孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  停戦協議へ向けて動き ガザ住民の犠牲・苦境に冷淡なイスラエル国民の思考

2024-04-29 23:40:40 | パレスチナ

(【4月29日 日テレNEWS】)

【動き始めた? 停戦協議 ラファ侵攻回避への最後のチャンス】
パレスチナ・ガザ地区の状況は、イスラエル軍によるラファなどへの空爆も、また、避難民の窮状も、強く懸念される状況が続いています。

****ガザ地区への空爆…少なくとも27人死亡の報道も 人道危機への懸念高まる****
イスラエルによる空爆で多数の死傷者がでています。イスラエル軍は、28日から29日にかけてパレスチナ自治区ガザ地区北部や南部ラファを空爆し中東のメディアアルジャジーラは子供や女性を含む少なくとも27人が死亡したと伝えています。

こうしたなか人道危機への懸念も高まっていてUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は、飲料水が不足するなか気温上昇による暑さで子供2人が死亡したとの報告を受けたとします。ラザリーニ事務局長は「人々は灼熱のなか温室のような建物で暮らしている」とのべ支援強化を訴えました。【4月29日 日テレNEWS】
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一方、今月1日にイスラエル軍の攻撃でメンバー7人が死亡したことを受け、活動を中断していた食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」は28日、「ガザの人道状況は依然として悲惨だ」として、ガザでの支援活動を再開すると発表しました。

こうしたなか、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘停止などをめぐる交渉で、イスラエル側が初めて恒久的な停戦を議論する用意があることを伝えたとアメリカメディアが報じており、ハマス側も前向きの受け止めで、ようやく停戦に向けた交渉が始まる環境ができてきたようです。

アメリカ・バイデン大統領もイスラエル・ネタニヤフ首相に停戦交渉に臨むように働きかけているようです。

****ハマス、イスラエルの新たな提案に「大きな問題ない」****
イスラム組織ハマスの幹部は28日、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が長期化する中、イスラエル側が新たに提示した戦闘休止と人質解放案について、「大きな問題はない」との見方を示した。

匿名でAFPの取材に応じた同幹部は、代表団が29日にエジプトを訪れ、イスラエル側の提案についての検討結果を伝える予定だと明らかにした。

同幹部は「イスラエルから新たに妨害を受けない限り、前向きな雰囲気がある」として、「ハマスの検討結果の中に大きな問題は含まれていない」と語った。

米ニュースサイト・アクシオスは、イスラエル政府高官2人の話として、今回の提案では、人質解放後、ガザにおける「持続的な平穏回復」について協議する意向を示していると報道。イスラエル側が紛争終結について話し合う用意があるのを示唆したのは初めてだと伝えている。

ハマスの情報筋はAFPに対し、ハマス側は「前向きに話し合う用意がある」とし、「恒久的な停戦と避難民の帰還、(イスラエルで拘束されているパレスチナ人と人質との)受諾可能な交換、ガザ地区の包囲解除を保証する合意に達するのを切望している」と述べた。

一方、米ホワイトハウスは、ジョー・バイデン大統領は28日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との電話会談で、同国が現在進めている協議内容について検討したと明らかにした。 【4月29日 AFP】
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****ハマス代表団、停戦協議でカイロへ 米・イスラエル首脳は電話協議****
イスラム組織ハマスの代表団が29日、パレスチナ自治区ガザでの停戦に向けた協議のためエジプトのカイロを訪問することが分かった。ハマス関係者が28日、明らかにした。

ハマスが仲介役のカタールとエジプトに渡した停戦案とそれに対するイスラエル側の反応について協議するという。
交渉について説明を受けた関係筋によると、ハマスは27日に示されたイスラエルによる最新の段階的停戦案に回答する見通し。

イスラエルで収監されているパレスチナ人の釈放と引き換えに、40人以下の人質解放に応じるほか、「平穏持続期間」を含む休戦の第2段階への合意が含まれているという。

この関係筋によれば、イスラエル側は第1段階の後にガザ南部と北部の間の自由な移動を認めるとともに、ガザから部隊を一部撤収させる見通し。

一方、バイデン米大統領は28日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話協議した。米ホワイトハウスによると、両氏は人質解放と即時停戦に向けた交渉を巡り協議した。【4月29日 ロイター】
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イスラエル側は、「ハマス」から人質の解放について合意が得られれば、多大な民間人犠牲者が予想されるラファ侵攻を停止する可能性があるとの考えを示しています。

****イスラエル外相、人質解放の「合意得られればラファ侵攻延期の可能性」言及 ハマス 人質だとする新たな映像公開か****
イスラエルの外相は、イスラム組織「ハマス」から人質の解放について合意が得られれば、ガザ地区南部を侵攻する計画を停止する可能性があるとの考えを示しました。また、ハマス側も人質だとする新たな映像を公開し、双方が圧力をかけあう展開となっています。

イスラエル カッツ外相 「合意が得られれば、我々は作戦を停止する。人質を取り戻すために必要なことは何でもする」(後略)【4月28日 TBS NEWS DIG】
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すべては「これから」の段階で、先を見通すことはできませんが、おそらくラファ侵攻を阻止するための最後のチャンスでしょう。

****休戦合意へ「最後のチャンス」=イスラエル、進展なければラファ侵攻****
米ニュースサイト「アクシオス」は26日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘休止を巡るイスラエルとイスラム組織ハマスの間接交渉で、イスラエルが仲介役のエジプト側に、ハマスとの合意に関し「最後のチャンスだ」と伝えたと報じた。進展しなければ、イスラエルはガザ最南部ラファへの地上侵攻に取りかかるという。

エジプト代表団は26日にイスラエル入りし、ハマスが拘束する人質の解放などについて議論。イスラエルのラファ侵攻で、多数のパレスチナ人が越境して流入する事態を懸念するエジプトは、人質解放を含む合意締結を進め、侵攻を避けたい思惑がありそうだ。【4月27日 時事】 
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エジプトはイスラエルの(エジプト国境も近い)ラファ侵攻で大量のパレスチナ人難民が自国へ流入する事態は避けたいし、アメリカ・バイデン政権も大学での反イスラエル運動の高まりを受けて、これ以上の戦闘激化は若者支持層の離反という形で大統領選挙に多大な影響を与えますので、なんとか事態を収めたいところでしょう。

【イスラエル国内の停戦反対論】
ただ、イスラエル国内には停戦・ラファ侵攻回避には右派・極右勢力の強い抵抗があります。ネタニヤフ首相としてはこうした勢力の協力なしには政権を維持できないという現実もあります。

****イスラエル極右閣僚2人、ガザ戦闘休止案に異議****
イスラエルの極右の閣僚2人が28日、パレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラム組織ハマスとの戦闘休止協定案に公然と異議を唱え、ハマスのガザ地区最後の拠点とされるラファを侵攻しなければ、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相政権は存在意義を失うと非難した。

戦闘休止協定案に異議を唱えたのは、ベツァレル・スモトリッチ財務相と、イスラエル戦時内閣メンバーのベニー・ガンツ前国防相。2人はハマスのせん滅を改めて要請した。

スモトリッチ氏はX(旧ツイッター)でネタニヤフ氏に対し、「白旗を揚げ、イスラエルの安全保障を回復するためにハマスのせん滅を目的としたラファ侵攻計画を中止するなら、あなたが率いる政府の存在意義は失われる」と主張。

「(仲介国)エジプトの協議内容は屈辱的な降伏だ。人質への死刑判決を意味し、何よりも、イスラエルは国家存亡の危機に直面する」と訴えた。

ガンツ氏も、自身の党が発表した声明でラファ侵攻を強く要求。
「ラファ侵攻は、ハマスとの長期化した戦闘において重要である」「(ハマスがイスラエルに越境攻撃を仕掛けた昨年)10月7日に政府を率いていた閣僚が(ラファ侵攻を)阻止するとすれば、政府は存続する意義を失うだろう」と主張した。

ネタニヤフ氏は、150万人以上のパレスチナ人が避難しているラファへの侵攻を表明しているが、人質解放に向けた協定を締結するよう国内外から多大な圧力を受けている。(後略)【4月29日 AFP】
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ベツァレル・スモトリッチ財務相のような極右勢力の反対は“当然”の反応ですが、かつて右派の与党リクードよりやや中道的な「青と白」を率いてネタニヤフ首相に対抗していたガンツ前国防相もラファ侵攻すべしとの立場というのは私的には意外でした。

今年1月2日発表された世論調査では“戦闘終結後に誰に首相になってほしいかとの問いでは、現在、戦争内閣に参加している野党「ナショナル・ユニティ」党首のベニー・ガンツ前国防相が23%”【1月10日 JETRO】と、ガンツ前国防相はネタニヤフ首相を上回る国民支持を得ています。

従来から、イスラエルにおいては、ことパレスチナ対応については右も左もない・・・とは言われていますが。

【ガザ住民の犠牲に冷淡なイスラエル国民の思考の一端】
イスラエル右派勢力はガザへの支援物資搬入にも反対し、阻止行動を行っています。

****人道危機のガザ 栄養失調で28人の子どもが命を落とす 支援物資を運ぶトラックを妨害する動きも****
イスラエルが侵攻を続けるパレスチナ自治区では、危機的な食料不足が続いています。イスラエルは人道物資の搬入を拡大する方針を決めましたが、検問所では市民による妨害が行われています。

侵攻から半年以上たった今も、イスラエル軍の攻撃が続くパレスチナ自治区ガザ。

現地メディアによりますと、南部ハンユニスではイスラエル軍の撤収後、病院の敷地内で集団埋葬地が見つかり、これまでに283人の遺体が収容されました。ガザ全体での死者はすでに3万4000人を上回っています。

攻撃に加え、ガザの市民を苦しめているのが深刻な食料危機です。
国連人道問題調整室によると、ガザ北部では2歳未満の3人に1人が栄養失調に苦しみ、今月上旬までにすでに28人の子どもが命を落としました。

イスラエルの最大支援国であるアメリカの圧力で、ネタニヤフ政権はガザへの人道物資の搬入を拡大する方針を決定。しかし搬入口となる検問所近くに行ってみると…

記者「ガザへと人道支援物資を運ぶトラック、何十台とずらっと奥まで続いていて、立ち往生という状況になっています。その手前、数多くの乗用車が道の真ん中に停められていて、トラックをブロックしています」

イスラエル南部、ケレム・シャローム検問所から20キロほどの場所で支援トラックを妨害しているのは、イスラエルの右派系市民です。

記者「道路の真ん中に座り始めました。身体を張って人道支援物資を中に通さないぞ、と」

支援を妨害する市民「動きません。私に命令しないで、動かないから。ハマスの味方をするんですか。触らないで、手をどかして」

記者「イスラエル軍が、力づくで排除しています」

こうした抗議活動は連日続き、予定されていたトラックがガザへと到達できないこともあるということです。

支援を妨害する市民「彼らはハマスに支援物資を供給しています。(Q.飢えに苦しむ市民のことを思うとどう感じますか?)ガザの市民で無実の人は1人もいません」

「(Q.多くの子どもが飢えで亡くなっているが?)私は人が飢えで亡くなっていると思えません。国連などの組織が言っているだけです。(Q.しかし実際に子どもたちが死んでいるとしたら?)だとすれば、飢えを終わらせられるのは彼らの親だ。人質を解放すれば良いだけだ」

国連機関は、早ければ5月にもガザ北部が飢饉に襲われると警告するなど、待ったなしの状況に追い込まれています。【4月23日 TBS NEWS DIG】
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昨年12月に行われたイスラエルでの世論調査で、ユダヤ系イスラエル人については、「軍事計画を立てる際に、どの程度ガザの人たちの苦しみを考慮するべきか」との設問に対し、「ほとんど考えるべきではない」「あまり考えるべきではない」の答えが合わせて81%を占めたとのことですので、ガザ住民の被害・苦境への突き放した対応は右派だけのものではないようです。

****ガザ3万人犠牲でも「仕方がない」? イスラエルの洗脳教育は〝成功〟なのか 日本在住40年、非戦論のイスラエル人が同胞の思考回路を分析した****

イスラエル軍とパレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘が昨年10月7日に始まってから半年がたった。発端となったハマスのイスラエル奇襲では約1200人が死亡、二百数十人が人質として拉致された。

対するイスラエル軍の報復攻撃によるパレスチナ自治区ガザ側の死者は増え続け、既に3万3千人を突破した。当初はイスラエルに同情的だった国際世論は一転し、批判が強まっている。やり過ぎではないのか。イスラエル人はどう考えているのか。日本に40年近く住むイスラエル人のダニー・ネフセタイさん(67)=埼玉県皆野町=に聞いた。

 ▽自分の国が悪いとは…
「徴兵制のイスラエルで戦争が始まると、どんなにリベラルな人でもとにかく軍を応援しようとなる」。日本人女性と結婚し、日本に移住したネフセタイさんは「教育によって国民性をつくるのは簡単なこと。洗脳教育のやり方だ」と語る。

イスラエル中部のリベラルな家庭に生まれたが、18歳から3年間、徴兵のため空軍に入隊することに疑問はなかった。小学校に入ると毎年、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)について学び「国を守るのは当然のことだと教え込まれた」からだ。

ユダヤ人は1948年、パレスチナの地にイスラエルを建国した。土地を追われた約70万人のアラブ人は各地に離散し、パレスチナ難民と呼ばれるようになった。アラブ人の間では「ナクバ(大惨事)」と呼ばれるが、イスラエルの学校では「ナクバは教えない。『アラブ人はイスラエル軍を恐れて逃げただけ。私たちが追い出したんじゃない』と教わった」。反対に「とにかくユダヤ人は欧州で大変だった。この国をちゃんと守らないと、またホロコーストが起きる」という教育に終始すると話す。

イスラエルにはナクバについて書かれた本もあるが、あえて読む人は非常に少ないという。「自分の国が加害者だったと認めたくないから、わざわざ調べようとはしない。日本で言えば、従軍慰安婦問題や南京虐殺と似ている」と話す。「自分の国の非を認めるのは大変なこと。今回のガザ戦闘みたいなことをやっても、それでも自分の国が悪いとは認めたくない」

 ▽指導者殺害を「みんな待っている」(中略)

 ▽疑問持たせぬ「洗脳教育」
こうした考え方の根本にあるのは、イスラエルの「洗脳教育」だと語る。「『アラブ人は怪しい。怖い。信用できない。唯一やりたいことは私たちを殺すことだ』と0歳から刷り込まれる」。そのため今回の奇襲も「長年の抑圧に対しての抵抗ではなく『ハマスはそういう人間だからやった』と考える。イスラエル人が普通に考えることだ」と語ると、昨年10月のカレンダーを持ち出してきた。

ハマスがイスラエルを奇襲したのは7日。カレンダーでは6日までが黒塗りされている。「イスラエル人にはこう見えている。『イスラエルとパレスチナの歴史は全て10月7日から始まった』という考え方。そこまでの占領は関係ない」

イスラエルのネタニヤフ首相や軍高官らはハマス戦闘員を「テロリスト」「動物」「怪物」と呼ぶ。これも「洗脳教育」と似た考え方だ。「軍隊は兵士に対し『動物だから殺しても問題ない。こっちは人間。向こうは人間じゃない』という教え方をする」と説明。(中略)

 ▽「プロパガンダに大成功」(中略)

 ▽イスラエルで使われている地図には
最後に、イスラエルの学校で使っているという地図を見せてくれた。「この地図にはガザとの境界線はあるが、ヨルダン川西岸との境界線は描かれていない」。

イスラエル以外で使われる地図では、イスラエルと西岸との間には第1次中東戦争の休戦協定で1949年に引かれた休戦ラインが描かれ、西岸にはパレスチナ自治区とイスラエル占領地が混在している。しかし、イスラエルで使っているという地図に休戦ラインはない。「西岸はイスラエルだという教育だ。イスラエル政府が意図的にやっている」

その上で「今回ガザで起きたパレスチナ人の爆発は、近いうちに西岸でも起きる」と警鐘を鳴らす。「西岸に住むパレスチナの若者たちも、抑圧の中で憎しみを育てている。このままパレスチナ国家が樹立されなければ大変なことになる。犠牲者は1200人ではすまない」。

一部のイスラエル人はそうした認識を持っているが、大部分の人は「そのことを考えたくない。そこまで大きな問題ではないと思いたいのだ」と問題の根深さを指摘した。【4月29日 47NEWS】
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もちろん上記はイスラエルの現状に批判的な、日本在住40年になるネフセタイさんの個人的見解ではありますが、イスラエル国民の本音・思考を推測するうえでの参考にはなるかも。
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アメリカ  不法移民問題に苦慮するバイデン大統領 急増する中国人不法移民

2024-04-28 23:16:36 | アメリカ

(【2023年7月17日 産経】アメリカを目指す中国人不法移民のルート ビザなしで入国できるエクアドルから陸路、多くの人が命を落としているジャングル地帯「ダリエン地峡」を抜けての移動になります)

【大統領選挙最大の争点、移民対応に苦慮するバイデン大統領 強硬姿勢への修正も】
メキシコから国境を越えて流入する移民の問題はアメリカ大統領選挙の最大の争点ともなっています。

“2月に実施された世論調査では「アメリカの最も大きな脅威はなにか」を尋ねた質問に、28%が「移民」の問題を選びました。去年8月の調査では9%に過ぎず、半年で「経済」(12%)と「物価上昇(インフレ)」(11%)を上回る問題に浮上し、大統領選挙でも大きな争点となるとみられています。”【3月28日 NHK】

****移民、選挙戦最大の争点に=バイデン、トランプ両氏が非難合戦―米大統領選****
11月の米大統領選を前に、メキシコから国境を越えて流入する移民の問題が最大の争点に浮上している。2月29日には再対決が濃厚なバイデン大統領とトランプ前大統領が南部テキサス州の国境の町をそれぞれ訪問し、お互いを非難し合った。
 
「これはバイデンによって引き起こされた侵略だ」。トランプ氏はイーグルパスでの演説で訴えた。バイデン氏の移民に寛容な政策によって治安が悪化したとも批判。同日の大衆紙への寄稿では、「当選すれば、就任初日に国境を封鎖して侵略を阻止し、バイデンの不法移民を国から排除する手続きを開始する」と表明した。
 
一方、バイデン氏はブラウンズビルで、国境警備隊員らを慰労した。演説では、上院が超党派で合意した移民対策を盛り込んだ法案が「トランプ氏の妨害で頓挫した」と非難。その上で「トランプ氏に言いたいことがある。政治的な駆け引きの代わりに、一緒にやり遂げようじゃないか」とこの移民対策に賛同するよう呼び掛けた。

対メキシコ国境を越えて流入する移民はここ最近急増している。昨年12月には1カ月の越境者が約30万2000人に達し、過去最多を記録した。【3月1日 時事】
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従来比較的穏健な移民対応をとってきた民主党バイデン大統領にとっては、増大する移民への世論の硬化を受けて、苦しい対応にもなっています。

一部、トランプ氏が主張していた強硬な政策を取り込む形で軌道修正も図っています。

“政権発足以来、寛容な移民政策をとってきたバイデン政権は、不法移民急増への国民の不満が高まり、トランプ氏が国境封鎖や「国境の壁」建設、不法移民の摘発強化・強制送還等を主張する中で、中止していた「国境の壁」の建設再開の方針を表明するに至っている。”【4月25日 菅原淳一氏 JBpress“米大統領選で過熱する「米国第一」競争、トランプ化が進むバイデン政権の通商政策”】

****バイデン大統領、国境警備強化法案の新権限行使ためらわないと断言****
1月26日、バイデン米大統領は、上院で与野党が協議している国境警備強化法案に触れて、成立すればこれまでで最も「厳しく公正な」改革措置となるとの見方を示すとともに、国境閉鎖の権限が与えられればちゅうちょなく行使すると断言した。(後略)【1月29日 ロイター】
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しかし、移民対策でバイデン大統領に“手柄”を与えたくないトランプ氏の共和党への働きかけもあって、冒頭記事に「トランプ氏の妨害で頓挫した」との発言があるように、有効な対応がとれていません。

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議会上院の与野党は、総額600億ドルあまりのウクライナ支援と、メキシコとの国境管理の強化を抱き合わせた緊急予算案でいったんは合意。

2月7日には、議会上院で、この案の審議を前に進めるかどうかの採決が行われました。しかし結果は、共和党の議員が合意を反故ほごにして反対に回り、49対50の1票差で否決。ウクライナ支援は、暗礁に乗り上げました。

共和党議員が反対に回った最大の理由は、トランプ氏の存在でした。
トランプ氏のホームページに掲載された バイデン氏を批判する動画トランプ氏が採決前に集会で演説し、国境管理が不十分だとして共和党議員に対し、法案に反対するよう圧力をかけたことが影響したのです。(後略)【3月28日 NHK】
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また民主党内部にも、「ニューヨークに来る移民すべての衣食住を払い続ければ、市は破綻する」(アダムズ・ニューヨーク市長)のような移民対策を求める“突き上げ”があります。しかし、一方で従来の穏健な対応を求める民主党員も多く、バイデン大統領は対応に苦慮しています。

****移民問題に悩む米バイデン大統領 身内の民主党内からも“突き上げ”****
(中略)
ニューヨーク市など、有力首長から財政支援などの対策を求められ、突き上げを食らうバイデン氏。トランプ氏と激しい支持率争いを繰り広げる中、先月には…

バイデン大統領 「アメリカ史上、最も厳しい国境警備の改革法案だ」
就任当初、トランプ政権の厳しい移民対策を批判していたバイデン氏も姿勢を変えています。

移民問題を国の脅威と考える民主党支持者も増加。ただ、それでも寛容な政策を求める人が多くいます。
民主党支持者 「民主党は移民に寛大な価値観を保つべきですが、いまは怖気づいています。バイデン大統領はどこまでも中道を演じようとしている」

移民への厳しい対策は“民主党らしさ”を求める支持者の反発を食らう恐れもあり、バイデン氏は難しいかじ取りを迫られています。【3月29日 TBS NEWS DIG】
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【トランプ前大統領「「(不法移民は)人間でなく動物だ」】
トランプ氏の不法移民対応については、政策以前の基本的な部分で、どうしても同意できないものがあります。

****トランプ氏、不法移民を「動物」と表現 国むしばむと警告****
トランプ前米大統領は2日、米国への不法移民は「動物であって人間ではない」と表現した。

ミシガン州で演説し、不法移民が容疑者となっている犯罪を列挙し、11月5日の大統領選で自身が勝利しなければ暴力と混沌が米国をむしばむと警告した。

トランプ氏は「民主党は(不法移民は)人間なので動物と呼ばないでくれという。しかし私はこう言った。違う、人間でなく動物だ」と語った。

同氏は演説でしばしば、メキシコから越境する不法移民は自国の刑務所や収容施設を抜け出し、米国で暴力犯罪を増やしていると発言している。

移民による犯罪に関するデータは少ないが、研究者ら米国の不法居住者による暴力犯罪発生率が国内出身の居住者より高いわけではないと指摘している。【4月3日 ロイター】
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もちろん不法移民が社会に与える問題はありますし、自国の利害を考えるとき、場合によっては厳しい対応も必要になるかも・・・しかし、移民の側も生きるために命がけで国境を超えようとしているのであり、「人間でなく動物だ」と言うのは、政策というより人間性の問題でしょう。

【移民希望者を惑わすSNS情報 「もしトラ」の焦りも そこにつけ込み情報を利用する斡旋業者】
そういうトランプ氏復権「もしトラ」に焦る移民希望者も多く、そこにつけ込む斡旋業者も。米大統領選挙で流される真偽入り混じった情報が、斡旋業者に都合よく利用されることも。そうした情報を野放しにしているフェイスブックなど巨大プラットフォーム企業の責任も問われます。

****「もしトラ」に焦る米移民希望者、つけ込むあっせん組織****
(中略)
メキシコ市の移民キャンプは、主に中米や南米からやってきた多数の米移民希望者で混雑。こうした人々は正式な難民申請手続きをするか、あるいは不法に越境する準備を整えている。

その1人のバルガスさんはトムソン・ロイター財団に「(前大統領の)トランプ氏が返り咲くと聞いている。彼は移民希望者の強制送還を始めるだろうから、事態はひどいことになる」と先行きへの不安を明かした。

こうした米国への移民希望者たちは、目まぐるしく変更される密入国あっせん組織からのオファーや、多くが間違っているSNS上の情報に頼って重要な決定を下している。

移民希望者が目にする情報の大半は、フェイスブックとワッツアップ経由で、援助団体や公的機関が発信したものではない。内容のうち本当の話はせいぜい半分、または真実のように思える虚構に過ぎない。

移民希望者にとって、信頼できて正確な情報は避難施設や水と同じぐらい重要な意味を持つようになった。しかし密入国あっせん者や犯罪組織がばらまくネット情報は、うそか本当か判別するのが難しい。

移民希望者の間で最も利用されているフェイスブックは、密入国あっせんのコンテンツを禁止していると主張。運営会社メタの広報担当者はトムソン・ロイター財団に「われわれは密入国をあっせんするコンテンツないしサービスをプラットフォーム上で禁じており、見つけ次第削除する」と明言した。

ただ専門家が見たところでは、偽アカウントが削除されている形跡は非常に乏しい。巨大プラットフォーム企業に正確な情報を得られる環境を確立する責任を求めているテック・トランスパレンシー・プロジェクトのケイティー・ポール氏によると、フェイスブックは中南米地域で最も利用者が多いSNSであるがゆえに、最大の誤情報の供給源になっている。(中略)

<トランプ氏の脅威も利用>
ネットに偽情報で出回る流れは、米大統領選が近づくとともにさらに加速する公算が大きく、貧困や犯罪集団からの暴力、失業、気候変動などさまざまな理由で母国を逃れてきた移民希望者の決断に影響を及ぼしつつある。

米大統領選とその結果は、メキシコで「コヨーテ」と呼ばれる密入国あっせん組織がSNSで発信する情報にも反映され、移民希望者に求める料金も左右している。

例えばバイデン大統領が就任した2021年、あっせん組織はまず応募者を集めるため、バイデン政権下で、国境管理と米国在留許可が緩くなるとうそを宣伝。一方で実際には国境管理が厳格化され、密入国が難しく危険になったことであっせん組織に10−20%の上乗せ料金を支払わなければならないという話も伝わってきている。

ポール氏は、国境はがら空きだという米共和党の間違った主張を、あっせん組織があたかも事実であるかのようにそのまま流していると述べた。

このような情報操作の結果、バイデン政権になって米国境に殺到する移民希望者は過去最高に達した。

そして11月の大統領選にトランプ氏が共和党候補として臨みそうな情勢になった今、あっせん組織は移民希望者らに対して即座に行動するよう呼びかけている。トランプ氏が再び大統領になれば、国境管理が厳格化され、強制送還が増える恐れがあるという以前とは正反対の理屈からだ。(中略)

(難民・移民援助団体インターナショナル・レスキュー・コミッティーの)ベラスケス氏はその一例として、ワッツアップに「米国境が閉じようとしている。今すぐ走り込め」とのメッセージが書き込まれていることを挙げた。(中略)

ポール氏は「われわれは、一大産業規模で展開されている移民希望者を食い物にする犯罪を、このプラットフォームが助長し、その弊害への対応を怠っているという話をしている」と憤りを隠せない様子だ。【3月3日 ロイター】
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【急増する中国人不法移民 「居残ることが容易」という事情も】
そうしたなか、最近目立つのが中国人の不法移民増加です。

****メキシコ沖でボート転覆、中国人8人死亡…米向かう不法移民か****
メキシコ南部オアハカ州沖で3月29日、中国からの移民を乗せたボートが転覆し、中国人8人が死亡した。州検察当局によると、ボートは同28日にメキシコ人男性の案内で、グアテマラ国境の南部チアパス州を出発した。

死亡したのは男性1人、女性7人。中国人の男性1人が生き残り、検察当局の調べに「突然、ボートがひっくり返った」などと説明したという。

メキシコ経由で米国を目指す中国人は急増している。昨年9月までの1年間で米南部国境から不法入国した中国人は5万2700人で、前年同期間の倍近くに上った。メキシコ政府は、チアパス州で取り締まりを強化している。

中国外務省の汪文斌ワンウェンビン副報道局長は1日の記者会見で「メキシコ側に生存者への援助と事件の調査強化を要請している」と述べた。【4月3日 読売】
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****中国人の米国密航が激増、国別でメキシコを抜き年間2万人を突破―華字情報サイト****
米国で摘発された密入国者の国籍別統計で、2023年度にはメキシコ国境から米国に不法入国した中国人がメキシコ人を抜いて2万人を突破(2万4048人)した。21年度はわずか323人だった。(中略)22年度には1970人だった。

中国人の不法移民は激増しつつある。これまでの経緯からすれば、中国人が米国で亡命を申請すれば認められる可能性が高く、認められなくても中国への送還は難しいという。米国に不法入国する中国人が激増する背景には、「居残ることが容易」という考え方があるとみられる。(中略)

米下院の高官は、米国の国境警備部門は中国人を前にして「途方に暮れている」と述べた。中国人の多くは「出身国をほとんど考慮せずに米国内に解放されている」という。同高官は、「亡命による救済を求めている人もいるかもしれないが、すべての人に十分な安全審査を行うことはできない。特に敵対国の国民の場合はそうだ」と述べた。

米国では、中国人が観光客になりすましてアラスカの軍事施設に入ろうとする事件が繰り返し発生している。うちアラスカ州フェアバンクスのウェーンライト空軍基地では、米軍が中国人を乗せた車両の中からドローンを発見した。(後略)【2月25日 レコードチャイナ】
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米中両国の当局の協議も行われてはいるようです。

****中国人の米国への密入国が激増、両国当局が協力へ―華字メディア****
海外華字サイト・文学城は7日、中国人の米国への密入国が相次いでいることについて、両国の当局が当事者らを協力して送還すると報じた。

アレハンドロ・マヨルカス米国土安全保障長官はこのほど、「米中は中国国民の中国への期間について交渉しており、重大なブレイクスルーを期待している」と述べた。この件をめぐって、同氏は今年2月に中国公安部長の王小洪(ワン・シアオホン)氏とオーストリア・ウィーンで議論したという。(中略)

記事は、米紙ニューヨーク・タイムズのデータとして、「米国は前年度に288人を中国に引き渡したが、引き渡されるべきなのにもかかわらず米国内に居住している中国人の数はおよそ10万人に上る」と伝えている。【4月9日 レコードチャイナ】
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【中国人不法移民 “多くは自由や職を求めて”】
遠く中国から海を超えて、どういう者がアメリカを目指すのか?
事情は様々でしょうが、“多くは自由や職を求めて”とも。

****「娘に愛国教育は受けさせたくない」アメリカへ不法越境した中国人が語った本音 闇業者に頼り、長旅の果てに…国境警備当局による拘束は10倍以上に激増****
中国・山東省出身の張は1月下旬、30代の夫と10歳ぐらいの長女と一緒に、メキシコからアメリカ西部カリフォルニア州に入った。両国を隔てる「国境の壁」の切れ目を通り抜けての越境。「頭に浮かんだのは、『自由』の二文字だった」。その直後、張はどこかすっきりとした表情で語った。

アメリカへ不法に渡る中国人が激増している。実態を探ろうと訪れた現場で私が出会った張夫妻にとって、長女の存在が祖国を去る決断をした理由だった。あっせん業者に多額の渡航費用を支払い、さまざまな危険を冒してまで、なぜアメリカを目指すのか。不法越境の現場で語られた「本音」とは―。(敬称略、年齢は取材当時 共同通信ロサンゼルス支局 井上浩志)

(中略)中国人移民希望者を顧客とする中国系アメリカ人弁護士、黄笑生によると、多くは自由や職を求めて米国を目指す。

 ▽11カ国の旅路の果てに
私が出会った張一家は祖国を離れた後、タイやトルコなどを経由した。入国にビザが不要な南米エクアドルに到着し、その後は主に陸路で北上。計11カ国、50日超の長旅だった。中国系動画アプリTikTok(ティックトック)を見て、初めて具体的な渡航方法を知った。3人で30万元(約620万円)かかったという。

道中では、コロンビアとパナマにまたがり、アメリカを目指す多くの人が命を落としているジャングル地帯「ダリエン地峡」も通った。危険を覚悟でアメリカを目指したのは「経済的な苦境に加え、長女の教育と健康のため」。

中国の習近平指導部は思想統制の一環で愛国教育を実施しているが、張は「娘は学校で共産党や政府への忠誠心を育てるスローガンを復唱させられるが、そんなものは学んでほしくない」と強調した。

 ▽長女の夢
汚染された中国の水や空気が長女の身体に与える影響も心配だったという。決断に拍車をかけたのが、中国の新型コロナウイルス対策「ゼロコロナ政策」だった。感染拡大を封じ込めるため、ロックダウン(都市封鎖)や集中隔離などの強制措置が実施され、経済は停滞。自営業者だった一家は「多大な影響」を受けた。ゼロコロナ政策は2022年末ごろ、事実上崩壊。張一家はその後、北京に移ったが、事態は好転しなかったという。

祖国は既に捨てた。親族や友人にはもう会えないが、張は「きっと決断を理解してくれる」と語った。一家はアメリカのどこに居を構えるか決めていない。だが長女の夢は明確だった。「ハーバード大に入学して、研究者になりたい」(後略)【4月27日 47NEWS】
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“新型コロナウイルス対策で仕事を失ったり、人権侵害や宗教上の迫害を受けたりしたことなどが理由という。”【23年7月17日 産経】とも。

ギャングの横行などで、生命・生活が直接的に脅かされている中南米からの移民とは、やや異なる様相も。経済的にも一定の余裕がないと無理かも。

もっとも、自由を奪われ、迫害を受ける者にとっては、国民の生死を司り、その命に逆らっては生きていけない中国共産党は世界最大のギャングかも。

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南アフリカ  初の全人種選挙から30年 与党ANCは劣化した政治・経済・社会を立て直せるか

2024-04-27 22:10:09 | アフリカ

(初の全人種選挙から30年を記念する式典の会場で、南アフリカの国旗を振る子どもたち=27日、首都プレトリア【4月27日 共同】)

【初の全人種選挙から30年】
南アフリカではアパルトヘイト(人種隔離政策)の苦難を乗り越えて、1994年に初めて全人種参加選挙が行われました。それから30年・・・

****南ア、初の全人種選挙から30年 差別根絶へ誓い新た****
1990年代前半までアパルトヘイト(人種隔離)が行われていた南アフリカで、94年に初の全人種参加選挙が実施されてから30年となった。首都プレトリアで27日、記念式典が行われ、ラマポーザ大統領は「今なお社会に存在するさまざまな不平等を乗り越えなければならない」と述べて、差別根絶へ向け誓いを新たにした。

南アでは第2次大戦後、白人支配体制下で異人種間の結婚を禁じるなど人種差別の制度化が進んだ。解放闘争や国際的非難を受けて、91年にアパルトヘイトの根幹法が全廃された。94年の選挙でアフリカ民族会議(ANC)が圧勝して故マンデラ氏が初の黒人大統領に就任し、白人支配は終わった。【4月27日 共同】
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差別は制度上撤廃され、ネルソン・マンデラ氏が率いたANC(アフリカ民族会議)の政権が続く30年で経済成長もありました。 しかし、この30年で進行した「影」の面もあります・・・

****“民主化30年”を迎える南アフリカ****
南アフリカは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われてから2024年で30年という節目の年を迎えます。かつてマンデラ氏が率いたANC(アフリカ民族会議)は、この間一貫して政権を担ってきましたが、汚職や内部対立が絶えません。(中略)

ANCのもとで、一部で黒人の生活水準の向上や、経済成長があった一方で、「格差の拡大」や「汚職の蔓延」、さらに、「犯罪の横行」などが課題になっているからです。  

私(別府正一郎キャスター)は1月に帰国し、この番組を担当し始めるまで4年半駐在していましたが、犯罪は常に警戒していました。

たとえば、強盗に車が奪われる犯罪も起きていますので、街なかを運転する時は、後ろをつけられていないかを警戒していました。つけられているなと思ったら、スピードをあげたり、大通りに出たりしました。

また、役場での手続きで、賄賂を要求されるようなこともあり、閉口したこともありました。  

1994年の就任演説で、マンデラ氏は、全ての人種が平和的に共存する「虹の国」を打ち立てようと呼びかけました。しかし、ANCの長期政権のもとで、さまざまな問題が噴き出しているのが現状です。「虹の国」の理想の実現に向けた、南アフリカは大きな試練に直面しています。【2023年12月6日 NHK「キャッチ!世界のトップニュース」】
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【5月総選挙では与党過半数割れ予測も】
南アフリカでは、全人種参加選挙から30年の節目にあたる今年5月総選挙が行われます。
マンデラ氏以来、一貫して南アを率いてきた与党ANC(アフリカ民族会議)の支持は低下傾向にあり、今回選挙では過半数割れの予測もあります。

****南ア、5月29日に総選挙 与党過半数割れの予想も****
南アフリカ大統領府は20日、5月29日に総選挙と地方選を実施すると発表した。

計画停電や公共サービスの低下、高失業率への不満が高まる中、ラマポーザ大統領(71)が党首を務める与党アフリカ民族会議(ANC)が1994年以来初めて議会の過半数を失うとの予測も出ている。

総選挙と地方選の後、国民議会(下院)が新大統領を選出する。

ラマポーザ大統領は2期目を目指すが、経済成長率の押し上げに苦慮している。

大統領府は声明で「2024年の選挙は南アフリカが自由と民主主義の30年を祝う時期と重なる」とし、「民主主義におけるこの重要かつ歴史的な節目に全面的に参加するよう」有権者に呼びかけた。【2月21日 ロイター】
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ANCの政治はズマ前大統領時代に大きく劣化しました。現在のラマポーザ大統領は故マンデラ氏が自身の後任にと考えていた人物でもあり、ANCそして南ア立て直しの“切り札”的な存在です。
言い換えると、ラマポーザ大統領でダメなら、もはや後がない・・・とも。

【南ア経済 民間企業活用で立ち直りの兆しも 懸念される与党敗北の政治混乱】
南アフリカ経済には民間企業の活用などで立ち直りの兆しもあるようですが、これまで国政を担ってきたANCが過半数を割り込み、急進的主張の政治勢力の影響が強まると再び混迷に陥る不安もあります。

****【混迷極める南アフリカに光】南アはラマポーサ大統領の堅実さで立て直すことができるか****
フィナンシャルタイムズ紙コラムニストのデビッド・ピリングが、3月12日付け同紙掲載の論説‘The bullish case for South Africa’で、長年の悪いニュースの後、南アは短期・中期的には楽観できる理由もあると述べている。主要点は次の通り。
*   *   *
(FT論説要旨)
ここ数年、南アからのニュースは停電、慢性失業、国家汚職、犯罪、哀れな経済成長、ランド(通貨)の下落という悪いものばかりがここ数年続いてきた。更に、5月予定の選挙でアフリカ民族会議(ANC)の得票が50%を切る可能性があるとの見方が加わり、選挙後の政治的不安定につき様々な憶測が出ている。

しかし、短・中期的には注目すべき話がある。最初の良いニュースは、経済・産業の足枷となってきた電力危機が改善され始めたことだ。

2022年、ラマポーサ(大統領)は、再生可能エネルギーへの転換に反対する石炭ロビーや民間を信用しないANCの双方と話をつけ、民間発電業者に対する発電量制限を一挙に撤廃した。その結果、約10ギガワットの安価な太陽光、風力発電が徐々に導入されることになった。これにより、民間企業からの国家電力公社(Eskom)への需要が軽減され、配電網への電力供給が増加する。

同じことは、運輸・物流部門にも見られる。鉄道・港湾公社トランスネットも、エスコムと同様深刻な危機にあった。送電線や線路の盗難が横行、貨物の輸送ができなかった。

アフリカ最大の港ダーバン等も同様だった。23年11月には、約7万個のコンテナを積んだ79隻が海岸沿いで貨物処理の順番を待っていた。23年、輸送遅延のため南アの石炭輸出量は1993年以来最低の5000万トンに低下した。これも最悪の事態は過ぎるかもしれない。今月、トランスネットは遂に新最高経営責任者(CEO)にフィリップスを、エスコムもCEOにマラコネを任命した。

重要なことに、トランスネットも民間企業に目を向けている。フィリピン企業の国際コンテナ・ターミナル・サービスは、労働組合との雇用保全合意に達し、ダーバン港を運営することになった。政府は、民間企業による自社リースの機関車をトランスネットの鉄道で運行することを認めようと検討している。

第三の前向きのニュースは、2月の予算だ。選挙が数カ月先にあるが、大きなバラマキ予算はなかった。財務省は支出抑制に成功した。数年前には債務の爆発が懸念されていた。スタンダード銀行によれば、債務はGDPの約75%程度に抑えられている。

最後に、5月の選挙は一部の予測ほど劇的ではない可能性が高くなった。ANCは農村地域では強い支持があり、全得票率が40%台にまで落ちることはなく、45%以上を確保するだろう。

また野党の分裂も助けになる。そうであれば、ANCは小さな連立パートナーと組んで国を統治できる。副大統領ジュリアス・マレマや彼の急進的な経済自由戦士党が主導権を握ることはない。
*   *   *
(論評)
南アフリカがすべき3つのこと
上記の論説でピリングは、南アの状況は最近幾つかの点で好転しているという。南アは、本来もっと立派な国であるべきだ。

ここ10年余、特にズマが大統領になった辺り(09~18年)から、一部急進黒人勢力等による政治の私物化、汚職の蔓延などと、それらの必然の結果としての経済低迷に見舞われた。ズマの後に大統領になったラマポーザも、やや期待外れのように見えた。

問題が余りに大きかったこともあろう。与党の既得権益勢力が強すぎたこともある。しかし、ラマポーザはしっかりした政治家だ。(中略)

目下注視すべき南アの最大の課題は、第一に上述の経済、第二に5月29日の議会選挙(大統領は議員から互選)、第三は外交、特に対米関係の軋みである。

ズマ政権以後の南ア政治の劣化は、甚だしい。与党ANCの劣化は激しく、ここ数年、与党ANCは過半数を失う可能性が指摘されてきた。

94年の新生南ア誕生後ANCは一貫して単独で統治してきた。次は連立政権になるかもしれないと言われる(最近の世論調査でANCは50%を切る)。しかし、良い連立相手がいるのか。

ズマは12月、新党「MK党」(9月結党)への参加を表明した。新党名は、60年代にマンデラが結成したANCの反アパルトヘイト闘争実力部隊の名前に因む(新党は必要によっては暴力に訴えると述べている)。

ANCは、この新党の選挙参加登録取り消しを選挙裁判所に求めたが、3月26日裁判所はこれを却下した。この新党も波乱要因になるかもしれない。ズマ出身の雄州クワズルナタールでは強いだろう(後略)【4月26日 WEDGE】
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ズマ前大統領については、以下のようにも。
“前大統領のズマ氏が率いる「民族の槍」(MK)の動向にも注目が集まっている。MKは元ANCメンバーにより2023年12月に結成された新党で、ズマ氏の根強い支持基盤であるクワズール・ナタール州を中心に得票すると予想される。

ズマ氏は過去の有罪判決を理由に立候補不可とされていた。しかし、4月2日に選挙裁判所が立候補者リストに加えることを支持する判決を出したことを受け、4月12日、IEC(独立選挙管理委員会)は同氏の立候補は不可であることを憲法裁判所に緊急提訴しており、憲法裁判所の判断が待たれている。”【4月23日 JETRO】

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ベトナム  チョン書記長の進める汚職摘発運動で相次ぐ要人の更迭排除 国家主席に続き国会議長も

2024-04-26 23:41:14 | 東南アジア

(23年12月12日、ハノイで握手を交わす中国の習近平国家主席(左)とベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長(右)【23年12月12日 時事】)

【中国同様に政治的リスクもある社会主義国ベトナムでの外国企業活動 ただ、制約は中国より格段に緩いとも】
中国国家外貨管理局が発表した国際収支によると、2023年に外国企業が投じた中国への直接投資の純増額は330億ドル(約5兆円)となり、22年(1802億ドル)から8割強減少し1993年以来、30年ぶりの低い水準となりました。【2月19日 読売より】

一番の原因は中国の景気減速でしょうが、米中対立など国際情勢への懸念、反スパイ法の懸念も影響していると思われます。

****米・外国企業へのリスク増大、中国改正反スパイ法 米当局が警告****
米国家防諜安全保障センター(NCSC)は30日、中国で7月1日から施行される改正「反スパイ法」について、中国で活動する米国や他の外国企業による通常のビジネス活動が中国当局から罰則を受ける可能性があると警告した。

中国全国人民代表大会(全人代、国会)常務委員会は4月、スパイ行為の摘発を強化する「反スパイ法」改正案を可決した。国家の安全に関わるあらゆる情報の移転を禁止し、スパイ行為の定義を拡大する。

NCSCは、改正反スパイ法は「米企業が中国で保有するデータにアクセスし管理する法的根拠を拡大する」と指摘。さらに、中国は国外へのデータ流出を国家安全保障上のリスクとみなしており、外国企業が現地で採用する中国人社員に対し中国の情報収集活動を支援するよう強制する可能性があるとした。

また、改正反スパイ法で示されている定義が「曖昧」で、「あらゆる文書やデータ、資料、物」が中国の国家安全保障に関連するとみなされる可能性があり、ジャーナリストや学者、研究者も危険にさらされると警告した。【2023年7月1日 ロイター】
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アステラス製薬の日本人社員が反スパイ法違反の疑いで逮捕された問題なども周知のところです。

こうした「チャイナリスク」の再認識で、ベトナムはアメリカとの関係改善もあって、製造業の中国に代わる代替地としても見られていますが、ベトナム自体も社会主義国で中国同様のリスクがあるとも指摘されています。

ただ、中国とベトナムを比較すると、制約の度合いはベトナムが圧倒的に緩いとの指摘も。

****「世界の工場」へ名乗り上げるベトナム、政治的制約はあるか?投資の分岐点はどこにある****
ウォールストリート・ジャーナル紙の3月6日付け社説‘Vietnam is lying to its friends. A secret document proves it.’は、ベトナムは製造業の中国の代替地として位置づけられるとともに、開放路線を進めて各国との関係強化に努めている;世界はそのことがベトナム国内の政治的変化を生むと期待しているが、ベトナムの指導者たちは変化を望んでいない、と批判している。
*   *   *
(WSJ社説要旨)
ベトナムは、中国の対抗勢力として、また世界の製造業の代替地として自国を位置づけ、新たな外交・経済関係強化を進めている。昨年9月、バイデン大統領のベトナム訪問時、米越関係は格上げされた。

ベトナムは現在、18の有効または計画中の自由貿易協定を有している。この開放路線が、国際的接触を多くし、権威主義的政権下にある国内政治に変化を生むという期待につながっていた。

しかし、ベトナムの指導者たちはそうした変化を望んでいない。バイデン氏が到着する2カ月前の7月、ベトナム共産党政治局は、国民に対する厳しい統制を継続しようとして、秘密命令「指令24号」を発出した。この指令のコピーは、ベトナムにおける言論の自由を求める団体Project88によって3月1日に公開された。

ベトナムは警察国家であり、言論や集会の自由は制限され、反体制派や市民活動家は投獄により処罰されている。新しい指令は、ベトナムの指導者たちがこの方針を維持するつもりであり、外国の影響によってその政策が損なわれることに神経質になっていることを示唆している。

この指令は、環太平洋経済連携協定(TPP)のような国際貿易協定が、ベトナム国内での締め付けを緩和させるだろうとの期待を裏切るものだ。

「指令24号」では、9つの指令が政府と党に送られた。その中には 、ビジネスや人的交流のために海外に行くベトナム人を「厳重に管理」することが含まれている。

別の指令は、「国内で独立した政治組織の結成を許してはならない」と明示している。独立した労働組合の結成にはさまざまな制限が課されている。

国家安全保障に対する「深刻な脅威を警戒し、防ぐべし」との指令もある。安全保障に対する脅威は「大国のイニシアティブや戦略に参加する際の油断」、外国の投資家が「国内市場や企業を乗っ取り、重要な経済部門を占拠する」ことからもたらされる。

この文書の中で最も重要な指令のひとつは、ベトナムの市民社会グループを法律や政策決定に関与させないようにすることである。新指令は、「市民社会、ネットワーク、独立した労働組合、そして、国内の政治反対グループ等」の出現を許さないよう警告している。さらに、政治団体が国家に対する「カラー革命」や「街頭革命」といった、民主化を求める運動へ人々を動員することがないよう警告している。

「指令24号」によると、報道機関は「ポピュリスト運動、市民的不服従、不当な見解、敵対勢力による妨害行為」と戦わなければならない。さらに、国の習慣や伝統に適合しない外国文化を排除することが求められる。報道機関は「フェイク・ニュースと闘い」、「国家機関、企業、社会、サイバー空間における文明的行動規範を発展させること」も期待されている。
*   *   *
(論評)
ベトナムにはある政治的「自由
米中対立が進行する中で、「政治的安定」と「経済発展」の双方を維持するためのベトナム指導者の「悩み」は深いと思われる。確かに社説が指摘するように、ベトナムにおいて政治的自由が制限されているのは事実であるが、中国とは比較にならないぐらい「緩い」。
 
また、中国と異なり、ベトナムは国民の意向を政策に反映しようと努めている。
例えば、①国連開発計画(UNDP)と共産党の「祖国戦線」は2011年から毎年「住民から見た各地方省の行政管理評価(PAPI)」を住民への対面聞き取り調査を実施して公表している。PAPIは、国民参加の度合い、透明性、国民に対する説明責任、汚職の取り締まりなど8つの指標で評価される。

②経済分野においても、09年以降、米国際開発庁(USAID)とベトナム商工会議所は、「企業から見た各地方の経済管理評価(PCI)」を企業へのアンケート形式で実施し、公表している。

更に、ベトナムには53の少数民族が存在するが、少数民族の文化・権利は「尊重」されている。それらが故に、欧米諸国から、「人権」に関連して表立った批判はない。

「政治的安定」に関しては、世論調査が公表されないので推測するしかないものの、ベトナム戦争終了後(1975年)に生まれた国民が、全人口の70%以上を占める時代になり、共産党支持率は益々低くなっていると思われる。50歳以上の国民は、共産党が「国の統一」を実現した貢献を認識しているが、戦争を知らない世代は異なる。

但し、経済発展が漸く軌道に乗ったことから、国民の多くは政治的混乱を生む『体制の変化』までは、今のところ望んでいないであろう。

外国資本誘致の実態
ベトナムが「経済発展を維持」するためには、「開放政策」を継続し、外国投資をうけいれることが不可欠である。但し、中国からの投資に関しては、分野および地域に細心の注意が必要であることをベトナム政府は十分認識している。

コロナ前後から、中国や香港からの対ベトナム投資が増加している。指令24号では、①「国家安全保障に対する深刻な脅威を防ぐ」ための警戒を呼び掛けていること、②報道機関に対して、「フェイク・ニュースと戦うべき」等の記述が含まれており、これらはベトナムへの投資を増加している中国や香港を念頭において、記載されたものとも思われる。

また、「経済発展の維持」の視点からは、インフラ整備の遅れ、地場産業の育成が期待ほど進んでいない実態とチョン書記長が進める汚職捜査の弊害が懸念される。

特に政策が決定通りに進まず、国や地方政府に損害が出ると責任を負わされる事案が引き続き起こっており、決定権を有する者が決定しないケースが多発している。

このような実態を前にして、日本企業の中からは、書記長の交代時期(任期は26年春)が来るまで、ベトナムへの新規投資は控えるとの意見すら出始めているらしい。【4月2日 WEDGE】
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【チョン書記長の進める汚職撲滅運動で相次ぐ要人の更迭排除 進むチョン書記長への権力集中】
汚職摘発が重視されると、地方政府役人等が責任を問われるのを恐れ、新たな決定をしたがらなくなって物事が進まなくなる・・・というのは中国・習近平政権の汚職撲滅運動でも見られた現象です。

ベトナムでは国家の最高指導者であるチョン書記長が、相当に厳しい汚職対策を進めており、チョン書記長の後継者とも目されていた重要政治家が次々に更迭される異例の事態となっています。

****〈海外からの投資の影響は?〉ベトナム国家主席の突然の辞任、見えない理由に深まる政治的混乱****
3月20日、ベトナム共産党はヴォ・ヴァン・トゥオン国家主席の辞任を公表した。これにつき、フィナンシャルタイムズ紙の3月20日付け解説記事‘Vietnam political turmoil deepens as president resigns’は、①トゥオン国家主席の辞任の理由の詳細は明らかにされていない、②国家主席の更迭は昨年のフック氏に続く異例の事態であり、ベトナムへの投資を検討している投資家心理に悪影響をもたらす、と報じている。要旨は次の通り。
*   *   *
(FT記事要旨)
ベトナム共産党は、何百人もの役人の逮捕と高いランクの政治家の辞任を生んだ汚職捜査の中、「トゥオン国家主席は規則違反などを理由に辞任した」と公表した。このことは、政治的混乱を深め、投資家の心理に良くない影響をもたらす。

米中の緊張激化を受けて、製造拠点の中国からの多角化がすすみ、ベトナムが外国投資を引き付けている中での政治的混乱である。

共産党は、トゥオン氏の辞任を受領し、「同氏が党員としての禁止事項に関する規則を破った」との声明を出した。「トゥオン氏の違反行為は、世論や党、国家の評判を傷つけた」と同党は述べたが、詳細は明らかにしなかった。
 
国家主席は、党書記長に次ぐポストである。この2つは、首相と国会議長を含む4人の集団指導体制の一員である。現書記長のグエン・フー・チョン氏は、数年にわたる汚職粛清の陣頭指揮を執ってきた、評論家は粛清の対象は政敵にも及んでいると言っている。

53歳のトゥオンは昨年3月に国家主席に任命された。そして79歳のグエン・フー・チョン氏の後継者の一人と目されていた。

チョン氏は2026年には退任するとみられる。チョン氏による政府上層部の大改革の中で、23年1月、トゥオン氏の前任者であるグエン・スアン・フック氏が辞任し、2人の副首相も職を離れた。

汚職捜査が長引き、民間企業にも拡大するにつれ、政府のプロジェクト承認やライセンス付与に影響を及ぼしていることから、投資家は神経質になっている。役人たちは、汚職捜査の対象となることを恐れて、認可を与えることを躊躇するようになっている。

トゥオン氏の辞任は政治的安定にとって好ましくない。また、捜査の一環として外資系企業が汚職容疑で調べられることはなくても、官僚的手続きの遅れと政治的不安定が投資家に影響を及ぼす。このような事態は、ベトナムに大規模な投資を行おうとしている外国企業を躊躇させてしまう。
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(論評)
昨年1月から4人が解任
今般のトゥオン国家主席の辞任は、多くの人にとって突然の驚きであった。記事が述べている通り、外国投資家の心理に影響が出ることが懸念されるだけでなく、各種プロジェクトの承認がこれまで以上に遅延する恐れが高くなると思われる。

辞任理由については、「党員として禁止事項を破った」という説明しかなく、詳しいことは推測するしかないが、3月20日の臨時中央委員会総会では、トゥオン国家主席の辞任だけでなく、ラン・ビンフック省前共産党書記の除名処分等が決定されている。

ラン前党書記は、不動産会社フックソン・グループの不正経理事件に絡み、8日に収賄容疑で逮捕されたが、同じタイミングでビンフックおよ及びクワンガイ省の人民委員長、元人民委員長等も収賄容疑で身柄を拘束されている。

トゥオン国家主席は、11年から16年までクアンガイ省の党書記をしていたことから、この事件に関連して責任を問われていると思われる。(中略)

いずれにせよ、昨年1月からこれまでの間、18人の政治局員の内、4人も解任されている。フック国家主席(前首相)、ミン副首相(前外相)、アイン中央経済委員長(前商工相)、今回のトゥオン国家主席(前党書記局常務)である。

過去十年間の経済発展、国際社会におけるベトナムの地位向上に大きな貢献をされた有能な方々であり、「不透明な形」で辞任せざるをなかったことは、異例の事態であり、ベトナムにとって大きな損失である。

政治的停滞に外国人投資家はどう反応するか?
また、21年以降23年10月までの間に、約1300の汚職事案で3500人以上が逮捕・訴追されており、汚職に対する「社会の意識改革」も相当進んだと思われる。そして何よりも、このような状況が更に続くようなことがあれば、政策決定が一層遅れることに加え、政治動向に不安感が広まって、外国の投資家が様子見をすることになると思われる。

今後、新国家主席の就任に合わせ、指導部が一致して「国の一体性」と「法の支配」を維持しつつ、45年の先進国入りに向けて邁進することを表明し、党及び政府職員が高い倫理観をもって、迅速に職責を果たすよう促すことを期待したい。【4月16日 WEDGE】
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そして更に新たな「辞任」が報じられています。

****ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任から数週間****
ベトナム政府は26日、ブオン・ディン・フエ国会議長が「違反と欠点」を理由に辞任したと発表した。先月のボー・バン・トゥオン国家主席の解任に続くもので、政治の混乱を示す形となった。国会議長はベトナム指導部の「4本柱」の一人。

67歳のフエ氏は元経済学者で副首相も務めた。最高位であるベトナム共産党書記長の候補として注目されていた。

共産党中央委員会は政府のウェブサイトに掲載された声明で、「フエ氏の違反行為と欠点は否定的な世論を引き起こし、党と国家並びに同氏自身の評判に影響を与えた」と表明。同氏の辞任が受理され、中央委員会と政治局から外れるとした。違反の内容は記されていない。数日前にはインフラ企業が関わる汚職疑惑で同氏の側近が逮捕されたと発表されている。

3月には共産党が党則違反を理由にトゥオン氏を解任した。フエ氏の辞任を受けて、東南アジアの製造業のハブであるベトナムの政治の安定を巡り、海外企業などの懸念が強まる恐れがある。【4月26日 ロイター】
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ベトナムは共産党書記長、国家主席、首相、国会議長の「4本柱」の指導体制を敷いていますが、相次ぐ国家主席・国会議長の更迭で、チョン書記長への権力集中が進むと予想されます。

それが目的の政治的な意図をもった汚職摘発運動(「燃える炉」という運動名のようです)なのか、あくまでも結果に過ぎないのか・・・そこらはよくわかりませんが、中国・習近平「一強」体制を作り上げた「トラもハエも叩く」反汚職運動は多分に政敵排除の側面があったと指摘されています。

【慎重にコントロールされる中国との関係】
歴史的な背景もあって対中国感情は良くなく、南シナ海での領有権を争う中国との関係はベトナムにとっては微妙。政治的には激しく対立しながらも、経済関係に影響が及ばないように、また、最悪の事態で「戦争」に至らないように(過去には実際に戦争を経験していますので)バランスを取ることが求められています。

前出【WEDGE】で紹介されているWSJ社説が触れている「指令24号」もこうした中国を意識した面が強いとも。
一方で、中国との間の高速鉄道建設も進むようです。

****ベトナム、30年までの高速鉄道着工を計画 ハノイと中国結ぶ****
ベトナム計画投資省は、首都ハノイと中国を結ぶ高速鉄道2路線の建設を2030年までに開始することを目指すと明らかにした。

中国はベトナムにとって最大の貿易相手国。両国は既に高速道路と2本の鉄道路線で結ばれているが、ベトナム側の老朽化が進み、改修が必要となっている。

計画投資省が9日に発表した声明によると、高速鉄道はベトナムの港湾都市ハイフォン市とクアンニン市からハノイを通り、中国雲南省と国境を接するラオカイ省に至る。もう一方の路線は、ハノイから中国の広西チワン族自治区に隣接するランソン省までで、製造施設が密集する地域を通過する。 

同省はプロジェクトの詳細については明らかにしなかった。
ベトナム政府は今月、同国初となる高速鉄道網の建設で中国の鉄道会社と協力するため政府関係者を派遣したと明らかにしている。

ベトナムでは、首都ハノイと商業の中心地ホーチミンを結ぶ高速鉄道の建設も計画されている。【4月10日 ロイター】
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首都ハノイと商業の中心地ホーチミンを結ぶ高速鉄道については、ベトナム政府は日本に支援を要請していますが、長年着工に至らず、下記のような話もあってやや不透明にもなっています。

****ベトナム初の高速鉄道建設、中国にノウハウ提供求める****
ベトナム政府は、国内を縦断する同国初の高速鉄道建設について、中国からノウハウを学びたいと表明した。
国営メディアによると、国内総生産(GDP)の17%に相当する最大720億ドルを投じて、全長1545キロメートルの高速鉄道網を建設する計画。

ベトナム政府は週末に発表した声明で「中国の鉄道産業は世界で最も発展しており、ベトナムはその経験から特に技術、資金動員、経営ノウハウの面で学びたいと考えている」と表明。(後略)【4月1日 ロイター】
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西アフリカ  軍事政権、米仏の撤退、露の影響拡大の流れ 「民主主義のとりで」を守ったセネガル

2024-04-25 23:29:04 | アフリカ

(アメリカ軍の駐留に抗議するニジェールの人々【4月23日 Newsweek】)

【マリ、ブルキナファソ、ニジェールで相次いだ仏軍撤退 ニジェールでは米軍も 強化される露との関係】
かつてフランスの植民地だった西アフリカでは、ここ数年軍事クーデターに伴う似たような流れが相次いで起きています。

イスラム過激派の台頭・治安悪化、軍事クーデターによる軍部の権力奪取、軍を駐留して過激派掃討にあたっていた旧宗主国フランスとの関係悪化、間隙を縫うように軍事政権との関係を強化する民間軍事会社ワグネルを先兵とするロシア、そして最終的には駐留フランス軍の撤退、ロシアの影響力の更なる拡大・・・・という流れです。

マリでは20年のクーデターで軍部が権力を握ると、旧宗主国フランスとの関係が悪化し、ワグネルと軍部の関係が強化されました。暫定軍事政権が反仏、反国連の動きを強めるなか、22年にはフランス軍が撤退。23年6月末には国連平和維持部隊(PKO)の撤退も決まりました。

ブルキナファソでも同様の流れで、2022年に軍事クーデターが起き、フランス軍は23年2月までに撤退しています。

ニジェールでは、23年7月のクーデターでフランス寄りの大統領が排除され、23年9月にマクロン大統領はフランス軍撤退を表明しています。

フランス軍撤退の空白を埋めているのは武器支援などで軍事政権との関係を強化するロシア(ワグネル解体後はロシアの直接介入)ですが、フランスに続きアメリカも撤退を余儀なくされ、ロシアの影響力は更に強化される見通しです。

****米軍がニジェールから撤収へ アフリカの過激派監視拠点 ロシアは軍事顧問派遣、強まる影響力****
西アフリカのニジェールに駐留する米軍が撤収する見通しとなった。米国務省が24日、米軍撤退についてニジェール側と協議すると発表した。周辺地域の情勢不安定化に拍車がかかるとの懸念が出ている。

ニジェールでは、マリやブルキナファソに続いて昨年7月、クーデターで軍部が実権を掌握した。3カ国はいずれもフランスの旧植民地で、ロシアの影響力浸透が目立っている。(中略)

ロイター通信によると、ニジェール軍部は今年3月に米軍との駐留協定を取り消す意向を示していた。旧宗主国フランスも軍を駐留させてきたが、クーデター後の昨年末に撤収した。

ニジェールは親欧米のバズム大統領がクーデターで排除されるまでは、米仏がアフリカのイスラム過激派の動向を監視する要衝だった。米軍は1000人超の要員を配置し、中部アガデス近郊の空軍基地で無人機(ドローン)による監視活動を行っている。

一方、ニジェールのメディアによると、露国防省が派遣した軍事顧問らが今月10日、現地に到着した。ニジェールの軍部と露政府は最近、関係強化を盛り込んだ協定を締結したとされ、ロシアがニジェールに対空ミサイルを供与するとの観測も出ている。

ロシアはかつて、民間軍事会社ワグネルを先兵にアフリカ諸国の取り込みを図り、偽情報を拡散して親露感情をあおってきたと指摘される。

ワグネルのトップ、プリゴジン氏は搭乗していたジェット機が墜落して昨年8月に死亡し、露政府が地盤を引き継いだ可能性がある。ニジェールは原子力発電で使用されるウランの世界屈指の生産国として知られる。

ロイターによると、アフリカ西部や中部ではこの4年間に8回のクーデターが起きた。ニジェールなどサハラ砂漠南縁部のサヘル地域では過激派が暗躍し、22年には過激派関連の事件で推定8000人が死亡した。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカーイダ系の組織が勢力を広げているもようだ。【4月25日 産経】
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フランス軍の相次ぐ撤退の背景には、アフリカ諸国からすれば、フランスの植民地宗主国時代と同じような尊大な態度によって地元住民・軍部との間に軋轢があったともされていますが、西側的に見れば、人権や民主主義に関する価値観の違いもあってのことでしょう。

アメリカとの間でも似たような“上から目線”への反発という感情的対立もあるようです。
また、フランス・アメリカが撤退するなかで、ロシアだけでなく中国やイランの影もチラついているようです。

****ジェールで反米加速...接近するのは「あの国」*****
<米政府高官の「尊大な態度」を理由の1つに米軍の撤退を求める大規模な抗議デモが勃発>
西アフリカのニジェールの首都ニアメーで4月13日と14日、米軍の撤退を求める大規模な抗議デモが行われた。

昨年7月のクーデターで権力を掌握したニジェールの軍事政権は、3月にアメリカとの軍事協定破棄を表明。その理由の1つとして軍報道官は、ロシアやイランとの関係について自分たちをたしなめようとした米政府高官の「尊大な態度」を挙げていた。

ニジェールは昨年、旧宗主国フランスの大使と軍隊を追放し、EUとの不法移民対策の協定も破棄している。

イスラム過激派との戦いを続けるニジェールが距離を縮めているのがロシアだ。今回のデモ直前の10日には、昨年12月に合意した防衛協定に基づき、ロシアの対空防衛システムがニジェールに到着した。

アメリカにさらなる打撃を与えたのは、軍政トップが駐ニジェール中国大使と会談したこと。ニジェール指導部はイラン政府高官とも会合を重ねている。米国務省は19日、ついに米軍の撤退で同国と合意した。【4月23日 Newsweek】
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3月には、ニジェールに埋蔵されているウランを巡り、軍事政権がイランによるアクセスの容認をひそかに検討しているとされたことで軍事政権とアメリカが対立、軍事政権はアメリカとの対テロ同盟を解消しています。

“米国のカート・キャンベル国務副長官が最近、ワシントンでニジェールの暫定首相と会談した際、ロシアへの接近や民政移管の道筋を示していないことに対し、「賛同できない」と伝えた。”【4月23日 読売】とのことですが、軍事政権からすれば、「余計なお世話だ。黙って支援してくれるロシアの方がずっとマシだ」ということなのでしょう。

【イスラム過激派の暗躍】
“ニジェールなどサハラ砂漠南縁部のサヘル地域では過激派が暗躍し、22年には過激派関連の事件で推定8000人が死亡”・・・ブルキナファソでは2月に村が襲撃されて170人が殺害されるような事態も。

****ブルキナファソ 3つの村が襲撃され約170人殺害 検察「処刑された」 イスラム過激派が関与か****
西アフリカのブルキナファソで、3つの村が襲撃され、およそ170人が殺害されました。イスラム過激派が関与した可能性があり、検察当局は、「処刑」されたとしています。

AFP通信などによりますと、ブルキナファソ北部のヤテンガ県で先月25日、3つの村が襲撃され、およそ170人が「処刑」されたと現地の検察当局が発表しました。目撃者の話では、死者のうち、数十人が女性や子どもだったということです。

村を襲撃した集団についてはわかっておらず、ブルキナファソの検察当局は、目撃情報を集めるなど捜査を進めています。

ブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返され、およそ2万人が死亡。200万人以上が避難を余儀なくされるなど治安の悪化が深刻になっています。【3月4日 日テレNEWS】
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現地では欧米的な人権・民主主義を重視する価値観とは全く異なる現状もあります。ただ、だからといって人権侵害・非民主的政治を容認していいという話でもありませんが。

【セネガル 選挙による民主的な政権交代が実現 守られた「民主主義のとりで」】
西アフリカでマリ、ブルキナファソ、ニジェールでの上記のような軍事クーデター、ロシアとの接近、米仏との関係悪化という流れがあるなかで、同じ西アフリカのセネガルの大統領選挙が混乱し、実施が延期されるなど、西側が事態を憂慮していました。

結果的には、選挙による政権交代が実現し、西側からすれば“「民主主義のとりで」が守られた”ということにもなっています。

****延期されたセネガル大統領選で野党のファイ氏が当選、政権交代へ****
延期により混乱の中で3月24日に行われたセネガル大統領選で、野党の労働・論理・博愛のためのセネガル・アフリカ愛国党(PASTEF)候補のバシル・ジョマイ・ファイ氏が243万4,751票(得票率54.28%)を獲得し、当選した。

29日に憲法評議会の承認を受け、4月2日に大統領に就任した。12年間政権を握っていたマッキー・サル前大統領の後継者の与党連合(ベンノ・ボック・ヤーカール、BBY)候補のアマドゥ・バ氏の得票数は160万5,086票(得票率35.79%)で、ファイ氏に大きく引き離された。

今回の選挙を巡っては、2月3日にサル大統領(当時)が選挙の無期限延期を発表するなど、異例の事態に国内で緊張が高まり、国際社会も憂慮を示していたが、憲法評議会は同15日、無期限延期に関する大統領令は違憲との判断を示し、憲法にのっとって選挙日程を再調整するよう当局へ要請していた。

その後、サル氏のイニシアチブで開催された国民対話の結果、第1回投票を6月2日に実施し、サル氏の任期については憲法が定める4月2日から延長すると提言されたが、憲法評議会はこれらの提案を却下し、選挙を4月2日までに行うことと、大統領の任期延長は認められないことを通達した。

これを受け、サル氏と憲法評議会は3月24日に投票を実施することで合意し、今回の選挙実施に至った。

選挙に敗れたバ氏はファイ氏に電話で当選を祝福するとともに、セネガルの民主主義の成熟さと活力が世界に示されたと述べ、サル前大統領もまた、大統領選挙の円滑な運営を賞賛し、ファイ氏の当選を祝福した。

ファイ氏は投票翌日、記者会見で演説を行い、国内外の有権者の信頼に謝辞を述べるとともに、自由で民主的かつ透明性のある選挙を実現したサル前大統領の采配を祝した。

ファイ氏はまた、PASTEFの規約に基づき、2022年10月から務めていた党の事務総長職を辞任することを表明した。セネガルでは、大統領が党首を兼任することが長きにわたって批判されてきたことから、この決定は透明性と妥当性を示す決意として、権力集中との決別の象徴と受け止められている。

また、今後の政権運営では、誠実さと透明性をもって、あらゆるレベルで汚職と闘うことを約束するとともに、目下の課題として、(1)国民和解、(2)制度の再建、(3)生活費の大幅削減、(4)公共政策を巡る対話という取り組みを掲げた。(後略)【4月5日 JETRO】
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マリ、ブルキナファソ、ニジェールで起きた流れのなかで、セネガルは西側の民主主義陣営にとって西アフリカにおける「民主主義のとりで」のような存在でもありましたが、当初の告示日前日だった2月3日にサル氏が選挙の「無期限延期」を宣言し、首都ダカールではデモ隊と治安部隊が衝突、政府は携帯電話の通信を遮断するなどの強硬措置をとるなど事態が混乱し、西側は成り行きを憂慮していました。

セネガルでなんとか民主的な政権交代が実現できたのは、憲法評議会の毅然とした対応があったからだと思われます。

【西アフリカなどのサブサハラとその他の地域の格差拡大 政情不安や気候変動】
しかし、西アフリカを含む、サハラ以南の「サブサハラ」諸国の経済状況は政情不安や気候変動の影響もあって芳しくありません。

****サハラ以南アフリカ、他地域と所得格差が拡大=IMF****
国際通貨基金(IMF)は19日、サブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカ地域が緩慢な経済回復を背景に、所得改善で他地域にさらに後れを取っていると指摘。地政学的状況や政情不安、気候変動によるリスクを挙げた。

IMFは地域経済見通しで「人口増加を考慮すると世界の他地域との所得格差は拡大している」とした。

他の途上国は2000年以降、一人当たりの実質所得が3倍以上に増えたが、サブサハラ地域の伸びは75%にとどまったとした。先進国は35%増えた。

ただ、IMFのアベベ・セラシー・アフリカ局長によると、足元では地域諸国の3分の2で改善ペースが加速するなど、前向きな動きもある。

IMFはまた、同地域の多くの諸国で経済環境が今年に入り緩和し始め、コートジボワール、ベナン、ケニアが外貨建て国債を発行したと指摘。インフレ率の中央値は1年前の10%近くから2月には6%に低下した。

しかし、政情不安は高まりつつあるとし、軍政を敷くブルキナファソ、マリ、ニジェールが西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を脱退し、地域全体で今年、18の選挙が行われることに言及した。

干ばつやサイクロン、洪水の被害も地域の苦境を増大させていると指摘した。【4月22日 ロイター】
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【ガーナ・コートジボワール 主力産物カカオが壊滅的な被害】
西アフリカのガーナやコートジボワールの主力農産物であるチョコレート原料のカカオが壊滅的な打撃を受けているとの報告もあります。原因は気候変動の影響もありますが、それ以外に違法な金採掘の横行、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なっているとも指摘されています。

****西アフリカのカカオ大国「終わりの始まり」か、生産が壊滅的落ち込み****
彼女のカカオ農園は有毒物質で汚染され、赤茶色に染まった水たまりが点在していた。違法な金採掘業者が残したものだ。農園の所有者ジャネット・ジャムフィさん(52)は、この荒れ果てた風景に心が折れかけている。

ガーナ西部にあるこの27ヘクタールの農地には、昨年まで6000本近いカカオの木が植えられていたが、残っているのは12本に満たない。(中略)

西アフリカのガーナと隣国コートジボワールは長い間カカオの供給量が世界全体の60%超を占める「カカオ大国」だった。しかし今シーズンは収穫量が壊滅的に落ち込んでいる。(中略)

ロイターが農家、専門家、業界関係者など20人余りに取材したところ、ガーナのカカオ生産の落ち込みは違法な金採掘の横行、気候変動、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なったことが分かってきた。

ロイターが独占入手した2018年以降のデータによると、ガーナの政府機関「ココア委員会(COCOBOD)」は最悪の場合59万ヘクタールの農園が、最終的にカカオを枯死させる「カカオ膨梢ウイルス」に感染していると推定している。

ガーナのカカオ栽培地は現在約138万ヘクタールだが、COCOBODによるとこの数字には、まだ収穫はあるが既にカカオ膨梢ウイルスに感染した木も含まれる。

トロピカル・リサーチ・サービスのカカオ専門家、スティーブ・ウォータリッジ氏は「生産は長期的な減少傾向にある」とした上で、「臨界点に達しなければ、収穫量がガーナで20年ぶり、コートジボワールで8年ぶりの水準にまで落ち込むことはなかった」と述べた。

専門家は、ガーナの収穫量急減は簡単には解決不可能な問題で、市場に衝撃を与えており、西アフリカ諸国がカカオ市場を牛耳っていた時代の「終わりの始まり」になるかもしれないと指摘する。(後略)【3月30日 ロイター】
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【モバイルマネー取引の拡大という意外な面も】
やや意外な印象もあるのは、西アフリカはモバイルマネー取引(携帯電話やタブレットなどのモバイル装置を使って実行可能な 金融取引あるいは金融サービス)が進んでいるという話です。

****サブサハラ・アフリカのモバイルマネー取引額、前年比12%増の9,120億ドル****
モバイルコミュニケーションに係る世界的な業界団体GSMAは4月に「モバイルマネーに関する産業動向レポート2024」を発表した。

同報告書によると、2023年のサブサハラ・アフリカのモバイルマネー取引額は前年比12%増の9,120億ドル、取引件数は前年比28%増の620億件、登録アカウント件数は19%増の8億3,500万件だった。1回当たりの取引額は小さいものの、モバイルマネーの利用は増加傾向だ。

地域別にみると、西アフリカでのアカウント開設が多く、2023年のアクティブな新規アカウント数の3分の1以上が西アフリカだった。特にナイジェリア、ガーナ、セネガルでの増加が成長を牽引したという。

モバイルマネーによる国際送金についても、西アフリカが成長を牽引し、アフリカ全体では前年比約33%増の290億ドルだった。(後略)【4月25日 JETRO】
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全くの憶測ですが、西アフリカ地域では銀行システムが十分に普及・利用されていないことが背景にあるのではないでしょうか。

いずれにしても、モバイルマネーのような新技術を利用することによって地域経済が活性化されるのであれば、歓迎すべき話でしょう。

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インド洋・南太平洋島しょ国で地政学的に注目される総選挙がふたつ モルディブとソロモン諸島

2024-04-24 23:37:50 | 国際情勢

(ソロモン諸島の遠隔地に投票箱を運ぶ支援をするニュージーランド軍の部隊【4月19日 ロイター】)

【インド洋のモルディブ 親中国の与党が圧勝】
世界各地で“勢力圏”維持・拡大を目指す大国間の綱引きが日々行われていますが、先週・今週はインド洋のモルディブ、南太平洋のソロモン諸島という島しょ国で注目される選挙が行われました。

いずれも小さな島国ではありますが、地政学的な重要性から、選挙結果が国際的に注目されています。

先ず、インド洋の島国、モルディブは伝統的に影響力を行使してきたインドと、近年進出が著し中国の争い。
選挙前の時点では、昨年末に就任した親中国派の大統領が駐留インド軍の撤退を求める一方で、議会は親インド派の野党が最大勢力でした。

****中国接近強める大統領就任後初の総選挙、モルディブ親中与党の過半数獲得が焦点…駐留インド軍は撤退始める****
インド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで21日、総選挙(一院制、定数93)の投票が行われた。中国への接近を強めるモハメド・ムイズ大統領が昨年11月に就任してから初の総選挙となる。少数与党だったムイズ氏率いる人民国民会議(PNC)が過半数を取れるかどうかが焦点だ。
 
モルディブはインド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝で隣国インドや中国が選挙結果を注視している。
ムイズ氏は昨年秋の大統領選で「駐留する印軍の撤退」を掲げ、野党モルディブ民主党(MDP)を率いる親インドの現職を破って大統領に就任した。

1月には歴代大統領の慣例を破ってムイズ氏がインドより先に中国を訪れ、習近平シージンピン国家主席と経済面などでの連携強化を確認した。3月には、中国が無償でモルディブに軍事援助する内容の協定に両国が調印した。海洋監視などを担っていた印軍は3月に撤退を始めた。
 
改選前の最大勢力は42議席を持つMDPで、与党のPNCは16議席にとどまっていた。ムイズ氏の大統領就任後は、閣僚任命などを巡って国会が空転した。
 
モルディブでは中国の融資によるインフラ(社会基盤)整備が進む。PNCは単独過半数を獲得し、事業を加速させたい考えだ。ただ、ムイズ氏を支持してきた大統領経験者が昨年11月に新党を設立したため、PNCの思惑通りにならないとの見方がある。【4月22日 読売】
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結果は・・・親中国派の与党が3分の2超の議席を獲得する圧勝でした。
中国支援によるインフラ開発の利益に対する国民期待が大きかったと指摘されています。

****モルディブ総選挙、親中大統領率いる与党が大勝…インフラ整備で対中債務が膨張する懸念も****
インド洋の島国モルディブで21日に投開票された総選挙(一院制、定数93)で、親中国のモハメド・ムイズ大統領が率いる与党・人民国民会議(PNC)が単独で3分の2超の議席を獲得し、大勝した。複数の地元メディアが22日報じた。対中接近がさらに進みそうだ。
 
地元メディアは、少数与党だったPNCが改選前の4倍超の65議席以上を獲得すると報じた。一方、親インドの野党モルディブ民主党は11〜13議席にとどまり、改選前の3分の1を割り込む見通しだ。
 
ムイズ氏は、中国に接近した2013〜18年のアブドラ・ヤミーン政権でインフラ(社会資本)整備の担当閣僚を務め、中国の融資を受けて首都マレと空港島を結ぶ橋や、首都周辺の高層住宅の建設を主導した。今回の選挙戦でもPNCはインフラ整備推進を掲げており、外交筋は「政権が約束する開発の利益実現を国民が期待したのではないか」と分析する。
 
ただし、中国の融資でインフラ整備がさらに加速した場合、債務の膨張が懸念される。モルディブは今年2月、国際通貨基金(IMF)に「大幅な政策変更がなければ、対外債務に窮するリスクを今後も抱えるだろう」と警告を受けた。
 
インドの影響力はさらに低下しそうだ。昨年の大統領選でムイズ氏が掲げた公約に従い、海洋監視などのためにモルディブに駐留していたインド軍の撤退が進んでいる。インド洋の安全保障の観点からインドはモルディブを重視しており、主要紙タイムズ・オブ・インディアは「モルディブがさらにインドから離れる」と危機感を示した。
 
一方、中国外務省報道官は22日の記者会見で「モルディブの人々の選択を尊重し、各領域における交流や協力を拡大させる努力をする」と述べ、ムイズ政権との関係強化の方針を示した。【4月22日 読売】
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【南太平洋のソロモン諸島 与野党ともに過半数獲得できず連立協議が焦点に】
南太平洋のソロモン諸島は旧日本軍が攻防戦を戦ったガダルカナル島を中心とした島しょ国ですが、近年は台湾と断交した親中国派の首相のもとで中国と安全保障協定を結び、中国の南太平洋島しょ国への進出のモデル事例・橋頭保ともなっています。

一方、中国に対抗してこの地域での影響力維持拡大を目指すアメリカ・オーストラリアは、ソロモン諸島が中国の軍事拠点となるのではないかと警戒を強めています。

****ソロモン諸島で総選挙の投票始まる 台湾と断交し中国と関係深める“現政権継続か”が最大の焦点に****
南太平洋の島国、ソロモン諸島で17日、総選挙の投票が始まりました。台湾と断交して中国との関係を深める現政権が継続するかが最大の焦点です。

オーストラリアの北東、およそ1600キロに位置する人口70万人あまりのソロモン諸島で現地時間の朝7時、総選挙の投票が始まりました。

前回、2019年の総選挙で、4度目の首相に就任したソガバレ氏はその年に、台湾と断交して中国との国交を樹立。中国資本による開発を急ピッチで進めるなど、経済的な結びつきを強めています。

また、2022年には中国と安全保障協定を締結し、安全保障の分野でも関係を強化していて、ソロモン諸島に近いオーストラリアなど西側諸国は、中国の軍事拠点ができるのではと警戒しています。

ロイター通信によりますと、ソガバレ氏はソロモン諸島では前例のない2期連続での政権運営を目指し、親中路線を継続する姿勢を鮮明にしています。

一方の主要野党は、ソガバレ政権が過度に中国に依存していると批判し、中国との安全保障協定の破棄など関係見直しを訴えています。

南太平洋の島国では今年、ナウルが台湾と断交して中国と国交を樹立するなど、中国の影響力が強まっています。オーストラリアメディアは、今回のソロモン総選挙は「南太平洋地域の将来を左右する可能性がある」とも指摘しています。

総選挙の結果が判明するのには1週間程度かかるとみられ、新政権の発足は、来月初旬ごろになる見通しです。【4月17日 日テレNEWS】
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こちらの結果は、親中国路線の与党は過半数を失いましたが、野党も単独過半数には至らず、連立協議が注目されています。親中派のソガバレ首相は議席を維持しています。

****ソロモン 親中ソガバレ大統領派は過半数確保できず 議会選結果確定 連立協議へ****
南太平洋のソロモン諸島で24日、議会(定数50)選挙の結果が確定した。親中派のソガバレ首相が率いる与党OUR党の獲得議席は15にとどまった。単独で過半数の議席を確保した政党はなく、与野党の連立協議が始まった。

急速な中国接近を進めるソガバレ氏が続投するかが焦点で、米国や中国、オーストラリアが協議の行方を注視している。

選挙は17日に行われた。地元メディアによると、野党連合が13議席、別の野党の統一党が7議席を獲得した。このほか、少数政党や無所属候補が15人当選しており、各党が取り込みを進めている。

選挙戦でソガバレ氏は中国支援によるインフラ整備を政権の実績としてアピールしたが、中国接近に反発する一部有権者が野党支持に回ったようだ。議会選と同時に行われた地方議会選挙では親中派として知られた東部マライタ州首相、フィニ氏が落選した。

ソガバレ氏は2019年の前回選挙で4度目の首相に就任。同年、台湾と断交し中国と国交を樹立した。22年には中国軍の寄港を可能とする安全保障協定を結ぶなど、急速に中国との関係を深めた。

連立協議について米ブルームバーグ通信は「ソガバレ氏が敗れれば、中国の太平洋における戦略的野心を後退させるだろう」と指摘した。【4月24日 産経】
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【激化する南太平洋島しょ国をめぐる米豪・中国のせめぎ合い】
こうした状況を睨みつつ、南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではないとも発言しています。

****南太平洋地域、大国間の対立の場となるべきではない=中国外相****
南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は20日、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではなく、域内の国々への支援に政治的条件はないと述べた。

パプア外相との共同記者会見で「中国の南太平洋島しょ国への関与と協力は地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」と語った。

その上で、中国はパプアとハイレベルの交流を維持し、自由貿易協定の交渉をできるだけ早く開始する用意があるとした。

また、中国国営の新華社通信によると、王氏は全ての当事者が太平洋島しょ国ソロモン諸島の人々の選択を尊重し、内政干渉を控えるべきだと述べた。(後略)【4月22日 ロイター】
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もちろん外交的建前であり、米豪からすれば「対立を持ち込んでいるのは中国だ」という話にもなります。

****中国は「要衝」島嶼国の取り込み注力 米国とのせめぎ合い激化****
中国の習近平政権は太平洋島嶼(とうしょ)国の取り込みに力を入れている。経済力を背景に台湾と外交関係を持つ国の切り崩しを進めているほか、治安維持部門の協力をテコに影響力拡大を図っている。

南太平洋は海上交通路(シーレーン)の要衝であり、米国とのせめぎ合いも激しくなっている。

1月、ナウルが台湾との外交関係を解消して中国と国交を樹立した。同月の台湾の総統選では、中国が「台湾独立派」と敵視する民主進歩党の頼清徳副総統が当選しており、民進党政権への圧力の一環とみられる。

1月にはツバルの総選挙でナタノ首相が落選した。在任中は台湾との外交関係を続ける姿勢を堅持しており、ツバルの新政権の動向に注目が集まる。19年にはソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交し、中国と国交を結んでいる。

中国は昨年2月、太平洋島嶼国担当の特使を新設し、18年から駐フィジー大使を務めた銭波氏を任命した。太平洋地域での経済、軍事的な影響力を拡大させることにつなげる狙いがある。

今年1月にはパプアニューギニアが中国と警察協力について交渉中であることが明らかになった。ソロモンは22年に中国軍駐留を可能とする安全保障協定を締結しており、中国は他の島嶼国にも同様の協定を結ぶよう打診している。

中国にとって同地域は戦略的に重要な意味を持つ。台湾有事の際に米海軍の接近を阻止する防衛ライン「第2列島線」上に位置するためだ。ハワイやグアムの米軍基地をにらんだ戦略的拠点を確保する狙いもある。

米国にとっても戦略上の要衝であり、中国の影響拡大を阻止するための対応を進めている。米国は22年に島嶼国との第1回首脳会議を開き、安全保障面などで連携を強化する「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。23年にソロモンとトンガに大使館を開設するなど関与を強化してきた。【2月8日 産経】
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パプアニューギニアのトカチェンコ外相は2月7日、「われわれが中国と安全保障協定を結ぶ手続きを前に進めることは絶対にない」と述べています。トカチェンコ氏は1月末、中国から安保協力の提案があったことを認めていましたが、協定締結を明確に否定した形となっています。【2月7日 時事より】

前出の王毅外相のパプアニューギニア訪問は、こうした動きを踏まえたものでもあります。

【中国が進める警察協力】
経済支援と並行して中国が進めるのが警察協力。

ソロモン諸島は22年に中国と安全保障協定、23年に警察協力協定を締結し、中国から財政支援を受けています。
バヌアツにも23年に中国が警察の専門家グループを派遣。警察物資を提供し、警察の能力向上やインフラ整備について協議しています。

****キリバスで中国警察が活動、米国務省が懸念表明****
米国務省報道官は26日、太平洋島しょ国が中国の警察から支援を受けることに懸念を示した。

ロイターは先週、太平洋島しょ国のキリバスで中国の警察官が現地の警察とともに活動していると報道。中国の警察官が地域の警備や犯罪データベースプログラムに関与している。

同報道官はこの報道について「中華人民共和国から警察隊を受け入れることが太平洋島しょ国の助けになるとは思えない。むしろ、地域の緊張や国際的な緊張をあおるリスクがある」と発言。

世界各地への警察署の開設など、中国の「国境を越えた弾圧の取り組み」を容認しないとし「中華人民共和国との安全保障協定や安保関連のサイバー協力が、太平洋島しょ国の自治に及ぼす潜在的な影響を懸念している」と述べた。

キリバスはハワイに比較的近く、太平洋で350万平方キロメートル以上の排他的経済水域(EEZ)を有するため戦略的に重要な国家と見なされており、日本の衛星追尾用のレーダーステーションもある。【2月27日 ロイター】
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****中国、トンガにサミット警備支援申し出 「勢力圏拡大には関心なし」****
中国は12日、南太平洋の島国トンガに対し、同国で8月26日に開催される太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)の警備支援を申し出たと明らかにする一方、南太平洋での中国の影響力をめぐる西側諸国からの懸念を一蹴し、「勢力圏拡大に関心はない」と主張した。

人口11万人に満たないトンガは、サミット開催には支援が必要だと訴えている。だが、西側諸国は、特に安全保障を中心に南太平洋での中国の影響力拡大を懸念している。

在トンガ中国大使館はAFPの取材に対し、トンガ警察がサミットに対応できるよう、バイク20台と「車列警護訓練」の提供を申し出たと述べた。

さらに、「中国は地政学的競争や、いわゆる『勢力圏拡大』には関心がない」とし、中国はトンガの主権と独立を「全面的に尊重」していると説明。支援を希望する他の国々とも喜んで協力すると補足した。 【4月13日 AFP】
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一方フィジーでは、軍事クーデターで実権を掌握した前政権とオーストラリアやニュージーランドとの関係が悪化し、前政権は中国と接近、2011年には中国と警察協力協定を結び、中国の警官派遣を受け入れ、フィジーの警官を中国で訓練させるなどしてきました。

しかし、2022年12月の総選挙結果を受けて首相に就任したランブカ首相は中国との関係の見直しを進め、今年3月末、自国に駐在する中国人警察官を中国に送還したことを明らかにしています。

中国・王毅外相の「地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」という建前と裏腹に、米豪との勢力争い、台湾排除をめぐって熾烈な争いが続いています。

米豪・中国といった「大国」にすれば、島しょ国のような経済的に困難な「小国」はオセロの石のようにひっくり返しやすいという話もあるのでしょう。

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中国  止まらない少子化で「女が家庭を守る」伝統に回帰する習政権 しかし、女性の意識とは真逆

2024-04-23 23:17:45 | 中国

(【23年10月1日 WEDGE】 中国が2018年あたりから急速に低下している理由の分析も必要に思われます)

【止まらない少子化 「出産に優しい文化」キャンペーン】
経済協力開発機構(OECD)によると、1人の女性が生涯に産む子どもの人数を示す「合計特殊出生率」は、中国は21年に1.16でした。少子高齢化の進む日本の同1.30も下回り、深刻さを増しています。
22年には1.09に下がったとの現地報道もあって、少子化進行が止まりません。

****中国、止まらない少子化 出生数過去最少、雇用悪化で将来不安か****
中国国家統計局は17日、2023年末の総人口が22年末比208万人減の14億967万人だったと発表した。人口減少は2年連続で、減少幅は22年(85万人)より拡大した。教育費の増加や、若者の雇用環境の悪化などを背景にした少子化に歯止めがかからず、出生数が7年連続で減少したほか、死者数も増加した。

 ◇2年連続人口減、62年ぶり
2年連続の人口減少は毛沢東が主導した食料や鉄の大増産運動「大躍進」が失敗し、大量の餓死者を出した1960〜61年以来62年ぶりとなった。

23年の出生数は、前年比54万人減の902万人で49年の建国以来過去最少を更新した。

中国政府は79年から導入してきた「一人っ子政策」を見直し、21年からは3人目までの出産を容認。地方政府や企業も、複数の子供を育てる世帯を対象に補助金の支給や休暇の義務化を打ち出すなど対策を急ぐが、少子化を食い止められていない。

出生数低下の背景にあるのが、住宅価格や教育費など結婚・子育てにかかる費用の高騰だが、それに加えて若者の雇用環境の悪化による将来不安の影響も大きいようだ。

 ◇経済回復遅れ 若者失業率21%
新型コロナウイルス禍から経済の回復が遅れる中国では、23年6月には、都市部の若者(16〜24歳)の失業率が21・3%と過去最悪を更新。統計局は同8月、「統計の改善」を理由に公表を一時停止して物議を醸した。統計局は今回、公表を再開し、12月は14・9%に改善したとしたが、「学生を含まない」と調査対象を修正した影響などがあり、若者の雇用情勢は依然厳しい。

また65歳以上は2億1676万人と全人口の15・4%(前年比0・5ポイント増)となり高齢化がさらに進行した。中国政府が23年予算で計上した社会保障費(就業支出含む)は、3兆9192億元と、5年前の1・45倍に膨れ上がっており、今後さらにその割合が増加するとみられる。少子高齢化の加速は中長期的に中国の財政や経済成長に深刻な影響をもたらしそうだ。(後略)【1月17日 毎日】
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中国政府は出産増加に向けて、今のところは「強要」ではなく奨励策に力を入れる形で、あれやこれやの対策をとってはいますが、自分の人生を自分で決めたいと考える女性の意識の意識の強まりによって、目立った成果を上げていません。

****中国の出産圧力、女性が突きつける「ノー」****
政府は「もっと産め」 14億人の人口、2100年には約5億人に落ち込む可能性が高い

中国の女性たちは、もううんざりだと思っている。中国政府はもっと出産せよと要求するが、それに対する彼女たちの反応は「ノー」だ。

政府の嫌がらせに閉口し、子育てのさまざまな犠牲を警戒する若い女性の多くは、政府や家族の希望よりも自分自身を優先しようとする。彼女たちの拒絶によって中国共産党は危機に追い込まれている。高齢化する社会を若返らせるため、共産党は何としても赤ん坊を増やさなくてはならない。(中略)

昨年10月、習近平国家主席は政府が支援する「中華全国婦女連合会(ACWF)」に対し、「女性分野のリスクを予防し、解決する」ことを促した。(中略)共産党がいくら「家庭の価値観」を説いてもほとんど効果がなく、それは中国の農村部でも同様だ

「出産に優しい文化」キャンペーンは、緊急の国家課題の様相を呈し、政府主催のお見合いイベントや軍人家庭の出産を奨励するプログラムが設けられている。

西部・西安市の住民は8月、中国のバレンタインデーにあたる「七夕節」の期間に、政府の番号から自動音声メッセージを受け取ったという。「あなたに甘美な恋と適齢期の結婚が訪れますように。中国の血統をぜひ続けましょう」(中略)

政府は一人っ子政策の時代に特徴的だった「強要」ではなく、奨励策に力を入れる。地方政府は2人目・3人目を出産したカップルに現金を支給する。東部・浙江省のある県では25歳までに結婚したカップル全員に137ドル(約2万円)相当のボーナスを出す。(中略)

また当局は一人っ子政策時の重要な手段だった人工妊娠中絶を抑制しようとしている。1991年には1400万件を超えたが、2020年には900万件弱へと3分の1以上減少した。それ以降、中国は精管切除術や卵管結紮術、中絶に関するデータ公表を中止している。(中略)

カリフォルニア大学アーバイン校のワン・フェン教授(社会学)は、中国社会には二つの相反する変化が起きていると指摘する。女性の権利への認識が高まったことと、家父長制を推進する政策の拡大だ。(中略)

中国政府はフェミニズムを外国勢力が後ろ盾となった邪悪なイデオロギーとみなす。女性の権利を唱える活動家を拘束し、そのソーシャルメディアのアカウントを削除するなど、何年にもわたって取り締まりを続けている。

それでも女性たちは人間関係や家族、仕事に関する自らの経験について、ネット上で以前より声高に発言している。彼女たちの投稿は個人的な形でフェミニズムを表しており、当局がそれを取り締まるのはより難しい。(後略)【1月16日  WSJ】
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女性が政府の要請に否定的なのは、女性にとって出産・子育てが大きな負担になるという現実が背景にあります。(このたりは日本も同様でしょうが)

****中国の養育費は世界有数の高さ、女性の負担重く シンクタンク報告****
中国のシンクタンク「育媧人口研究智庫」は、同国の養育費が1人当たり国内総生産(GDP)でみて世界有数の高さだとの報告書をまとめた。

18歳までの養育費は1人当たりGDPの約6.3倍。これに対しオーストラリアは2.08倍、フランスは2.24倍、米国は4.11倍、日本は4.26倍。

子育てにより女性の有給労働時間と賃金は減少するが、男性の生活に大きな変化はないという。

報告書は「中国の現在の社会環境は母親に優しいとは言えず、女性が子供を育てる時間的なコストと機会費用が高すぎる」と指摘。「養育費の高さ、女性が家庭と仕事を両立させる難しさといった理由から、中国人の平均的な出産意欲は世界最低に近い」としている。

中国では昨年、2年連続で人口が減少。出生数は2016年の約半分に落ち込んでいる。

報告書によると、0─4歳の子どもを育てる女性は有給労働時間が2106時間減り、6万3000元(8700ドル)の収入を失う。子どもを持つ女性は賃金が12─17%減り、余暇の時間も0─6歳の子供が1人いる女性は12.6時間、2人の場合は14時間減るという。

報告書は養育費を下げる政策を全国レベルで可能な限り早期に導入すべきだと主張。現金給付や優遇税制、保育サービスの改善、母親と父親の育児休暇平等化、外国人ベビーシッターの活用、柔軟な勤務体制、独身女性と既婚女性の同等な生殖権といった対策を挙げた。

「現在の超低出生率を改善できなければ、中国の人口は急速に減少し、高齢化が進む。そうなればイノベーションや国力全体に深刻な悪影響が出る」としている。【2月21日 ロイター】
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【23年の婚姻数が10年ぶりに増加 ただし、特殊要因かも】
そうしたなかで、23年の婚姻数が10年ぶりに増加したという中国政府を喜ばせるニュースも。

****中国の婚姻数、10年ぶり増加=ウィズコロナ移行で反転****
中国民政省は18日までに、2023年の同国の婚姻登録数が768万組だったと発表した。中国メディアによると、婚姻数は22年に過去最低を記録したが、23年は前年比12.4%増で、10年ぶりの増加となった。

中国の婚姻数は13年の約1347万組でピークを迎え、14年から減少に転じた。22年は683万5000組で、13年の約半数まで落ち込んでいた。23年は前年までの厳格な新型コロナウイルス対策が解除され、「ウィズコロナ」に移行したことが結婚増の背景にあるとみられる。【3月18日 時事】 
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ただ、これは記事にもあるように、新型コロナウイルス対策で結婚を控えていた人が解除によって婚姻に至ったということ、更には辰(たつ)年の24年に子どもを産むと縁起がいいと考える人が数字を押し上げたことなどの影響も大きいと思われ、今後も増えるのかどうかは不透明です。

婚姻・出産増加に向けて、中国の女性団体、中華全国婦女連合会が、何百人も招待するような伝統的な大規模結婚式ではなく、「質素な」結婚式を奨励する記事をネットに掲載するといった対策も。
“中国当局、質素な結婚式を奨励 婚姻と出生率引き上げへ”【3月26日 ロイター】

【中国女性と習近平政権の示す真逆のベクトル】
ここで、これまでの出産や婚姻に関する話題とは表面的には全く関係ない話、中国女性の女性器整形に関する記事をひとつ。

****中国で加熱「美容整形ブーム」の知られざる裏側 現役医師が初めて明かす「ヒミツの部位へのプチ整形」が人気急上昇のワケ****
中国でいま、空前の美容整形ブームが起きているという。世界4大会計事務所の一つである「デロイト トーマツ」の調査によれば、2025年に中国の整形市場は実に3500億元(約7兆円)を超えると予測。なかでも最近、注目を集めているのが“秘めたパーツ”に施されるプチ整形という。その実態を「日本の第一人者」と呼ばれる医師が初めて明かした。

(中略)中国の国内事情に詳しいニュースサイト「レコードチャイナ」の任書剣氏が言う。
「(中略)しかし1980年代以降に生まれた世代はアイドルブームやインターネットの普及などを通じ、“見た目も心を表す”といった考えが主流で、整形やタトゥーに対する抵抗感も薄れています」

そんな新しい価値観を体現し、近年の整形ブームを引っ張るのが、現在30〜40代の「中女(オトナの女性)」という。(中略)

一方で最近、話題を集めているのが〈天使名器〉と呼ばれる、女性器へのヒアルロン酸注入手術です」(任氏)

女性たちの「不満」の核心
中国の“中女”たちから「天使名器造成の第一人者」と呼ばれるのが、東大医学部卒で、都内・港区六本木で美容外科「ヴェアリークリニック」を経営する井上裕章医師だ。その井上氏がこう話す。

「(中略)昨年11月、初めて中国に招待され“衝撃”を受けました。年会費が数千万円もする富裕層向けの美容サロンで行われたトークセッションにゲストとして呼ばれたのですが、会場には司会役の男性のほか、30〜40代の中国人女性が20名ほど集まっていた。

驚いたのは、彼女たちの口から次々と夫婦の営みに関する不満が飛び出したことです。中国ではいまだに“男性本位”の考えが根強く、会場にいた30代の女性の一人は『夫は行為に至るまでの過程を楽しむといった行動を一切取らない。寝ている私を叩き起こして“入れて・出して”で終わり。その間、私はひたすら耐えるしかない』と話していました」(井上氏)

また別の40代女性は「中国ではこれまで女性が性を楽しむことは禁忌とされてきたので、正直、何をどう楽しんだらいいのかも分からない」と打ち明けたという。

「そこで私が女性器形成術を説明し、その効果の一つに“感度の高まり”があることを話しました。(中略)」(井上氏)

トークライブの場で手術
井上氏の説明を聞いた女性のうち、30〜50代の3人が「実際に“天使名器”の手術を受けたい」と、その場で手を上げたという。(中略)

国内で吹き荒れる“不況の嵐”もドコ吹く風。「中女」たちの欲望はむしろ加速しているという。(後略)【4月21日 デイリー新潮】
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出産や婚姻に関する話題とは全く関係ない“下半身”の、しかも一部富裕層女性の話ではありますが、中国の女性が自分自身、自分の人生について自分で決断・行動するという方向で声を上げ始めているという意味で、非常に印象的に思えました。

そのベクトルの向きは、習近平政権が進めるような共産主義的社会観からの共同富裕とか出産奨励といたもの、あるいは、家父長制的な発想を引きずる「女性は結婚、出産に・・・」といった話とは真逆の方向を指し示しているように思えます。

おそらくこうした真逆のベクトルが存在する現状(前出【WSJ】でワン・フェン教授(社会学)が“中国社会には二つの相反する変化が起きている”と指摘するもの)では、中国政府の出産奨励策は大きな効果はでないでは・・・と思った次第です。

【「中絶禁止」に向かうのか?】
「奨励」で効果が出ないなら・・・「一人っ子政策」で不妊手術などの「強制」の実績もある中国のことですので、「中絶禁止」などの「強制」が表面化するのでは・・・とも推測されます。すでに「医学的に必要ではない」中絶は制限されています。

ただ、上記のような真逆のベクトルを考えると反発もこれまでになく大きくなることが予想され、下記記事で王豊(ワン・フォン)教授(社会学)は「ほとんど想像できない」とも。

****低すぎる出生率で迷走...中国政府は「中絶禁止」に向かうのか****
<人口維持に必要な水準を大きく下回る少子化は悪名高い1人っ子政策を放棄しても止まらない>

中国は何十年もの間、人口増加を抑えるために1人っ子政策を続けていた。だが今は、ほぼ回避不可能な人口減少の趨勢(すうせい)を、中絶の制限などで逆転させようと躍起になっている。(中略)

中国政府は22年に出産・子育て支援策を導入。出生数の増加を期待しているが、人口減少に歯止めはかかっていない。この程度の施策では不十分というのが専門家の見方だ。

この人口動態の変化は、欧米とよく似ている。乳幼児死亡率の低下とともに、生まれる子供の数は減り、子育ての費用が増えるにつれて、子供を持つ余裕がなくなる人々が増える。特に1980~90年代生まれのミレニアル世代は人生で2度の深刻な景気後退を経験している。

高齢者の面倒を誰が見る?
「多くの若者が子供も持ちたがらないし、結婚もしたがらなくなった」と、ハーバード大学フェアバンク中国研究センターで中国社会を研究するスーザン・グリーンハル教授は本誌に語る。「(中国の)子育て費用は法外で、韓国に次いで世界で2番目に高い。既に育児の負担と時間的制約に悩まされている女性にとって、2人目の子供の出産は仕事と収入、自由を失うことを意味する」(中略)

「悪名高い1人っ子政策を撤廃した後も、予想外の急速な少子化が進んでいる現状を、中国政府は強く懸念している」と、王(人口と高齢化、格差の問題に詳しいカリフォルニア大学アーバイン校の王豊(ワン・フォン)教授(社会学))も指摘する。「だが、少子化はこの国の経済・社会構造に深く根差した現象であり、出生率の低下を食い止める手っ取り早い処方箋はない」

グリーンハルによれば、中国政府がこの問題に取り組み始めたのは13年。夫婦のどちらかが1人っ子の場合に限り2人目を産めるようにして、1人っ子政策を初めて微調整した。「15年には制限なしの『2人っ子政策』を発表し、16年1月1日から全てのカップルが2人の子供を持てるようにした」と言う。

「新たな国勢調査のデータで出生率の上昇が一時的なものであることが判明すると、21年8月には再び政策を変更して『全てのカップルが3人目を産める』こととし、出生率向上のために極めて多数かつ多様な支援措置を導入。同じ21年には、新しい政策のニーズに合わせて人口・出産計画法も改正された」

「女が家庭を守る」伝統に回帰
中国はまた、習近平(シー・チンピン)国家主席が言う「新時代の結婚・出産文化」を育成するため、「若い女性が家庭に戻り、フルタイムで出産・育児と年長者の世話をするよう奨励している」と、グリーンハルは言う。「(今の中国は)女性が家庭を管理し、男性が稼ぐ伝統的な国家にかなり近いものをつくろうとしている」

中国政府は既に「医学的に必要ではない」中絶を制限する政策を導入し、男女の産み分けを防ぐ目的で胎児の性別判明後の中絶も制限していると、グリーンハルは指摘する。

中国では1950年代から中絶規制が緩和された。1人っ子政策が続いていた数十年間は、地方当局が「違法な」妊娠の中絶を女性に強要していた。

中国政府は中絶禁止まで踏み込むだろうかと王に質問すると、「ほとんど想像できない」という答えが返ってきた。「今の中国は高学歴社会でもある。若者たち、特に若い女性は自分たちの権利に敏感だ。人々の意思に反するやり方は政治的な自殺行為になる」

中国が検討していない政策の1つは、移民の増加による生産年齢人口の確保だ。「日本や韓国も歴史的に移民受け入れが非常に少なく、それが全人口と生産年齢人口の減少を加速させた要因の1つになった」と、アジアの高齢化問題に詳しいニューサウスウェールズ大学シドニー・ビジネススクール(オーストラリア)のフィリップ・オキーフ教授は本誌に語った。

「たとえ中国が移民の拡大に意欲を示し、外国から中国に移住する意思と能力を持つ労働者がいたとしても、中国の労働力の絶対的な規模を考えれば、移民の受け入れによって状況を変えるのは難しいだろう」

さらにオキーフはこう言葉を続けた。「中国にとってもっと現実的な当面の目標は、合計特殊出生率が0.72の韓国や0.97のシンガポールのような近隣諸国のレベルまで落ち込まないように、現在進行中の出生率低下に歯止めをかけ、安定させることかもしれない」【4月22日 Newsweek】
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「今の中国は高学歴社会でもある。若者たち、特に若い女性は自分たちの権利に敏感だ。人々の意思に反するやり方は政治的な自殺行為になる」・・・・それでも共産党支配に必要とあらば強権でやる、反対は許さないというのが中国の怖いところではありますが・・・。
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アルゼンチン  「チェーンソー男」ミレイ大統領の「ショック療法」「壮大な社会実験」の現況

2024-04-22 23:00:30 | ラテンアメリカ

(アルゼンチン中銀は11日に政策金利を10%引き下げて70%とする決定を行った。昨年のミレイ政権発足以降で実質的に3度目の利下げとなる。ミレイ政権による「ショック療法」的な政策運営にも拘らずペソ相場はジリ安の展開が続いている上、生活必需品を中心とするインフレも重なり、直近3月のインフレ率は前年比+288%に達している。ただし、足下では前月比ベースのインフレ率は鈍化しており、中銀はインフレ鈍化に自身を強めるなかで一段の利下げに動いたとみられる。【4月22日 西濱徹氏 第一生命経済研究所】)

【レースから零れ落ちてしまえば、住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなる】
下記は3月13日ブログ“アルゼンチン 「ショック療法」を発動する自由主義者・ミレイ大統領 持続可能性には疑問も”の冒頭部です。

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【「ショック療法」省庁廃止・補助金削減などで財政収支は黒字に 一方で物価上昇率276%】
経済混迷が続く南米アルゼンチンはかつての富裕国から転落した唯一の国と言われている国。(日本がこれに続くのでは・・・とも言われていますが) そのアルゼンチンでは昨年11月に「政界のアウトサイダー」を自称する右派(極右とも)のハビエル・ミレイ氏(53)が大統領選挙で勝利し、12月10日に新たな大統領に就任しました。

ミレイ氏は自由主義を信奉する経済学者出身で、中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な主張も展開していました。また、選挙戦ではチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切ると叫ぶようなパフォーマンスも。

大統領就任後、さすがに中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な政策は手をつけていませんが、中央省庁削減やエネルギー・公共交通の補助金削減による財政健全化、通貨ペソの50%切り下げなど「ショック療法」を実施しています。(後略)【3月13日ブログ】
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個人的に「チェーンソー男」ミレイ大統領の自由主義的改革「ショック療法」(「壮大な社会実験」とも)を国民が受け入れるのかどうか、どこまで耐えられるのか興味があり、その後の状況を・・・といっても、あまり情報は多くは目にしませんが。
その中で、下記は西原なつき氏のブログ記事。長いので今日はこの記事の紹介で終わりそうです。

****ミレイ政権発足から4カ月。変化していくアルゼンチン経済、「痛みを伴う改革」に国民の反応は?****
昨年末、アルゼンチンで自由主義ハビエル・ミレイ政権が発足して120日が経ちました。
トランプ元大統領との面会やダボス会議での発言に世界から注目を浴びるなど、何かとその動向に関心が集まるミレイ氏ですが、国内の影響や反応はどうなのでしょうか。

これまでのアルゼンチンのポピュリズムから大きく方向転換して舵を切るミレイ新政権。
「痛みを伴う改革」と政府も発表しており、彼のプランの最初のステップは「国民の消費を減少させてインフレ率を抑え、マクロ経済を整える」というものです。

120日が経った今、実際インフレ率は抑えれているのか?というと、今は月のインフレ率が10%程度と前政権の昨年末の数字とほぼ同じですが、この数カ月のうちに減少に向かうだろうと言われています。(数字だけ見るとこの3カ月で減少していると報道されていますが、就任初月に25.5%と大きくインフレ率が上昇したところから比較しての減少なので、年比較すると変わりません。)

具体的な消費を抑えるための政府のやり方としては、インフレ率に伴う給与や予算の値上げを実行しない・または値上げしてもインフレ率に伴わない額面→物の値段は上昇し給与は減少する、ということになるので、単純に家計は厳しくなり、消費活動が出来なくなる・節約モードになる、いう仕組みです。

これは地方予算、国立の大学や研究所への予算にも同じことが起きています。
現実にインフレ率が落ち着くだろうと言われているのは今年の6月以降であると言われています。

次の段階としては例えば銀行がクレジットを発行することができるようになるだろうと言われており、例えば家や車をローンで買えるようになるなど、国民の消費の仕方も変わってくる、というものです。
(今現在は1年後のインフレ率が想像できない事などから、一部の富裕層以外はローンを組むことができません。大きな買い物をしたい場合、現金一括払いが基本です。)

それによる国民の生活の変化
それに伴って何が起きているかと言うと、従業員の給与値上げをしないわけにはいかない企業、インフレに伴い予算は足りない→従業員を解雇していかざるを得ない、というケースも増えています。

リストラ問題で深刻なのは、政府職員。3月末のイースター休暇の直前に「解雇通知や契約更新無しの通知が7万人に届く」とミレイ大統領からの公式会見がありました。
これは、ミレイ大統領の当選前のパフォーマンスでも話題になっていた「チェーンソー」プランで、とにかく不要なものを切り捨てていく、というものを有言実行する形です。

この発表では、ミレイ大統領は契約未更新という形で職員の切り捨てを実施できることを「とても光栄に思っている」と発言しており、お祝いモードでメディアに対応していたことがとても印象的で、多くの人々の反感を買い、大規模ストライキにも繋がりました。

ここにはアルゼンチンの根深い問題が潜んでいて、政府職員の中には「実際には働いていないけれど登録されており給与だけ受け取っている」人が多くおり、その人たちを淘汰していくという目的。

ただ、解雇されている人たちの中には正しく働いている人も含まれており、現段階、この4カ月で解雇通知があった政府職員の人数は24000人。7万人まであと46000人・・・次にチェーンソーの餌食になるのはだ~れだ?というホラー映画のような状況です。

またそのチェーンソーでカットされているのがあらゆる領域の国からの補助金です。
ガソリン代、ブエノスアイレス市内の公共交通料金、光熱費、地方への予算、また国内全土の公共工事には国が一銭も出さない、などが挙げられます。昨年から工事が始まっていた新しい公共病院や国の原子炉の工事は途中で中止となり、現在放置されている状態です。

国民全体に共通して及んでいるテーマは、光熱費の上昇。今月はガス、電気、水道代と通してこれまでの約3~5倍の値段になりました。

そして現在リアルタイムで問題になっているのは教育部門です。国立大学への国からの予算は2023年と同額と発表があり、存続自体が難しくなっています。(1年のインフレ率は287%)

教授たちの給与問題、また大学の電気代を払うことすらできなくなっており、学生たちが勉強や研究を続けていくことが難しく、今週は大規模な大学生・大学関係者たちによるデモが行われます。

またアルゼンチンは実はバイオテクノロジー・ナノテクノロジーが進んでいて、380の企業・スタートアップが存在し、その分野では世界でもトップ10に入るレベルを持っています。

その発展を担っているのは国立大学(UBA)、そして国立科学技術研究所(CONICET)で、アルゼンチンのテクノロジーに関わる企業全体の88%がこの2つの機関と大きく関わっています。

しかし、この研究所も国立大学と同様の扱いを受けており、研究者たちの解雇やこれまで出ていた予算の大幅カットにより、こちらも存続の危機に至っています。(中略)

自由主義が与える影響、「値付けの自由」
大統領就任直後に施行した緊急大統領令により、366項目の法律が改変されました。
その中に含まれていた「値付けの自由」を目指す法律改変により、家賃と医療保険料が大幅に上昇していることも問題になっています。

家賃に関しては、今まで家主と借主の間にあった規律がなくなり、契約内容も家主が自由に決めることが出来るようになりました。これまで家賃は法律的には国内通貨のみ可であったのが、米ドルでもなんでもOKになり、インフレも相まって家賃相場はつり上がっています。

医療保険料もこの4カ月で大きく値上がりし、月々のインフレ率を越えています。(これまでの保険代の予算としては平均月給の18%程度であったものが、現在は30%を占めています。)払えなくなって解約した人も多く、これは中流階級層へのダメージが大きい、と問題視した政府から主要な保険会社への値下げ交渉があったものの、「ミレイ大統領が出した新しい法律の効力はまだ続いている」ということで交渉は成立せず、現在はその政府が改めて法的措置を取っているところです。

また公立病院ではがん患者たちへの抗がん剤治療が中断されるなどしています。予算がカットされこれまでの治療が同じようには提供されないので、プラスのお金を払える人のみが治療対象、という状況です。

また公立病院でも緊急手術から優先して行っているので、緊急度の低い手術の大幅な延期などをはじめ、こちらも問題になっています。

その様相はまさに国民の耐久レース、いつまでの辛抱になるのかは誰もわかりません。

現在のアルゼンチンの最低賃金は約200ドル。市内に家を借りようとするならワンルームでも200ドル程度が相場、外食すれば出ていくお金はほとんど日本と変わらない感覚です。

給料は目減りしていく中、物の値段は上がっていく。それでもせめて職をキープできて、貯金があり、病気をせずにこれまでの生活を続けられたら勝ち、そのレースから零れ落ちてしまえば、住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなります。

このやり方を持って、IMFの提示する課題は3月時点で達成したことになります。
ミレイ大統領の思い描く国には実現する可能性はありますが、しかしそこにたどり着くまでにどうなってしまうのか様々な懸念や不安が社会には広がっています。中流階級層以下はもちろん、富裕層の中にも疑念を抱く人も増えているような印象です。

彼の言う「自由主義」、思い描く社会というのは、貧困層は見捨てられる社会ですが、そんな現在のアルゼンチンの貧困率は52%。この4カ月で毎月100万人ペースで貧困層が増えている状況です。

中東情勢への関わり
2月のイスラエル訪問時、ヘルツォグ大統領との会談にて在イスラエル・アルゼンチン大使館をエルサレムに移す方向で進めていく、という話し合いがあったことは国内でも大きく話題になりました。国際的な超右派と足並みを揃える意向で、現在アルゼンチンはイスラエル側についています。

また現在NATO加盟の申請を始めたところで、デンマークから6億ドルかけて古い戦闘機24機も購入したと報道がありました。

ミレイ大統領は以前から熱狂的にユダヤ教・オーソドックス(超正統派)に大きな憧れを抱いていて、改宗はしていないものの、在アルゼンチンのオーソドックスの会合やイスラエルでの会合にもしっかりと帽子を被って参加しています。

その他の気になる動きとしては、イーロン・マスク氏との会合にも注目が集まりました。

アルゼンチンは世界の主要リチウム生産国のひとつでもあり、現時点では中国企業の投資が一番多い状況です。
ミレイ大統領による「誰でもアルゼンチンの国土を好きなだけ自由に買えるようにする」法律改正も緊急大統領令の中に含まれており、その効力は現在も続いているはずです。

経済的に不安定な国、インフレでの値上げで生活が苦しくなることはこれまでにも何度もありましたが、ここまでの経験は私も10年生活していて初めてなので戸惑っています。

これまでは、どんなに経済危機だと騒いでもそれでも人々はなんとか楽しみを見つけながらそれなりに暮らせていました。それは国が借金まみれになりながらもこれまでのポピュリズム政権が作り出していたもので、汚職や沢山の問題を孕んでいたのも確かです。現在は国民がその代償を払っている、と言って間違いはないでしょう。

うまく上流・中流階級層、90年代後半からの経済危機や軍事政権時代を経験していない若者の憎悪を引き出して、票につなげたのがミレイ政権。現在もそのスタンスは変わらず、法律改変案など説明して国民を説得するのではなく、通して「前政権の悪口を言い続ける」。国民の反感を引き出し、支持率を獲得している、という印象です。

毎日ニュースをつけると新しい問題が勃発しているアルゼンチン。
先週末大きく話題になったのは、国会にて「上院議員の給与を3倍に値上げする案」が上院議員たちの挙手により可決する、というニュース。毎日飽きません。

どんな未来が待っているのか、一般庶民にも、エコノミストたちにとっても、誰にも予測することができません。【4月22日 西原なつき氏 Newsweek】
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「上院議員の給与を3倍に値上げする案」は反大統領派が多数の議会主導で、ミレイ大統領は反対しています。

自由主義的改革・・・弱肉強食のレースに残れる者はそれなりの成果を得ますが、そこからこぼれ落ちる者は“住むところの保証もなく、生きていくことも難しくなります。” そのことでこれまで非効率と無駄が蔓延していた経済は活性化するという「ショック療法」  戦後、日本を含めた多くの先進国が選択した「福祉国家」的な流れとは逆行します。

こういう厳しい改革にどこまで国民、特にラテン気質といわれるような国民性の国民が耐えられるのか興味深いところですが、就任100日時点では国民の支持率は悪くないようです。まあ、これからでしょうか。

****ミレイ大統領=就任100日で支持率50%超も=軍政被害者数千人発言で波紋****
24日付オ・グローボによると、就任から100日が経過したアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、厳しい支出削減策を実施しているにもかかわらず、国民からの支持率が50%を超えている。同氏主導の財政政策は、12年ぶりとなる2カ月連続の財政黒字達成など、一定の成果を上げている。

一方、同国が陥った不況(景気後退)は中間層を加速度的に貧困化させているという。

政治・経済のアナリストらは、現在の大きな疑問は、国民が大統領の手腕に疑問を挟まずに政府が行っている厳しい調整策をいつまで受け入れられるか、また、どの時点で大統領への支持を止めるかで、同国は今後も困難な時期が続くと指摘する。【3月27日 ブラジル日報】
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“しかし、インフレの高止まりは続いており、また、景気後退の兆候も見られることから、このような状況は、持続可能性があるとはいえず、国民がいつまで我慢することができるかが問題である。ミレイに対する国民の期待は依然として高いが、個々の改革措置については必ずしも支持されていないものも多いと言われる。”【4月4日 WEDGE】

自由主義的改革は経済活動だけでなく、上記記事にもあるように教育にも及んでいます。
下記記事は私立学費補助に関するものですが、前提として、現行の義務教育と無償教育廃止があります。(ミレイ氏は選挙戦終盤で無償教育の廃止を否定してはいますが)

****ミレイ政権、低中所得層向け私立学費補助の一時給付金制度を導入****
アルゼンチン人的資源省は3月21日、人的資源省決議61/2024号を公布し、「教育バウチャー制度」と呼ばれる、国の助成を受けている私立の幼稚園、学校に通う子供を持つ低中所得層の学費を補助する一時的な給付金制度を導入した。

この制度は、国の助成を受けている私立の幼稚園や学校(初等、中等教育段階)に通う子供を持つ低中所得層の世帯を対象に、現金を給付するものだ。(中略)

人的資源省は、現在の厳しい経済情勢を考慮すると、国民が子供の教育を維持するには支援が必要と主張している。(中略)

一方で、ミレイ政権に否定的な報道をみると、今回の教育バウチャー制度を2つの理由で批判している。第1に給付金の金額が不十分、第2に無償の公立学校の運営資金が削減される中、この制度が私立学校を利するという批判だ。

教育バウチャー制度は、ハビエル・ミレイ大統領が2023年の選挙期間中に導入を主張していたものだ。ミレイ大統領は選挙期間中、現行の義務教育と無償教育を廃止し、学校ではなく子供に助成することで学校教育に市場原理を導入し、学校間の競争による教育の質向上を主張していた。

ところが、選挙終盤の公開討論会で、ミレイ大統領は無償教育の廃止を否定した。それにもかかわらず、教育バウチャー制度が無償教育の廃止を念頭に置いたものだとして批判している。【4月17日 JETRO】
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学校教育に市場原理を導入・・・・ここでもレースからこぼれ落ちる者はどうなるのか?という問題があります。

【中国と距離を置き、アメリカ寄りに 特にトランプ復権に期待】
外交面では、コロンビアのペトロ大統領を「テロリストの人殺し」と呼んで外交問題になりましたが、両国は3月31日に発表した共同声明で、関係修復に動いていることを明らかにしています。(ラテン諸国同士のののしりあいは珍しいことではありません)

西原氏記事にある“(ミレイ氏が)熱狂的にユダヤ教・オーソドックス(超正統派)に大きな憧れを抱いている”というのは初耳。それならイスラエル支持も納得。

“現時点では中国企業の投資が一番多い状況”ともありますが、ミレイ氏は中国から離れてアメリカ寄りに路線を変更しています。特に個人的に馬が合うトランプ氏復権となれば加速するでしょう。

****アメリカ寄りになったミレイ政権に中国が報復を開始****
中国はアルゼンチンでのダム建設から撤退
アルゼンチンで2つのダム建設を施工することになっていた中国企業Gezhouba社はミレイ新政権からの工事継続のサインを待ちきれず撤退を決めた。1800人の従業員は解雇。中国から派遣されていたエンジニアも本国に帰国させた。(中略)

ミレイ大統領支持のトランプ氏大統領復帰が怖い中国
当初、中国政府はこのダム建設の再開を期待していた。ところが、米国でトランプ氏が大統領に復帰する可能性が次第に高まっている。

ミレイ大統領を強く支持しているトランプ氏が大統領に選出されれば、アルゼンチンは完全に米国寄りになると中国は判断したようだ。この判断も中国がこの工事の継続を断念する理由となったようだ。

中国はスワップ取引も撤退か?
この決定に続いて、中国はアルゼンチンとのスワップ取引から撤退する可能性も生まれている。仮にそうなると、アルゼンチンは同取引から発生する180億ドルに加え、総額300億ドルの負債が新たに加わることになる。(3月13日付「ラ・ポリティカ・オンライン」から引用)。

更に、ミレイ大統領にとって不安材料となるのは、中国がアルゼンチンからの輸入を減らす可能性も生まれて来る。(中略)実際、中国は大豆と牛肉の輸入についてはそのウエイトを既にブラジルにシフトしている。皮肉なのは、アルゼンチンの最大の貿易取引国であるブラジルがアルゼンチンの中国向け品目の市場を奪っていることになる。【4月5日 白石和幸氏 アゴラ】
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興味深いところでは、ロシアによるウクライナ侵略後、アルゼンチンに移住するロシア人が急増しているとのこと。
“ロシアから1万キロ以上離れたアルゼンチンへ、ビザなし渡航で移住急増…戦争忌避や動員逃れ”【4月20日 読売】

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ネパール  日本で急増する「インネパ」の表と裏 ネパールでの日本語学習ブーム

2024-04-21 22:20:26 | 日本の外国人労働者

(インネパ【2022年7月6日 YAHOO!ニュース】)

【ネパール人 日本における外国人労働者数で第4位 「飲食サービス業」に特化が特徴】
****日本の外国人労働者は過去最多の200万人、ベトナム人が50万人超え****
厚生労働省の発表(1月26日)によると、日本における外国人労働者数(2023年10月末時点)は204万8,675人となり、過去最高を更新した。前年より22万5,950人(12.4%)増加し、伸び率も前年の5.5%から6.9ポイント上昇した。外国人を雇用する事業所数は31万8,775所(前年比6.7%増)で、同様に過去最高を更新した。

外国人労働者数を国籍別にみると、ベトナムが最も多く51万8,364人(前年比12.1%増)で、全体の4分の1を占めた。次いで、中国39万7,918人(3.1%増)、フィリピン22万6,846人(10.1%増)となった。ベトナムは2020年に中国を上回って以来、首位が続いている。技能実習生が20万9,305人と、圧倒的に多いのが特徴だ。

前年からの増加率が大きかったのは、インドネシア(12万1,507人)で56.0%増加した。次いで、ミャンマー(7万1,188人)が49.9%増加し、ネパール(14万5,587人)が23.2%増加した。インドネシアは技能実習生を中心に、建設業での伸びが顕著だった。

在留資格別にみると、前年からの増加率が大きかったのは、「専門的・技術的分野の在留資格」(59万5,904人)で24.2%増。次いで「技能実習」(41万2,501人)が20.2%増加した。一方、「特定活動」(7万1,676人)は2.3%減少した。(後略)【1月31日 JETRO】
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上記の数字を若干補足すると、国籍別でベトナム、中国、フィリピンに次ぐのが増加率3位のネパール14万5,587人。 在留資格別では、「資格外活動のうち留学」が27万人強。「資格外活動のうち留学」の34.7%が「宿泊業・飲食サービス業」となっています。【厚生労働省資料より】

全体的に増加している印象が大きいのがネパール人。

****急増ネパール人、留学生は2位に浮上 人手不足救うか?****
日本に在留するネパール人が急増している。2023年6月末時点で約15万6000人。留学生に限ると4万5000人を超え、国籍別でベトナム人を上回り中国人に次ぐ2位に浮上した。日本で就職する人も増え、介護やホテルなどの現場で人手不足を和らげる役割を担う。(後略)【1月11日 日経】
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増加率では、上記のようにインドネシア・ミャンマーの方が大きいのですが、ネパールの特徴は「宿泊業・飲食サービス業」が29.7%と際立って高いことです。他の国の場合、同割合はベトナムは10.4%、中国が14.0%。

建設業や製造業と異なり、人目につきやすい飲食業で増加していることで、ネパール人「急増」のイメージが強まっていると思われます。

【「インネパ」・・・コック招聘の手数料稼ぎビジネス化している面も 開店と呼び寄せの連鎖が拡大】
ネパール人の従事する飲食業・・・「インネパ」と称される「ネパール人経営のインドカレー店」「インド・ネパール料理店」です。

****ネパール人経営のインド料理店「インネパ店」、なぜ激増? 背景にある2つの歪曲(わいきょく)****
店舗数は有名チェーン店よりも多い
今や都市部では、1駅に2~3軒あることも普通。そう、「インネパ店」の話である。

インネパ店とは、「インド・ネパール料理店」の略で、ネパール人が手がけるインド料理店を指す。最近ではよく知られることだが、巷にある外国人経営のカジュアルなインド料理店は、実は多くがネパール人経営だったりする。

インネパ店には、共通する“テンプレート”のようなものがある。まずは、ナンとインドカレー、タンドリーチキンなどをメニューの中心に据えていること。中でも多くの店がウリにするのが、こってりまろやかなバターチキンカレーに、おかわり自由なナン。そして、チーズたっぷりのチーズナンだ。ちなみにこうした料理は北インド料理がルーツで、ネパール料理ではない

またインド料理店をうたいながら、よく見るとメニューにネパール餃子のモモがあったり、店の内外にネパール国旗やヒマラヤ山脈の写真を掲げていたりするのも、多くのインネパ店に共通する。

そんなインネパ店が近年、激増している。’22年現在、全国に少なくとも2000軒のインネパ店があり、軒数はここ15年ほどで5倍前後になっていると見られる。

街によくあるチェーン店の国内店舗数を見てみると、たとえば松屋は977店、ドトールは1069店、CoCo壱番屋は1238店(すべて’22年1月時点/日本ソフト販売による集計)だ。インネパ店の多くが個人経営で2000軒の一大チェーンというわけではないものの、今やそうした有名チェーンの店舗数をはるかに上回っていることがわかる。(後略)【2022年7月6日田嶋章博氏 YAHOO!ニュース】
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この「インネパ」拡大の背景にあると上記記事も指摘しているのが、仲介手数料をとるコックの呼び寄せ自体がビジネス化し、開店と呼び寄せの連鎖がどんどん広がっていく・・・という現象。

****「カレー屋は貧困を固定化する装置です」借金まみれで日本にやってくるネパール人労働者が搾取から抜け出せないワケ****
(中略)
家や土地を売り、足りなければ借金してまでカネを作るネパール人たち
コックが独立開業してオーナーになり、母国から新しくコックを呼び、そのコックも独立し……という暖簾分け的なシステムのもとに「インネパ」が広がっていった経緯を見てきたが、ここまで爆発的に増殖した理由はほかにもある。そのひとつが「コックのブローカー化」だ。

「外国人が会社をつくるには500万円の出資が必要じゃないですか。ネパール人にはすごく大きなお金です。家族や親戚や銀行から借りる人もいますが、中には誰かに出させる人もいるんです」
こう語るのは、自らも都内でカレー屋を営むネパール人Rさん。この500万円を何人かのネパール人に分割して支払ってもらうのだという。

「たとえば、新しい店で3人のコックを雇うとします。この人たちはネパールでスカウトしてつれてくるんです。日本で働ける、稼げると言って」 そしてビザ代や渡航費、手数料などの名目で代金を請求する。仮に1人アタマ150万円を出してもらえば計450万円で、オーナー本人の出費は50万円で済む。日本行きのチャンスと考えた人たちは、借金をしたり家や土地を売ったりしてこのお金をつくってくる……そのあたりまではまだ、健全だったかもしれない。

やがて、カレー屋ではなく人を呼ぶほうが本業になってしまう経営者も現れた。多店舗展開し、そこで働くコックをたくさん集めてきて、もはや会社設立の500万円とは関係なく、1人100万円、200万円といった代金を徴収する。(中略)

それでも海外で稼げると思った人たちは、どうにかお金を算段して志願する。彼らを呼べば呼ぶほど儲かるわけだから、誰だっていいとばかりに調理経験のない人もコックに仕立て上げた。

本来、調理の分野で「技能」の在留資格を取得するには10年以上の実務経験が必要となる。しかし一部のカレー屋オーナーは日本の入管に提出する在職証明などの書類を偽造し、新しくやってくるコックのビザを取得していたのだ。カレーとナンのつくり方なんか自分が教えればそれでOKという経営者たちが、次から次へと母国から人を呼んだ。

「日本に来て初めてナンを食べたよ」というネパール人
だから現場にはスパイスのこともよく知らなければ玉ねぎの皮も剝けないコックがあふれてしまった。「インネパ」の中にはぜんぜんおいしくない店もちらほらあるのはそのあたりに理由がある。(中略)「これはもうビザ屋であって、カレー屋ではありません」(

工場で違法就労するネパール人
また、ネパールから呼んだ人間を自分の店で働かせるならまだしも、工場に「派遣」するケースもあったと聞く。コックの分野で「技能」の在留資格を取っているなら、工場で働くのは完全に違法である。

ちなみに経営者は、自分のツテでコック志願者を集めたり、ネパール側のブローカーと協力するなどしているそうだが、親戚筋であってもお金を要求することがあるようだ。そのあたりの額は人間関係にも縁戚関係にもよるという。

「でもふしぎなものでね。近い親族だから、あの人には世話になったからって、お金を取らずに日本に呼んでるいい人もいるんだけど、私が見る限りそういう人たちはみんな成功してない。元手の軍資金がないから。借金なしで日本に来たほうも、ハングリー精神がないからなのか、あまりがんばらない。だからうまくいかない」
なにが正しいのかわからなくなってくる話なのだ。

さらに、コックたちへの搾取も目立つようになった。約束したよりもはるかに安い給料で働かせるのだ。月に8万円、9万円程度しか払わないこともあるという。経営者の子供の送り迎えとか、家事までやらされているコックもいるそうだ。
「抗議をしても、じゃあ誰がコックのビザを取ってあげたの、と。やめてもいいけど、日本のことも日本語もよくわからない、料理もロクにできないのに、借金も背負っていて行くところあるの、と」

ネパール人がネパール人を搾取する構図
こうして同国人の食い物にされているコックもいるのだとRさんは訴える。同じような境遇のコックが安いアパートで同居しているし、勤め先はレストランだから食べるものだけはあって月10万円以下の給料でもなんとか生きてはいけるが、きわめて苦しい。故郷での借金の利息もある。

それでも平均月収1万7809ネパールルピー(約1万7100円、国際労働財団による。2019年)の祖国にいるよりは、と耐え忍ぶ。

そんなコックたちも、いくらか日本の生活に慣れてくると故郷から家族を呼ぶ。妻や子供たちは「家族滞在」の在留資格を取得して日本で暮らすことになる。そしてこの「家族滞在」の場合、週に28時間までの就労が許可される。月にするとだいたい100時間、時給1000円なら10万円を稼ぐことができる。コックの夫の給料と合わせればどうにかやっていけるし、切り詰めれば故郷に送金もできる……こんな家庭が、実は日本にかなり存在する。(中略)

また社会保険に加入していない店、コックが非常に多いことも問題となっている。厚生年金や国民年金は、老後もこの国に住んでいるかどうかわからないからと加入しない。

さすがに国民健康保険は支払っている人が多いが、個々で手続きをしている。いわば個人事業主のような扱いなのだ。中には国民健康保険の存在すら知らず、あるいは知っていても加入しない人もいて、万が一のケガや病気のときに困るというのはよくある話だ。

ネパール人の貧困を固定する装置になったカレー屋
それでも耐え忍んで働き続け、数年たったある日、こんなことを通告されるコックもいるのだという。「ビザが更新できなくなったからクビ。とつぜん言われて、あとは自分で店を探せって」

代わりに経営者は違う人間をネパールからコックとして呼ぶ。もちろんお金を取って、だ。こうして定期的に人材を回転させることで、一定のお金が供給される仕組みをつくり上げたのだ。だがコックにしてはたまったもんじゃない。

「カレー屋はネパールの貧困を固定化する装置になっているんですよ」

それでも、なのだ。
こんなリスクや理不尽を負ってでも、ネパールを出たい。どんな形でもなんの仕事でもいいから、外国で稼ぎたい。そんな人たちがたくさんいる。一般的に貧しいとされる国に生まれ育ち、なおかつグローバル化とデジタル社会によって他国の生活を知ってしまった立場でないとわからない「お金」への強い渇望感が、彼らを突き動かしている。

「海外に出ないと豊かになれない」ネパール人の切実な思い
(中略)とにかく海外に出ないと、豊かになれない。ネパール人たちのそんな切実な思いが、日本のカレー屋大繁殖につながっていった。

だからブローカーの存在も一概に否定はできない。豊かさへのきっかけを与えてくれる存在でもあるからだ。はじめはコックとして搾取されながらもだんだんと要領を覚え日本になじみ、独立して成功する人も確かにいるのだ。【4月21日 文春オンライン】
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「インネパ」は決してネガティブな面だけではありません。
前出田嶋氏は・・・

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一方でインネパ店の存在は、ポジティブな面も決して少なくない。

「ネパール人による日本での就労が、経済的にも文化的にも、本国に寄与している部分は小さくないでしょう。来日してビジネスで成功するネパール人も多くいます」(著書『日本のインド・ネパール料理店』で、日本全国のインネパ店を巡ってその成り立ちをつづったインド食器販売店「アジアハンター」代表 小林氏)

「日本には、コックに敬意を払うすばらしい文化が根づいています。だから私は、ネパール人が日本でコックになること自体は、反対ではありません。ネパール人が来日後に困らないよう、ビザの審査時にせめて最低限の日本語能力と健康状態、そして受け入れ先の雇用環境をチェックしてもらいたいんです」(在日ネパール人コックの実情をつづった『厨房で見る夢』の著書があるネパール人臨床心理士ビゼイ氏)【前出“ネパール人経営のインド料理店「インネパ店」、なぜ激増? 背景にある2つの歪曲(わいきょく)”】
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【ネパールでは日本語学習ブーム】
かくして、ネパールでは・・・

****日本語学校が急増! ネパールの若者の間で「日本語」が流行る微妙な事情****
現在、ネパールでは日本語学習が大流行しています。街中では「STUDY IN JAPAN 」という看板があちこちに掲げられ、「はじめまして」と挨拶する若者によく出会うようになりました。この背景にあるのは「40万人の外国人留学生受け入れ」を掲げた日本の政策。海外に働き先を求めるネパールの若者にとって、この方針は渡りに船といえるのです。

なぜ日本へ?
ネパール人の海外出稼ぎ者の数は累計で約600万人。人口の5分の1が外国で出稼ぎをしていることになります。最大の出稼ぎ先といわれるインドは、ネパールとの国境の往来が自由であることから、この統計には含まれていません。大勢の人たちはアルバイトや卒業後の就業を目的に学生として海外に渡ります。

実際は600万人を優に超えると思われる、働く世代の国外流出が止まらない大きな原因は、ネパール国内で経済成長を後押しする産業が育っていないからです。

国内に若者向けの成長産業が少ないとはいえ、多くの人が出稼ぎ先として選んできた中東やマレーシアは、安全面や職場環境面で不安が払しょくできません。そこで、安定した出稼ぎ先や留学先を求めるネパール人が選んだ国の一つが日本。東日本大震災やコロナ禍の影響で日本への留学生が激減していたため、日本政府が呼び込みに力を入れたことが奏功したといえます。

就学中もアルバイトができ、ビザ手続きが比較的簡単といった日本の特徴は、ネパール人のニーズにぴたりと一致。将来は家族を呼び寄せられる可能性があることや、留学初期費用が150〜200万円程度と欧米に比べて安いことも大きな魅力です。取得に時間はかかりますが、30万円程度で済む特定技能ビザも社会人に人気があります。

日本語をちゃんと勉強しないと…
多くの若者が日本への留学や就職を目指すようになり、留学を仲介する日本語学校は大人気。数年前までは日本語学校が1校もなかった田舎でも、今では数百メートル以内に5〜6校がひしめきあっています。

筆者がそのうちの1校を訪問したところ、特定技能ビザにも挑戦可能な学校ということもあり、経営者でもある先生が1人で5クラス、計100人ほどの生徒に教えていました。現地の日本語学校の先生たちはほとんどが日本からの帰国者です。

日本語学校に行かずに日本語を学ぶことも可能ですが、学校には日本の学校や派遣会社とのコネクションがあります。学習目的だけでなく、日本に行く橋渡しをしてもらうために、多くの人は日本語学校に通うことを選びます。

ある日本語学校の事務員によると、生徒の望みはとにかく手っ取り早く日本に行くことで、学校の評判を上げたい先生も多くの生徒を送り出したいと思っているそうです。そのため、日本語を学び始めて数週間でも日本語学校の面接試験に参加させ、なかにはこっそり答えを教えている先生もいるとか。

結果的に、日本のことをよく知らず日本語の勉強も不十分なままで来日してしまう若者が増加。日本の文化や習慣、人間関係に戸惑ったり、思うように稼げず多額の借金をしたり、精神的に追い詰められたり、悪質な仲介業者や学校に搾取されたりという人たちが増えていくことになります。

ネパールの若者たちが日本に熱い思いを抱いてくれるのは、とてもうれしいことです。それが失望で終わらず、「憧れの国日本」が本当に住みよい場所となるために、政府だけでなく迎える私たちも真剣に考えねばならない時代が来ているようです。【2023年12月19日 GetNavi web】
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ロシア  “ウクライナでの失敗”で進む経済的中国依存 権益でも、人でも極東で強まる中国の存在

2024-04-20 22:11:31 | ロシア

(2018年9月11日、ウラジオストクで行われた「東方経済フォーラム」に参加しているロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が、会談後にエプロン姿となり、料理の腕前を披露し合う場面があった。【2018年9月12日 ロイター】
当時から5年半、両者の力関係は大きく変化しています。)

【戦術的には優勢なロシアだが、戦略的にはウクライナ侵攻は大きな失敗】
パレスチナ、イラン・イスラエル関係の影に隠れた形になっていますが、ウクライナでは物量にものを言わせたロシアの攻勢によってウクライナは苦境に立たされています。
“「ウクライナ年内敗北も」 米CIA長官、支援なければ”【4月19日 共同】

ウクライナにとって死活的に重要なのがアメリカの支援。そのアメリカの支援は米国内の与野党対立によって停滞していましたが、ここにきてようやく動き始めたようです。
“米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ”【4月16日 ロイター】

海の向こうのウクライナより国内対策を優先すべきという共和党保守強硬派は依然としてウクライナ支援に反対していますが、共同歩調を取ってきたトランプ前大統領もここにきて変化を見せています。
“トランプ氏「我々にとってウクライナの存続は重要だ」、大統領選を見据え軌道修正か”【4月19日 読売】

このままアメリカの支援が遅れて、結果ウクライナが敗北し、その責任を問われるような事態を避けたいのかも。
逆に言えば、それほどウクライナの現状は厳しいということでしょう。

ただ、仮にロシアが戦術的にウクライナで「勝利」したとしても、総合的・戦略的に見ると、ロシア・プーチン大統領のウクライナ侵攻は大きな失敗に終わったというべきでしょう。

ひとつは、ウクライナがNATO陣営に走るのを阻止すると言いつつも、実際にはスウェーデン・フィンランドのNATO加盟など、NATO陣営の拡大・強化を招いたこと。

もうひとつは、西側の経済制裁のもとでの戦争遂行のため、中国依存を強め、中国の「従属的なパートナー」と言われるような地位(「属国化」といった表現も)にロシアを追い込んでいることです。

もちろん、アフガン侵攻の1万5千人を遥かに超える5万人超の死者を出し、多くの人材が国外に流出するなどロシア国内の体制にとっての打撃も小さくありません。

また、軍事大国ロシアの軍事力に大きな疑問が持たれる結果にも。

上記のような多大なコストを考えると、ウクライナ東部・クリミアにおけるロシアの支配を強化できたとしても、まったく割に合わない失敗戦略でした。そもそも侵攻と同時に首都キーウを制圧する予定だったのでしょうが、ここまで戦闘が長引いていること自体が完全に目論みが外れた状況です。

【ロシアにとって中国は“命綱” 進むロシアの「従属的パートナー」の立場】
今回取り上げるのは、そうしたコストのひとつ、中国との関係・・・というか、強まる中国依存の状況です。

****「親愛なる友よ」中国への依存強めるロシア…習近平政権、露との連携利用しつつ深入り避ける構え****
北京で(2023年10月)18日開かれたロシアのプーチン大統領と中国の 習近平シージンピン 国家主席との会談では、ウクライナ侵略を続けるプーチン政権が、エネルギー分野などで中国への依存を強めていることが浮き彫りになった。習政権は、米国主導の国際秩序に対抗するためロシアとの連携を利用しつつも、深入りを避けているとみられる。
 
「親愛なる友よ」
侵略開始以降、旧ソ連圏外で初の外遊に中国を選んだプーチン氏は、会談の冒頭、習氏にこう呼びかけた。「一帯一路」構想を「非常に発展している」と述べ、「あなたの指導の下、成功を収めている」と称賛の言葉を繰り返した。

会談の主眼は、経済とエネルギー分野の連携強化だ。中国当局によると、今年の中露の貿易総額は9月末時点で1700億ドル(約25兆円)を超えた。2024年までに2000億ドル(約30兆円)に上げる目標を掲げるなか、プーチン氏は「今年は間違いなく突破する」と強調した。必死のアピールは、米欧の経済制裁が続く中、ロシアにとって中国との結びつきが死活的であることを際立たせた。

露側の期待感は同席者にも表れた。エネルギー担当の副首相のほか、露国営の石油会社ロスネフチやガス企業ガスプロム、銀行や原子力関係の企業トップが会談に同席した。石油や天然ガスの中国への輸出拡大を見据えた動きとみられる。
 
習氏は、プーチン氏との会談が13年以降で42回に上り、「良好な関係と深い友情を築いてきた」と述べ、プーチン氏が欠かせないパートナーだと強調した。
 
米欧も中露接近を警戒する。AP通信によると、9日に習氏と会談した米上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務はロシア支援の停止を求めた。
 
ただ、習政権もロシアへの過度な肩入れはしない構えだ。英メディアによると、習氏は3月のモスクワでの会談で、プーチン氏にウクライナで核兵器使用を控えるよう警告。それでもプーチン氏は6月、隣国ベラルーシへの戦術核配備の開始を宣言するなど威嚇を続けた。米ブルームバーグ通信によると、中国は6~7月にロシアからの原油輸入を3割近く減らしたという。
 
中国にとって対露貿易総額(22年)は、対米国(約7600億ドル)と対欧州連合(EU)(約8500億ドル)の総額を合わせれば、約8分の1にすぎない。露専門家からは「中国がロシアだけを理由に西側を含む関係を悪化させることはない」との分析も出ている。(後略)【2023年10月19日 読売】
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ロシアにとって中国との関係は頼みの綱ともなっていますが、中国にとってロシアはカードの1枚に過ぎません。

その後もロシアと中国の交易は拡大しています。

****中ロ貿易が過去最高=深まる相互依存****
2023年の中国とロシアの貿易総額は前年比26.3%増の2401億ドル(約35兆円)となった。過去最高だった前年の1903億ドルを更新し、初めて2000億ドルを突破。ともに対米関係などが冷え込む中、経済的な相互依存を深めている。

「協力は健全かつ順調に発展している」。中国の習近平国家主席は昨年12月、訪中したロシアのミシュスチン首相との会談で中ロ関係をこう自賛した。両国は18年に約1000億ドルだった貿易総額を24年までに倍増させることで一致していたが、1年前倒しで達成した。
 
ウクライナ侵攻を受けて日米欧などから制裁を科されたロシアにとり、中国との関係は侵攻を続ける上で「命綱」となっている。ロイター通信によると、ロシア産原油の最大の購入元は中国。一方、侵攻以前に主な輸出先だった欧州向けは激減。エネルギー業界の関係者は「中国が原油を買わなければ、戦費を十分に調達できない可能性がある」と指摘する。
 
中国も米国による半導体の輸出規制などに苦しむ中、外交的に立場が近い大国のロシアとの関係を重視。中ロ間では高官の往来が相次いでおり、習氏自身も23年の初外遊先としてロシアを訪問した。
中国は同年に自動車などの対ロ輸出を急増させ、貿易面でロシアとのつながりを深めた。

ただ、中国にとって対ロ貿易の比重は約4%にとどまっており、対欧州連合(EU)の13%や対米の11%、対日の5%を下回る。先の関係者は「中国はロシアの苦境をうまく利用し、経済的な利益を得ている」と指摘した。中国はロシア産原油について、サウジアラビア産などに比べて安価に調達してきたとされている。【1月12日 時事】 
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【極東権益を侵食する中国 ウラジオストク港使用権を回復】
単に経済的な「ロシアの中国依存」だけでなく、そうした力関係を背景に、中国のロシア極東への進出も進んでいます。

****中国がロシアの港を奪還? 極東権益を侵食中****
ウラジオストク港の使用権を165年ぶりに回復

中国は2023年6月1日から、ロシア極東の最大都市ウラジオストクの港の使用権を165年ぶりに回復した。さらに西部国境では、中国とキルギス、ウズベクの横断鉄道計画にゴーサインを出し、ロシアの権益を次々と侵食している。

ウクライナ侵攻で衰退が加速するロシアの弱みを突いて「兄弟関係」を逆転しただけではない。ウクライナ危機の最大の受益者は中国かもしれない。

中国「祖国の懐に」と興奮
「ロシアによって165年間使用された後、港はついに祖国の懐に戻った」
中国東北部の吉林省と黒竜江省が、省産品を浙江省など沿海地域に出荷する際、ウラジオストク港を使用する特例措置が6月1日から認められたニュースを伝える報道だ。

かつて中国領だったウラジオストクが、帝政ロシアとの不平等条約によって奪われた「屈辱の歴史」をそそいだかのような興奮ぶりだ。ロシアはもちろん太平洋艦隊の基地がある極東最大の軍事拠点の同港を中国に「返還」するわけではない。順序を追って説明しよう。

中国税関総署は2023年5月4日、中国東北部の老朽化した工業基地を活性化するため、同年6月1日から国内貿易品を国境越えの通過港としてウラジオストク港を使用できるようになると公告した。

ロシア政府がこれを認めたのは、習近平が2023年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で3期目の国家主席入りを果たした後、3月20〜22日に初の外遊先としてロシア訪問した時だ。プーチン大統領との10時間以上におよぶ首脳会談での、最大のテーマはウクライナ問題だった。

首脳会談後に2人は、「2030年までの経済協力の大枠に関する共同声明」に署名した。この中で、「両国の鉄道、道路、河川、海運など輸送迅速化を含む物流面での協力」をうたい、ウラジオストク港使用でプーチンの「ダー(イエス)」を勝ち取ったのだった。

沿海州は清朝時代には「外満州」(Outer Manchuria)と呼ばれる中国領だった。しかしアヘン戦争で清朝が弱体化、帝政ロシアは1858年のアイグン(璦琿)条約と、1860年の北京条約でアムール川左岸を獲得、ウスリー川以東の外満洲を両国の共同管理地として「割譲」した。

中国側は帝政ロシアに奪われた国土の総面積を外満州にモンゴルと西域を合わせ約500万平方キロメートルと、現在の中国領土の半分強に相当すると主張、中国にとって屈辱的割譲だった。

ウラジオストク港使用権の付与に合意した背景は何か。まず経済面。中国が吉林省や黒竜江省から貨物を輸送する場合、今は大連港まで運んで、江蘇省、浙江省向けの貨物船に積み替えている。大連までの距離は短くても300キロメートル、長ければ600キロメートルである。

ウラジオストク港開放によって最短100キロメートル、最長でも300キロメートルと輸送距離は半減され、コストパフォーマンスもいい。吉林、黒竜江省から中国南部への輸送は「国内貿易」扱いだから関税の問題も発生しない。

一方、ロシアのメリットは何か。これまでロシアはウラジオストク港を、原油、天然ガス、海産物、木材などを日本、韓国、アメリカ、台湾に輸出する窓口にしてきた。しかしウクライナ侵攻に伴う経済制裁で、西側諸国への輸出量は激減。ウラジオストク港には「閑古鳥が鳴く」状況だ。

プーチン政権を支え、要求をのませた中国
中国が対西側貿易減少の穴を埋めてくれれば、ロシアも「ニエット(ノー)」とは言えない。それがウラジオ使用権を求める中国の要求を受け入れた経済的理由だ。双方にとり「ウィンウィン」のケースだ。

では、政治的にはどうか。西側は中国がロシアのウクライナ侵攻を非難せず、ロシア軍の即時撤退を求めていないとして、「ロシア寄り姿勢」を批判。広島サミットの首脳声明でも中国にロシア軍撤退を要求するよう求めている。

2023年3月の中ロ首脳会談の共同声明は、「(中ロ)双方は、国際連合憲章の目的と原則が尊重されなければならず、国際法が尊重されなければならないと信じる」とした。ウクライナ侵攻が国連憲章に違反していること念頭にした、事実上のロシア批判だ。中国は決してロシア寄りの立場をとっているわけではない。2014年のクリミア併合を中国が認めていないのもその証左だ。

共同声明はさらに、ウクライナ危機の解決に積極的な中国の意思を歓迎し、「『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』(2月の声明)に示された建設的な命題を歓迎する」と、中国の仲介工作を支持した。

共同声明を読む限り、ロシアは中国の主張をそのまま受け入れたことがわかる。ウクライナ侵攻後、中ロ2国間貿易は前年比30%増となった。大半が経済制裁で西側に輸出できなくなった原油、天然ガスを中国が輸入しているからだ。ロシア経済を支えるうえで、原油を大量に輸入してくれる中国とインドの存在は死活的に重要だ。

中国は経済的利益を与えてプーチン政権を支えているだけに、ロシアは中国の要求をむげに断れない。米中対立の激化で、中ロは安全保障協力を強化することに「共通利益」を見出している。中国からすればロシアにさまざまな要求をのませる絶好のチャンスでもある。こうしてみると、中国こそウクライナ危機最大の受益者ではないか。

中国とロシア(旧ソ連)は1989年5月、当時のゴルバチョフ共産党書記長の訪中で関係を正常化。最大の懸案だった国境問題は2004年、東部のウスリー川など3河川の係争地を2分割することで合意し国境線を最終画定した。
しかし、不平等条約によって奪われたウラジオストクの存在は、中国にとっては屈辱の歴史の象徴でもあった。

一方、ロシアにとっては極東最大の軍事的意味という重要性がある。にもかかわらずウラジオを開放したのは、中国との協力によって、加速する衰退と孤立を回避したいからだ。

中国が獲得したのはウラジオストク港使用権だけではない。習近平は5月18、19日、シルクロードの古都西安で中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン5カ国首脳との首脳会議を開いた。(中略

中国・キルギス・ウズベク鉄道が前進
日本の全国メディアは報じていないが、宣言は中国・新疆ウイグル自治区からキルギスタンとウズベキスタンに延びる「新鉄道建設」(総延長523キロ)の着工加速も盛り込んだ。鉄道が完成すると、中国貨物を鉄道で中央アジアから中東各国に輸送できるだけではない。中国から欧州への鉄道の最短ルートにもなるのだ。

計画は1997年に浮上したが、山岳地帯を貫く工法や環境問題、軌道幅など技術問題に加え、ロシアと中国のどちらが出資するかなど政治的理由もあり一向に進展しなかった。

変化は2022年5月16日、モスクワで開かれたロシアと旧ソ連構成6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)首脳会合で起きた。プーチンがキルギス大統領の進言を受け、計画を中国資金で建設することに「反対しない」と初表明した。これにより着工への展望が一気に開け、王毅外相(当時)は翌6月に「2023年着工」を発表した。

中国のロシア権益侵食について、ロシアはどう受け止めているのか。フランスのマクロン大統領は2023年5月14日付のフランス紙とのインタビューで、ロシアは国際的に孤立し、「中国の属国に成り下がった」と酷評した。

これに対しクレムリンのペスコフ報道官は「両国は戦略的パートナーであり、従属かどうかの問題などない」と反論した。プーチン自身も6月16日、サンクトペテルブルク「国際経済フォーラム」で、欧米制裁にもかかわらず、「世界経済のリーダーの地位を維持する」と強気の姿勢をみせた。

しかしプーチンの強気に説得力はない。中国共産党は1921年の創設以来「共産主義の祖国」ソ連から、革命理論をはじめ党組織論を学んできた。新国家建設もソ連をモデルにし、ソ連を「兄」、中国が「弟」の兄弟関係にあった。

その関係がいまは完全に逆転したのは、差が開く一方の経済力にある。ウクライナ戦争発動の遠因は、1991年のソ連崩壊。長期にわたり世界の半分を支配した「帝国の喪失感」はプーチンだけでなくロシア国民に広く共有されている。

しかし戦時経済の長期化でロシア経済は深刻な打撃を受け、中国の協力抜きの生存は危うい。ウラジオストク港の使用権回復と中央アジア権益拡大は、中国がロシアの弱さを突いて獲得したものだ。同時に権益侵食が過剰になれば「傷ついた熊」の誇りを傷つけかねない。

それが高じれば、中ロ関係にひびが生じ西側の利益になることを中国は自己の歴史経験から知っている。今後中国がどこまでロシア権益に手を出すか、アクセルとブレーキを交互に踏みながら微妙なハンドリングを迫られる。【2023年6月20日 岡田充氏 東洋経済オンライン】
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【極東ロシアに流入する中国農民が地元住民を圧倒】
「権益」だけでなく「人」の動きも。

****中国、「無限の協力関係」の中でロシア極東の一部を静かに乗っ取り?―米誌****
ロシアがウクライナ侵攻後、中国との関係をより深める中、米誌「ニューズウィーク」は「無限の協力関係をけん伝する中国が、ロシア極東の一部を静かに乗っ取ろうとしている」と報じた。さらに「中国と国境を接する極東ロシアに流入する中国農民が地元住民を圧倒し、人民元依存で経済のかじ取りができない」とも伝えた。

ニューズウィークは日本メディアの記事を引用して「極東の沿海州(プリモルスキー州)の国境地帯では中国人農民が急増しており、その経済的影響力は地元住民を圧倒している」と紹介。「1860年に清朝がロシアに割譲したこの地域は中国の政策立案者やナショナリストの関心の的となっている。昨年、中国は国内の地図に沿海地方の行政の中心地であるウラジオストクの中国語名である海参崴のほか、七つのロシア極東部の中国語名を記載するよう定めた」と続けた。

さらに「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナは常にロシア国家市の一部だったと主張するのと同じように、中国の習近平国家主席は失われた領土の回復を『中華民族の偉大な復興』の最優先課題に挙げている」と指摘。「ロシア国境と接する中国東北部黒竜江省の鶴崗市はかつて石炭の産地として栄えたが、経済の先行きは暗い。そんな中で、これからも多くの中国人農民がロシアに向かうかもしれない」と予測した。

米シンクンタンク、スティムソン・センターの中国プログラム責任者ユン・スン氏は「ロシア極東地域における『黄禍論』的な不安は今に始まったことではない。何世紀とは言わないまでも、それが何十年も存在してきたのは国境の両側の人口バランスが大きく崩れているためだ」と説明。「中国人の流入はロシアの支配を脅かしかねない。まだ主権の問題が交渉のテーブルに上る段階ではないと思うが、現地の中国人農民をどう管理するかは厄介な問題になるだろう」とした。

学術雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・エコノミクス・アンド・ソシオロジー」に掲載された2021年の研究では、中国人農家の存在や中国人所有企業との取引がロシアの地元農家の所得を押し上げるケースもあることが分かったという。

ウクライナ侵攻で西側から経済制裁を受け、銀行の国際決済網SWIFT(スイフト)から排除されているロシア経済を戦時需要とともに支えているのは中国との貿易だ。

ロシア経済省によると、2023年上半期、ロシアは中国との貿易高の4分の3、その他の国との取引の4分の1を人民元で決済した。米ブルームバーグ通信によると、ロシアの中央銀行は3月29日に発表した年次報告書の中で「外貨準備に関して人民元に代わる良い選択肢がない」と言及。

ニューズウィークは「中露間に外交的緊張や貿易摩擦が生じた場合、『従属的なパートナー』であるプーチンは窮地に立たされ、中国が直面する経済的課題の悪影響を受けることになる」との見方を示した。【4月20日 レコードチャイナ】
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記事にもあるように“ロシア極東地域における『黄禍論』的な不安は今に始まったことではない”ですが、ただでさえ人口希薄・経済不活性なロシア極東への中国の人的移動がウクライナ問題を背景として一段と加速しているようです。

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