「めったなことを言うな!
ここは、我々のフィールドではない」
ピシリと、ゼペットさんがアキに向かって言う。
今までとは違う険しい顔つきだ。
それほど…ここは、何があるのかわからない。
危険な場所なのだろう。
「だったら…どうするの?」
そうアキが言いかけた時…
「しぃ~っ、静かに」
先ほどから、懐中時計を見ていたルークが、アキに向かって声をひそめる。
「なに?」
「しぃ~っ」
今度はゼペットさんまで、黙るようにとうながす。
(一体、なに?)
アキには何も、異変を感じないのだけれど…
帽子屋まで、大げさに肩をすくめる。
仕方がないので、ゼペットさんに習って、息をひそめてじぃっとする。
はぁはぁと、息を吐く音が聞こえる。
(動物?)
もしかして、ルシファー?
声をもらしそうになるのをこらえて、暗闇に同化するように…と、
身体を縮める。
入口の近くに、生臭い臭いが、かすかに漂ってくる。
(なに?魚のような、生ごみみたいな臭い…)
声を出すのをガマンして、アキは鼻をつまむ。
慣れているのか、ゼペットさんも、ルークも、臭いの方は平気なようだ。
(まさか…この世界の生き物?)
ルシファーは、そんな臭いがしただろうか?
そんな記憶はない。
じゃあ…何なのだろう?
まだ見ぬ生き物の存在を感じて、アキはどうしよう…と、頭を悩ませた。