フルータリアンの備忘録

フルータリアンとは、果物を主食にしているベジタリアンのことです。人間は果食動物? 果食動物で死ぬ?

ヒトはどこまで果食動物か?――ヒトもパンダも食性進化のジレンマに陥り続けている

2022-07-12 | フルータリアンのメモ
■ 微小摩耗痕の発見

1979 年 5 月 15 日付のニューヨーク・タイムズ誌に、ジョンズ・ホプキンズ大学の人類学者、アラン ウォーカー博士の研究が取り上げられ、世間を驚かせることになりました。

博士が行った研究は、古代人の歯と食性に関するものでした。
博士は、化石の歯のエナメル質に残ったわずかな傷跡を調べることで、当時の人類が何を食べていたのかを推定することに成功しました。
その結果、初期の人類の祖先は、草食でもなく、肉食でもなく、また、雑食でもありませんでした。
その代わりに、果物を主食にして生きていたというのです。

様々な年代の歯の化石を調べましたが、例外は一つもありませんでした。
1200 万年前の類人猿から、ホモ・エレクトゥス (約 200 万年前に出現した原人) の出現に至るまでの 1000 万年にわたって、初期の人類の祖先たちは一貫して果食動物であったということです。
他の専門家たちが推定していた食生活よりも、森に住むチンパンジーに近い食生活を送っていたことが明らかになったのです。
この発表は、医師や栄養学者などの専門家にとっても、果物の価値について再考を促すものでした。

博士が分析したのは、化石の歯の表面に残った微小摩耗痕と呼ばれる傷跡でした。
人間の毛髪の何百分の一という、目に見えない太さの傷跡ですが、走査型電子顕微鏡 (SEM) を使えば可視化することができます。

食べ物の種類によって、歯のエナメル質の表面に出来る摩耗痕は異なり、それぞれの食べ物に特有の摩耗パターンを残します。
植物細胞の中には植物珪酸体 (プラントオパール) と呼ばれるシリカのかけらが含まれており、
この物質は歯のエナメル質よりも固いため、食べ物を噛んだときに、わずかなひっかき傷を歯に作ります。
草は、木や茂みに比べると、植物珪酸体を高い割合で含有しています。
一方、果物には植物珪酸体が含まれていません。
そのため、果食動物の歯は、きれいに磨かれたような状態になります。
肉にも植物珪酸体が含まれていませんが、骨をかじったときに、歯にかすり傷が残ります。

このように、それぞれの食べ物に特徴的な摩耗パターンが、歯の表面に出来るわけです。
また、歯のエナメル質は、どの動物でもほとんど同じ材質で出来ていることもあり、
歯の微小摩耗痕を調べれば、どの種類の動物であっても、何を食べていたのかを推定することができます。

では、初期の人類の祖先が一貫して果食動物であったとして、200 万年前に出現したホモ・エレクトゥス以降の食生活は一体どのようなものだったのでしょうか?

■ 「肉食が人類を進化させた」のは本当か?――新たな視点

約 200 万年前、明らかに現生人類と同じ性質を備えたホモ・エレクトゥスという種が出現しました。
以前よりも、脳が大きくなり、腸も短くなって、手足の長さの比率も現生人類に近いものとなりました。

脳の容積が大きくなるこの時期に、肉食の考古学的証拠が激増します。
原人の骨が見つかるところには高い確率で解体された動物の骨が見つかる、という具合にです。
肉食と脳の進化を結びつけて語られることが多くなり、「肉食が脳を進化させた」という説が有力な考えとして支配的になっていきました。
大きな脳はエネルギー消費が激しく、全身の 20 パーセントものエネルギーが脳に振り向けられます。
この大量のエネルギーを満たすためには、カロリーの高い肉食が好都合であったと理由づけられ、肉食のおかげで、人間らしい進化を果たすことができたのだと説明されるようになりました。

しかし昨今、このステレオタイプな考えに疑問を呈する研究者も多くなっています。
ワシントン DC のスミソニアン研究所に所属する古人類学者、ブリアナ・ポビナー博士もその一人です。

ポビナー博士は、肉食と人類の進化との関連性はこれまでに考えられていたよりも確実性に乏しい可能性があると考えています。
そう考える理由の一つが「サンプリングの偏り」です。
ホモ・エレクトゥス出現後の時代に、解体された動物の骨が多く見つかるのは、サンプリングに偏りがあるためだといいます。
特定の年代がますます注目を浴びるようになった結果、その年代の地層で骨を探そうとする人類学者が増えたため、その結果として、骨の発見数が増えているに過ぎないと分析しています。
過度に注目を浴びる年代や地層がある一方で、調査が不十分な発掘現場もあります。
ポビナー博士の研究では、特に 190 万年前から 260 万年前の地層で調査が不十分であることを指摘しています。
これは今後、古人類学の化石調査で埋めていくべきギャップでもあります。
まだ調査がされていない時期に肉食が増えた可能性だってあるし、脳が進化した理由は他にあるのかもしれないのです。

また、化石から食生活の詳細を知ることには限界もあります。
例えば、肉食をしていたのは明らかであっても、食生活に占める肉の割合までははっきりしません。
現実には、女や子供が採集してきた木の実や植物に大きく依存していたのかもしれないのです。
当時の肉食依存度は意外に低かったという見方もあります。
パレオダイエット (原始人食) が批判されやすいのは、この点です。
パレオダイエットは原始人の食生活を理想モデルにしており、かなりの量の動物性食品を摂取しますが、そもそも、その理想モデル自体がどこまで正しいのかわからないという問題があります。
地域や環境によって食生活にバリエーションが生じますが、その中でもどの食スタイルを理想モデルにするかという点も曖昧で、その理想モデルの原始人たちの健康状態も不明です。
しかし、この記事ではあえて、ホモ・エレクトゥスが過度に肉食に依存していたものと想定して、次の考察に進みたいと思います。

■ 草食から肉食(または肉食から草食)への移行は極めて珍しい

草食から肉食へ移行した動物、そしてその逆、肉食から草食へ移行した動物は珍しく、数えるほどしかいません。

草食から肉食へ転換した一つの例として、バッタネズミと呼ばれる小動物がいます。
米国中西部に生息し、普通のノネズミに似ていますが、獰猛な捕食動物であり、トカゲや昆虫を狩って食べ、特にバッタを好物にしています。
化石の記録から、バッタネズミは、草食性のネズミの子孫であることがわかっているそうです。

逆に、肉食から草食へ移行した動物としては、パンダがいます。
パンダは、食事の大半が竹の葉や幹ですが、分類学上はクマ科に分類される熊の仲間であり、元々は肉食獣であったと考えられています。

自然界において、草食・肉食間の転換は珍しく、そう簡単なことではないように思えます。
草食動物と肉食動物では、生理的な隔たりが大きすぎることも原因の一つでしょう。
そして、現在は極端な草食をしているパンダでさえも、草食への移行を成功させたとは言い難い状況に置かれていることが、最新の研究でわかってきました。

■ パンダは、200 万年かけても、草食に進化しきれていない――新たな研究



2015 年、米国微生物学会のオンラインジャーナル「mBio」に、パンダの消化器官に関する興味深い研究論文が発表されました。
(日本語紹介記事:「ジャイアントパンダの消化器系、タケ食適応に進化せず 中国研究
英語オリジナル論文:「竹食のジャイアントパンダが保有する腸内細菌叢は、肉食動物に近く、季節変動が激しい」)

本研究では、45 匹のパンダから得られた糞便を試料として、遺伝子解析によって糞便内の細菌叢を調べています。
その結果、パンダの腸内細菌の組成が草食動物とは大きく異なっており、肉食動物と同じような腸内細菌を保有していることがわかりました。
これは予想外の結果で驚くべきものでした。
パンダは、食べ物の大半が竹の葉や幹であるため、草食に適応した腸内細菌叢を保有していると予想されていたためです。
腸内細菌が食べ物に適応するのは、どの種類の哺乳類でも同じように起こる一般原則のように考えられていました。
しかし、パンダの腸内細菌は、200 万年かけても竹食に適応していなかったのです。

そのことが原因で、パンダは一日中、竹をかじり続けています。
パンダは、食事の 99 パーセントが竹の葉や幹で、毎日 12.5 キロの竹を 14 時間も費やして食べています。
そのうち、たったの 17 パーセントしか消化することができず、消化しきれなかった大量の竹は糞便として排出されます。
パンダの消化器官は肉食獣に近く、腸の長さも短いため、竹のセルロースをうまく分解できず、セルロースの消化を助けてくれるような腸内細菌も育っていないため、ほんのわずかしか竹を消化することができないのです。

パンダの祖先であるクマ科の動物が、竹を食べ始めたのは 700 万年前です。
そして、420 万年前に、肉の風味を感じるための「うま味感知能力」を失い、240 万年前から 200 万年前の時期に、食事のほとんどが竹になり、極端な草食へ移行しています。

今回の解析により、パンダの腸内細菌叢は、ストレプトコッカス属とエシェリキア属が優勢であることがわかりました。
これらは、肉を食べる熊には相応しい細菌類です。
逆に、ルミノコッカス属やバクテロイデス属のような、草食動物が豊富に保有している細菌類は見つかりませんでした。
腸内細菌と消化器官のミスマッチは、パンダの脆弱性の一つであり、パンダが想像以上に高い絶滅リスクにさらされていることを示唆しています。

論文の共同執筆者で、上海交通大学 (中国) の龐小燕氏は、プレスリリースの中で以下のように述べています。
「今回の結果は予想外で、極めて興味深いものです。
パンダの腸内細菌叢は、彼らのユニークな食事には適応していなかったのです。
パンダは進化のジレンマに立たされています」

■ ヒトも食性進化のジレンマに陥り続けている?

ヒトも、パンダと同じように、この 200 万年の間、食性進化のジレンマに陥り続けているように思えます。
現代人と肉食動物を比べた場合、生理的には依然として大きな隔たりがあります。
以下、個別の特徴を比較していきたいと思います。

肉食動物を含むほとんどの動物は、体が必要とするビタミン C を体内合成することができます。
しかし、ヒトはビタミン C を体内合成することができず、食べ物からビタミン C を摂取しなくてはいけません。
これは、霊長類、モルモット、果実食のコウモリ、数種類の鳥にのみ見られる特徴で、ヒトは未だに、果物を多く食べる動物に特有の生理を有しています。
このことがはっきりと明らかになったのが大航海時代です。
長い船旅の中で、船乗りたちの大半が壊血病にかかって死んでしまうというおぞましい事故が多く発生してしまいました。
船上の食事は、塩漬けにした肉と小麦で出来たビスケットがメインで、長期保存には不向きな果物や野菜が著しく不足していたため、ビタミン C 不足による壊血病を引き起こしたのです。
壊血病の症状は悲惨なものです。
ビタミン C は、細胞と細胞を連結する役目を果たしているコラーゲンの合成に欠かせない栄養素で、ビタミン C が過度に不足すると、血管が脆くなって、体中のありとあらゆる部位から出血するようになります。
ヒトは、果物や野菜からビタミン C を摂取しなくては生きていけないことが明らかになったのです。

次に、現代人の腸の長さについてですが、進化の過程で少し短くなったものの、肉食動物に比べれば、圧倒的に長い腸を有しています。
ヒトの腸は、胴体の約 12 倍の長さであるのに対して、肉食動物の腸は、胴体の 3 倍程度の長さしかありません。
肉食動物の腸が短い理由は、体内で肉が腐敗するのを避けるためです。
また、肉食動物の胃酸は、ヒトの胃酸と比較した場合、少なくとも 10 倍以上強力で、場合によっては、100 倍、1000 倍以上強力な胃酸を持つ動物もいます。
ヒトは、肉食動物よりもはるかに長い腸を持ち、それでいながら胃酸は弱いわけですから、腸内での腐敗は避けられません。  

食べ物を消化した後の代謝についても違いがあります。
肉食動物は食べた肉の尿酸を代謝するため、ウリカーゼという酵素を分泌しますが、ヒトはこの酵素を分泌しないため、アルカリ性のミネラル (主にカルシウム) によって尿酸を中和しなくてはいけません。
約 1500 万年前から、ヒトを含む類人猿は、なぜかウリカーゼ酵素を持たなくなってしまいました。
動物性食品の摂取量が増えると、プリン体の摂取量が多くなりますが、プリン体は体の中で尿酸に変わって、痛風の原因になります。
そして今、多くの現代人が痛風に悩まされています。

また、ヒトを含む植物食の動物の唾液・尿は、ほとんどの場合アルカリ性に維持されますが、肉食動物の唾液・尿は酸性です。
肉食動物の食事は酸性食品ですが、酸性食品はヒトにとって望ましいわけではありません。
酸性食品の摂取が多くなると、血液が酸性に傾き、これを中和しようとして、骨からアルカリ性のカルシウムが奪われていきます。
このため、酸性食品は骨粗しょう症の原因になるとも考えられています。

このように、体に欠かせない栄養素、そして、食べ物の消化や代謝に至るまで、現代人と肉食動物では、生理的に大きな隔たりがあり、とても「肉食に進化した」などとは言えないものです。
むしろ、大昔の果食動物時代の生理のまま、肉食に対応していると言った方が正確ではないでしょうか。
チンパンジーは、果食動物といっても、少量の小動物や昆虫は食べており、この程度の柔軟性はヒトにも与えられているのでしょう。
このわずかな能力を用いて、大量の肉食に対応しようとしているのが現状かもしれません。
そういう意味では、ヒトはこの 200 万年間、パンダと同じように、食性進化のジレンマに陥り続けているように思えます。

■ 1 万年では短すぎる――穀物や乳製品への適応

ホモ・エレクトゥスの時代に"超肉食"を経験した後、ヒトはさらに雑食動物への進化を遂げたのだという考え方があります。
実際、現代の人間は、正になんでも食べる動物になっており、表面上は雑食動物であるかのように振る舞っています。
表面的には超肉食から雑食へと移行していく過程で、生理的には本当に雑食動物に進化したのかが次の焦点になります。

農耕と牧畜の始まりは、約 1 万年前です。
この頃から、穀物や乳製品の消費量が増えて、現代人がイメージする雑食に近い食生活に変わりました。
しかし、1 万年という期間は、進化・適応による身体的な変化を期待するにはあまりにも短すぎる期間です。
もし、なんらかの変化が起きたとしても、それは、消化を助ける酵素のような目に見えないものだけでしょう。
実際、目に見えないわずかな変化であれば、それは確かに起こっています。

現代人は、AMY1 (アルファ・アミラーゼ 1) という遺伝子を、チンパンジーの約 3 倍も多く持っているため、チンパンジーよりも澱粉をうまく消化することができます。
この遺伝子は、唾液腺の細胞にアミラーゼ酵素を作るように命令するもので、AMY1 のコピーが多いほど、唾液中のアミラーゼ酵素が多くなります。
アミラーゼ酵素によって、澱粉は麦芽糖に分解され、その麦芽糖は他の酵素によってさらにブドウ糖へと分解されていきます。
狩猟採集民よりも、日本人のような農耕民の方が、AMY1 遺伝子を多く持っています。
農耕民の方が、穀物や芋類を効率良く消化できるように進化しているのです。
しかし、AMY1 遺伝子の数は個人差があり、人によって澱粉消化能力は異なります。
たった 1 万年では、遺伝子の伝播が十分ではないのかもしれません。

乳糖分解酵素であるラクターゼの産生についても、進化の跡が見られます。
ラクターゼが産生されるのは、乳糖を単糖に分解するためですが、離乳後はその産生が終わるのが普通でした。
しかし、牧畜民の中に、成人になってもラクターゼ産生を行うものが現れ始め、その遺伝子が集団内で拡散されていきました。
離乳後、大人になっても乳製品を消化できるようになったのです。
しかし、この遺伝子も伝播が十分ではなく、農耕民であった日本人は、今も 7 割以上の人が乳糖不耐症であるとされています。

このように、穀物、芋類、乳製品について、消化酵素のレベルでは進化が見られるものの、その遺伝特性の伝播は十分ではないようです。
雑食に進化したと言うには、1 万年という期間は短すぎるように思えます。

■ ヒトは"加熱食"動物に進化したか?

ヒトが火を用いて本格的に調理をするようになったのが、約 50 万年前であるとの見方があります。
その頃の化石を調べてみても、生理構造上の変化は特に見られないようです。
食べ物を加熱調理するのは人間だけですが、果たしてこの 50 万年で"加熱食"動物に進化を遂げたのでしょうか?

「調理こそがヒトの脳を進化させた」と熱心に主張する専門家もいます。
『火の賜物―ヒトは料理で進化した』(依田 卓巳訳、NTT 出版、2010 年) の著者である、霊長類学者のリチャード・ランガム博士です。
そう主張する理由が、食べ物の加熱調理により、食べ物が咀嚼しやすくなり、味も改善して、消化されやすくなって栄養吸収効率も上がったから、というものです。

しかし、ローフードを勉強したことがある人は、すぐにこの根拠がおかしいことに気付くと思います。
まず、食べ物を加熱すると (果物、生野菜、動物性食品の場合)、食物酵素が死滅してしまうため、消化は悪くなります。
また、ビタミンやミネラルなどの各種栄養素も、加熱による損傷を受けるため、栄養価が落ちます。

ランガム博士は、現代人は、野生動物のように 100 パーセント生の食事では 1 ヶ月も生きていけないと断言しています。
これは、生菜食を実践している人たちにとっては、逆に興味深い主張です。
私は、果物と生野菜だけの 100 パーセント生の食事を 1 ヶ月以上続けたことが何度もありますが、特に問題はありませんでした。
ある一定ラインで体重が安定し続けるのが面白いところで、体が痩せ細って衰弱するようなことは全くありませんでした。
ただ、私のようなローフーディストは現代社会では圧倒的な少数派ですから、博士がそのような主張をするのも無理はありません。

ランガム博士は、調理という行為のおかげで、栄養状態も改善して、それが脳の進化につながったと考えています。
人類が進化の頂点に立ち圧倒的な存在となる上で欠かせない行為として、調理を基本的にはポジティブに捉えています。

しかし、最新の栄養学では、調理のネガティブな側面に焦点が当てられることが増えています。
例えば、昨今、一般にも話題に上がるものとして、AGE と呼ばれる物質があります。
AGE とは、終末糖化産物 (Advanced Glycation Endproducts) のことで、強い毒性を持ち、老化を進める原因物質と考えられています。
カルボキシメチルリジン、ペントシジン、クロスリンなど 100 種類以上の物質が見つかっており、肌・血管・骨の老化、癌や糖尿病など生活習慣病の発症、白内障やアルツハイマー病の促進など、さまざまな老化現象の原因となっていることがわかってきました。

AGE は、食べ物の中の糖質とタンパク質を同時に加熱することで発生します。
食べ物を調理した後のこんがり焼き上がった茶色は、AGE が大量発生していることを意味しています。
つまり、現代人が常食しているありとあらゆる加熱・加工食品に AGE が含まれているのです。
ステーキ・焼き肉・ハンバーグなどの肉料理、天ぷら・唐揚げ・コロッケなどの油もの、ビスケット・ドーナツ・パンケーキなどの菓子類、ポテトチップス・フライドポテトなど芋を高温調理したもの、プロセスチーズなど乳製品を加熱処理したもの、目玉焼きなど卵を炒めたもの等、数えればきりがありません。

自然界においてこの 50 万年、ヒトだけが大量の AGE にさらされ続けています。
この間、これらの毒物を無毒化できるように進化したのでしょうか?
とてもそうは思えません。
例えば、AGE の中でも最も悪玉と言われている「アクリルアミド」という毒物があります。
国際がん研究機関は、アクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質(グループ 2A)」に分類し、神経毒性、遺伝毒性、および発がん性の恐れを指摘しています。
ヒトは、加熱調理をするようになってから一貫して、アクリルアミドの悪影響を受け続けています。
それでも、アクリルアミドのような発がん性物質の影響が本格的に現れるのは、40 代以降の中年期であり、この頃には子育ても一通り終わっているため、種の存続という観点からは、致命的な影響はないものと考えられます。
野生動物と比べると、生活習慣病が異様に多いという状態がずっと続いているだけで、種として絶滅にいたるわけではありません。

■ 現代人は果食動物の体のまま、追い越し車線をはみ出し続けている

この記事では食性の進化に焦点を当てましたが、200 万年前から脳の容積が大きくなり続けていることは事実で、なぜこの期間に脳が大きくなったのかという疑問は依然として残ります。
これに関して一言で言えば、よくわかりません。
テーマが壮大過ぎて、この記事で扱う範疇を超えています。
しかし、肉食や調理そのものが脳を大きくしたというよりは、それら行為を巡る社会的要素の方に、今後は関心が向けられるでしょう。
また、人間の活動には、狩りをしたり料理をしたりすることよりも、もっと複雑な活動があります。
言語を用いた抽象的な思考、絵画や音楽などの芸術表現、繊細で複雑な感情のやりとり、などです。
これらに言及することなく、脳の進化に深い理解が得られることはないでしょう。

私が最も興味を持っていることは、ヒトが何から何へ進化したということよりも、ヒトはどこまで果食動物であり続けているかということです。
ヒトの食生活は、特に 1 万年前から大きく変化しており、ここ数百年においては変化が急激になっています。
数百年前から油による超高温調理が始まり、百年前からは砂糖や精製穀物も普及し始め、ヒトは他のどの動物も口にしないであろう食べ物を常食するようになっています。
そして今、油もの・砂糖・精製穀物のどれもが健康を害する食品として熱心に議論されているところです。
食性の変化が急激過ぎて、遺伝子の変化がそれに追いついていないのは明らかです。
現代人は、果食動物の体のままに、追い越し車線をはみ出し続けている、、、そんなイメージを抱いています。

実はこの記事は、次回以降の記事につなげるための布石でもあります。
この記事を読んだ後に出てくる更なる疑問、それは「現代人が主食にしている穀物は本当に主食に値しないのか」というものです。
穀物は鳥類の食べ物であり、ヒトの食性には適さないと考えている栄養学者もいます。
子供の頃、ご飯を食べるときはよく噛んで食べるようにと大人から教わったものですが、穀物食の鳥たちには歯がありません。
この謎に踏み込んで、さらにヒトの食性に対する理解を深めていきたいと思います。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【参考文献】

1. ピーター・S・アンガー(著)、河合 信和 (訳)『人類は噛んで進化した:歯と食性の謎を巡る古人類学の発見』原書房 (2019)
2. アラン ウォーカー (著), パット シップマン (著), 河合 信和 (訳)『人類進化の空白を探る』朝日新聞社 (2000)
3. Peter S. Ungar. Teeth: A Very Short Introduction (Very Short Introductions). OUP Oxford (2014)
4. Peter S. Ungar. Evolution's Bite: A Story of Teeth, Diet, and Human Origins. Princeton University Press (2017)
5. Peter S. Ungar. Evolution of the Human Diet: The Known, the Unknown, and the Unknowable (Human Evolution Series). Oxford University Press (2006)
6. JOHN THYS「ジャイアントパンダの消化器系、タケ食適応に進化せず 中国研究」AFPBB News (2015年5月20日) 
7. Matt Reynolds (著)『「肉食が人類を進化させた」は本当か?』 WIRED (2022年5月4日)
8. Boyce Rensberger. Teeth Show Fruit Was The Staple. The New York Times (May 15, 1979)
9. Zhengsheng Xue, et al. The Bamboo-Eating Giant Panda Harbors a Carnivore-Like Gut Microbiota, with Excessive Seasonal Variations. mBio Vol.6, No.3 (May 19, 2015)
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9 コメント

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Unknown (フルータリアン修行中)
2022-09-12 11:43:33
豆腐とサツマイモがなかなか辞められず困ってます。
食べると気だるくなったり、心身が重くなるのですが、、。特にサツマイモは体重も増えてしまいます。
フルーツだけの日のほうが断然調子が良く体もとても軽いです。

やめるのに苦労した加熱食品などはありますか?
どうやって克服されましたか?
Unknown (管理人)
2022-09-19 00:53:32
なかなかやめられない加熱食品ってありますよね。
私の場合、枝豆がなかなかやめられず、爆食いしてしまうことがあります。
翌日にすごいガスが出るので、違いに気付きます。
その違いに気付いているだけ、素晴らしいと思っています(ほとんどの人は気付いてすらいないのですから)。

私の場合、サツマイモや豆腐にはあまり魅力を感じないので、食べなくても大丈夫ですね。
人によって違うんでしょうね。
昔、おにぎりやジャガイモをたまに爆食いしてしまうことがありましたが、
穀物は消化に負担がかかることが体でわかるようになり、意識して避けているうちに減っていきました。工夫したことは、フルーツ食のバリエーションを増やすことです。食費のことだけ考えるとバナナとかパイナップルが多くなってしまうのですが、たまに違うフルーツを入れることも意識しました。メロンとかも高いんですけど、半額のものを見つけたら積極的に買うとかして、バリエーションをつける感じです。
炊飯器とか調理器具を処分したことがきっかけで、たまにある付き合いを除いて、食べることはなくなりました。
たまに起きる加熱食品への欲求って、いまだに謎です。いつも自分の体調をよく観察するようにはしています。
「純粋に摂取カロリーが足りていないのか?」とか「塩分摂取量が今週は少なかったのか?」とか、
色々考えます。
その反省を活かして、生食率を上げるように意識し続けています(それでも完全な100%は難しいです)。
Unknown (フルータリアン修行中)
2022-09-20 22:03:19
ありがとうございます。
中野瑞樹先生も毎日色々なフルーツを取り入れていらっしゃいますよね。
私はリンゴばかり食べているので、、汗


豆腐には乳化にがりが使われているものが多く、表示されていない添加物が複数あることがわかったので、最近すんなり辞められました。


管理人様も時々衝動があるのですね。
フルーツだけにしようと決心しても、誘惑なのか栄養不足なのか、、
激しい運動をした後やストレスを感じた後に加熱食品(たんぱく質や塩分)を食べたくなってしまい、なかなかフルーツオンリーとはいかず歯痒いです。
Unknown (管理人)
2022-09-20 23:50:46
そうですね、バリエーションつけるようにしてます。
後は組合せも。
例えば、バナナだけだと食欲がわかないこともあるんですけど、バナナとブルーベリーをミックスすると、いっぱい食べられることもあります。
自分なりのお気に入りの組合せが増えると、生食率も上げやすいです。

ナチュラルハイジーンでは、理想は生食率100パーセントとしながらも、
生食80パーセント+加熱食20パーセントのメニューも紹介されていて、中でもサツマイモはヘルシーな加熱食としてよく紹介されていますけどね。

海外にはフルータリアンのアスリートもいて、一日4000~6000キロカロリー食べるらしいです。
https://www.countere.com/home/michael-arnstein-ultramarathon-fruit
すごい量ですね。
運動量多い方は、食べる量も重要だと思います。
僕の場合、週1~2回、エアロバイクを漕ぐ程度の運動量なんですけど、翌日は食欲がすごくて、一日4~5食くらい食べてます。
Unknown (フルータリアン修行中)
2022-10-25 08:27:33
ありがとうございます。

フルータリアンのアスリートの方もやっぱりたくさん食べるのですね。
ヴィーガンの格闘家やアスリートもすごい量をたべますもんね。

激しい運動の後にどうしてもストレスに負けてフルーツ以外のものを食べたくなってしまいますが、 
体の柔軟性が落ちたり、心身の疲労や老化を感じるので、
どこかで踏ん切りをつけなければと思います。

たんぱく質を摂らないと肌のハリがなくなったり老化するというのは間違いでしょうか?
Unknown (管理人)
2022-11-30 21:17:33
お返事遅れてしまいました。
タンパク質の問題も、いろいろな議論がありますけど、わかりやすい考えで言えば、人間と生理的に近いゴリラはほぼ100%植物性の食事なのに、タンパク質不足という現象が起きていないということがあります。筋肉もムキムキです。
彼らは植物からアミノ酸を摂取しています。

タンパク質の問題になったときに「タンパク質摂取量」に注目するのではなく「アミノ酸スコア」を見るべきだと思っています。
全ての植物にはアミノ酸が豊富に含まれています。

最近忙しくてブログの更新が出来てなかったので、また色々調べて、たまに更新していけたらと思います。
ちなみに今、生食率100パーセントの食事を23日くらい連続で続けていて、快調です。
90パーセント果物、残り10パーセントが葉物野菜みたいな食事をしています。
なんか、生食率100パーセントのコツが少しずつわかってきました。
「なんとなくお腹が空いているけど、甘い物以外が食べたい」ってときに、ハーブ岩塩で味付けした葉物野菜のアボカドサラダを食べるのがポイント。
Unknown (ゆるゆるフルタリアン)
2023-02-12 23:19:54
参考程度にお聞きしたいのですが、フルータリアンを続けていると大量の便が排泄されて驚くとこのブログ内で書いていますが、
管理人様の場合だとどれぐらいの期間で排泄されましたか?
火食をしていると便秘になると言うのは私も経験から頷けます。
私は三十代後半です。
Unknown (管理人)
2023-02-13 02:47:00
ありがとうございます。
「食べた分より明らかに多いお通じがある、なんなんだこれは?」と感じたのは最初の1ヶ月でした。

それ以降は、「まぁ、食べた分だけ出てるかな」って感じです。
今から振り返れば、何かが腸内にこべりついていたのかも、って思います。

ブドウ療法(ブドウだけを食べる)の場合、「2週間から2ヶ月で体重が安定するようになる」って本に書いてあって、
便秘の解消に必要な期間の目安でもあるのかな、と思っております。
Unknown (ゆるゆるフルタリアン)
2023-02-14 06:42:48
お早い回答ありがとうございます。
果物食べてると匂いのある屁がでるので火食による未消化の食べ物がお腹にあるんでしょうね。出したいなあ。
とりあえず2ヶ月ゆるく続けてみます。

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