真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女まみれ 本番はいります」(2023/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:大久保礼司/照明:ジョニー行方/録音:江原拓也/撮影助手:今野ソフィアン/ポスター:北村純一/助監督:郡司博史/アクション指導:中野剣友会/ガン・エフェクト:木村政人/録音:西山秀明 ㈲スノビッシュ/編集:高円寺・編集スタジオ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:伊東紅蘭・岩沢香代・白鳥すわん・佐々木咲和・長谷川千紗・中村京子・弘前綾香・末田スエ子・紅子・森羅万象・野間清史・市川洋・郡司博史・永井裕久・安藤ヒロキオ・フランキー岡村・なめ茸鶴生・マサトキムラ・松本モト松・銀次郎・橘秀樹・内田もん吉・川上貴史・土門丈・星野周平)。出演者中末田スエ子と紅子、郡司博史と永井裕久、なめ茸鶴生から松本モト松に、内田もん吉以降は本篇クレジットのみ。しかし何といふか、男優部は何でこんなランダムなビリングなんだ。
 回転式を撃つ安藤ヒロキオで上の句、ポンプアクションの伊東紅蘭で下の句。手ぶらの森羅万象も加はつて、全部入れるタイトル開巻。プリミティブな屋号の、便利屋「何でも屋」。映画学校の脚本家コースに通ふ、岡野弘美(白鳥)が執筆中のノートに夢中で出もしない、営業用のスマホを姉の裕子(伊東)が取る。自宅兼事務所なら仕方ないのか、「何でも屋」は裕子が一人で切り盛り。とはいへ妹よ、電話くらゐ出ても別に罰は当たらないだろ。とまれ今回受けた仕事は、鮫島邸の水詰り修理。仕事を終へた裕子が辞すや、夫人の明美(佐々木)は連れ込んでゐた夫の会社の社員で、名札のぞんざいな肩書が“現場主任”の間男・山下治(フランキー)と早速オッ始める。それ、名刺にもさう書いてあるのかな。兎も角事後、明美の皮算用を違へ、鮫島(森羅)がゴルフから予想外に早く帰宅する修羅場の危機を、クスリとも面白くないドタバタでどさくさ切り抜けるのは、大敬オフィス作の通常運行、茶を濁すともいふ。
 一方制作会社の、映画工房「岡野プロジェクト」。配役残り、登場順に銀次郎と野間清史、岩沢香代は、姉妹の父親で映画監督の武男と、大赤字を叩き出した前作に絡んだ未払ひ金を取り立てに来た山川に、岡野プロ経理担当の緋紗子。国沢実2020年第一作「ピンク・ゾーン3 ダッチワイフ慕情」(脚本:切通理作/主演:佐倉絆)以来、久々に飛び込んで来た橘秀樹は、オスカル的なコスプレで飲み放題の看板を持つ裕子と、繁華街にて再会する元カレのショージ、現職はクラブのボーイ。この二人、裕子は今も所属する同じ劇団の俳優部同士といふ仲。安藤ヒロキオは居酒屋以外にレストラン「La Vie」も経営する、飲食系クライアントの中間管理職・大山。も、本来は映画畑の俳優部なんだなこれが。小関組から初外征―その後竹洞哲也や、加藤義一の薔薇族が続く―の市川洋は、弘美の彼氏・健二、この人は演出部。大山から気に入られたのか、裕子がその日はメイド服で「La Vie」駐車場の看板持ち。長谷川千紗はスマホをヒッたくつた暴漢(判らん)を裕子が追跡、格闘の末奪還してあげる映画プロデューサーの高見、下の名前は多分アリサ。大山とは旧知、また狭い世間だな。忘れてた、緋紗子は鮫島のダブル不倫相手で、俳優部廃業後酒に浸つてゐたホステス時代、鮫島との出会ひで救はれた縁。話を戻して、裕子が高見に自分の素性を語る際、格闘技の稽古相手はもしかして清水大敬?弘前綾香は鮫島邸の家政婦、AV部ながら脱ぎこそしないものの、ミニスカの股間を里中智のアンダースローばりの低さから狙はれる。大久保礼司―と宮原かおり―の地を這ふカメラに、何となく安らぎも覚えるのは量産型娯楽映画のさゝやかな醍醐味。手放さない煙管が妖怪感を加速する、中村京子は山川の妻・サユリ。中村京子を介錯するさせられる、野間清史が何気に男―優部としての格―を上げる。撮影初日前夜、武男が語りかける亡妻の遺影は、もう一度もしかしてマサちやん?トンチキな名義の目立つ本クレのみ隊は、主に岡野組のその他皆さん。その中でタイトルバックが教へて呉れるのが、末田スエ子が多分制作部辺りで、紅子が俳優部。何れかは、裕子の撒くチラシを受け取つて呉れる、往来の女も兼ねてゐる筈。あと富野系の、飲食社長は誰なんだろ。
 前回編み出した素敵な造語を、大蔵が早速使つてゐないダイウッド新作。現時点で、誰も継戦してゐない女優部頭四人が全員映画初出演。エクセスも魂消る果敢な布陣―伊東紅蘭と岩沢香代にはVシネ出演歴あり―に畏れ入りつつ、清水大敬の場合大して関係ないやうに思へなくもない。
 本クレのみ隊も含めるとなほさら、登場人口の大半が映画のスタッフか俳優部といふ歪んだ、もとい偏つた世界観の中。「映画は俺の命なんだ」、とか臆面もなく豪語してのける香ばしい親爺に新作を撮らせようと、健気な孝行娘を中心に一同が奮闘する。挙句ホセ・メンドーサと15Rを戦ひでもしたかの如く、撮了と同時に岡野が情死ならぬジョー死を遂げると、来た日には。まるで清水大敬が己を鼓舞か慰撫するために、書いたやうな物語ではある。となると良くて苦笑混りに微笑ましい、悪くすると憤懣やるかたなく、なりかねないところが。如何なる途轍もない横紙であらうと、兎に角破り抜いてみせる箍の外れた圧と熱量が、この御仁の持味、とはいへ。封切当時、清大御齢七十四歳。流石に、もしくは直截に年波が寄つて来たのか。自らのオルター・エゴともいふべき武男役を、銀次郎に譲り演出に専念する。遮二無二な猪突猛進を以て宗とする、平素のドラマツルギーといふよりも寧ろファイト・スタイルからは全くらしからぬ、引き技が逆の意味で見事に諸刃の剣。精々声とガタイがデカい程度で、痛快を痛快たらしめ損なふ銀次郎の役不足にも足を引かれるか火に油を注がれ、無理を通しきれてゐない印象が最も強い。脚本は次女で、主演が長女。その他のキャストも純然たる素人の鮫島を筆頭に、何故か山川まで紛れ込む身内と身近で固め。家内制手工業の様相をも呈する岡野組新作が、クランク・インするのが四十五分前、そもそも早すぎる。そして岡野が稚拙、もとい壮絶な戦死を遂げるのも大体十分後。以降の十五分、睦事をそれなりに畳み込みこそすれ、各々の他愛ない行く末を類型的に描く、冗長なエピローグが割と画期的にダレてしまふのが致命傷。捧げたつもりが確かに一定以上は実際捧げてゐるのであらう、清水大敬が自身の映画愛を豪快に叫ばうとしてみせた、にしては。声が掠れて満足に叫べてゐないやうな、些か心寂しい一作。暫しドンパチと大立回りに尺を割く、撮影現場風景。無防備極まりない銃撃戦なり、ホールドオープンした銃を安藤ヒロキオに平然と構へさせる、凡そ現代映画とは思ひ難いノスタルジックな底の抜け具合は、矢張り清水大敬ならではであるけれど。女の裸的にも、劇中現在時制で固定されたパートナーに必ずしも恵まれなかつた、主演女優に実は弱さも否めないのが如何せん苦しい。三番手の、絵に描いたみたいに弾むプッリプリの美尻で琴線を最も激弾きしつつ、ガチの絡みは2019年第三作「おねだり、たちまち、どスケベ三昧」(主演:愛原れの/犠牲者:折笠慎也)ぶりで、二作前の「未亡人下宿?その4 今昔タマタマ数へ歌」(2020/主演:愛原れの)でも乳は無駄に放り出してゐる。それでも、あるいはまだしも。爆乳は未だ保たれてゐると尊ぶのが正解なのか、こちらは封切当時御齢六十一歳の、中村京子の凄惨な濡れ場を二度に亘り放り込んでのけるに至つては、ピンク云々の領域を超えた、一種の挑戦の趣すら漂ひ始める。チャレンジて、何に。シークエンスの醜悪さか、それとも観客の忍耐力か。


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