※ 元司法試験考査委員(労働法)

 

 

今日の労働判例

【Allegis Group Japan(リンクスタッフ元従業員)事件】(東京地判R4.12.22労判1295.90)

 

 この事案は、会社Xの従業員Dの退職の際、Dの就職をサポートした会社Yの従業員らがXに押しかけて抗議活動を行った事案で、XはYに対し、①業務停止による損害(復旧まで含めると2日だが、そのうち業務停止していた5時間分の人件費相当額)と、②Dの引継拒否(Yの従業員らがDに引継拒否をさせた)による賠償を求めた事案です。

 裁判所は、Xの請求を否定しました。

 

1.事実認定

 ①は、事務所立ち入りによる業務妨害であり、②は、Dに引継拒否させたことによる業務妨害です。

 裁判所は、①について、立ち入って業務妨害した証拠がない、そもそもYの従業員を呼ぶことをDに許可したのはXである、などとしてXの主張を否定しました。②について、Yの従業員らがDに引継拒否させた証拠がない、としてXの主張を否定しました。

 このように、法律上は、事実認定の問題として処理されました。

 

2.実務上のポイント

 さらに、労務管理の問題として見ると、D退職の際のXの対応が注目されます。

 具体的には、上記1の事実認定に影響はないにもかかわらず、裁判所は、XがDの退職の際に、❶XがDの退職を認めないと伝えたこと、❷退職を強行すると、Dに損害賠償を請求すると伝えたこと、❸損害賠償額は500万が見込まれると伝えたこと、❹Dに対してこれを承諾する趣旨の書類へのサインを求めたこと、という経緯を認定しています。

 従業員の退職は自由であり(民法628条、労基法137条など)、❶はこれに反しかねません。また、労働契約の不履行による違約金や賠償の約束も禁止されており(労基法16条)、❷~❹はこれに反しかねません。

 本事案の解決のためには、本来関係のない事実について、あえて事実認定して示しているのは、違法性を疑われる労務管理に対する警告的な意味があるのかもしれません。

 

 

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

 

 

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