旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

チベットの十字絞りインディゴ・ティクマ

2024年03月29日 | チベットもの



さて、チベットの十字絞りティクマ(ティグマ)の事です。

しつこく発信して恐縮です。

推しの人ならぬ、
推しの物です。

もう散々、今までもティクマ(またはティグマ)に関して、
書いてきました。

今後は、古手の物は、
もう多くは手にできないであろうのを感じ、
記録的要素として残しておきますのです。

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古いホース・ブランケット「タ・ケップ」です。

チベット語で正確に言うと、
ニンバ・ティクマ( ティグマ)・タ・ケップですな。

十字絞りの名称のティクマに関して、
ティ「グ」マと呼ばれていたり、または記載しているのは、
多くの英語表記だと「ク」の表記が、「g」(tigma)となるからだけど、
実際のチベタンのチベット語の口語表現だと、「ク」(音聞き)になる場合が多く、
僕は、ティ「ク」マと、メインに表記しております。

さて、早速。




蒼いインディゴの地です。

良い色をしております。

ティクマの布類または織物には、
絞りを入れる「地布の色」は、
青や赤、紫や白、黄色、緑など、多彩な下地の色がありますが、
個人的に青という色が好きです。




美しい十字紋様が明確に表現されてます。

輪郭に薄い黄色が現れています。




全体像。
物としての美しさ、完成度が素晴らしい。

上部部分の赤色が鮮やかに撮れてしまっているが、
実物は、燻んだ赤をした古色です。






古手ですな。
本当に古いです。






無数に表現された十字紋様。

所々、十字紋様が紅い色でも表現されている。

以前、他の店の知人でないチベット人業者で「十字の数」なるものを言う人も居たが、
個人的には、それは売り文句であろうと感じている。
十字紋様ティクマの数の意味や、
数による価値の有無は、
今まで納得できる理由を聞いたことがない。






白黒にしてみました。
十字紋様が惹き立つのです。






問答無用に美しいチベット民藝と個人的には思っています。
安易に、民芸または民藝という言葉は使えないけど。

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以前も書きましたが、
ティクマ(またはティグマ)のホース・ブランケットと言えど、
多種多様で、
サイズ・年代・裏地の素材や色、などなど、様々な種類がございます。

チベット本土はもちろん、
ラダックやザスカールなどでも目にするティクマ

民族衣装や、祭事衣装、
靴や帽子、
座布団、馬具や法具類にも表現されている、
チベットの十字絞りティクマ紋様

古くは、
ネパールにもチベットから渡ってきたティクマの織物たち。

ネパールでも、10年前位には目にする機会も今よりも多く、
値段も比較的買いやすかった。

チベット本土ラサとか東チベットには、
今や、じぇんじぇん無いよ。
いや、ほとんど無い、と言った方が正確かな。

ラダックであっても
ザンスカールであっても、
古く、十字紋様が多く表現された質の良い民族衣装ゴンツェやリンツェは、
もう、だいぶ少なくなった。

8年前位だったかなー

いつだったかなー

真偽と理由は知らんが、
フランス人の間で一気に人気になったらしく、
凄い勢いで値段が急騰し、
今では、数は激減しました。

ラダックで、
大量に古い十字絞りのリンツェを持っていた店が有ったが、
店の経営を父親から息子が引き継ぎ、
昨年の夏には、
ティクマ関連は、ほぼ無くなっていたよね。
なんなら店も新しくしてたし。

ネパールであっても、
めっちゃ高い物が高級店に幾つか残っているのを、
今ではわずかに目にするのだけど、
その値段は、
僕の売値より遥かに高かったりするほどです。

ラサや東チベットに至っては、
ティクマの物を見つけるのすら大変の上、
行くのが面倒すぎる。
手間もお金もかかってしまう。

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この投稿のホース・ブランケットは、
普段、店を開けない知人のチベタンの店に有った物。

前々から彼が持っていたのは知っていたけど、
古いズィ・ビーズとか扱ってるし、
「めっちゃ良いけど、高いんだろうなー」と思って見ていた。

今回、もう多くは手に入らないのを改めて痛感し、
他の店で僕が見送ったホース・ブランケットも滞在中に売れていた。

以前もブログで書いた、
白地の同手のティクマのホース・ブランケットは手に入れたが、
可能な限り、もっと手に収めておきたい。

そこで、
英語がほぼ話せない彼の店で、
お茶をしてるついでに値段を聞いてみた。

「やっぱ、高けぇ」

そう思ったよね。

しかし、
むっちゃ良い。

よく見せてもらったが、
問答無用に良い。

あー、もう、やんなっちゃうよ。

店主も
「これ、めっちゃ良い」
とか
「本当に古いぜ」
とか
「もう入ってこないんだよね」とか
あんま良く分からんチベット語と、
おぼつかない英語まじりで言っている。

まぁ、たぶん事実よね、これに関しては。

俺が「高いよ、値引きしてよ」と言うと、全然割り引かず、
「安いよ!」と言い、
奥から、センゲェ(雪獅子)柄の、
大きく古いオリジナルのチベタン・ラグを出してくる。

「これなんか、〇〇万ルピーだよ」と、
チベタンの親父は言う。

超高いー

でも、相場的には安い部類なんだろう、とも感じた。

ニューヨークとか持っていったら、
いくらの値段がつくか分からん。

超欲しいー

同時に、
このホース・ブランケットの「物の美しさ」は、
個人的には、その超高額なラグに劣る物ではないと感じた。

状態も申し分ない。
十字絞りティクマも複数表現されていて、
大きさもある。
裏地も良い。
古さもある。
何より、好きなインディゴ・ベースだ。
色も良い。

この先、また出会いのは簡単ではないだろう。
出会えるかもしれないし、
出会えないかもしれない。
出会ったとしても、いつになるのかは分からない。

僕は決めた。

「分かったよ、買うよ。金、持ってくるから待っとけ」

そう言うと、僕は現金を取りに帰った。


1000ネパール・ルピー札(約1100円・1000ルピーがネパーでは最高額紙幣)の、
分厚い札束を持って戻ると、
僕は買い取った。


あー、もー、やんなちゃうな


でも、良いもの買えた。


そんな思い出。



現状、私物(個人コレクション)




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