どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「スクワーム」…ゴカイよりも胸に迫る、南部の青年の孤独と怒り

ジェフ・リーバーマン監督、リック・ベイカーが特殊メイクを手がけた76年のアニマルパニックホラー。

子供の頃レンタルビデオ店で目にしてインパクト絶大だったジャケット。

映画雑誌でも紹介されていたことがあって、ミミズまみれでなんちゅー映画やねん、と思っていましたが…

登場するのはミミズではなく正しくはゴカイ。

この手の生き物が生理的嫌悪を催すのは間違いないのですが、B級ゲテモノホラーかと思いきや意外にしっかりした作り。

南部の田舎町を舞台にじっとり〝人間〟が描かれていて、侮れない傑作でありました。

 

◇◇◇

アメリカ南部を吹き荒れた暴風雨。

高圧電線が断ち切られ、大量の電流が地表に流れると、そのショックで無害なゴカイが突然凶暴化してしまいます…

そんなことはつゆ知らず、年頃の娘ジェリーは都会からやって来るボーイフレンド・ミックを心待ちにしていました。

しかし隣に住んでいる青年・ロジャーもジェリーに思いを寄せていました。

ストーカーちっくでどこか不気味。

スマートからは程遠く一見愚鈍な印象の青年・ロジャーなのですが、ゴカイの養殖業を営んでいる実家から仕事を任されていました。

しかし本人は気乗りせず、父親に叱責される日々。

ボーイフレンドを迎えに行くジェリーから「ゴカイの輸送用トラックを貸して」と頼まれると、断りきれずに貸し出してしまうロジャー。

ロジャー、なんか切ないんですよね…周りから馬鹿にされつつもいいように利用されている感じが…

冒頭ではジェリー母の頼みで草むしりさせられてるし、お父さんの実験のせいで親指をなくしてたり…なんだかとっても不憫に思われてしまうキャラクター。

 

一方都会からやって来た青年・ミックはいたくマイペース。

周りを一切顧みず大荷物でバスを降りる姿…田舎のダイナーで拘りのメニューを悪びれず注文する姿…配慮に欠けていて、ややドライな印象も受けます。

こういう閉鎖的な田舎が舞台の作品では〝都会からやって来た主人公〟は感情移入しやすい人物になっていることが多い気がしますが、本作は突き放したようなクールな味わいがユニーク。

 

「一緒に釣りに来ない?」…自分に気があるロジャーを彼氏とのデートに同伴させようとするジェリーの神経がさっぱり分からねえ…

…と思ったらボート漕がせて釣りのエサを用意させようとしてて、ちゃっかりロジャーに雑用させてるこのカップル、悪気はないのかもしれないけど、自分はどうにも好きになれません(笑)。

しかし辛抱たまらずジェリーに迫ってしまったロジャーがボートで転倒。凶暴化したゴカイに襲われてしまいます。

顔の皮膚を突き破り体内に侵入していくゴカイ…特殊メイクがよく出来ていてこのシーンは圧巻…!!

襲われたロジャーが行方知れずになり、その後近所で謎の白骨死体を発見したミックとジェリーは保安官に異変を訴えることに。

しかし女遊びに忙しい保安官は相手にせず、よそ者のミックを邪険にします。

 

食にまつわるシーンが度々挟まれる本作。

生理的嫌悪を煽りつつも、どこかユーモラスに人間模様を描いているところも面白いところ。

ミックが注文したエッグクリームの中にゴカイが入っていてパニックになる場面。

食から崩れる信頼関係、シティボーイと古い田舎町の隔絶…どことなく冷たさが漂う名シーン。

保安官が浮気相手とミートスパゲッティを食べている場面は、アップになる口元といい編集もユーモラスで、否が応でもゴカイを想起させて何とも嫌らしい(笑)。

そしてジェリー一家がミックを招いて食卓を囲う場面。

ゴカイに根元を食い荒らされた大木が家屋を直撃し食卓を破壊…!!

まるで南部の土地がよそ者を拒絶しているようであります。

 

ジェリー一家は父親を亡くしているようで、お母さんは「男不在の家」に大きな不安を覚えている様子でした。

娘が家を出ていくことを恐れているのか、お隣さんのロジャーと結ばれることを期待しているようで、長女のしがらみも何となく伝わってきます。

ジェリーの妹のアルマは素朴で朗らかな性格にみえますが、彼女も退屈な町に辟易としているのか、大麻を吸う姿も…

オカンは編み物、長女は男、次女は薬物…それぞれ現実逃避。なんとも言えない閉塞感の漂う一家のさりげない描写が素晴らしいです。

 

保安官たちをも葬ったゴカイの群れは夜になるとますます数が増えて町を襲撃。

基本描写はジェリー一家に終始していて、大作パニック映画のようなスケール感はないのですが、25万匹の本物のゴカイを使ったという映像はド迫力。

ドアを開けたら洪水のように流れ出て来る大量のゴカイには絶句…!!

序盤、シャワーのノズルからニュッと出て来るゴカイなど、少しずつ包囲されていくような見せ方も上手く、クライマックスのカタストロフが盛り上がります。

 

そしてゴカイの群れの中にはゾンビのような姿になってしまったロジャーが…

自分を殴っていた父親を食い殺し、馬鹿にしてきた町の人間を襲い、意中の女性を奪った男を攻撃する…

ゴカイを動かしたのは電流ではなくロジャーの怒りの念だったのかも…なんて思わせるシンクロっぷり。

なぜかロジャーを応援したくなり、こんな陰気臭い町飲み込んでしまえ!!という気持ちになります(笑)。

 

しかし朝が来ると陽の光でゴカイは消滅、まさに台風一過。

モンスターとのバトルに勝利するでもなく、たった一夜の〝災いの日〟の出来事を描いたクールな幕引き。

抱き合う恋人たちを映し出しつつ、どこか物哀しい歌声のエンドロールとともにラストには寂寞感が残りました。

 

この手のアニマルパニックホラーものの醍醐味がしっかりありつつ、排他的な南部の町の描写や男女の三角関係ドラマが面白い。

選択肢がない人生を送る男の孤独、蔑まれた者の嫉妬と怒り…〝人間〟がしっかり描かれていて、ゲテモノホラー以上の魅力がある、味わい深い作品でありました。

ジメッとした蒸し暑い季節にみたくなるホラー。

 

「ヒーロー/靴をなくした天使」…クズ野郎がみせる善性、シニカルでハートウォーミングな90年代コメディ

ダスティン・ホフマン主演、スティーヴン・フリアーズ監督の92年公開アメリカ映画。

子供の頃テレビ放送でみたのだと思いますが、いいかげんなおっさん主人公がオモロくて、ドタバタ劇に爆笑。

公開当時興行的に振るわなかったらしく、好みが分かれる作品かもしれませんが、シニカルさとハートウォーミングさがいい感じに同居。 

メディアや大衆の愚かさの描き方もよく出来ていて、大人になってみても面白い、大好きな作品でした。

 

◇◇◇

コソ泥のバーニーは裁判所から収監命令を待つ身。

国選弁護人の財布から金をくすねるわ、息子が届けようとした落とし物の財布からカード引き抜いて転売するわ、反省の色は全くなし。

「病人には近寄りたくない」「ホームレスは助けなくていい」…冷笑的で利己的、かなりのクズ野郎であります。

ところがある日突然目の前で旅客機が墜落。

全く気乗りしなかったものの飛行機の扉を開け、乗客を救出することになったバーニー。

「パパがいない!」と自分の息子と同い年位の子供が泣き叫ぶ声を聞き、渋々燃え盛る機内に突入。

次々に乗客の命を救います。(でもお金が入ってそうなバッグも盗んでいく)

機内は薄暗く、顔に泥がついてしまったため、誰もヒーローの顔を覚えておらず、唯一の手がかりは現場に片方残された靴のみ。

メディアは血眼になって「104便の天使」を探し、100万ドルの懸賞金をかけました。

しかし日々の生活に追われそんな騒ぎはつゆ知らずのバーニーは、車上生活をしている青年・ババーに靴を渡してしまいます。

数日後…テレビに映っていたのは飛行機事故のヒーローとして賞賛されているババー。

バーニーは我こそが本物のヒーローだと名乗りをあげますが、誰も耳を傾けてくれません。

バーニーはババーに接触しようとしますが…

 

普通にみると主人公が気の毒に思えそうなもんですが、冒頭の描写から「日頃の行いがよっぽど…」となって、重くなりすぎない絶妙なバランス。

ヒーローはホームレスだった…!!とか如何にもアメリカ人が好みそうなおとぎ話。

磨けば光りそうなイケメンのババーは女性受けもバツグン…!!

重体の子供を見舞ってはその意識を回復させ、サインをねだられては代わりにホームレスの居住区に毛布を配りましょうと演説。

「前世は宗教家か政治家か!?」と思ってしまう位、口からサラサラ綺麗な言葉が出てきます(笑)。

さらには実はベトナム帰還兵で隠れた功績があったことも発覚し、ババーの人気は天井知らずに…

 

同時にマスコミの持ち上げ方も異常になっていき、乗客をスタジオによんで再現ドラマを作りはじめるなどやりすぎ感がすごい。

テレビ見てて「いつまでこの話やっとんねん」って思うことあるよね…ミッチーvsサッチーとか…古いけど(笑)。

加熱したメディアの滑稽な様子が描かれつつ、作られたヒーロー像を盲信してしまう大衆も愚か。

自分も情報をみて深く考えず都合よく解釈してることありまくりなので、なんだかとっても突き刺さります。

現場で「パパを助けて!」と叫んでいた子供も事故当時の様子をインタビューできかれると、やや大袈裟に話を盛って語り始めてしまう始末。

人の記憶が都合よく塗り替えられて虚像ができていくというのも、真に迫っているように思えました。

 

嘘をついたババーが悪いとは思うのですが、「眠れるところが欲しかった」とかほんの小さな出来心で、こんな大きな騒動になるとは思っていなかったのでしょう。

助けても何の得にもならないバーニーに己の身を顧みず手を差し出したあたり、「ホンマもんの善人」だったのでしょうが、そんな人間でも魔がさすことはある…

反対にバーニーは全く良い人ではないけど、自分の息子と同い年位の子供がお父さんを心配してるのをみて、とっさに身体が動いてしまったのでしょう。クズ野郎でも善性は持ち合わせていて”ヒーロー”になってしまう瞬間がありました。

「どんな人間にも善の一面が、悪の一面が…」という描き方がいいなあと思います。

 

クライマックス、気が咎めたババーが自殺しようとしてビルに登り、それを引き止める大役を担ってしまうバーニー。

ベタなコメディだけど、飄々としてる主人公に爆笑。いちいち大袈裟なオーディエンスも含めまるでワイドショーをみているよう。

「俺はヒーローに向いてないし名誉はいらない。でも金は欲しいから息子の大学院の費用まで頼む!」…集団に流されずどこまでもマイペースな主人公が清々しく映りました。

 

着地点は人によってはスッキリせずかもしれませんが、大勢の命を救った主人公は表に出ず、大勢の人に夢を与えられる人がヒーローの役を引き受けることに…

自分の大切な人を幸せにできればそれでいい…愛する人から信頼されていればそれでいい…最後に主人公が息子にだけ真実を語るエンディングも良いなあと思いました。

「世の中は嘘で溢れている。だからお前は好きな嘘を選んでそれを信じればいい。」…はなんだかとっても深い、心に残る名台詞でありました。


なんだかんだ家族が再生して終わるのが90年代前半アメリカ映画らしい能天気さ!?蛍の光ではじまり、蛍の光で終わるエンドロールはクラシックな趣。

アメリカのアホなところと強いところがぐわーっと迫って来るような感じの作品でありました。

ダスティン・ホフマンは70〜80年代に名作に出まくってて、この作品はベストではないと思うし出演作の中では影が薄いように思いますが、観終わったあと心が軽くなるような優しさを感じて、なぜだか大好きな1本でありました。

 

「真夜中のカーボーイ」…ラストの喪失感、現実と向き合う主人公に感じる希望

子供の頃感動的な映画を観ても泣くことがなかった自分が号泣した映画が2本あって、それが「ポセイドン・アドベンチャー」とこの「真夜中のカーボーイ」でした。

映画好きだった親が「卒業」と「俺たちに明日はない」を見せてくれて、アメリカンニューシネマというジャンルがあることを知り、小学校の終わり頃だったかビデオでみた1本だったと思います。

ダスティン・ホフマンは既に知っている俳優さんだったけど、この映画の姿にはびっくり。

足の悪いセコセコと動き回る詐欺師のようなホームレス…「ホンモノだ…!!」と思ってしまうようなリアルさで、汗をじっとり肌に浮かべながら弱っていく姿も圧巻。

この作品をみてダスティン・ホフマンが一気に好きになりました。

映画評論家の双葉さんがぼくの採点表にて「この映画のラストは〝死〟の名場面の1つとして忘れられないものになると思う」…と仰っていた記憶があるのですが、排泄もままならず意識朦朧として気付けば事切れている…あの死に様がリアルで恐ろしく、リコの人生が可哀想でたまらなかったのと、たった1人の友達を失ってしまった主人公の悲しみに涙が溢れました。

 

子供の頃はリコが強烈なインパクトだったけど、大人になってみると感情移入してしまうのはジョン・ヴォイトのジョーの方。

愚かで痛々しいことこの上ないのですが、思春期〜20代前半の頃の自分と重なってダメなところがグサグサと突き刺さります。

「何者かにならねば」という人生への期待と焦燥感。

全く似合わない変な服着てイケてると勘違い(ファッション黒歴史あるある)。

臆病で人と関わるのが苦手なくせに自意識過剰で本音はモテたい(笑)。

 

ジョーの過去がフラッシュバックでインサートされていくところ。

主人公がどんな人間かを端的に表していて、無駄なくスタイリッシュ、今みても感心してしまいます。

母親に捨てられ祖母に育てられていたらしいジョー。容姿に異様に自信があるのはおばあちゃんに溺愛されていたから…

しかし祖母に恋人ができるとなおざりにされ、性に奔放な環境に置かれていたかと思いきや一方では抑圧されている…複雑そうなバックグラウンドがなんとなーく伝わってきます。

 

「映画代を置いていくわね」と言って小銭を孫に渡すおばあちゃん。

映画館やラジオ、架空の世界だけが友達で人と深く関わったことがない…当時31歳のジョン・ヴォイトの幼い表情がたまらなく痛々しいです。

年頃になってガールフレンドが出来たものの、彼女は町の不良たちとも関係を持っていたようで「あなただけよ」という言葉は果たして本当だったのか…

お仲間の男たちに暴行されてしまう回想シーンはまるでホラー映画のようです。

 

自分がズレてることにも気付かないくらい孤立していたからか、暗い過去の割になぜか悲壮感の少ないジョー。

優しい心の持ち主ではあって、相手に強く出れず人に譲ってしまうところが随所で描かれていました。

そんなジョーが都会で四苦八苦、いいようにカモられていくのが滑稽に、そして恐ろしく描かれていきます。

慣れない繁華街を歩いた時の居心地の悪さ、行き倒れの人がいても誰も振り向かない無関心な人々…

ネズミの玩具を子供の体に這わせる母親など、「よくわからない奇異な人」に出会したときの嫌な感じも何だかリアル。

頼れる実家はなく自分1人きり。自由であることの高揚感と心許なさと…上京するなど1人暮らしを経験したことがある人はジョーに共感するところも多いのではないかと思いました。

都会に来れば男娼として大儲けできると踏んでいたジョーですが、誰からも全く相手にされず娼婦のバーサンを客と勘違いして逆に金をふんだくられてしまう始末。

テレビのザッピングと共に描かれるセックスシーンの妙な生々しさ…勘違いして盛大にやらかしたときのいたたまれなさ…滑稽なのに全く笑えない強烈な一幕でした。

 

散々な目にあったジョーは、リコという男と出会います。

ラッツォというあだ名の通り、ねずみのような風貌をした小柄で足の悪い男。

最初はリコにいっぱい食わされたものの、再会した2人には奇妙な友情が芽生えます。

無一文でむしれるものもなくなったジョーをリコが住処に招待する場面…彼もまた心寂しく汚い町で悪戦苦闘しているジョーに仲間意識を抱いたのでしょうか。

お人好しで足の悪いことを一切馬鹿にしてこないジョーの優しさに惹かれるものがあったのかもしれません。

一方ジョーもなぜか一度裏切ったはずのリコを信用することにします。

幼少期から保護者に拒絶されてきたゆえ、罪悪感を背負いがちで何かと及び腰なジョー。

そんな彼にとって、大きなハンデを抱えていても人の目など物ともせず、しぶとく生きようとするリコの姿は強く眩しく映ったのではないかと思いました。

寝食をともにし、夢を語り合う2人。

貧しく悲惨な状況でも、1人きりでいるよりは2人きりの方がずっといい…他者がいることで得られる人生のよろこび…殺伐としているようでこの作品は確かに美しいものを描いていると思いました。

 

子供の頃みて強烈に印象に残った場面が2つあるのですが、1つは靴磨きのシーン。

駅でリコがジョーの靴を磨いていると次々に客が隣に座りはじめます。

「自分の親も靴磨きだった」「14時間座り続けて腰と肺を悪くした」…咳き込みながら語るリコ。

抜け出せない負のループ、貧困の恐怖を感じて、とても恐ろしく思った記憶があります。

 

もう1つはリコが墓参りをするシーン。

他人のお墓の花を掻っ払ってきて供えるなど、ろくでもないことばかりしているのですが、その挙動もリコらしくて可笑しくてなぜだか可愛らしい。

この靴磨きと墓参りのシーンは原作小説にはないシーンで、原作だとリコは小児まひを患った13人兄弟の末っ子…母親が死に兄弟たちにも見捨てられて父親と2人暮らししていたことが明かされます。

自らの境遇を憂いつつも、盗んだ花ででも弔いはしてやりたい父親への愛情は伝わってきて、見事な脚色。静かな名シーンだと思いました。

 

リコは暖かいマイアミに行けば万事上手く行くとフロリダ行きの夢をジョーに語ります。

ジョーよりもずっとしっかりしていそうなリコなのに、何もかも良くなることを根拠なく夢想しているあたり、彼もまた現実から逃げている人間。(でも人間苦しいとき、こうだったら…と思わずにいられないものだと思う)

他の人が当然持っているものを持っていないリコが、元気に砂浜を駆けている自分を夢想するシーンの切なさも胸に迫ります。

 

ある日ジョーは謎のパーティーに招待され、ついに客を掴むことに成功。荒々しいセックスをしてようやく女性に認められます。

なんだかんだモテるのは暴力的な強い男…!!シビアな現実を突きつけられたようで複雑でもあります。

そしてホモの客から力づくで金を奪ってバス代の資金を得るジョー。

男を殺してしまったようにも見える描写ですが、原作を読むとこの男もジョーに暴力を振るわれることに仄暗い悦びを見出していて、付いた血はあくまでジョーの罪悪感を表している(=向かない仕事だと見切りをつけるきっかけにもなった)…のではないかと自分は思いました。

 

仕事と金をやっと手に入れたにもかかわらず、リコの容態が一気に悪くなると、ジョーは全てを捨てて友の望みを叶えることを選択します。

皿洗いを馬鹿にしていたジョーが、平凡だけれど真面目に働いて暮らすことを決意。

自分の世界に閉じこもっていた男が愛する存在を得て献身的行為に出る…主人公がみせる成長にはじーんと胸を打たれてしまいます。

あれだけ執着していたカーボーイの服を捨てる場面。

強い男を演じる重圧から解放されて繊細で心優しい本来の自分を受け入れたようにもみえて、寂しさと共に不思議な解放感が訪れます。

それなのにリコが亡くなってしまう報われない結末のなんとやるせないことか…

ジョーは亡くなった友の目を閉じ人目も憚らずその身体を抱きしめます。

1人きりでニューヨークにいるよりも、友に巡り会えて最期までジョーが側にいてくれたことはリコにとって幸せだったのかもしれません。

歳をとるとどこかに救いを見出したくなるのか、そんな気持ちも残りました。

 

アメリカンニューシネマは80年代90年代の大作映画と確かに毛色が違って、暗く厳しい現実と向き合った作品が多いのかな、と思います。

中には言うほど刺さらない…という作品もある中で、この映画のインパクトはとりわけ大きく、貧困や死の恐怖をまざまざと感じさせると共に、2人の男の友情がシンプルに感動的でありました。

元気のでる映画ではないけれど、なぜか時折みたくなるずっと胸に残っている作品。

喪失感とともに、大人になってゆく主人公に愛おしさを感じました。

 

「刑事マルティン・ベック 消えた消防車」…ラーソン活躍回、各キャラの個性際立つシリーズ5作目

厳寒のストックホルム。警察が監視中のアパートが突如、爆発炎上した。

任務についていたラーソン警部補は住人を救うべく孤軍奮闘するが、出動したはずの消防車が一向に到着しない。

焼死者の中にはある事件の容疑者が含まれていた…

群像劇的に様々なキャラクターが登場する刑事マルティン・ベックシリーズ。

今作は際立って主人公の影が薄く、他キャラクターの活躍が楽しい回になっていました。

 

◇◇◇

大火事から始まる動的なオープニング。

大人しめ&内省的なベックとは対照的な、いかめしいラーソン警部補が大活躍をみせます。

自分の勤務時間帯じゃなかったけど、見張についてる若い刑事が弛んだ仕事してるのをみて一喝。休憩して整えてこいと言って自分が番を代わる…

威圧的で癖が強いけど、きっちり仕事するところはなんやかんやで素敵。

異常事態でも躊躇いなく最適解な行動をとり、次々に住人を救助。

フィジカル面の強さといい、判断力の速さといい、ベックやコルベリにはないものを持っている優秀な警察官として描かれていました。

 

ラーソンは来るはずだった消防車が到着しなかったことに疑問を抱きます。

出火元に住んでいた男の遺体はなぜか背中部分だけ酷く損傷しており、さらに死因が焼死ではなく殺される前に自殺していたことが発覚。

現場は混乱を極めます…

 

通常のミステリだと、犯人はアパートの住人の中の誰かで、意図した1人を消すために大火事を起こした…そして消防車が来ないように事前に細工して入念な計画を練っていた…なーんてなりそうですが、このシリーズはもっと渋くて地味(笑)。

しかしそれがまたかえって新鮮で今回もおおーっとなる結末でありました。

 

(ここから事件の真相ネタバレ)

出火元の部屋の男・マルムは組織犯罪に関与していて、上層部に逆らったため消されることに…

プロの殺し屋が時限爆弾を標的のベッドに仕込んだものの、無関係な人間は極力巻き込みたくないため事前に消防署に通報。

しかし土地勘がなく全く別の地域の消防署に通報してしまったため消防車は来なかったのでした…

 

殺し屋さんが随分律儀で、平気で無関係な人を巻き添えにした前作の犯人と比べると良心的に思えてしまいます(笑)。

けれど細やかな手がかりから犯人を掴んでいく過程は相変わらずよく出来ていて面白かったです。

盗難車を売って生活していた被害者の男はクズ野郎には違いないのですが、仲介者に利益を多く持っていかれて薄利多売の切迫した生活。

今時の闇バイトみたいなもんでしょうか…

独立して自分たちだけでやろうと上に楯突いた途端仲間が消されて動揺。

小心者で実はヒットマンが手を下す前に自殺していた…

一度ハマったら足を洗えないドン底の人間の煮詰まった感じは伝わってきて、少し気の毒にも思えてしまいました。

 

捜査チームのメンバーには今回新キャラとしてベニー・スカッケという若手刑事が登場。

警察署長になった自分を夢想する野心溢れる若者ですが、地道な捜査&泥臭い努力を怠らない真面目な青年で応援したくなってしまいました。

仕事に打ち込むあまり結婚予定の彼女との生活が早くもギクシャクしはじめているのは不穏ですが、粘り強い調査で情報を引き出すところはアッパレ。

それにしてもステンストルムのことがあったのにまた若手虐めをしているコルベリ、碌な人間じゃねえ…

 

もう1人今回お手柄だったのは、マルメ警察のモンソン。

前作「笑う警官」では慣れない都会で奮闘しているのに、ベックたちからは邪険にされていた捜査官。

火災事件と繋がりのある人物の遺体がマルメで発見され、地元で単独捜査に当たりますが、最後には手柄をほぼ全て持っていくという活躍ぶり。

小さな田舎町ならではの捜査方法、コネクションの強さがすごい。

のんびりした人かと思いきや、被害者の愛人女性と懇ろになって情報を上手く聞き出すの、かなりやり手でびっくり。

妻子がいるけど週末婚という家庭。平日には妻が恋しくなるけど日曜の終わりには鬱陶しくなる…とか言いたい放題(笑)。

特殊な家族形態ですが、ベックよりも上手くバランスをとって人生楽しんでる感じがしました。

 

ふりかえってみればチンピラがプロの殺し屋にやられたというだけの地味な真相ですが、盗難車をこぞって売る国際犯罪集団…グローバル化とともにこういう悪党集団も幅を利かせてきたのかな…と世情を感じさせる内容。

「アマチュアの事件の方が追いやすい。プロの犯行になるとお手上げ」というメランダーの言葉も何だかリアルで、最終巻のタイトルが「テロリスト」なのに今から不安を憶えてしまいます…

 

色んなキャラの私生活が垣間みえたけど、やっぱり今回1番カッコよかったのはラーソン…!!

43歳独身。家には仕事を絶対に持ち込まず、怪奇小説を読むのが趣味。

荒くれ者かと思いきや出自は御坊ちゃまで高いパジャマを着て寝る。裕福でお高くとまった実家とは折り合いが悪く、従軍し警察官に…

脳筋野郎かと思いきや、静かな生活を好む人で、実は育ちがいい…この5巻ではギャップ萌えの塊みたいなキャラクターになってました。

穏やかな性格のルンと仲がよく、普段おとなしいルンがラーソンを侮辱したコルベリに怒るの、激萌えすぎる…

入院中着替え持ってきてくれてお花も用意してくれるルンには「奥さんかっ!!」とツッコまずにはいられず、腐女子人気もかっさらっていきそうなラーソン。

冒頭の場面…見張の最中、寒さを緩和するため身体を前後左右に動かし指をグーパーするラーソンの姿。

大の男が1人せっせと動いてる光景を想像するとちょっぴり滑稽なのですが、辛い&しんどい気持ちを押し殺して最適解な行動を選びとることができる人間の献身的な姿…そのストイックさ、普段とのギャップに胸を撃ち抜かれました。

 

なんと角川文庫の新訳シリーズはこの5巻までで打ち切り。

巻末のコメントみると売れ行きが良くなかったみたいでやむなく…ということだったようですが…それにしてもえらい中途半端で大変残念であります。

何かの折に再始動してくれることを願いつつ、次巻からは旧訳バージョンで追ってみようと思います。

 

「ナイトメア」…病みまくりムードが堪らない80年代ホラー

今期のホラーマニアックスシリーズ、知らない作品が多いのですが、2月に買った「キルボット」が大当たり。

もう1つジャケ写がすごーく気になってしまったのがあって…

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少年が首チョンパしてる刺激的すぎるジャケット。

監督はイタリア出身のロマノ・スカヴォリーニ。

特殊効果はトム・サヴィーニが関わったとか関わってないとか一悶着あった作品のようで…

冒頭からのショックシーンが壮絶ですが、全体的にはじっとりしたムード。

監督がイタリア人だからなのか撮る画がいちいち面白く、ロケーションがとても魅力的。

陰鬱家族ドラマ、サイコパス少年ものの要素が強く、静かな病みまくりムードが堪りませんでした。

 

◇◇◇

深夜ジョージが目を覚ますとベッドは血の海。赤く染まる足元には女の生首が転がる。

彼は幼少期に両親の痴態を目撃し、衝動的に2人を斧で切り殺して以来、毎夜悪夢に取り憑かれ、いつしか再び殺人妄想に取り憑かれていく…

 

冒頭からクライマックス…!!

ゴッドファーザーの馬の首みたいやな…と思いつつ、生首の出来栄えといい、ギョッとするシーンで一気に人を惹きつけようとする80年代らしい大盤振る舞い。

SMプレイに耽るパパとママをいきなり惨殺したジョージくん…らしいのですが、自分は解説みるまでは父親が娼婦と遊んでいたのだとばかり思っていました。

台詞も説明も一切なく進んでいくクールなスタイル。(でもちょっぴり分かりにくい)

 

身につけている蝶ネクタイが醸し出す謎の坊ちゃんオーラ。

日頃は厳しく躾けられていて、自分が崇拝していた厳格な両親の醜態を目にして変な性癖に目覚めてしまったのでしょうか…そこはかとない闇を感じさせるジョージくん。

長らく精神病棟に入院し実験的治療を受けていましたが、ある日突然脱走。

主治医は「投薬が上手く行ってるのでヨシ!」と放ったらかしに…医者のおっさんが1番おっかない(笑)。

 

病院を出た大人ジョージがほっつき歩く80年代ニューヨークの景色の賑やかなこと。

ポルノショップや映画館が軒を連ねるストリート。

覗き小屋を訪れるジョージですが、シャッター付きブースで囲われた円形の部屋でダンスするストリッパー…何の映画か一瞬忘れる位この景色が凄かった(笑)。

ガラの悪い風俗街の雰囲気は「バスケットケース」にも似ているかも…汚いけれど活気に満ちています。

 

その後ジョージは何かに駆られるようにフロリダへ向かい、とある家族を遠くから監視しはじめます。

その一家はシングルマザーが3人の子供を育てている家庭で、お母さんは悪戯好きの末息子・CJに手を焼いていました。

殺人鬼を装ってベビーシッターを襲ったり、刺されたふりをして血まみれ姿になり家族を心配させたり…度を越した悪戯にお母さんは辟易。

CJは本当に救いようのない悪い子供なのか…それともお母さんの気を引こうとしているだけで、本当は愛に飢えているのか…

子供放ったらかしで、毛むくじゃらの男とイチャイチャしてるオカンもなかなかヒステリックで、少年の孤独感みたいなものも同時に胸に迫って来ます。

 

ロケ地の住居も大変いい雰囲気。

部屋数は多そうな大きな家なのに、手狭な感じがして、日本家屋にも似ていて親近感。

散らかっているけどお母さんの部屋だけボタニカル柄で綺麗に統一。でもこれが絶妙に古臭くて…画面から漂う生活感に惹かれました。

 

ジョージが道すがら惨殺した女性と少年の死体が発見されると、少年の友達だったCJがやったのでは…と疑いの目が向けられてしまいます。

不審者・ジョージの接近に唯一気付いたものの、狼少年と化したCJのことを誰も信じてくれません。

孤立し危うさを漂わせた少年と、成長した大人殺人鬼・ジョージと…2人の姿がオーバーラップしていくのが何だか文学的。

家族とは理解しあえない存在…そんな寂寞感が全編漂っています。

 

(ここからネタバレ)

ある日お母さんは恋人とパーティーにお出かけ。

再びベビーシッターが子供たちの面倒を見ることになりますが、やって来た恋人とイチャイチャしはじめる子守のお姉さん。

皆子供より自分の肉欲が優先…!!

そこへジョージがやって来て、シッターカップルを惨殺。

目撃者となったCJにも襲いかかります。

しかし自宅に隠されていた拳銃を取り出し見事に殺人鬼を銃撃するCJ。

何度でも立ち上がってくるジョージが理不尽すぎてまるで悪夢…

タイトルが「ナイトメア」だし、大人ジョージはCJの妄想(=願望)だったとかそんなオチになるのかしら…と思ったら、しっかり現実路線で最後にとんでもないどんでん返しが…

警察がやって来て死んだ犯人・ジョージの顔を母親が一瞥すると「夫だわ!」と叫びます。

なんとCJとジョージは血の繋がった親子だったというオチ。

廻り続ける親殺しの宿命…CJが悪い子だったのはお父さんも異常だったからなんだ…「血は争えない」的バッドエンドがストレートに重たくのしかかりました。

 

最後のCJの笑顔が取ってつけたようなのと、日にちでチャプター分けしてる演出に必然性を感じなかったのと…色々粗も感じましたが、何パターンもエンディングを考えてたとは思えない位、綺麗なオチに思えました。

台詞がほとんどないのに圧倒的存在感。大人ジョージの俳優さんがハマり役で病みオーラが半端なかったです。

 

画質はイマイチなもののBlu-rayは特典が充実。トム・サヴィーニのインタビューも収録されていて噂の真相が明らかに…

制作陣が思い思いに昔を振り返るトークも面白く、低予算ゆえありものを総動員させたような、この年代のホラー製作の裏話が楽しかったです。

ジャケ写のイメージより自分的には大人しめの作品でしたが、陰鬱家族ドラマ、断ち切れないバッドエンドループ、怖い子供…と王道ホラー盛り盛りな内容。

80年代ホラーの雰囲気でありつつ、あまりアメリカ映画っぽくない独特の空気が漂っていて、とても好みの作品でありました。

 

「アライバル2」…チャーリー・シーン不在、ショボさに絶句のトンデモ続編

チャーリー・シーン主演、「逃亡者」「ワーロック」のデヴィッド・トゥーヒー監督&脚本の96年のSF映画「アライバル/侵略者」。

dounagadachs.hatenablog.com

以前はよくテレビ放映もされていたように思いますが、今や知る人ぞ知る作品でしょうか…

地球温暖化という題材をいち早く取り入れたサスペンスフルな脚本、汗だく&ガンギマリの眼で全力疾走するチャーリー・シーン

「V ビジター」「ゼイリブ」などと同じ〝静かなる侵略系SF〟ですが、自分はこの作品を先に観たというのもあってか強く印象に残っていて、光るB級映画でありました。

 

配信は各所でされているようなものの、長らく古ーいDVDしかリリースされていなかった本作。

なぜか今月Blu-rayが発売されるようで…

祝「アライバル」初Blu-ray化…!!ということで、今回は目も当てられないクソ続編「アライバル2」を取り上げてみたいと思います。

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前作から2年後…エイリアンの存在を全世界に知らしめた勇気ある科学者・ゼイン(チャーリー・シーン)が北極で謎の死を遂げました。

カナダ宇宙局に勤める弟のジャックは兄の死をニュースで知りますが、その後謎の小包が彼の下に届きます。

そこにはゼインが命懸けで突き止めた侵略を明らかにする証拠が入っていました。

他にも小包を受け取ったメンバーがいて、ゼインの元同僚、信頼できるジャーナリストなどが落ち合うことに…

ところが既にエイリアンと入れ替わっていた者がいて現場は大混乱。

エイリアンの宇宙船とアクセスできる謎の物体を手に入れたジャックは、ジャーナリストのブリジットと共に逃避行を開始します…

 

ビデオムービーの本作。

チャーリー・シーンは不在、監督脚本も全く別の人間と相当低予算であることが伺えます。

前作のキャラが冒頭であっさり死を遂げている「エイリアン3」みたいなパターンからして賛否両論。

優秀な兄にコンプレックスを抱いていた弟が主人公…というところまではいいものの、如何せんキャラに魅力がない…

「異星人の侵略とか俺関係ないし」と探究心ゼロで自分第一、怒りの沸点が低くすぐど怒鳴る…日頃から遅刻魔というのもいただけません。

迫力たっぷりのチャーリー・シーンと比べると主演のイケメンも薄味に感じてしまいます。

 

ドラマ内容も空っぽで、拾った謎アイテムを持ってあっちへこっちへ行くだけのストーリー。

マスコミや警察に突撃すればと思うけど、「奴らが既に潜んでいるかも」とどこにも行かないまま。

やれ現金がない、クレジットカードが止められたなど、どうでもいいやり取りが延々と続き、何度も睡魔が襲います。

 

前作の何が面白かったかと言うと、やはり〝疑心暗鬼のサスペンス展開〟。

上司の対応に不信感を抱いたり、恋人の挙動が怪しくみえたり…

本作では手を組む女性ジャーナリストがバディとなるものの、明らかにシロの描写しかないので緊迫感ゼロ。

言い寄られて突然ベッドインしたご近所さんの女性の方が怪しいのは一目瞭然。

もっと「一体どっちが味方なんだー!?」的展開をみせて欲しかったように思います。

 

やたらフィーチャーされるのは前作にも出てきた〝全てを飲み込む球体〟。

なんか「ヘルレイザー」みたいな、「ファンタズム」みたいな謎アイテムで、正直前作でも浮いていたような気がしなくもないですが、エイリアンが証拠隠滅のために使っていたと思われるアイテム。

「吸い込まれるー」のシーンも一段とショボくなっていてびっくり。

90年代のCGって今観ると決していい出来ではないものの、これまで出来なかったことが出来るようになった、未知のワクワク感みたいなものが漂っているものもあると思うのですが、ハリボテの絵を描いた方がマシだったんじゃないかと疑うレベル。

アライバル名物!?膝カックンで真逆に歩行する宇宙人の姿もほんの僅かしか登場せず、せっかくのここぞというシーンで「お前普通に走るんかい!!」となって困惑(笑)。

 

唯一面白くなりそうな気配があったのは「ゼインの小包を受け取った者たちが集う」序盤の場面でしょうか。

エイリアンが寒さに弱いからと巨大冷蔵庫が集合場所になるものの、分厚くコートを着込んだ者、寒さを訴える者などがいて、皆の白い息がハアハア。

物体X的空気が流れて「こういうのでいいんだよ!!」となるものの、あっさりこのシーンは終わってしまって残念。

クライマックスは機械に強いという主人公が宇宙人の装置をちゃちゃっと操作して反撃。

どうでもいいけどエイリアンの使うメカが普通にノート型PCの形してるのには笑いました。

 

前作もツッコミどころの多いB級映画ではあったけど、お話がよく出来てたんだなーと感心。

そしてやっぱりチャーリー・シーンは迫力あるいい俳優だったんだなーとしみじみ感じさせられます。

テラフォーミングのアイデアがユニークだったし、1作目の終わり方を考えてももっといい続編ができたんじゃないかなーと思うだけに余計に残念。

チャーリー・シーンが元気だったら、正当な続編が来ないかなあ…なーんて…

前作の良さが沁みるタイプの、ダメダメ続編でありました。

 

「誕生日はもう来ない」…まさかの大どんでん返し…!!ジャーロ風味な80年代スラッシャー映画

ラストが衝撃的なホラーとして有名な作品。

タイトルだけは知っていて気になっていたのを初鑑賞してみました。

誕生日はもう来ない [DVD]

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  • メリッサ・スー・アンダーソン
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ジャケットはチープな感じですが、監督は「ナバロンの要塞」「恐怖の岬」のJ・リー・トンプソン

主演は「大草原の小さな家」でお姉ちゃん・メアリーを演じていたメリッサ・スー・アンダーソン。

大どんでん返しに賛否両論あるようですが、イタリアのホラーをみる人間には矛盾点は大きな減点材料にはならない(笑)。

むしろ凝ってよく作られたホラーだなーと感心、ジャーロっぽい雰囲気で個人的には大変好みの作品でした。

 

◇◇◇

バージニアは名門私立高校の優等生グループ〝トップテン〟の1人。

4年前のある事故によって、前後の記憶を失い、時々恐ろしい幻覚症状を起こすようになっていた。

そんなある日グループのメンバーが次々に失踪する事件が起きる…

 

〝トップテン〟とやらのメンバーが嫌な奴らばかりでドン引き。

気に入らない奴のビールにネズミを仕込む、跳ね橋を激走してチキンレースする…やりたい放題のDQN高校生たち。

実家は太いお坊ちゃま&お嬢様たちのようで、ホラー映画で死ぬ若者としてはこれ以上ないという面子であります。

 

冒頭真っ先に死ぬのは女学生バーナデット。剃刀で喉スパーッが勢いよく、犯人の黒い革手袋がアルジェントっぽい。

2人目の犠牲者はフランス大使の息子・エチエンヌ。バイクのメンテ中に何者かが彼のマフラーをタイヤに巻き込ませて死亡。

3人目の犠牲者は、グレッグ。筋トレでダンベルをあげている最中に股間に重しを置かれ絶叫。持ち上げられなくなったダンベルが首に直撃して死亡…

殺人シーンはそれぞれユニークで面白いです。

 

なぜか死体が発見されず行方不明扱いになる犠牲者たち。

合間に主人公の回想が挟まれますが、4年前に母親とドライブ中に事故にあったバージニアは現在父親と2人暮らし。

特殊な手術をして事故から回復したものの、記憶障害が残ってしまいました。

亡くなった母親は貧しい家の生まれだったらしく、トップテンをはじめとする町の人に見下されていたようです。

 

事故のせいで分裂症気味になった主人公が犯人なのか…亡くなったお母さんの怨念が取り憑いたのか…

そんな王道ストーリーを予想していたら案の定、第4の犠牲者・アルフレッドがバージニアに刺されて殺されてしまいます。

第5の犠牲者・スティーブもバージニアに手料理を振舞われている最中、バーベキュー串を口にぶっ刺されて死亡。

さらに自宅の浴室で友人アンの死体を発見したバージニアは自分が殺したのではないかと精神科医に相談しますが、医者は「そんな死体はどこにもないよ」と彼女をなだめます。

全てはバージニアの妄想なのか…誰かの悪戯なのか…

そんな中バージニアの18歳の誕生日がやって来ました…

 

(以下ネタバレ)

娘のあとを追った父親が離れの家を訪れると、殺した者たちの死体を並べて〝お誕生日会〟をするバージニアの姿が…

殺された人間の死体が発見されないのが謎でしたが、全てはこの光景のために…狂気が炸裂したグロテスクな景色が壮絶です。
 
バージニアは驚いた父親も刺殺。

「今度はあんたの番よ。私の可哀想な妹よ…」と不可解な台詞を吐いたバージニアが、死体だと思われていた1人の身を起こすと何と彼女もバージニア…??

バージニアが偽バージニアの顔を引っ掴むと、マスクが剥がれ落ち、中から出てきたのは友人のアン。

なんとバージニアに罪を着せるため、アンがバージニアの肉マスクを被ってなりすまし、酷い殺人を繰り返していたのでした。

 

「お前はイーサン・ハントかっ!!」とツッコミたくなること必至のびっくり展開。

実は2人は腹違いの姉妹で、その昔アンの父親はバージニアの母親と浮気していました。

愛人とその娘のせいで、自分の母親が家を出て行ったのだと憎しみを募らせていたアンが凶行に…

バージニアに薬品を嗅がせて眠らせ、犯行事に入れ替わっていたことが説明されるも、かなり難易度高そう。

死体処理も早すぎるし、声とか体格とか誰か気付くんじゃないかなーと現実的に考えるとかなりの無理ゲー。

でも犯人の動機には説得力を感じて、陰鬱家族ドラマがビンビンに感じられるストーリーに自分は魅力を感じました。

愛情深そうなお父さんとは実は血の繋がりがなかったというのにもびっくりです。

 

貧しい家の生まれで金持ちの愛人になったけど、男から別れを突きつけらて1人バージニアを出産。

その後また金持ちの男と今度は子連れで再婚し、見返してやろうとわざわざ同じ街に舞い戻ってくる。

「娘がイケてるグループの友達とお誕生日会を開くまでになったわ…!!ついに私も勝ち組よ…!!」みたいな思考になってるオカンが闇深すぎる…

しかしアンが嫌がらせでバージニアのお誕生日会にぶつけて自分もパーティーを開いたため、皆そっちに行ってしまい、誰も来てくれなかった4年前のお誕生日会。

いたたまれない空気の中、ヤケ酒あおるオカンと2人きりとか主人公が気の毒でたまりません。

 

アンは最後にバージニアも殺してすべての罪をなすりつけようと計画していましたが、返り討ちにあって死亡。

しかしそこに偶然警察がやって来て、バージニアがアンを刺す場面を目撃。

誤解されたまま全部彼女の犯行ということになってしまいそう…

家族も友人も全てを失った主人公の姿とともに流れてくる「ハッピーバースデートゥーミー」の歌声…容赦ない陰鬱エンドが胸にどっしり来ました。


冷静に考えるとアンの復讐劇は回りくどすぎるし、荒唐無稽であることは確か。

思わせぶりで結局何だったのかとなる場面も多数存在します。  

特に剥製作りが趣味のアルフレッドの不気味さ(笑)。

行方不明の友人の死体の模型をつくるって悪趣味すぎてドン引きです。 

実はこれがアンの差金で、肉マスクを作ってもらっていた協力者だった…とか、浴室でアンが死んでいるシーンが主人公の幻覚でなくアルフレッドに作ってもらったダミーの死体だった…とかそういう設定があったら納得したかも…

この作品、ディテールをもう少し丁寧に活かせていたら、もっとかなり化けたような気がします。

この他にも、グループの一員・アメリアが別棟の前でプレゼント持って震えてるシーンが謎だったり、本筋に関係ないヒロインの手術シーンにやたら力が入っていてグロかったり…

思わせぶりで伏線丸投げなところ、ラストにどどーん!!と唐突に真相が明らかになるところなど、良くも悪くもイタリアのジャーロに近しい印象。

けれど人間の心の闇、陰鬱な家族関係をじっとり描いている独特の暗さもジャーロっぽくて、自分はとても楽しんで観ることができました。

 

俳優陣は主演のメアリー・スー・アンダーソンはもちろん、他のメンバーも〝鼻持ちならない金持ち高校生〟の嫌なところが出ていて、皆良かったように思います。

主人公がこのグループにずっと馴染んでなかった感じがして、どうにも切なかったですね…

 

日本版のDVDは冒頭の曲がファンキーな洋楽になっていて、初見の自分は80年代スラッシャー映画らしいと違和感を感じずに観れてしまったのですが、元々はもっと雰囲気のある曲だったよう…ちゃんとしたバージョンがリリースされるといいですね。

海外版のジャケ写も大概だけどこっちの方が好きかも(笑)。

 

素晴らしくホラーしてるラストの画。あれだけでも一見の価値ありの作品だと思いました。