久しぶりに三ノ宮に繰り出す
さていよいよ3月。年度末ということで私のような半戦力外のロートル社員にでさえ、容赦なく目標管理のノルマが押し寄せてストレスが半端ない今日この頃である。今更高い実績を上げたところで何の褒賞もないにも関わらず、実績が低い場合のペナルティだけは確実に来るという理不尽さに不満を感じつつも、宮仕えの悲しさで抵抗の術はないという現状である。このような殺伐とした日常の中では、やはり一服の心のオアシスは音楽に限る。というわけでこの週末はMETのライブビューイングを鑑賞するために神戸に繰り出すこととした。
劇場は例によって三ノ宮のキノシネマ神戸国際。上映開始が11時前なので土曜の早朝にJRで神戸に向かう。
10時頃に三ノ宮に到着すると、これから3時間半の長丁場、やはり燃料補給はしておきたい。朝食にはやや遅く昼食にはまだ早いという難儀な時間帯であるが、朝食用の営業実施中の「ドトール」で安直に朝食を摂ることにする。
注文したのは季節限定メニューという「牛肉の赤ワイン煮込み」。これにレギュラーコーヒーのSをつけて920円。朝食としてはやや贅沢である。
しばし待たされた後に料理が出来上がり。ザクッと見たところ確かに肉が入っているようで、食べてみると思いの他の牛肉感があって悪くない。CPはそれほど高いとは言えないが、ドトール朝食は意外と使えるようである。もっとも栄養バランス的には悪いので、気になる向きはサラダなどを付ける必要がありそうだ。
朝食を終えてしばしマッタリしてから劇場に向かうことにする。劇場は国際会館の11階。屋上庭園に面している。それにしても毎度言っている気がするが、どうしてもここの「ガーデン」ってのが「ガッテン」に見えて仕方ないのだが。
ここの庭園にはなぜか約200年前のものという巨大な壺が据えてあるのだが、どうもこれを見る度に中に入りたくなって仕方ない。前世がハムスターだった私の本能だろうか。しかしこれに入ったら、突然に雷が鳴ってタイムスリップしそうな気もする。
入場時刻が来たのでゾロゾロ入場。今回の入りは10人ちょっとと言うところか。大体この劇場でのMETライブビューイングの入りは毎回こんなものである。大阪のステーションシティシネマの方は何人ぐらい来てるんだろうか?
METライブビューイング ヴェルディ「アイーダ」
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:マイケル・メイヤー
出演:エンジェル・ブルー、ユディット・クタージ、ピョートル・ベチャワ、クイン・ケルシー、モリス・ロビンソン、ハロルド・ウィルソン
ヴェルディの定番悲劇である。新演出とのことだが、新演出の主眼は20世紀の遺跡発掘隊の探査から始まって、古代エジプトの大悲劇ドラマが判明していくという流れにしているところ。現代と古代の二重の時代が交差するという設定で、これはアイーダの悲劇が単に古代の出来事というだけでなく、戦乱続く現代でも通じるテーマであるということの暗示だろうとは理解できる。とは言うものの、この演出がそれだけ画期的で効果的であるかには疑問もあるところではある。
ドラマはエチオピアの王女で敗戦によって囚われの身となっているアイーダ、アイーダを愛する若きエジプトの将軍ラダメス、そしてエジプト王の娘にしてラダメスを愛しているアムネリスの三角関係が中心となる。そのドラマを盛り上げるヴェルディの音楽は、本作の場合は豪華にして華麗。合唱とソリストとオケによる大スペクタクルから、ソリスト同士の絡みに独白など美しい多彩なアリアで魅せてくる。
アイーダを演じるのは、現在世界最高のソプラノの1人とも言われるエンジェル・ブルー(驚いたことに芸名でなくて本名らしい)。その清澄にして表現力豊かな声で愛と祖国への思いの板挟みに苦しむ王女の苦悩を演じる。一方アイーダが思いを寄せる若き将軍ラダメスを演じるベチャワは、野心と一途さと未熟さを併せ持った純粋なる若者を見事に表現した。そして愛憎相半ばの一番複雑な状況を抱えるアムネリスを演じたクタージは、この役は得意役と言うだけあって、鬼気迫るような迫力のある演技で観客を惹きつける。
流石にヴェルディの作品の中でもあらゆる面での完成度の高さを感じさせる作品。またとかくキリスト教絡みのネタになると、ストーリーに宣伝臭や説教臭が漂いだして「それはちょっと」と納得しがたい展開になりがちのヴェルディが、ことキリスト教が微塵も絡まない古代エジプトの話になると、リアリティがあって説得力のあるドラマになるのが興味深いところ。若さ故の夢想家的な甘さが抜けない将軍ラダメスに、亡国の王女の悲哀を一身に背負ったアイーダ、圧倒的権力者であるがそれ故に権力では左右できない人の心に翻弄されて苦しむアムネリスなど、各人各様の悲劇が胸に迫ってくる。
結局は「シナリオの無茶ぶり」という私がヴェルディのオペラに感じている一番の不満が消え去った結果、純粋に壮麗にして美麗な音楽に酔うことが出来るのである。まさに堂々たるイタリアオペラを堪能したのである。
正直なところ、アイーダは既に何度か見ているのでパスすることも考えたのだが、新演出というのに惹かれて見てみたのだが、新演出は別にどうというものでもなかったがこの作品のポテンシャルに圧倒されたというところ。
鑑賞終了時には14時半。やはり遅めの昼食を摂る必要がありそう。店を選ぶのも面倒臭いので近場で地下の「肉のツクモ」に入店する。
ここでは大昔にステーキ丼のようなものを食べた記憶があるのだが、ランチメニューにはその手が見当たらないので「すき焼き重セット(1300円税込)」を注文する。
うーん、悪くもないが特別に美味しくもない。ボリュームは以前の記憶よりも落ちた気がするが、これはアベノミクス効果か。なお3種から選べる豆腐鍋を私は麻婆豆腐鍋を選んだんだが、これは明らかに私の好みではない。しかしチゲ豆腐鍋はさらに私の好みの鍋ではないし、ここはオーソドックスに豆腐鍋を選ぶべきだったか。もっともここは再訪はないなというのが私の判断だが。
帰ろうかと思ったが、どうも口の中が先ほどの麻婆鍋の後味で気持ちが悪い。やはり少し喫茶をしていきたい。以前に1度入ったことのある「宇治園 喫茶去」を通りかかったのでここに立ち寄ることにする。
以前にも食べたことのある「抹茶モンブランパフェ(1430円)」を注文する。やや贅沢で決してCPが良いとは言いにくいパフェであるが、美味いので満足度は高い。通常はかさ増しで加えるシリアルの類いまでシャキシャキと歯触りが良いので、単なるかさ増しという感じでなくて食感の変化として美味い。また抹茶寒天の類いも謂わばかさ増しであるが、これもこれでアイスと組み合わさると美味い。かさ増しで入るような素材が、いかにもかさ増しというのではなく、必然性を持って存在するのがポイントである。
口の中も落ち着いて満足したので、これで帰宅することとする。