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 韓国の日刊紙『ハンギョレ』から。かんたんな紹介記事がヤフーにも掲載されたので、この報道自体は、すでにご存知の方もあるかと思います。ここでは、内容をより詳しく報じている『ハンギョレ』記事を転載します。

 

 なお、より誹謗的(陰謀論的?)な扱いをご希望の向きには、『中央日報』をお薦めします。そちらでは、この時期に出版する自体が、国連安保理に対する陰謀だ、うんぬん、‥‥なかなか面白いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

文在寅・前大統領 回顧録『辺境から中心へ』出版

 

 

 南北連絡事務所の爆破については、「ひどいこと…謝罪してもらうべき」
 「トランプ大統領、率直でよかった…安倍首相はその場限りで進展なし」

 



  『ハンギョレ新聞』は、軍政時代、民主化を主張して職を追われた新聞記者が中心になり設立された。盧泰愚、金泳三、李明博、朴槿恵の保守派政権には批判的だったが、金大中、盧武鉉と続いた改革・進歩派の政権では、比較的政府に好意的であった。

 2017年に誕生した文在寅政権に対しては一貫して支持しており、文在寅自身も、かつて『ハンギョレ新聞』の創刊発起人、創刊委員、釜山支局長などを歴任した。

 この回顧録は、文在寅政権の外交安保において中心的役割を果たした崔鍾建
〔チェ・チョンゴン〕外交部次官(延世大学教授)が質問し、文前大統領が答えるという形式でつづられている。チェ元次官は、2023年5月に文前大統領の提案で回顧録の作成作業をおこなったと明かしている。今月10日に各オンライン書店で予約販売が開始され、現在、教保文庫〔ソウル市中心部にある韓国最大規模の書店〕の政治・社会分野ベストセラー1位となっており、大きな関心を集めている。

 

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『辺境から中心へ―文在寅回顧録:外交安保編』//ハンギョレ新聞社


 

 

 「金委員長は地方に行ってもノートパソコンをいつも持ち歩いているので、eメールでコミュニケーションを取りたいと言っていた。いつか延坪島〔ヨンピョンド〕を訪ねて住民を慰めたいと言っていた」

 文在寅
〔ムン・ジェイン〕前大統領は、退任から2年して出版した初の回顧録『辺境から中心へ』で、3回にわたる南北首脳会談と2回にわたる朝米首脳会談など、息詰まる外交の舞台裏のエピソードを語っている。同書は〔2024年5月〕17日に公開された。

 文前大統領によると、2018年5月26日の2回目の南北首脳会談で、文前大統領が南北首脳の執務室に設置されている直通電話を稼動させようと提案すると、金正恩
〔キム・ジョンウン〕委員長は「執務室に出勤するのは週に1、2回で、ほとんど地方を歩き回っているので、eメールでコミュニケーションを取ろう」と言ったため、そうすることで合意したという。しかし、「北朝鮮側で保安システム構築作業が遅延し続けており」、結局はeメールでのコミュニケーションは実現しなかったという。

 また、文前大統領の同年9月19日の平壌訪問後、金委員長の答礼訪問を議論した際、金委員長は済州島の漢拏山
〔ハルラサン〕に行ってみたいという強い意向を示したという。文前大統領はまた、「(金委員長が)KTXに乗ってみたいと言ったため、KTXでの移動も検討した」とし、「一つ意外だったのは、いつか延坪島を訪れて延坪島砲撃事件で苦しんだ住民を慰問したいと金正恩委員長が語ったことだった」と回顧している。

 

 註※「延坪島砲撃事件」:2010年11月23日、朝鮮半島中部・西海岸の大延坪島(韓国の施政区域)付近で起きた朝鮮人民軍と韓国国民軍の砲撃による衝突事件。韓国軍の実弾砲撃訓練に対し朝鮮人民軍が反撃し、うち 80発が島内に着弾し、韓国軍の砲台が破壊され火災が発生、海兵隊員 2名が死亡、16名が負傷し、住民 1600名に避難命令が出た。

 

 

2018年9月19日、文在寅前大統領が平壌の5・1競技場で北朝鮮住民に

向けて演説している=平壌写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 

 

 しかし、結局米国の要求で2019年2月にハノイで行われた二度目の朝米首脳会談は決裂し、北朝鮮の核問題は悪化し続けている。文前大統領は「時機を逸した」と残念さをあらわにしている。「そのような局面で私たちはもう少し何か状況を打開する積極的な役割を果たすべきだったのではないか、という残念な気持ちがもちろん残っている」としつつ、一方では「北朝鮮が毎回『我が民族同士』と言いながらも、朝米対話にばかりこだわり、南北関係を従属的なものと考えているような態度は非常に遺憾だ」と述べている。

 2020年6月16日に北朝鮮が南北連絡事務所を爆破したことについては、「本当にひどいこと」だとし、「あのことは、いつか別の政権が北朝鮮と対話をすることになれば、必ず謝罪してもらうべきことだと思う」と述べている。

 文前大統領は、在任中の主要な外交相手だった米国のドナルド・トランプ前大統領について、「無礼で乱暴だとの評価もあるが、私は彼が率直なため好きだった」と評価しつつ、「歴代のどの政権より韓米関係が強かった」と強調している。防衛費分担金問題については「トランプ大統領の要求が多すぎて長いあいだ交渉に進展がなく、それで私は交渉中断すら指示した」と回顧しつつも、「そのせいでトランプ大統領との関係や両国関係に困難が生じたことはなかった」と語っている。また、ハノイ・ノーディール後に「トランプ大統領本人も後に私に後悔していると言って申し訳なさを見せた」、「自身には(金正恩の提案を)受け入れる考えがあったが、ボルトン国家安保担当大統領補佐官が非常に強く反対し、ポンペオ国務長官もボルトンに同調したため、仕方がなかったと言っていた」と述べている。

 

 

 

安倍首相は「会った瞬間には良い顔。

だが、別れるとまったく進展なし」

 

 

 一方、日本の安倍晋三元首相については、「会った瞬間には良い顔をしていて言葉使いも柔らかいが、別れるとまったく進展がなかった」と批判的に語っている。在任後半期の日本による輸出規制と強制動員問題については、複数の解決策を提示したが、日本の首相官邸にすべて拒否されたと述べている。「日本政府は実務者レベルでは前向きな議論と意見の接近を示していても、結局は首相官邸に上がると微動だにせず頑強に拒否しているという報告を受けた」とし、「それだけ安倍首相はこの問題を右傾化した視点で扱っていた」と述べている。

 尹錫悦
〔ユン・ソギョル政権については、「戦略的曖昧さを捨てた現政権の過度に理念的な態度は、韓国外交の困難をさらに大きく」していると指摘しつつ、「北朝鮮の挑発は心配だが、韓国政府の過度な対応、何より危機の高まりにもかかわらず、対話を通じて危機をできるだけ鎮める努力がまったく見えない」と批判している。洪範図〔ホン・ポムド〕将軍像の移転問題についても、「保守は民族を重視し、共同体を重視し、愛国を重視するものだが、そのような価値に最もよく合致する人物こそ洪範図将軍」、「このような方々に礼を尽くさず逆におとしめ、建てられている銅像を撤去するというのは、とうてい理解できないこと」と述べている。

 

 註※「錫悦」:韓国語の標準的な発音では「ソギョル」または「ソンニョル」だが、日本の一部メディアは「ソクヨル」と読んでいる。本人が、そう読まれることを好むのだろうか?

 

 註*「洪範図」1868-1943:朝鮮の独立活動家。日露戦争後の 1907年に抗日義兵闘争に身を投じ、日韓併合とともに満州→ウラジオストクに移住、1919年「3・1独立運動」以後、間島〔朝中国境地域〕の「大韓独立軍」を率いてしばしば朝鮮植民地内に出撃し、日本軍警と戦闘。1927年にソ連共産党に入党、スターリンの強制移住政策でカザフスタンに移住し死去。1962年、朴正熙政権によって顕彰され、2021年には遺骨がカザフスタンから返還され、韓国の独立功労者・国立墓地「顕忠院」に埋葬された。しかし、共産党入党の経歴への反発からか、2023年9月、尹錫悦政権は、陸軍士官学校にあった洪範図の胸像を校外に撤去したため、反対運動が巻き起こっている。

 

 

2018年9月20日、白頭山の山頂で。文在寅前大統領夫妻と金正恩委員長夫妻

=平壌写真共同取材団、キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 

 

 また、文在寅政権の外交について、「バランス外交で歴代最高の成果を出したと自負してもよいと思う」と自評している。北朝鮮の核問題と南北関係がはるかに危険になっている現実については、「北朝鮮の核とミサイルの高度化に伴い、南北の対話の構図そのものが変化した」としつつも、「切迫していて問題を早く解決しなければならないのは私たちであるため、私たちが主導して南北対話を行い、それをもって朝米対話をも引き出すこと以外に方法はない」と強調している。

   パク・ミンヒ先任記者

 

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 韓国が保守政権に交代してからまだたった2年。それなのに、〈北〉政権の硬化,米朝対話の途絶とともに、南北関係はこれまでにないコミュニケーションの危機を迎えています。

 

 文在寅氏の記憶に残る金正恩の意向と姿勢,在任中の〈北〉政権の感触は、私たちが韓米日のメディア報道から受ける印象とは大きく異なっていることに驚きます。

 

 文在寅氏の得た感触が 100%本質的だとは思う必要はないし、南北の緊張緩和を何よりも優先しようとした氏の主観がそこに反映することは避けられないでしょう。しかし、韓米日という一方の側の報道も絶対的なものではないとすれば、今この時点で文在寅氏の証言に耳を傾ける意義は決して小さくないと、私は考えます。


 

 

 


 

 

 

 

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