真夏「わたし、女三の宮って嫌いなのよね」
※女三の宮とは、「源氏物語」の主人公・光源氏の最後の妻で、朱雀帝の娘。柏木と不倫関係になり、薫の君を産み落としたのちに出家する。
あすか「ん?そうなの?なんで?」
真夏「だって、好きなものも嫌いなものも特になくて、自分の意志というものがないわ。他人に言われるがままの人生じゃない。こういう子腹立つわ」
あすか「ふーん。じゃあ真夏ちゃんは、紫の上がお好みかな」
真夏「わりとね。あと、六条御息所も大人の女性で素敵だわ」
※紫の上は、光源氏の初恋の女性・藤壺の姪で、幼いときから光源氏に育てられ、のちに妻となる。源氏物語のメインヒロイン。六条御息所は、光源氏の年上の愛人。生き霊となって、光源氏の妻や恋人を次々と憑き殺す。
真夏(左)「あすかっちは源氏物語にお気に入りいる?」
あすか(右)「私は紫の上の子供時代に出てくる犬君(いぬき)が好みなんだ。紫の上が閉じ込めたスズメを逃がしちゃったり、お人形の御殿ぶっ壊したりと色々やらかしてくれるところがいい」
真夏「えっ、すごいマイナーキャラ!」
あすか「うん。『源氏物語』ってマイナーなキャラまで細かく性格が分かるよう書き分けてるよね。群像劇でああいう丁寧さは見習いたいね。光源氏はいろんなタイプの女性を愛したけど、愛したその後も見捨てず援助を続けるマメな男として、あの時代の理想を生きたよね。当時の宮中で、源氏物語が人気の物語になるのもうなずけるな」
真夏「でも、あーいう男は嫌だわ。どうしていっぺんに沢山の女性を愛せるのかしら。常に本能丸出しってのも理解できない」
あすか「男だからねぇ。今も昔もそんなに変わらないと思う」
真夏「葵の上が光源氏に優しかったら、光源氏はこんなにたくさんの女性に走らなかったと思うわ」
あすか「その辺は当時の色男だから、分からないけどね。葵の上と和解したあとでも、紫の上という理想の女性を育てている間にも、いろんな女性と遊んでいたもんねー」
※葵の上とは、左大臣の娘で光源氏の正妻。プライドが高く、光源氏に冷たかった。光源氏との間に夕霧をもうける。
真夏(左)「頭中将とかどう?」
あすか(右)「うーん、男性キャラは影薄いな。確かに光源氏にムキになってライバル心燃やすトコとか面白いけど、源氏物語ってやっぱり女性の物語だよね。薫の君も匂宮もあんまり強い印象がない」
真夏「頭中将っていつも光源氏を意識していたと思うわ。光源氏が失脚したときも一人だけ見舞いに来てくれたりして」
※頭中将は、左大臣の息子。光源氏の従兄で義兄でもある。光源氏の生涯の親友にしてライバルであり、柏木の父。
あすか(右)「源氏物語の女性達って、みんな受け身で、一歩引いてるよね。夕顔の君は自分から光源氏にアプローチしてきたけど、あとはあからさまな主張をしない、見苦しくならないような人達ばかりだなって思うんだ」
真夏(左)「見苦しくないってのはこの時代の美意識のひとつよね。六条御息所も、生き霊になってまで光源氏に執着していたけど、自分で想いを断ち切って、斎宮になった娘と一緒に伊勢神宮へ去って行くものね。ああ、美しいわぁ」
了くん「(……外国の物語について話してるのかな?)」
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あすかっちと真夏ちゃん、「源氏物語」で盛り上がっておりますが、これは中学ではなく高校で習う範囲です。中学で習う古文はふたりともすでに終わらせており、高校の古文を独学でやっているのです。特に「源氏物語」はたくさん現代語訳が出ているので読み甲斐があります。飲み物を持って来てくれた了くんは、二人が何について話しているのかさっぱり分かりませんでした。