「AIに奪われる職業」10年前の予想が大外れと話題に 編集者は悲鳴「1人で何でもできてしまう時代」

「人工知能やロボット等で、日本の労働人口の49%が代替可能に」――。そう指摘して大きな注目を浴びたのは、2015年の野村総研のレポートだ。そこから約10年経ったいま、思わぬ形で再び話題になっている。
レポートで挙げられている「AIに奪われる職業」の予想が大きく外れているというのだ。背景には生成AI技術の急速な発達があり、言語を用いた「知的労働」が大きな影響を受けている。
ネットの反応「ほとんど真逆になりつつある」
レポートには、人工知能やロボット等による代替可能性が「高い職業」と「低い職業」がそれぞれ100ずつリストになっていた。
例えば、代替可能性が高いと予想されていた職業には、介護職員や保育士、調理人があがっている。しかし現代では、いずれもAIに代替されにくい職業と見なされている。自動車整備工や配管工、建設作業員、警備員、タクシー運転手なども、当面は代替される気配がない。
一方で、代替可能性が低いと見られていたコピーライターやシナリオライター、グラフィックデザイナーなどのクリエイティブ職種は、すでに一部タスクが生成AIに置き換えられている。プログラマーやソフトウェアエンジニアですら、基本的なコーディング作業の一部が自動化されている。
ネットには「何が代替されるかなんてわからない」「今見ると笑っちゃうよね。ほとんど真逆になりつつある」といった声があがっている。
コンテンツマーケターのAさんは、代替性が低い100種の職業に「フリーライター」が入っていることに驚いている。
「取材はともかく、文章を書くことにおいては、生成AIはものすごく速くて正確ですからね。少なくとも『1文字何円』で書いてきたクラウドワーカーは、完全にAIに置き換えられたといっていいです」
100人の仕事が1人で完遂「質も量も以前と同じ以上」
Aさん自身、5年ほど前のピーク時には、100人以上のクラウドワーカーを抱え、検索エンジンにヒットするキーワードを配置した記事を大量に作成していた。
「まずワーカーさんを採用する時点で、かなり手間なんです。募集してウェブ面談して、テスト原稿を書いてもらって選考して、契約書を締結して。採用後も、テーマを渡して締切までに書いてもらい、赤字を入れてフィードバックして育成するわけですが、途中で離脱する人もたくさんいます。本当に大変でした」
原稿の編集は編集部の社員の仕事だが、最終チェックは編集長のAさんだ。
「常にバタバタしていましたね。しかし今では、外部ライターはまったく使っていないし、編集部員も私ともう1人だけになりました。もう全部生成AIに置き換わったからです」
実はすでにAさん1人でも、以前と同じ以上の質と量の記事を書くことができているという。
「朝イチでその日に作成する記事カテゴリーを決めて、生成AIにアイデアを投げかけると、一瞬で15本くらいの案があがってくる。その中からめぼしいものをピックアップしてフィードバックし、その日の10本のタイトルと構成を体系的に磨き上げる。これでだいたい1時間くらいですかね」
その後は1本あたり30分から1時間で、記事の作成からシステムへの入力までを済ませる。それをもう1人の担当に回すと、画像生成AIで原稿内容を反映した画像を記事に貼り付けて公開する。
「このやり方にして半年以上経つので、プロンプト(原稿生成の指示)もかなり洗練されてきて、思い通りの記事が一発で出てくることが多くなりました。『ここ、ちょっと言葉遣いが硬いね』と指摘すると、意図を読み取ってあっという間に全文を書き直してくる。そのスピードがすごいです」
「スナックのママは代替可能性が低い」
ただしAさんによると、AI活用のコツは「一発で完成品を目指さないこと」だという。構成を決める段階で「このあたりが面白そう」などと質問を投げかけると、「ならこうしますか」と答えが返ってくる。
そのようなやりとりをした後に原稿を執筆させると、最終的なコンテンツの質や精度はかなり高いものになる。理想的な編集パートナーに見えるが「1人で何でもできてしまう時代」の到来に悲鳴をあげているという。
「相手は疲れを知らないので、1日中ずっとモニターに向かってキーボードを打って、相談したり頼んだり指摘したりしています。そうすると仕事の密度が濃くなりすぎて、気がつくと凄まじく疲弊してるんですね。AIは仕事を飛躍的に効率化させますが、人はヒマにはならない(笑)」
1日中、高速で言葉のやり取りをしながら一言も発さずにいると、声を出したくなる。生成AIで仕事をするようになってから、Aさんは地元のスナックで気晴らしをするようになった。
「頭のいいAIと長時間やりとりしていると、いい意味でアホな生身の人間と声を発して会話がしたくなるんですよ。『代替可能性が低い100の職業』にはバーテンダーが入っていますが、これは確実だと思います。スナックのママも入れていいんじゃないでしょうかね」