定年帰農の成れの果て

定年で帰農し、「都市近郊における露地野菜経営の確立」を目指した20年弱の体験をもとにしたエッセイです。

2 退職

2020-02-07 18:30:02 | エッセイ

 2 退職

一郎は2年後、55歳で定年を迎える。
 公務員に定年はないが、50歳前半で後進に席を譲る慣例になっている。
 公共事業は、予算は役所でつけるが、工事等の実施は、主に民間事業者が行い、一体となって事業の効果を発揮している。
 定年後は、現職の時の能力を生かせる民間事業者に再就職する道もあるが、よく考えてみると、自分にそのスキルがあるかと問えば、自信がない。
 なるほど、職場の和を乱さず、組織としてそれなりの貢献はしているつもりだが、今の組織を離れて自分で何ができるかと問われれば、心もとない。
 そんな折、2000年2月、愛知県の実家から、82歳の父親の急逝の知らせが入る。
 実家は、20年前に母親を亡くしており、父親が1人で水田30a、畑20a の農業を営んでいた。
 実家に戻って農業を始めるのもハードルが高い。
 年金は、60歳からしか出ない。公務員には失業保険はない。
 妻の昭子は「農業は身体にも優しいし、しばらくの間私が働くから、大丈夫だよ」言ってくれた。
 妻も同郷だったので、北海道を離れることには特に障害がなかった。
 農業の一般的な知識はあっても、栽培技術の知識、技能はゼロに近い。
 農地、トラクター、軽トラなど農機具や資材などは一応そろっている。
 野菜も、鮮度の差が出るコマツナなどを栽培し、直売を行えば、鮮度だけはスーパーに負けない。
 一郎は、自分の資質、今までの職場環境、実家の農業設備など、今置かれている状況を棚卸した結果、2001年7月に退職し、実家の農業を継ぐことにした。


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