「ひげの殿下」の愛称で親しまれた、大正天皇のひ孫三笠宮寛仁殿下のご長女彬子女王殿下の著書。
英国オックスフォード大学での約10年間に渡る留学時代のご経験をエッセイ形式でまとめられた一冊です。
初版は今から10年程前に発行されましたが、昨年2023年にSNSで取り上げられ、その類い希な内容が話題に。文庫として再発行されました。
現在、ご公務をはじめ、様々な団体の代表に就任され、研究や外交など、そのご活躍ぶりは、皇族の中でも特にバイタリティ溢れる印象の彬子様。
本書でも、想像に違わず、いやそれ以上に異国でお一人獅子奮闘される様子がユーモア溢れる雰囲気で描かれていました。
*護衛や従者のいない環境の中、格安航空券や電車のチケットをご自分で手配されて学会や旅行に向かった際の外国ならではのトラブルや、(*比較的治安の良い外国に長期滞在する場合、護衛は渡航時と帰国時しかつかないのだそう)言葉の壁にぶつかった留学当初の孤独感、手厳しい指導官の無茶ぶりなど、ごく普通の人に通じる悩みや葛藤を、ご自分の手で一つ一つ乗り越えて突破されるその様子は、失礼を承知で言わせて頂くと、どこか逞しささえ感じました。
また、お一人の移動の際、空港で皇族独自の旅券の存在を知らない出国審査官に足止めされたり、日本ではご挨拶のお客様がひっきりなしに訪れて心安まる暇のなかったお正月を、生まれてはじめてご友人宅でお雑煮をごちそうになり、ゆったりと過ごされた様子など、皇室ならではのご苦労も垣間見えました。
一歩お住まいを出ると24時間いつも護衛がそばにいて、自由に行動することなどほぼ出来ない国内での環境を離れ、ご自分の足で大きく羽ばたかれるその姿が、読み手の背中を押してくれるような、そんな力強さや勇気を与えてくれる一冊です。