「新未亡人下宿 奥の間貸します」(昭和50/製作:ワタナベ・プロダクション/提供:日活株式会社/監督:山本晋也/脚本:高橋文造/制作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/効果:秋山サウンド・プロ/美術:日本芸能美術/小道具:高津映画/衣裳:京都衣裳/タイトル:長谷川・プロ/記録:前田侑子/製作主任:城英夫/現像:東洋現像所/録音:大久保スタジオ/協力:ホテル 目黒エンペラー TEL 03(494)1211・銀座 ラブショップ アラジン TEL 03(567)3623/出演:青葉純、南ゆき、峰瀬里加、花房里香、千月のり子、久保新二、鯉のぼる、堺勝朗、松浦康、鏡勘平、たこ八郎、滝沢秋弘、土羅吉良、三篠敏雄、ミス・モンロー⦅特別出演⦆)。出演者中、たこ八郎がポスターには多胡八郎。同じく鯉のぼると鏡勘平に三篠敏雄、ミス・モンローは本篇クレジットのみ。チョイ役の鏡勘平と、最速で退場する三篠敏雄。カメオのミス・モンローはまだしも、鯉のぼるなんて久保新二に次ぐ、男優部で重要な役所なのに。代りといつては何だが、ポスターに谷良子とかいふjmdbにもnfajにも何も入つてゐない、謎の名前が載る正体不明のフリーダム。企画の渡辺忠はa.k.a.代々木忠で、提供に関しては実質エクセス。
卒業を言祝ぐ汚い手書の半紙と、祝席の御馳走から下にティルトした先で、女と男が致してゐる。下宿の大家・池田久子(青葉)が、日大を卒業する小田中(三條)に身を任せる卒業祝ひ正しく本番、黙れ。「花の精鋭」の起動とともにタイトル・イン、クレジットの途中で、荷物をまとめた小田中が「お世話になりました」と下宿を辞す。となると一部屋空くゆゑ、久子が玄関に貼り出す「奥の間貸します」に、山本晋也の監督クレジットを被せる何気に完成されたタイトルバック。
明けて馬鹿デカい高級車が、おそるおそる狭い路地に入つて来る。左三つ巴の家紋を一目見るなり緊張で強張つた制服警察官(たこ)が、あたかも脊髄で折り返して敬礼するレベルの名家・裏小路家。侍従の袋十太夫(堺)を文字通り従へ、御曹司の綾麿(鯉)が空いた奥の間に越す未亡人下宿に到着。「爺、こゝか?」、「むさいところぢやなう」と綾麿が綺麗な紋切型を切り出す、鯉のぼる第一声に対しての返答が「御意」。十太夫の所作口上が、ほとんど時代劇の領域に突入。それを堺勝朗が卒なくこなしてのける辺り、俳優部の分厚さがレガシー感を漂はせる。下宿の店子の、登場順に写真大―劇中用語ママ―五年の杉本(滝沢)と、東京農大の青木(土羅)。そして牢ならぬ下宿名主ぶる、国士舘八年!の尾崎(久保)は学習院政治学科三年の綾麿を、温かくか荒つぽく迎へる。後述するトルコの待合室に於いてすらマスをかく筋金入りの尾崎が、正しく息を吐くやうに常時チンコを触つてゐる造形が最高。カッコいゝとまでいふと言葉も過ぎるが、絶妙に画になるのが久保チンならではの天下御免。久子の風呂を覗き、オナニーをオッ始めた際「何時もこればつかりだもんなあ」と流石に自戒した尾崎が、続けて「偶には字も書かなきやなあ」と嘆息するのはダメ人間の格が違ふ、普通に声が出た。
配役残り、花房里香は綾麿を連れ尾崎と青木が下宿屋から直行する、パチンコ屋「毎日ホール」の看板娘・玉子。千月のり子が母親の菊江、青木とデフォルトでデキてゐる。松浦康は、久子を狙ひ度々池田家に出入りする肉屋の市川。今やググッてみたところでドーナツ盤くらゐしか出て来ない、多分本職のミス・モンローは杉本も揃つた三馬鹿が綾麿を「新宿ミカサ劇場」に連れて行く、ストリッパーのメリー青葉。「女の人と体験したい」といふ綾麿を、尾崎が今度は屋号不詳のトルコ風呂に。峰瀬里加が、綾麿を担当するみどり。待合室にて尾崎と驚きの対面を果たす、顔面の美しさが他と一線を画す南ゆきも嬢、源氏名はカンコ。未見ながら未亡人下宿前作に登場する近藤質店の娘・幸子で、親爺が博打で店を潰したため、泡風呂に沈んだ由。涙の顛末を乳も放り出し語り、オッパイは軽く触られこそすれ、結局プレイには至らず絡みはしない。ストリップ小屋での卒倒に続き、騎乗位で筆を下して貰つた久子の股の下、遂に綾麿が重篤な状態に、鏡勘平が下宿を訪れる往診医。その他見切れる頭数のうち、目立つのはエンディングの往来ロング。たこ巡査が更なる新たな店子を連れて来る、広島太郎の如く―全国区で通用するのか?―所持品の過剰な、尾崎曰くに“イージーライダーみてえ”な新参者は不明、といふか識別し得よう筈がない。そもそも遠く、煩瑣に飾り立てられた上、止(とゞ)めのグラサンまでかけてるし。
久保新二の代表作「未亡人下宿」シリーズ、買取系全十六作中(昭和49~59/久保新二は第十三作で降板)第四作にあたる山本晋也昭和50年第十四作。たゞし、nfajもプリントを持つてゐない以上、今後時空でも超えない限り触れること能ふまいが、五年先に立つ新東宝の元祖作が矢張り山本晋也の監督で存在する、現存しないだけで。山本晋也的には、当年驚く勿れ全十八作といふのが兎にも角にも凄まじい。こちらも記念すべき無印「痴漢電車」(主演:城山美紀)を八本目に撮つてゐるのと、「未亡人下宿」はこの年二本目といふ判り易いトピックに隠れ特徴的なのが、公開題に“ドキュメント”の文言を含む縛りでさへ、今でいふモキュメンタリーが半数の九作を占める愉快な底の抜け具合。往時“ドキュメント”の冠が斯くも集客力を有してゐたのか、それとも。詰まるところ多少大雑把な構成でもザクザク接いで行ける、方便的な特性が撮り散らかす、もとい量産型娯楽映画を実際量産するのに好都合であつたのか。
基本設定のイントロを主演女優と介錯するや、男優部睦事要員が潔く御役御免と捌けて行く。前述した堅実なアバンとタイトルバックまでの好調を、以降全篇を通して維持。まづ裸映画的には、シコシコマンたる尾崎のキャラクターで下駄を履き、ビリング頭第二戦を賄ふのと四番手唯一戦を妄想で処理する、ある意味臆面もない戦法が案外的確。五番手も、土羅吉良が問答無用で場数を稼ぐ。一方、高位に関らず共々一幕限りの二三番手に関しては、直截にいふと物足りなさも地味に否み難い反面、話を花房里香に戻すと、デリュージョンの中でもマスをかいてゐる尾崎の、体の上で裸の玉子がじたばたするカットは、超絶のイマジン具現化に吃驚した。これまでいふほど高く評価してゐた訳でも別にないけれど、山晋矢張り天才かも。
常習的に店子を喰ふ大家まで実は含め、猥雑な下宿屋に何かの間違ひかものの弾みか、やんごとなき血筋の若様が加はる。劇映画的にも、ど定番の下町騒動記を、終始小気味よく弾ける尾崎のワイルドビートで適宜加速。肉体関係は一切伴はないまゝに、綾麿と玉子が何時の間にか深い仲になつてゐたりする。藪から棒な悲恋物語の如何せん飛躍の高さは、矢継ぎ早に一幕一幕を連ね倒す、高速展開の勢ひに任せ捩じ伏せる。そして、尾崎を一旦奔走させたのち、「冗談ですよ」と床に臥せた綾麿が零す一筋の涙で、点火するエモーショナルなクライマックス。「卒業」のダスティン・ホフマンばりに、尾崎が上演中の小屋からメリー青葉をカッ浚ひ、杉本が大学の備品で照明を当て、青木はテレコで音楽担当。正真正銘余命幾許もない綾麿に、三馬鹿が奥の間でメリーさんの舞台を見させようと一肌二肌脱ぐ、今際の間際のマナ板は滂沱必至、涙腺を一撃で決壊させるエクストリーム名場面。豊潤な本篇をタイトルバックまでと要は挟み込む、未亡人下宿の変らない日常を次作に繋ぐ新人エンドが睛を入れ、画の竜は天に上る。勃たせ笑かせ、最後に泣かせ、改めて賑々しく締め括る、一旦。莫大な本数の十分の一も観るなり見てゐない癖に恐縮ではあれ、何処まで本気で撮つてゐるのか正直よく判らなかつた山本晋也の、裸と映画の二兎を見事仕留めてみせた当サイト選目下最高傑作。と、前のめつてはみた、ものの。山本晋也自体の評価とも微妙にリンクするのか、「未亡人下宿」が思ひのほか配信されてゐないのね。
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