっていた。おそらく米ジャックの影響で日本規格のクリスタルは見かけなくなっていたのだろう。
 
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以下は真空管用電源トランスを使って、送信機および受信機に電源を供給する回路の構想を具体的にまとめてみました。
 
フィラメントを点灯させる電源は、センタータップを引き出す必要から、±トラッキング電源を採用することにした。プレートに印加する高電圧電源は、FETとツェナーダイオードを組み合わせて安定化を図る。
 
直熱管真空管はフィラメント電圧の種類が多い。さらに送信用と受信用でフィラメント電圧が一致するとは限らないから、それぞれ独立して計画することにする。
 
ブロック図
真空管用電源-全体構成ブロック図
 
トランスの高電圧は送信では280V-0V-280Vの両端を使って560V、受信では0V-280Vの片巻の使用で280Vを得る。プレート供給電源は、送信回路では560Vrms(792VP-P)で、受信回路では280Vrms(396VP-P)になる。
 
フィラメントの両電源への供給は、0V-5V-6.3Vの2回路を連結して使用する。5V-0V+0V-5V=10VrmsCT(14.2VP-PCT)および、6.3V-0V+0V-6.3V=12.6VrmsCT(17.9VP-PCT)となり、各トラッキング回路に使用する。
 
高電圧安定化回路とトラッキング回路のいずれも、直流電圧計で確認しながら可変抵抗器を調整して希望の電圧を供給する。
 

 
現代ではパワー半導体が進歩して、高電圧でも安定した回路を考えることができそうだ。プレート回路に使用する高電圧電源は、送信用で最大500Vで50mA、受信用は最大250Vで1mA前後が必要になる。
 
高圧安定化
プレート用高電圧安定化電源 基板回路図
 
最近は真空管に使える高耐圧の電解コンデンサが少なくなったので、比較的入手容易な耐圧420Vを直列にしてP-Pで800Vまでの脈流に対応する。コンデンサと並列に分割抵抗を入れて容量の受信用の場合は420Vを1本で良いでしょう。
 
IRFBG20
IRFBG20
要となるパワー素子は、Vdss=1000Vmax、ID=1.4AmaxのMOS-FET-IRFBG20-を選んだ。
 
電圧を決定するツェナーダイオードは300V以上は入手困難なため、240Vを直列接続にして480Vを得て送信用に用いる。出力電圧はVds=2V~4Vがプラスされる。受信用は240Vを1本使用する。
 
CRD(定電流ダイオード)で-2SC4662-(VCBO=500V)のコレクタに供給する。外付けの100KΩB可変抵抗器でベース電圧を調整して目的の電圧を得る。
 

 
直熱管のフィラメントは中点タップ調整のかわりに、±が同電位になるトラッキング電源を設計します。送信用は4V~7.5VCT(±2V~±3.75V)、受信用は2.5V~5VCT(±1.25V~±2.5V)になる。
 
トラッキング
フィラメント用トラッキング安定化電源 基板回路図
 
正電源の安定化には、VO=37Vmax、IO=5Amax 可変三端子素子の-LM338T-が便利だ。負電源用として以前はLM333があったが廃番になってしまった。
 
LM338T
LM338T
2SD2375
2SD2375
代用品としてVCEO=80Vmax、IC=3Amax、hfe=500~1500のパワートランジスタ-2SD2375-を使うことにする。
 
オペアンプは単電源可能であれば何でも良いが-LM358-とした。基準電圧ダイオード-TL431-で0~2.5Vを出力し、可変抵抗器で電圧を設定する。正極側のオペアンプはLM338のアジャスト(AJD)端子に入力して制御する。オペアンプは9V単電源で動作させます。
 
負極側のオペアンプは、正極出力と負極出力の誤差を検出して自動的に調整する。オペアンプの出力をパワートランジスタのベースに接続する。2SD2375は比較的hfeが大きいので、オペアンプで直接駆動することが出来そうです。
 
LM338Tと2SD2375はTO-220タイプです。いずれも最大2Aまでの電流が流れるので、当然ヒートシンクは必須でしょう。
 

 
今回は、単球送受信機に必要なフィラメント(A)電源とプレート(B)電源を備えた電源回路を半導体で設計してみました。パワーFETによる高電圧の安定化と、両電極±同電位のトラッキング回路を使ってフィラメントの中点を得る回路とした。
 
rabbit
トランスが入手次第バラックで組立てて、部品定数の見直しなどを行い、最適値に修正するつもりです。
 
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