「気に入らなければでていけ!」
 涙を拭いながら、悠真は河川敷へと歩いていく。
 いつか、きっと。
 そんな思いを抱きながら今日も悠真は河川敷で空き缶を拾う。
「お前のせいで、なにもかもが滅茶苦茶じゃないか」
 好きでこの家に生まれたわけじゃない。子供を産むのが本当に正しいのか。
 この父親じゃ可哀想。
 堕胎を選ぶことを悠真は否定しない。
 自分の人生、
 誰も責任をとってはくれない。
 それなら後悔のないように生きたい。
 拾った空き缶を華奢な腕を伸ばし河のなかでゆすぎ売る。
 売った賃金でメロンパンを買う。
 今日はパンを買えるだろうか。
 ここ最近、雨が降っていない。中洲が乾いてくると空き缶の数が減る。
 悠真は空を見上げながら、こころ憂いる。
 泥だけになりながら、同和のなかにある一軒の屑屋で空き缶を売る。
 手渡された賃金を数える。
「もう10円」
「無理だ」
 屑屋の親父が困惑した顔をする。
 一度頷いてしまえば周りだって同じことを言うだろう。
「今日の飯がないのか」
 ふと振り返ると仕切屋がいた。
「内緒だぞ」
 手渡された100円に悠真が満面の笑みをみせる。
「坊主」
 仕切屋の兄貴は反社と繋がっていると誰も彼もが噂している。
 でも悠真は先崎が好きであった。
 頭をなででくれる感触。
 軽く屈みこみ悠真といつも目をあわせてくれる。
「ありがとう」
 悠真は頭を下げると走り出す。先崎が悠真にとって心の支えであった。
 いつか先崎のようになりたい。
 忘れた頃に先崎がいる。
 先崎がいれば悲しいこと苦しいことだって忘れられる。
 同和には二件のパン屋兼、駄菓子屋があった。
 パン売り場に行こうとすると「ちょっと、あんた! 盗人に売るものなんてないよ。二度と店に来ないでくれ」
 悠真は足を止めた。
「弟がまた、なにかしたの?」
「なにかした?!」
 店主のおばさんに睨まれる。
「男なら悪さをするのが当たり前だそうじゃないか。あんたの家は!」
 ヒステリックに怒鳴り散らす店主に悠真は項垂れる。
 堪えようとすれするほどに涙がでてくる。
 惨めだ。
「お母さんが」
 そっと窺うように悠真は言葉を濁した。周りが好奇な目で悠真をみている。

 


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