たまおの星便り-星海原の航海日誌。  

日毎夜毎、船橋から房総九十九里へと繰り出し、星空を駆け巡る観測日誌。

・2024/4/10~4/15 黄砂に煙る未明の天の川、ほうき星。

2024-04-26 | たまおの星便り

 予想よりもかなり遅れた桜の満開が過ぎた頃から移動性の高気圧が数日おきに日本を通過し、好天が続くようになった。10、11日と14、15日は気温が10℃前後と連日、春めいた夜だった。その一方で星の輝きは鈍く、頭上から南天に流れ落ちる夏の天の川が淡く霞んで見えていた。高気圧を追うように大陸の黄砂がまたやってきた。
 ここ数カ月追い続けていた62P紫金山第1彗星は未明には西に大きく傾き、すでに小さく暗くなっていた。C/2021S3パンスターズ彗星も天の川の中を移動しながら11等級近くまで光度を落としていた(画像上左)。この秋、大彗星になるかと注目のC/2023A3紫金山-アトラス彗星はまだ暗いながら白く丸いコマからごく短い尾を伸ばしていた(画像上右)。
 これまでキヤノンのデジタル一眼の露出を制御するためにipt(イプト)作成のタイマーリモートコントローラーを長年使い続けてきた。個人の天文アマチュアが星の長時間撮影に特化して作ったもので使い勝手がよかった。だが、基盤についたタクトスイッチが摩耗劣化したのか最近、誤作動が多くなった。代わりに今回からロワジャパン製のEOS6D用リモートコントローラーを使い始めた。あくまで一般撮影の露出制御用だが、工夫すれば星空航海用にも十分使えるとわかった。これからはこのコントローラーを引き金に彗星たちを狙い撃ちすることになるだろう。

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・2024/3/9~3/16 冬の「春霞」にけむる3彗星。

2024-03-24 | たまおの星便り

 
 3月に入ると好天と荒天が交互にやってきた。変わりやすい天候ながら3/9、10と3/15、16は二夜連続で朝まで晴れた。
 午前2時過ぎに海岸に着くとまず、西に傾きかけた62P紫金山第1彗星を狙う(画像上左)。以前より暗く拡散してきたうえに現在はおとめ座の「銀河の巣」を移動しているだけあって似たような彗星状天体に紛れて見分けにくい。南の空、てんびん座には秋に1等星なみに明るくなると予想されているC/2023A3紫金山-アトラス彗星がいまだ暗い12等級でひっそりと輝いている(画像上右)。
C/2021S3ンスターズ彗星は幅広い尾をたなびかせながら東天に横たわる夏の天の川を遡っている(画像上中)
 今回の星空航海では困惑した出来事が2回あった。15日未明、観測場所の近くに
軽自動車が1台、ヘッドライトを煌々と点灯したままで朝まで停まっていた。機材に直接光が当たらないように体で常にカバーしながら撮影を続けねばならなかった。
 16日はよく晴れていたが2等星の北極星がよく見えないほど空の透明度が悪かった。霧や靄が出ているかといぶかったが犬吠埼や遠く大東崎の灯台の灯りも見えていて地上の大気は澄んでいた。「気象衛星赤外画像」や「ひまわり霧画像」でも目立った雲は見えない。黄砂やPM2.5濃度をチェックしても異常値ではなかった。前日15日と当日16日の午前3時半頃、北東、高度15度のはくちょう座ζ付近を撮影した画像を比較してみた(下画像)。16日はあきらかに星の輝きが鈍く写っている星の数が少ない。
夜空だけが春霞に覆われてしまったかのような晩冬の一夜だった。

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・2024/2/10~2/14 明け方の彗星3兄弟姉妹。

2024-02-26 | たまおの星便り

 暖冬傾向は2月に入っても続いた。それだけに夜になると雲が広がることが多かった。諸事雑事も重なり、晴れ間を見計らって3日間だけ、未明の夏星空を見ることができた。
 午前2時過ぎに海岸に着くとすでに夏の天の川が淡い雲のように東の太平洋上に横たわっていた。薄明開始は午前5時前、暗夜は3時間弱しかない。すぐに波打ち際近くの小高い砂丘に機材をセットした。
 姿、形や明るさがよく似た兄弟姉妹のような3彗星を視野に捉えていく。
南西の空、おとめ座の62P紫金山第一彗星はたくさんの暗い銀河を縫うように少しずつ東に動いている(画像上中)。 
 東天のへびつかい座にあるC/2021S3パンスターズ彗星は天の川の星々の中を尾ひれを広げて泳いでいるようにも見える(画像上右)。
 薄明が始まって空が白んできた頃にははくちょう座デネブを下った低空に12Pポン-ブルックス彗星がコバルトブルーの姿をみせる
(画像上左)
 この3兄弟姉妹は肉眼では見えない10等前後だが、現在てんびん座を
13等で密かに移動しているC/2023A3紫金山-アトラス彗星は9月末には一等星くらいの明るさになると予想されている。長大な尾が秋空を飾るかもしれない。

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・2024/1/8~1/17 暖冬の洋上に浮かぶ漁火と彗星たち。

2024-02-01 | たまおの星便り

 2024年の初航海は1月8日未明となった。月令26の細い月が南東の海を照らしていた。気温-1℃、この時期にしては異様に暖かい。南の空高く、しし座のお尻の星、デネボラの近くに青く光る62P紫金山第1彗星に照準を定める。北西に淡い尾を引く夜空の人魂のようだ(画像上左)。
 今月は晴天夜と暖かさに誘われてあわせて5回、船橋と九十九里浜を往復した。その都度、肉眼では見えないが望遠鏡とデジカメには姿を現す淡い彗星たちを追った。薄明が始まる頃の南東天低くにはC/2021S3パンスターズ彗星が白い光を南西にたなびかせて移動している(画像上右)。
 同じ頃には高度約10度、
12Pポン-ブルックス彗星が青く光りながらはくちょう座の天の川の中を東進している(画像下)。

 銚子沖合の海が穏やかな夜はたくさんの漁船が洋上を行き来する。それぞれの漁船が海を照らす強烈な漁火は夜空を染めて低空の星影をかき消してしまうが、それはそれでやむを得ない。船団が遥か沖合に離れるまでしばし待機する(画像下)。

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・2023/12/10~22 暖冬異変から急冷の星海原で今年の航海納め。

2023-12-30 | たまおの星便り

 12月に入ると移動性の高気圧とともに天候が変わる秋のような空模様が続いた。17日は高気圧が通過し晴天となった。冬には珍しく南西の強風が吹き荒れ、深夜の山道には風に吹き飛ばされた小枝大枝が散乱していた。車に当たらないように慎重にハンドルを取りながら午前2時過ぎに海岸に到着した。気温14℃と異様に暖かい。防潮堤を越えてくる霧状の波しぶきを避けて海岸から一番離れた駐車場の奥に車を風除けにして機材をセットした。
 午前5時過ぎの薄明開始まで2時間あまり、すぐに未明の空を動く彗星たちの撮影に入った。日曜の明け方はいつもは釣り人の車が何台も押し寄せヘッドライトの灯りに辟易するが、今日は海が荒れているせいか、数台が出入りしただけだった。だが、南西風は変わらず強く吹いたまま薄明を迎えた。
 22日は西高東低の気圧配置となって寒波の押し寄せる冬晴れの夜空となった。未明の海岸はマイナス4℃まで気温が下がった。それだけに透明度は高く犬吠埼灯台の灯りがよく見えた。いつもの彗星をいくつか撮影し、東天の空域あちこちに望遠鏡を向けたあと、薄明の南天低く高度8度にあるC/2021S3パンスターズ彗星を視野に入れた。まだ11等と暗いが来春には9等まで明るくなると予想されている(画像上 右下)。明日明後日も晴天が続く予報だが、所用が立てこんでいて年内の星海原の航海は本日をもって終了となる。
 今年の特に後半は、ほとんどの撮影画像にスターリンク衛星の光跡、光点が写りこむ事態となった。18日未明の下の画像にはわずか20秒露出の1度×1.5度弱の写野ながら3本もの明るいスターリンク衛星の光跡(と、いくつもの光点)が写っている。現在4000機が数百キロ上空の低軌道を周回しているそうだが、いずれ10000機以上となるようだ。困惑の極みといえる。

 
 

 

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・2023/11/14~24 銀河や星団をすり抜ける未明の彗星たち。

2023-12-06 | たまおの星便り

 11月もおおむね晴天が続いた。台風や大雨も少なく日中は20度を越えて汗ばむ日が多かった。薄明開始が4時40分過ぎと遅くなったこともあり、日付が変わってからゆっくり家を出て寝静まった街道を太平洋に向かって東進する。 
 新月の14日は午前2時過ぎに海岸に到着した。気温は+4℃、風はないが防寒服に軽く身を包んで機材を海の見える高台にセットする。
 今の時季、未明の空には南に冬の星座、東に春の星座が輝いている。おおいぬ座のシリウス近くにはC/2017K2パンスターズ彗星、うみへび座の孤独の星アルファードの北には103Pハートレイ彗星、黄道十二宮のかに座には62P紫金山彗星と暗い29Pシュワスマン・ワハマン彗星がひっそりと光を放ち、動いている。
 時々、こうしたうごめく彗星たちが見かけの上で太陽系外の星の集団(散開星団や球状星団)や天の川銀河の外にある別の銀河のそばを通りかかることがある。16日には62P紫金山彗星が「蟹の吹き出す泡のように見える」プレセペ星団の極く近くを見かけ上、通り抜けた(画像上左)。21日には103Pハートレイ彗星が1.5億光年彼方にあるNGC2721銀河の前を通り、C/2017K2パンスターズ彗星が小さく密集した散開星団NGC2215の近くの空を移動していた(画像上中、右)。
 ほとんどの彗星は太陽系の中を移動する天体だが、天空にひしめく何千光年、何億光年も彼方にある天体の傍らを人知れず走る抜ける
姿を見ると宇宙のたとえようもない広がりを実感する。

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・2023/10/11~26 「秋の夏日」の夜空に青い彗星、カノープス。

2023-11-05 | たまおの星便り

 今年は台風が少なく秋の長雨もほぼなかった。代わりによく晴れて10月の夏日が続いた。新月前後から連日続く夜の秋晴れに誘われて断続的に6回、星海原に出帆することとなった。
 日中は暑くても海岸の未明は10℃近くまで下がり肌寒い。こういう条件では普段は海霧が濃く立ちこめる。だが空気が乾燥して陸風がたえず吹いているので透明度も悪くない。遥か犬吠埼へと続く風力発電の標識灯や南東50キロあまりの大東崎灯台の灯がよく見える。
 未明の空には青いイオンの光をほのかに放つほうき星がいくつかうごめいている(画像上、いずれも15㎝反射F2.5+EOS6D 20秒X2露出)。周期3.3年で公転している2Pエンケ彗星は今年は条件がよく、鮮やかなコバルトブルーの丸いコマから北西にスーっと細い尾が伸びている。公転周期が短いだけにこれまで何度かエンケ彗星を見てきたが、こんなに美しく凛々しい姿に出会うのは初めてのような気がする。
 22日日曜の未明は、夜半まで空を覆っていた雨雲が一気に東の洋上に去り、雨後の澄み渡った夜空となった。折しもオリオン座流星群の極大日と重なっていた。いつもの海岸には流星見物客がいるかと思いきや、星空動画を何年も撮っているプロのカメラマンさんだけだった。会うのはほぼ一年ぶり、最近はNHKのコズミックフロントでも活躍しているようだ。ソニーの超高感度カメラ+超広角レンズの4K動画では目に見えない微光の流れ星がいくつも見えているらしい。
 こちらも水平線が見える防波堤に14mm広角レンズのカメラを設置してタイムラプス撮影を開始した。あわよくば「南中するカノープスとオリオン座流星群の大火球」を期待して、オリオン座の下半身からおおいぬ座のシリウスを経て水平線に浮かぶ漁火までをアングルに収めた。
 10秒おきに撮影を重ねること三時間、空が白む薄明までに散在流星が一個、オリオン群が一個写っていたのみ、肉眼で見たオリオン群の流星もわずか2個だった。だが午前2時過ぎ、沖合低空の雲間から全天第二の輝星、カノープスの姿をとらえることができた。

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・2023/9/14~9/19 秋の熱帯夜、未明の4彗星。

2023-10-01 | たまおの星便り

 例年ならば「秋の長雨」が降りしきる9月半ばに今年は猛暑日が続いた。強い南風にのって暖気が太平洋から吹き寄せ未明になっても海岸はじっとりと蒸し暑い。いつもは海が見渡せる小高い砂丘に陣取るが、風を避けて海岸から少し離れた草地に機材を設置した。南側に車を寄せて風除けにするとほぼ無風になるが、それだけに蒸し暑さは募り、蚊がしきりに寄ってくる。当然、それを見越して長袖、長ズボン、手袋に加え、防虫ネットを頭からかぶって観測体制に入る。熱帯夜の星空航海は暑さと蚊との闘いでもある。
 西村彗星C/2023P1が明け方の空を駆け抜けて去り、いつもの予測通りに未明の空をうごめく彗星たちに狙いを定める。南の洋上30度にはC/2020V2(
ZTF)彗星がくじら座を動いている。空高くペルセウス座には103Pハートレー彗星、東の空のふたご座β星、カストルの近くには2Pエンケ彗星、そして南東の低空、冬の銀河の中にC/2017K2パンスターズ彗星が姿を現し始めている(画像上)。
 秋分の日も近く、薄明開始は午前4時前だが、そのかなり前から東の空には赤いほのかな光が立ち昇っている。
明け方の黄道光がこうしてはっきり見えるのも風が強くて透明度が高いおかげだが、一方で、星の画像がその淡い光で赤くカブってしまう。さらに金星のマイナス4等の強烈な輝きがカブりに追い打ちをかける。
 明けの明星と薄明の空と黄昏時の蚊の猛攻にせかされるように、熱暑の海岸を後にした。

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・2023/8/18~8/29 熱帯夜の空に灯る青い光芒。

2023-09-10 | たまおの星便り

 8月12日夕方から群馬県北軽井沢の友人の別荘観測所に滞在した。目的は13日から14日にかけて極大を迎えるペルセウス座流星群を見るためだった。だが台風の接近もあって結局、2夜ともに雨空だった。それでも標高1,100mの昼中は酷暑の下界よりも10℃も低い26℃ほど、久々に高原の涼を楽しんだ。
 猛暑炎天の船橋に帰ると、西村新彗星の情報が入ってきた。未明の北東低空、ふたご座に
10等級で発見された彗星は9月に太陽に近づき2等級まで明るくなると予想されていた。折しも台風が去って熱帯夜ながら晴れた夜空が続いた。
 8月19日の明け方、すでに薄明で白み始めた空に新彗星の姿を捉えることができた。わずか20秒の露出でもデジカメの液晶画面に鮮やかなコバルトブルーに輝く円盤状の光芒を見ることができた。光度は約9等、日増しに明るくなっているようだった。それから新月をはさんで満月近くの8月29日まで薄明の空に新彗星を追い続けた(
25日の画像上右)。
 新彗星が洋上に昇るまでの間、未明の空にいくつも彗星を捉えた。はくちょう座からペガスス座へと西の空を動くC/2023E1アトラス彗星も青いコマが大きく広がっていた(画像上左)。103Pハートレイ彗星は中空のアンドロメダ座で12等級と暗いながら、やはりイオンの青い光を灯していた。こうした彗星の青い光は肉眼では見えないが納涼の人だまのように画像に浮かび上がってくる。
 8月は5回、九十九里から星空航海に出帆した。真夏にしては異例に多い出航回数だったが、いずれの日も未明まで25℃を下回らない蒸し暑い快晴夜だった。何日も続いた昼間の炎熱地獄を考えれば当然ともいえる。

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・2023/7/17~7/30 梅雨明け5日、夜空を賑わす彗星たち。

2023-08-11 | たまおの星便り

 7月中旬の新月期の始まりとほぼ時を同じくして今年の梅雨が明けた。しかも「梅雨明け三日」ならず「梅雨明け連日」といえるほど晴れた夜が何日も続いた。月が満ちる月末までに合わせて6日間、九十九里海岸に通いつめた。そのうち一日だけ濃い海霧が立ち込めて数十分しか星をみることができなかったが、残り5日は高温多湿の快晴熱帯夜だった。
 折しも、本来この時期には16等級ととても暗い12Pポン・ブルックス彗星が突如アウトバーストして100倍くらい明るくなり11等級になったという情報が21日に海外から入ってきた。その姿を捉えようと連日、北天のりゅう座の一画に望遠鏡を向けた(画像上右)。
 りゅう座にはもう一つ明るい彗星、
C/2023E1アトラスが見えている。北極星に近く、丸一日沈まずに北天を回る周極星となって9等級まで明るく大きくなっていた。コバルトブルーのイオンの輝きが天上の宝石のように美しい(画像上左)。 
 未明の空にはほかにも暗い彗星がいくつも微かな光を放ってうごめいている。時間を追いながらいくつかの彗星を画像に収めていく。午前3時過ぎには薄明が始まり太平洋の波頭が白く浮かんでくる。その頃には望遠鏡やカメラ、自分の体からも夜露がしたたり落ちてくる(画像下 吸湿フードや防滴ヒータを付けた観測機材)

 

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・2023/6/17、18 梅雨の晴れ間、短い夜のほうき星。

2023-06-29 | たまおの星便り

 梅雨前線が大きく南に退いた17日は午前0時過ぎに海岸に到着した。夏至は一年で一番夜が短く昼が長いが、実は夜の終わり、薄明開始は夏至よりも数日前の今ごろが一年で一番早くなる。観測地の九十九里海岸では「草木も眠る丑三つ時」の午前2時半過ぎには早くも空が白み始める。
 薄明開始まで2時間あまりしかない。忙しく機材を海岸近くの砂丘に設置してまず237Pリニア彗星に望遠鏡を向ける。梅雨時の快晴夜にしては透明度がいい。天頂から南西の水平線にかけて天の川が滔々と流れ落ちている。いま
未明の空には
明るいほうき星はないが、口径15㎝反射望遠鏡に装着した20秒露出のデジカメEOS6Dは光度11等から13等の微かな光芒を捉えていた(画像上)。
 翌18日も梅雨の晴れ間が続いたが、昨夜と比べて明らかに透明度が落ちていた。濃い霧はないのに西に傾いた天の川がぼんやりと確認できる程度だった。薄明が始まって30分が過ぎた午前3時前になってようやく星の輝きが戻ってきた。洋上の高度9度、おひつじ座の一画に見え始めたC/2020V2(ZTF)彗星を青みがかった夜明けの空に捉えることができた(画像上 右下)。

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・2023/5/17、5/26 梅雨入り前のわずかな晴れ間の3彗星。

2023-06-03 | たまおの星便り

 移動性高気圧に覆われた5月17日、午前0時過ぎにいつもの海岸に着くと駐車場の入口に工事中の看板が立っていた。工事用の仮設道路ができて地面が大きく掘削されコーンが立ち並んでいる。ヘッドライトを頼りに防潮堤直下の平坦な場所に車を慎重に乗り入れる。 
 新月の4日前、薄明開始とほぼ同時の午前3時には月も昇ってくる。暗夜は2時間半ほどしかなく海岸の見える丘の上に機材をセットしてすぐに撮影を始める。晴れてはいるが海霧に阻まれて夏の天の川もほとんど見えない。やむなく高度のあるわし座の273Pリニア彗星とへび座のC/2019T4アトラス彗星を狙った(画像上)。
 前日の午後23時近くまで雲行きが怪しかったが26日未明は雲が切れると踏んで海岸に向かった。午前1時過ぎに到着すると大型のトレーラー2台が煌々とライトを照らして工事中の駐車場で何やら荷物の積み降ろし作業をしていた。人が寄り付かない真夜中の海岸の怪しい作業は限りなく犯罪の匂いがする。恐る恐るトレーラの脇をすり抜けて駐車場の奥に車を停めた。強烈なヘッドライトの灯りを避けるようにいつもよりも海岸に近い防潮堤の端に機材を設置した。
 夜空には霧も雲もなく天の川の暗黒帯がくっきりと見える。だが到着が遅かったこともあり薄明開始の午前2時40分過ぎまで1時間しかない。ペガスス座からアンドロメダ座、うお座、おひつじ座にかけて駆け足でパトロール画像を撮り、空の白んだ午前3時過ぎに薄明中のC/2022A2パンスターズ彗星を視野に収めた(画像上の下)。撤収する頃には怪しい大型トレーラー2台も姿を消して快晴の空は茜色に染まり始めていた。

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・2023/4/28~29 黄砂と雲と強風の狭間から。

2023-05-09 | たまおの星便り

 4月下旬から黄色い砂が舞う昼と南からの強風が吹きすさぶ夜とが断続的に続いた。この時期はSCW気象予報を調べても気象衛星画像を見ても房総半島の海岸線の天候を予測するのは難しい。 
 何日かぶりに、ようやく夜明けまで晴れ間が続くと思った28日の未明は、観測地についてみると空の西半分が雲の中だった。北極星が見えるうちにさっと極軸を合わせ、
忙しなく南天から東天の微かな彗星たちを撮影した。東天の空域に望遠鏡を向けていると次第に南の洋上から雲の端切れが次々と押し寄せてきた。やがて午前2時半過ぎにはほぼ全天が雲に覆われた。午前3時過ぎまで空を見上げていたものの、すぐに薄明が始まってし
まった。
 翌29日はよく晴れていたが、夜半過ぎに着いてみると予想以上の強い南風が吹いていた。海岸に近い小高い丘の北側斜面に草むらをかき分けながら機材をセットした。足場は悪いが風はかなり緩和されて落ち着いて星々を狙える。昨日と同じように南から東の彗星を視野に収める(画像上 左からC/2022A2パンスターズ彗星、C/2019T4アトラス彗星、237Pリニア周期彗星)。
 午前2時を過ぎると南東から北東の空には秋の星座たちが輝き始める。ペガスス座の馬の頭は逆さになりながら立ち昇り、薄明が迫る午前3時過ぎには胴体にあたる「秋の四辺形」が太平洋の空にすっかり姿を現す。
 木々が芽吹き、黄砂が空を染める昼は春一色だが、未明の空は秋を迎えながら明るくなっていく

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・2023/4/1 菜種梅雨の晴れ間、一夜。

2023-04-06 | たまおの星便り

 入学式は満開の桜の下で、は今は昔話。今年も卒業シーズン3月半ばにはすでに桜の花が咲き誇っていた。そして、花曇りと合わせて何日も延々と降り続く菜種梅雨。中旬から始まる新月期は、結局、一日も房総半島に快晴夜がなく3月を終えた。
 太った月が沈むのが午前3時過ぎ、薄明開始が午前4時過ぎ、計算上の暗夜がわずか1時間という4月1日未明になって、ようやく九十九里海岸に晴れ間が戻ってきた。
 月がまだ西に高い午前2時過ぎに海岸に到着し、機材をセットする。月明の中で夏の天の川が東の洋上に昇り始めている。夜霧が地面を這っているが遠く銚子の街明かりも見えて透明度は悪くない。
 月が西の地平
近くなったのを確かめて、南から東の空に密かに光る3つの周期彗星に狙いを定める。特に364Pパンスターズ彗星は一日に約4度(月の見かけの大きさの8倍)ものスピードで東に移動している。まだ暗く小さい姿ながら西に「ほうき星」らしい細く長い尾をひいている(画像上左)。
 刻々と迫る薄明を気にしながら、はくちょう座からわし座へと流れる天の川よりもさらに東の低空に望遠鏡の筒先を向けていく。
 薄明が始まり東の洋上に赤みが射してきた午前4時過ぎにもう一つのパンスターズ彗星C/2022A2を狙う。約11等と暗いながらやはり彗星らしい尾を引きながら明け方の光に消えていった(画像上右)。

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・2023/2/18~3/1 姿を変えていく未明の彗星たち。

2023-03-10 | たまおの星便り

 2月初めに4等級まで明るくなって注目を集めたC/2022E3 ZTF彗星が再び帰らぬ彼方に去って、未明の夜空には10等を下回る暗いほうき星が残された。2月下旬の新月期は、東天に昇り始めた夏の天の川近辺で控えめに輝く彗星たちを追いかけた。
 C/2022A2パンスターズ彗星は、はくちょう座とケフェウス座の境界付近にあって天の川の渦中をゆっくり北上していた(画像上段左)。81Pヴイルト周期彗星はさそり座の赤い一等星アンタレスの北に漂っていた(画像上段右)。
 2月22日、薄明開始まで1時間を切る午前4時過ぎになって96Pマックホルツ周期彗星が東の洋上にようやく姿を現した。アメリカのコメットハンター、マックホルツ氏が1986年に眼視観測で独立発見したこの彗星は約5年3か月で公転している。今回は日本からも明け方低空に見られるので期待していた。薄明が始まる午前5時近く、高度10度を越えたところで画像に収めた。11等と暗いながら、とんぼが羽を広げたようなユニークな姿が写っていた(画像下段左)。
 とことが、その一週間後の3月1日未明、高度7度に昇った96Pを狙ってみると予報位置には淡く朦朧とした光のかたまりが見てとれるだけだった(画像下段右)。その姿の急変ぶりに驚き、戸惑った。だが、太陽に近づくと予想もできない振る舞いをするのがまた、ほうき星の魅力でもある。眼視で彗星を精力的に発見していたマックホルツ氏は実は昨年、新型コロナに感染し、急逝してしまった。マックホルツ周期彗星は二つあり、今回と同じようにその彗星たちが太陽に近づくたびに独特な姿をみせて、稀代のコメットハンターの名を思い出させてくれることだろう。

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