岸田政権は異次元の少子化対策に力を入れています。児童手当を高校生にも月1万円を支給したり、所得制限を撤廃するといった案を出していますが、それと引き換えに医療保険をはじめとする社会保険料の引き上げや所得税における扶養控除の縮小を言い出しています。これは非常に馬鹿げた話で児童手当の給付がちょこっと増えても、扶養控除削減でプラスマイナスゼロあるいは所得状況によってはむしろ増税になってしまったりします。筆者はこの政策について実効性が期待できないと同時に、防衛増税のときと同じく財務省が仕組んだ増税や緊縮財政が目的化した詐欺政策であると睨んでいます。社会保障・医療経済学者である学習院大学の鈴木亘教授は異次元少子化対策について次のようなコメントをされていました。

 

引用

一言でいえば、異次元の少子化対策の中身に全く魅力がなく、多少の負担をしてもよいと思える内容になっていないということだ。先日出た児童手当の高校生への支給拡大は、すぐさま、財務省から扶養控除の削減案が出て、打ち消された。38万円の扶養控除がなくなると、税額はその3割であるから、年額11万4千円の増税である。これでは、年額12万円の児童手当が支給されても意味がない。それ以外に具体化されているのは出産一時金が42万円から50万円になる程度であり、あとは検討案ばかりである。それにもかかわらず、月500円の保険料増になるという数字ばかりが妙にリアルであり、そんなものに賛成しろという方がどうかしている。

子どもを養育するにあたって親にかかる経済的負担はとても月1万ちょっとの給付で補えるものではないでしょう。食費をはじめ衣服代、教育費、医療費などで莫大な支出を余儀なくされます。子どもを産み、育てるというのは親にとって20年近くになる一大事業であり投資であるといって過言でありません。筆者が5年近く前に書いた記事でありますが、親が安心して子育てできるようにするには日本の経済が安定的に成長し、雇用が確保される状況やその予想、安心感をつくることが大事だと書いておきました。

リフレ派的視点で考えた少子化対策 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

岸田政権がやっているような小手先の少子化対策よりも、まともなマクロ経済政策運営をやることの方が先決です。仮に子育て世代の親を財政的に支援するにしても、民間の経済活動が活性化しないと財源である税収が安定しません。そういった観点抜きでどこかで増税しようかとか、どこかの予算を削ってやれないかという議論をしても財源は生まれてこないのです。

 

あと日本においてもう既に少子化対策をやっても手遅れであると指摘する声もあります。出産適齢期の女性の数自体が減少してしまっています。日本において比較的人口層が厚いといわれるのは第二次世界大戦直後に生まれた団塊世代とその子どもである団塊ジュニア世代であったのですが、団塊ジュニア世代においては出産適齢期であったはずの1990年代において就職氷河期を迎えていました。所得の不安定化や不確実性が増してしまい、子育てという一大事業や投資をしにくくなってしまいました。少子化の食い止めは既に無理ゲーといっていいでしょう。

 

あともうひとつ思い出してほしいのは民主党政権時代の子ども手当です。民主党は2009年の衆議院選挙で0歳~15歳までの子どもを持つ世帯に対し毎月2万6千円を支給するというマニフェストを掲げ自民党に大勝して政権をとったのですが、すぐに財源問題で壁にぶち当たり半分の1万3千円に減額されます。さらに財務省の強い抵抗とバラマキ批判が巻き起こり、最後は東日本大震災のどさくさに巻き込まれる形で元の児童手当に退歩させられます。そして子ども手当が実施されると共にやはり15歳以下の子どもを持つ親の扶養控除が廃止されてしまったのですが、子ども手当が廃止になっても元に戻りませんでした。結局民主党は財務官僚に嵌められて増税だけを残してしまったのです。恐らく財務官僚は岸田政権をそそのかし、その二番煎じを狙っているとしか思えません。少子化の食い止めが目的ではなく、(控除廃止や社会保険料を含めた)増税が目的になっているのです

 

これと同じようなことが少し前でもありました。日本はいくつかの軍事独裁国家に囲まれており、近年はとくにわが国への軍事的挑発行為が頻発しています。台湾有事も既に時間的問題だとされています。日米安保条約というアメリカの後ろ盾があるとはいえ、わが国の防衛力強化は必須であるのですが、問題はやはり財務省がこれを増税や防衛費の歳出抑制(緊縮)に利用しようとしている節が感じられたことです。

 

理不尽な形で殺害された安倍元総理は防衛強化の財源は国債で賄えばいいと仰っていたのですが、岸田政権になり安倍氏がこの世にいなくなってから「将来世代にツケを回してはいけない」などといって防衛増税や他予算の削減などを財務省はチラつかせるようになったのです。筆者は当時これを非常に馬鹿げた発想だとツイッター上で批判しました。筆者は(日本流)MMT支持者たちのような「税は財源ではない」などという浅はかな論法に乗っかりはしません。ただしパンデミックや著しい経済危機など一時的に危急を要するような場合は国債を活用し、税負担を幅広い世代に広く薄く分散させるという方法はありだと考えます。防衛強化も同様です。1兆円程度の防衛支出ならば経済発展による税収の自然増で十分賄えます。ちなみに2022年度の税収は71兆1374億円に上り、当初予算を大きく上振れました。歳入から歳出を引いた剰余金は2兆6294億円となります。

 

防衛強化のための財源を税収だけに縛り付けてしまうのが悪手であるのは、他国に日本が遣える防衛予算の規模を知らせてしまうからです。安倍元総理が国債を財源にした方がいいと仰っていたのは「日本は国債を発行してでも必要なの防衛強化を行う。カネに糸目はつけない。」という覚悟を他国に示すためだったと筆者は想像しています。ゲーム理論におけるコミットメント効果の説明をこのブログで紹介したことがありますが、その極意は「自分がこれから行う選択や行動を公の場で表明して自ら縛ることによって、相手のとる選択や行動を変えさせてしまう」ことにあると記しました。日本が「税収だけで足りなければ国債を発行してでも防衛強化を計る」という態度を示すことで、相手の動きをブロックし、軍事紛争勃発リスクを低減させるのです。もうひとつ安倍氏が生前中主張されていた核シェアリングもそのひとつでした。岸田政権や財務省の役人たちはその覚悟を怯ませるものであり、逆に軍事衝突リスクを高めるものだと筆者は直感したのです。(なお筆者の見解に埼玉の日本維新の会議員である沢田良氏が賛同して下さいました。感謝です。)

 

増税や他予算の歳出削減を目的化してしまっているような異次元の少子化対策や防衛増税は逆に子育て世代や現役世代の負担を強めて少子化を加速させたり、わが国を軍事紛争に巻き込むリスクを高めかねません。目の先の算盤勘定に気を奪われ、逆にわが国民・将来世代に大きな負担を背負わせてしまうようなことがあってはならないでしょう。

 

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