孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

西アフリカ  軍事政権、米仏の撤退、露の影響拡大の流れ 「民主主義のとりで」を守ったセネガル

2024-04-25 23:29:04 | アフリカ

(アメリカ軍の駐留に抗議するニジェールの人々【4月23日 Newsweek】)

【マリ、ブルキナファソ、ニジェールで相次いだ仏軍撤退 ニジェールでは米軍も 強化される露との関係】
かつてフランスの植民地だった西アフリカでは、ここ数年軍事クーデターに伴う似たような流れが相次いで起きています。

イスラム過激派の台頭・治安悪化、軍事クーデターによる軍部の権力奪取、軍を駐留して過激派掃討にあたっていた旧宗主国フランスとの関係悪化、間隙を縫うように軍事政権との関係を強化する民間軍事会社ワグネルを先兵とするロシア、そして最終的には駐留フランス軍の撤退、ロシアの影響力の更なる拡大・・・・という流れです。

マリでは20年のクーデターで軍部が権力を握ると、旧宗主国フランスとの関係が悪化し、ワグネルと軍部の関係が強化されました。暫定軍事政権が反仏、反国連の動きを強めるなか、22年にはフランス軍が撤退。23年6月末には国連平和維持部隊(PKO)の撤退も決まりました。

ブルキナファソでも同様の流れで、2022年に軍事クーデターが起き、フランス軍は23年2月までに撤退しています。

ニジェールでは、23年7月のクーデターでフランス寄りの大統領が排除され、23年9月にマクロン大統領はフランス軍撤退を表明しています。

フランス軍撤退の空白を埋めているのは武器支援などで軍事政権との関係を強化するロシア(ワグネル解体後はロシアの直接介入)ですが、フランスに続きアメリカも撤退を余儀なくされ、ロシアの影響力は更に強化される見通しです。

****米軍がニジェールから撤収へ アフリカの過激派監視拠点 ロシアは軍事顧問派遣、強まる影響力****
西アフリカのニジェールに駐留する米軍が撤収する見通しとなった。米国務省が24日、米軍撤退についてニジェール側と協議すると発表した。周辺地域の情勢不安定化に拍車がかかるとの懸念が出ている。

ニジェールでは、マリやブルキナファソに続いて昨年7月、クーデターで軍部が実権を掌握した。3カ国はいずれもフランスの旧植民地で、ロシアの影響力浸透が目立っている。(中略)

ロイター通信によると、ニジェール軍部は今年3月に米軍との駐留協定を取り消す意向を示していた。旧宗主国フランスも軍を駐留させてきたが、クーデター後の昨年末に撤収した。

ニジェールは親欧米のバズム大統領がクーデターで排除されるまでは、米仏がアフリカのイスラム過激派の動向を監視する要衝だった。米軍は1000人超の要員を配置し、中部アガデス近郊の空軍基地で無人機(ドローン)による監視活動を行っている。

一方、ニジェールのメディアによると、露国防省が派遣した軍事顧問らが今月10日、現地に到着した。ニジェールの軍部と露政府は最近、関係強化を盛り込んだ協定を締結したとされ、ロシアがニジェールに対空ミサイルを供与するとの観測も出ている。

ロシアはかつて、民間軍事会社ワグネルを先兵にアフリカ諸国の取り込みを図り、偽情報を拡散して親露感情をあおってきたと指摘される。

ワグネルのトップ、プリゴジン氏は搭乗していたジェット機が墜落して昨年8月に死亡し、露政府が地盤を引き継いだ可能性がある。ニジェールは原子力発電で使用されるウランの世界屈指の生産国として知られる。

ロイターによると、アフリカ西部や中部ではこの4年間に8回のクーデターが起きた。ニジェールなどサハラ砂漠南縁部のサヘル地域では過激派が暗躍し、22年には過激派関連の事件で推定8000人が死亡した。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカーイダ系の組織が勢力を広げているもようだ。【4月25日 産経】
***********************

フランス軍の相次ぐ撤退の背景には、アフリカ諸国からすれば、フランスの植民地宗主国時代と同じような尊大な態度によって地元住民・軍部との間に軋轢があったともされていますが、西側的に見れば、人権や民主主義に関する価値観の違いもあってのことでしょう。

アメリカとの間でも似たような“上から目線”への反発という感情的対立もあるようです。
また、フランス・アメリカが撤退するなかで、ロシアだけでなく中国やイランの影もチラついているようです。

****ジェールで反米加速...接近するのは「あの国」*****
<米政府高官の「尊大な態度」を理由の1つに米軍の撤退を求める大規模な抗議デモが勃発>
西アフリカのニジェールの首都ニアメーで4月13日と14日、米軍の撤退を求める大規模な抗議デモが行われた。

昨年7月のクーデターで権力を掌握したニジェールの軍事政権は、3月にアメリカとの軍事協定破棄を表明。その理由の1つとして軍報道官は、ロシアやイランとの関係について自分たちをたしなめようとした米政府高官の「尊大な態度」を挙げていた。

ニジェールは昨年、旧宗主国フランスの大使と軍隊を追放し、EUとの不法移民対策の協定も破棄している。

イスラム過激派との戦いを続けるニジェールが距離を縮めているのがロシアだ。今回のデモ直前の10日には、昨年12月に合意した防衛協定に基づき、ロシアの対空防衛システムがニジェールに到着した。

アメリカにさらなる打撃を与えたのは、軍政トップが駐ニジェール中国大使と会談したこと。ニジェール指導部はイラン政府高官とも会合を重ねている。米国務省は19日、ついに米軍の撤退で同国と合意した。【4月23日 Newsweek】
*******************

3月には、ニジェールに埋蔵されているウランを巡り、軍事政権がイランによるアクセスの容認をひそかに検討しているとされたことで軍事政権とアメリカが対立、軍事政権はアメリカとの対テロ同盟を解消しています。

“米国のカート・キャンベル国務副長官が最近、ワシントンでニジェールの暫定首相と会談した際、ロシアへの接近や民政移管の道筋を示していないことに対し、「賛同できない」と伝えた。”【4月23日 読売】とのことですが、軍事政権からすれば、「余計なお世話だ。黙って支援してくれるロシアの方がずっとマシだ」ということなのでしょう。

【イスラム過激派の暗躍】
“ニジェールなどサハラ砂漠南縁部のサヘル地域では過激派が暗躍し、22年には過激派関連の事件で推定8000人が死亡”・・・ブルキナファソでは2月に村が襲撃されて170人が殺害されるような事態も。

****ブルキナファソ 3つの村が襲撃され約170人殺害 検察「処刑された」 イスラム過激派が関与か****
西アフリカのブルキナファソで、3つの村が襲撃され、およそ170人が殺害されました。イスラム過激派が関与した可能性があり、検察当局は、「処刑」されたとしています。

AFP通信などによりますと、ブルキナファソ北部のヤテンガ県で先月25日、3つの村が襲撃され、およそ170人が「処刑」されたと現地の検察当局が発表しました。目撃者の話では、死者のうち、数十人が女性や子どもだったということです。

村を襲撃した集団についてはわかっておらず、ブルキナファソの検察当局は、目撃情報を集めるなど捜査を進めています。

ブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返され、およそ2万人が死亡。200万人以上が避難を余儀なくされるなど治安の悪化が深刻になっています。【3月4日 日テレNEWS】
*********************

現地では欧米的な人権・民主主義を重視する価値観とは全く異なる現状もあります。ただ、だからといって人権侵害・非民主的政治を容認していいという話でもありませんが。

【セネガル 選挙による民主的な政権交代が実現 守られた「民主主義のとりで」】
西アフリカでマリ、ブルキナファソ、ニジェールでの上記のような軍事クーデター、ロシアとの接近、米仏との関係悪化という流れがあるなかで、同じ西アフリカのセネガルの大統領選挙が混乱し、実施が延期されるなど、西側が事態を憂慮していました。

結果的には、選挙による政権交代が実現し、西側からすれば“「民主主義のとりで」が守られた”ということにもなっています。

****延期されたセネガル大統領選で野党のファイ氏が当選、政権交代へ****
延期により混乱の中で3月24日に行われたセネガル大統領選で、野党の労働・論理・博愛のためのセネガル・アフリカ愛国党(PASTEF)候補のバシル・ジョマイ・ファイ氏が243万4,751票(得票率54.28%)を獲得し、当選した。

29日に憲法評議会の承認を受け、4月2日に大統領に就任した。12年間政権を握っていたマッキー・サル前大統領の後継者の与党連合(ベンノ・ボック・ヤーカール、BBY)候補のアマドゥ・バ氏の得票数は160万5,086票(得票率35.79%)で、ファイ氏に大きく引き離された。

今回の選挙を巡っては、2月3日にサル大統領(当時)が選挙の無期限延期を発表するなど、異例の事態に国内で緊張が高まり、国際社会も憂慮を示していたが、憲法評議会は同15日、無期限延期に関する大統領令は違憲との判断を示し、憲法にのっとって選挙日程を再調整するよう当局へ要請していた。

その後、サル氏のイニシアチブで開催された国民対話の結果、第1回投票を6月2日に実施し、サル氏の任期については憲法が定める4月2日から延長すると提言されたが、憲法評議会はこれらの提案を却下し、選挙を4月2日までに行うことと、大統領の任期延長は認められないことを通達した。

これを受け、サル氏と憲法評議会は3月24日に投票を実施することで合意し、今回の選挙実施に至った。

選挙に敗れたバ氏はファイ氏に電話で当選を祝福するとともに、セネガルの民主主義の成熟さと活力が世界に示されたと述べ、サル前大統領もまた、大統領選挙の円滑な運営を賞賛し、ファイ氏の当選を祝福した。

ファイ氏は投票翌日、記者会見で演説を行い、国内外の有権者の信頼に謝辞を述べるとともに、自由で民主的かつ透明性のある選挙を実現したサル前大統領の采配を祝した。

ファイ氏はまた、PASTEFの規約に基づき、2022年10月から務めていた党の事務総長職を辞任することを表明した。セネガルでは、大統領が党首を兼任することが長きにわたって批判されてきたことから、この決定は透明性と妥当性を示す決意として、権力集中との決別の象徴と受け止められている。

また、今後の政権運営では、誠実さと透明性をもって、あらゆるレベルで汚職と闘うことを約束するとともに、目下の課題として、(1)国民和解、(2)制度の再建、(3)生活費の大幅削減、(4)公共政策を巡る対話という取り組みを掲げた。(後略)【4月5日 JETRO】
***********************

マリ、ブルキナファソ、ニジェールで起きた流れのなかで、セネガルは西側の民主主義陣営にとって西アフリカにおける「民主主義のとりで」のような存在でもありましたが、当初の告示日前日だった2月3日にサル氏が選挙の「無期限延期」を宣言し、首都ダカールではデモ隊と治安部隊が衝突、政府は携帯電話の通信を遮断するなどの強硬措置をとるなど事態が混乱し、西側は成り行きを憂慮していました。

セネガルでなんとか民主的な政権交代が実現できたのは、憲法評議会の毅然とした対応があったからだと思われます。

【西アフリカなどのサブサハラとその他の地域の格差拡大 政情不安や気候変動】
しかし、西アフリカを含む、サハラ以南の「サブサハラ」諸国の経済状況は政情不安や気候変動の影響もあって芳しくありません。

****サハラ以南アフリカ、他地域と所得格差が拡大=IMF****
国際通貨基金(IMF)は19日、サブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカ地域が緩慢な経済回復を背景に、所得改善で他地域にさらに後れを取っていると指摘。地政学的状況や政情不安、気候変動によるリスクを挙げた。

IMFは地域経済見通しで「人口増加を考慮すると世界の他地域との所得格差は拡大している」とした。

他の途上国は2000年以降、一人当たりの実質所得が3倍以上に増えたが、サブサハラ地域の伸びは75%にとどまったとした。先進国は35%増えた。

ただ、IMFのアベベ・セラシー・アフリカ局長によると、足元では地域諸国の3分の2で改善ペースが加速するなど、前向きな動きもある。

IMFはまた、同地域の多くの諸国で経済環境が今年に入り緩和し始め、コートジボワール、ベナン、ケニアが外貨建て国債を発行したと指摘。インフレ率の中央値は1年前の10%近くから2月には6%に低下した。

しかし、政情不安は高まりつつあるとし、軍政を敷くブルキナファソ、マリ、ニジェールが西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を脱退し、地域全体で今年、18の選挙が行われることに言及した。

干ばつやサイクロン、洪水の被害も地域の苦境を増大させていると指摘した。【4月22日 ロイター】
***********************

【ガーナ・コートジボワール 主力産物カカオが壊滅的な被害】
西アフリカのガーナやコートジボワールの主力農産物であるチョコレート原料のカカオが壊滅的な打撃を受けているとの報告もあります。原因は気候変動の影響もありますが、それ以外に違法な金採掘の横行、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なっているとも指摘されています。

****西アフリカのカカオ大国「終わりの始まり」か、生産が壊滅的落ち込み****
彼女のカカオ農園は有毒物質で汚染され、赤茶色に染まった水たまりが点在していた。違法な金採掘業者が残したものだ。農園の所有者ジャネット・ジャムフィさん(52)は、この荒れ果てた風景に心が折れかけている。

ガーナ西部にあるこの27ヘクタールの農地には、昨年まで6000本近いカカオの木が植えられていたが、残っているのは12本に満たない。(中略)

西アフリカのガーナと隣国コートジボワールは長い間カカオの供給量が世界全体の60%超を占める「カカオ大国」だった。しかし今シーズンは収穫量が壊滅的に落ち込んでいる。(中略)

ロイターが農家、専門家、業界関係者など20人余りに取材したところ、ガーナのカカオ生産の落ち込みは違法な金採掘の横行、気候変動、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なったことが分かってきた。

ロイターが独占入手した2018年以降のデータによると、ガーナの政府機関「ココア委員会(COCOBOD)」は最悪の場合59万ヘクタールの農園が、最終的にカカオを枯死させる「カカオ膨梢ウイルス」に感染していると推定している。

ガーナのカカオ栽培地は現在約138万ヘクタールだが、COCOBODによるとこの数字には、まだ収穫はあるが既にカカオ膨梢ウイルスに感染した木も含まれる。

トロピカル・リサーチ・サービスのカカオ専門家、スティーブ・ウォータリッジ氏は「生産は長期的な減少傾向にある」とした上で、「臨界点に達しなければ、収穫量がガーナで20年ぶり、コートジボワールで8年ぶりの水準にまで落ち込むことはなかった」と述べた。

専門家は、ガーナの収穫量急減は簡単には解決不可能な問題で、市場に衝撃を与えており、西アフリカ諸国がカカオ市場を牛耳っていた時代の「終わりの始まり」になるかもしれないと指摘する。(後略)【3月30日 ロイター】
********************

【モバイルマネー取引の拡大という意外な面も】
やや意外な印象もあるのは、西アフリカはモバイルマネー取引(携帯電話やタブレットなどのモバイル装置を使って実行可能な 金融取引あるいは金融サービス)が進んでいるという話です。

****サブサハラ・アフリカのモバイルマネー取引額、前年比12%増の9,120億ドル****
モバイルコミュニケーションに係る世界的な業界団体GSMAは4月に「モバイルマネーに関する産業動向レポート2024」を発表した。

同報告書によると、2023年のサブサハラ・アフリカのモバイルマネー取引額は前年比12%増の9,120億ドル、取引件数は前年比28%増の620億件、登録アカウント件数は19%増の8億3,500万件だった。1回当たりの取引額は小さいものの、モバイルマネーの利用は増加傾向だ。

地域別にみると、西アフリカでのアカウント開設が多く、2023年のアクティブな新規アカウント数の3分の1以上が西アフリカだった。特にナイジェリア、ガーナ、セネガルでの増加が成長を牽引したという。

モバイルマネーによる国際送金についても、西アフリカが成長を牽引し、アフリカ全体では前年比約33%増の290億ドルだった。(後略)【4月25日 JETRO】
***********************

全くの憶測ですが、西アフリカ地域では銀行システムが十分に普及・利用されていないことが背景にあるのではないでしょうか。

いずれにしても、モバイルマネーのような新技術を利用することによって地域経済が活性化されるのであれば、歓迎すべき話でしょう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« インド洋・南太平洋島しょ国... | トップ | ベトナム  チョン書記長の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

アフリカ」カテゴリの最新記事