旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

チベットの十字刺繍ティクマの襤褸

2024年04月04日 | チベットもの



『チベット襤褸』という価値観を、
人知れずやっております。

しかも、
十字の紋様ティクマと襤褸が合わさった物は、
極めて美しい布だと僕は思っております。


日本の藍染の古い野良着や布団等の襤褸は、
英語では、
「BORO」と表記され、
今や、その価値観は欧米で評価と認知がされてます。

個人的には、
その襤褸の価値観は、
日本の藍染等の襤褸に限らず、
世界の様々な布、織物に共通する価値観だと思っています。

中東などの古いキリムや絨毯にも、
朽ちた物や、
修復が重ねられた物は見られ、
それらは「フラグメント」と呼ばれ、
評価もされている。

一方で、
チベットの襤褸

僕が知る限り、
一部を除き、ほぼ認知されてこなかった。

日本では特に。

これはチベットの織物や布自体の、
認知度が低いからでもあると思う。

6,7年くらい前かな

ネパールのチベット圏で、
チベットの襤褸の布、
刺繍された古い民族衣装の端切れなどが、
一斉に姿を消した時期があった。

知人のチベット人業者に聞けば、
中国人が買い漁っているとの事だった。

中国人の間では、
以前から、
古い布類や刺繍布に価値(美的価値・金銭価値)を見出してきて、
既に、チベット本土または東チベット、
北京などの中国都市部でも高額で需要があった筈だったが、
それとは異なる理由で姿を消したのだった。

彼ら中国人業者、
または、
中国本土での買い手は
美しさを改めて見出した訳でもない。

理由は明快だった。

偽物のタンカ(仏画)の表装に使うとの事だった。

掛け軸でいう所の、
天地や中廻し、柱と呼ばれる、
絵の周りを額装する生地に使うのですわ。

つまりは、
絵は新しく描いて古加工し、
額布部分の生地に古いオリジナルを使って、
偽物を作る手法だ。

そうすると、
全体的に古く見えて、
偽物であったとしても、
超高額で売れるというカラクリである。

その時期にネパールでは、
チベットの龍柄などの端切れ布であれば、
中国本土より安く手に入れるのも可能だったので、
まとめて買われた、との事だった。

ただし、
上記の真偽や本当の理由は分からないし、
その時期には、
中国人富裕層向けの高額オークションでも、
古い布類は多く出品されていた印象もある。

ただ単に、
需要が多くなったのかもしれない。
分からないっす。

いずれにしても、
良くも悪くも、
実に中国人らしい理由だ。

その後、古いオリジナルの襤褸の値段は、
何十倍にもなったかな。

昨年、ネパールで、
古い刺繍ハギレ(良い刺繍の柄であった)が4,5枚に、
15万ルピー(約16万円)の値段がついていた事も見かけた。

アホやん。

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それはさて置き、
僕も以前から襤褸や、
ティクマをひたすら扱ってきたが、
あまり評価されんかったよね、これが。

僕のやり方が悪かったのだろう。

僕が無名の行商であるからかもしれない。

でも、
最近、よーやく認知されかけてる気がする。

以前から、僕は骨董市で、
チベットのティクマや、
チベット仏教の襤褸布を頻繁に売っておりました。

最近、推し始めたと思われがちですが、
そーではござらん。

なんなら、この仕事を始める前から、
チベットの襤褸や、ティクマは好きでござった。

当時、骨董市の僕のブースで売ってるのは、
ほぼ全部ティクマの物とか、
布は全部、ボロボロの襤褸とかで、
全力で売っていた事もあるけど、

「あら〜、知ってるわ、日本のお茶道具よね〜」とか
「そんなダメージが多い布、値段、つかないでしょ」とか

勘違いや、失礼な言われ方もされてきました。

売っていた場所がマッチしなかったのかもしれない。
東京以外の骨董市で売ってたりしたので。

ごく一部の有名美術館関係の学芸員さん達や、
僕の価値観の趣向を理解されてくれた方々、
博学な方や、
見聞を広く求める開かれた心をお持ちの方々などには、
評価されていたかな。

それらの方々以外は、
全スルーでしたね、ぶっちゃけ。

例え、素晴らしいと言ってくださっても、
「実際に買っていかれる人」は
多くはなかったです。


さて、
泣き言などはここまでで、
当時、僕が扱っていたティクマの襤褸でござる。

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正方形のティクマの布。
長い年月を経た襤褸です。

座布団の表布ですな。
僧侶が使います。
名前は忘れてしまった。






良い味である。

日本の古い布で、リキと表現される、
力強さ、説得力がある。








特筆すべきは、
十字紋様が刺繍である事です。

よく見ると、
十字紋様ティクマが、「刺繍」で表現されておるのです。

正確には、織りと刺繍の中間。
織りの隙間に糸を通している。

「結び」となるのかな。

便宜的に刺繍としてます。

多くのティクマ(ティグマ)は、
絞りや押印(スタンプ)がマニアには知られるとこだが、
実は、刺繍での十字ティクマも存在します。

絞りの上に、刺繍で十字を表現しております。

某織物研究者の文献には、
ティクマに関して、
刺繍は触れられていないらしいけど、
実際には、チベットのティクマ紋様は刺繍も存在します。








襤褸の雰囲気が良き

色は褪せ、
生地は劣化している。

海外のサイトでは、
ティクマの布を、19世紀と一概に記載している場合も多いが、
確かに、19世紀と思われる物も存在する。
ただ、僕は、
大抵は20世紀中頃から前半位と、時代を聞かれれば言う事が多い。
物にもよるが、概ね、80年くらいかしら。
あえて若く言っている場合もある。
根拠は、布や色の質感(文献等とかと比較している)等に加え、
状況での見解となる。

この座布団に関しては、100年位は経っているとは思えます。
それ以上かも。正確には分からんが。








十字紋様が満載です。

渋い赤紫色と青色のコントラストも佳き。












裏面

裏面には絞りが表れている。
表面とは異なった雰囲気の顔をしております。

色は色褪せた表面に比べて、濃く残っている。






実は、このティクマの座布団

もう一枚、同じ物を対で持っていた。

もうだいぶ前に売ってしまったのです。

この一枚は、
刺繍での十字ティクマの襤褸なので、
参考資料として手元にずっと残しております。

襤褸でない、
厚手のティクマの座布団バージョンも何枚も持っていたが、
今では手元に一枚もない。

見識のある方々の元に、
旅立ったのです。

もちろん僕は、
商売の売り手としての側面もありますが、
無知で無学で稚拙な僕ですが、
単に、
チベットのティクマ、
チベットの襤褸、
その無類の美しさ、
現地の風土や人、
興味深い文化を感じて扱っているつもりなのです。


「チベットの襤褸とティクマ」


チベット仏教文化を表す、
『美しい布』と僕は思っておりやす。


そして、僕は、
それを追い求めているのでござる。



(写真掲載のティクマの襤褸座布団は、個人コレクションです)





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