東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2024年06月10日 | Weblog
「ここかしこの道に、あやしきわざをしつつ、御送り迎への人のきぬの裾たへがたく」…。「源氏物語」の「桐壺(きりつぼ)」に出てくる。帝(みかど)の寵愛(ちょうあい)を受け、子を授かった桐壺の更衣は周りからねたみを買い、いやがらせを受ける▼「あやしきわざ」とは何か。高校の古文の授業中、先生から質問の不意打ちを食った同級生の回答を思い出す。「落とし穴をつくった」。なかなかの名答だと思うが、動物の糞(ふん)などの汚物をまき散らしたというのが一般的な解釈である。そんなものをまいて女房たちの裾を汚させるとは悪質極まりない上、子どもっぽい▼千年前の物語の話ではなく、現代の「あやしきわざ」の子どもっぽさにあきれる。北朝鮮が韓国に向けてゴミや汚物などをぶら下げた風船を大量に飛ばしているそうだ。たばこの吸い殻やビニール、動物のふん尿も混じっているとか▼風に乗ってソウル近郊に数百個が到達したと伝えられる。大きな危険はないそうだが、風船の届いた先はいい迷惑だろう。なにより「悪意」でふくらんだ風船が気味悪い▼韓国の市民団体が北朝鮮の体制を批判するビラを飛ばしたことへの報復措置らしい。風船は北からの「誠意ある贈り物」であり「拾い続けろ」とはおだやかではない▼風船が運ぶのはゴミばかりではなかろう。子どもっぽいとはいえ、あやしき風船がさらなる南北の緊張を運ばぬことを願う。

 


販売中です!

2024年06月08日 | Weblog


今日の筆洗

2024年06月08日 | Weblog
 ドラマ、映画の『踊る大捜査線』は織田裕二さん扮(ふん)する主人公、青島俊作ら一線の刑事と、警察組織を率いる高級官僚との確執も描く▼都道府県警察やそれを司(つかさど)る警察庁で要職を歴任する「キャリア官僚」。劇中では手柄を争い、保身に走り、現場を軽視し、会議室にこもり指揮をとる▼青島の有名な台詞(せりふ)「事件は会議室で起きてんじゃない。現場で起きてんだ」は勝手な上層部への叫び。柳葉敏郎さん演ずるキャリア官僚室井慎次は青島らに味方し上司と衝突するが、例外である▼キャリア官僚である鹿児島県警トップ、本部長が身内の犯罪を隠蔽(いんぺい)しようとしたとかつて部下だった県警の前生活安全部長が訴えた。前部長は職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして逮捕されたが、在職中の警官の盗撮事件で指揮役の本部長が「泳がせよう」と言って摘発しようとしなかったことに失望。自身の定年退職後も事件が表に出ないので文書を記者に送ったと裁判手続きの中で明かした▼前部長は県警採用のたたき上げ。「自己保身を図る組織に絶望した」と言うが、本部長は隠蔽の指示を否定する。『踊る大捜査線』でも警官の不祥事を上層部が隠そうとする話があったが、前部長の話が事実なら映画顔負けである▼劇中、良心派官僚の室井は「組織の中で生きる人間こそ信念が必要だ」と言った。本部長にそれはあったのだろうか。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月07日 | Weblog
十年一昔。10年たてばもう昔と考える人がいるほど、その歳月は長い。竹下登元首相が若い時、いつか首相になりたいと宴席で「10年たったら」と戯(ざ)れ歌を歌った話は知られる▼<講和の条約 吉田で暮れて 日ソ協定 鳩山さんで 今じゃ佐藤で 沖縄返還 10年たったら 竹下さん トコズンドコ ズンドコ>▼佐藤政権の内閣官房副長官だったころでまだ現実の首相候補でないから歌は永田町で笑って許された。「10年たったら」は厳密な時期でなく「遠い将来」といった意だろう▼政治とカネの問題を巡る政治資金規正法の改正で、修正を重ねた自民党案が衆院を通過した。政策活動費の使途の領収書は10年後に公開するらしいが、なぜ10年後なのか。法に違反した時の公訴時効は5年だから領収書で不正が分かっても罰せられないという野党の批判はもっともと思える。細則未定で10年後公開の領収書が黒塗りだらけの恐れもある▼守るべきプライバシーもあろうが、速やかに多くの情報を公開してこそ信は得られる。政治資金パーティーの券購入者名の公開基準額引き下げなど自民は努力した気かもしれぬが、企業・団体献金は温存。自民は変わったとまでは評せまい▼十年一日は、長い間少しも変わらないことをいう。同じやり方を辛抱強く守るなど肯定的な意味でも使うが、世の中、変化してこそ永らえる場合もある。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月06日 | Weblog

 ホトトギスの声を週末に訪ねた三重県伊賀市の山里で聞く。この地ではまだウグイスも盛んに鳴いており、「春告鳥」と田植えの季節を告げる「時鳥」の掛け合いがのどかである▼無粋者には「ケキョケキョ」としか聞こえぬが、ホトトギスの鋭い鳴き声にはその声を言葉にうつす「聞きなし」が豊富にある。「テッペンカケタカ」「ホンゾンカケタカ」「トッキョキョカキョク」「トモニチヨニ」…▼<信濃なる須賀の荒野(あらの)にほととぎす鳴く声聞けば時すぎにけり>。万葉集の東歌(あずまうた)にある。この「時すぎにけり」も鳴き声の聞きなしという説があるそうだ▼この方がその声を耳にすれば、やはり「時すぎにけり」と聞こえるかもしれぬ。岸田首相である。今国会での衆院解散をあきらめたとの観測が広がる。自民党派閥の裏金問題の逆風で、同党が勝てそうな衆院解散・総選挙のタイミングはとっくに「すぎにけり」か▼早期の衆院解散・総選挙で勝利し、その勢いのまま、9月の自民党総裁選でも勝利するというのが首相の計算だったのだろうが、解散を総裁選以降に見送るとなれば岸田さんの戦略は成り立たず、再選はいよいよ厳しくなる▼衆院解散先送りが本当なら、総裁選に向けた党内の動きは本格化するのだろう。出馬を目指す方々にはホトトギスの声がすでに「テッペン(総裁)賭けた闘い」と聞こえているはずである。


今日の筆洗

2024年06月05日 | Weblog

教室の花瓶が割れたとする。学校でこの手の問題が起きた場合、担任の先生がクラス全員に目をつむらせて割った者に手を挙げさせるということが、昔はよくあった。「割った者は正直に手を挙げなさい」。今ではコントのネタだろう▼「不正を行っていたのは誰ですか」。その問いかけにあの子も、この子も次々と手を挙げる。そんな寂しい場面を想像する。自動車・二輪車メーカーの「型式指定」を巡る不正申請である▼昨年発覚したダイハツ工業と豊田自動織機の不正を受けた国土交通省の調査に対し、5社が「実はうちも」とデータの虚偽記載や試験車両の加工などの不正を認めた。これが高い品質で世界の信頼を勝ち得た日本の自動車メーカーの実態とは情けないではないか▼販売台数は世界トップで「成績優秀」、「不正はない」と胸を張っていた「トヨタ君」も申し訳なさそうに手を挙げているのをみればユーザーはショックだろう。2016年に発覚した三菱自動車のデータ改ざん以降、これで国内すべての乗用車メーカーが品質不正をしていたことになる▼5社は申請に不正はあったものの、安全・環境基準は満たしていると説明している。言い訳にはなるまい。守るべきルールが勝手な理屈で破られた▼さてもう一度、5社を「教室」に呼び、厳しく問わねばなるまい。なぜ不正を、再発防止にどう取り組むかを。


今日の筆洗

2024年06月04日 | Weblog
 ジェームズ・ジョイスといえば、『ユリシーズ』などのアイルランドの作家だが、欧米などではその名前がゴルフのスラング(俗語)として使われるそうだ。意味がお分かりか。パッティングと関係がある▼右に切れるのか左に曲がるのか、まるで見当のつかぬグリーンの複雑なラインをいう。ジョイスの作品を思い出せばピンとくるだろう。独特な表現が難解すぎて「さっぱり読めない」というしゃれである▼最終日の6番ホールは「ジェームズ・ジョイス」だったか。最初のパットはカップに届かず、次はオーバー。そのまた次はカップに蹴られる。プロでは珍しい痛恨の4パットでダブルボギー。ゴルフの全米女子オープンで優勝した笹生優花選手である▼「ダボ」のホールを名場面に挙げるのは気がひけるが、ここが勝負の分かれ目だったか。正確にはその後である。4パットにも心を乱さない、あきらめない。勝利を信じ、がまんを重ね、ついに逆転。技術やドライバーの飛距離はもちろん、何よりも強い心を持っていらっしゃる▼2021年の同大会でも優勝しているが、そこからツアー2勝目が遠かった。ゴルフそのものが難しい「ジョイス」に見えていた時期もあっただろうが、がまんの日々がなにごとにも動じぬ心を育てたのかもしれない▼「ユウカ」。その名前を「耐える」という意味の言葉として使いたくなる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月03日 | Weblog
ベーブ・ルースにタイ・カッブ。いずれも米大リーグの歴史に偉大な名を残す強打者だが、2人の記録を抜き去る選手が突然、現れた。大谷翔平選手の話ではない▼その選手、通算打率(3割7分2厘)でカッブを抜いて1位に。通算の長打率とOPS(出塁率+長打率)でも1位だったルースを置き去りにした。シーズン最高打率(4割6分6厘!)もトップに▼選手の名はジョシュ・ギブソン捕手。1911年生まれの選手が今年、記録を塗り替えたことになる。不思議な話に聞こえるだろう。こういうことである。最近、大リーグ機構はかつて存在した黒人リーグ「ニグロリーグ」の選手の記録を大リーグ記録として正式に加えた。この結果、一部の記録でこれまでの順位が大きく入れ替わることになった▼大リーグにはジャッキー・ロビンソン入団の47年まで黒人を事実上締め出した差別の歴史がある。記録の見直しはその反省と黒人リーグの実力をきちんと認める試みである▼通算900本塁打の伝説もあるギブソン捕手は35歳の若さで病死している。一説では大リーグ入りがかなわぬことに失望し、これも死期を早めたとされる▼3年がかりで集めた黒人リーグの記録は完全ではないそうだ。大リーグ記録を塗り替えた強打の捕手は満足しているか、ひょっとして「もっと打っているのに」と苦笑いしているかもしれない。
 
 

 


今日の筆洗

2024年06月01日 | Weblog

「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」。そう刻む広島市の原爆慰霊碑に2012年9月、塗料がかけられ、30代の広島の男が現行犯逮捕された。曽祖父母が被爆し死亡。「碑文は主語があいまい」という右翼系団体の批判に共感したという▼主語がなく日本が過ちを犯したように読めるとの反発はかねてある。市は「すべての人びと」が戦争という過ちを繰り返さないと誓っていると説明する▼人類の誓いの場であるはずの8月6日の「原爆の日」の式典。今年、パレスチナ自治区ガザを攻撃するイスラエルを招き、ウクライナに侵攻するロシアを招かないのは二重基準だと市が批判されている▼侵攻が始まった2022年以降、ロシアと友好国ベラルーシを招かないのは円滑な式典挙行への影響を考慮したためと市は言う。ロシアとの同席を嫌う大使はいそうだが、イスラエルの場合も心配なしと言えまい。市は22年も当初はロシアを招く方向だったが、日本政府の姿勢が誤解されると外務省が懸念を示したと報じられる。紛争当事国こそ招くべきだった気がする▼塗料をかけた男は有罪判決後、地元の中国新聞の取材に「碑は被爆者にとって特別な存在。当たり前のことに気付けなかった」と悔い、8月6日に碑の前で手を合わせたいと語った▼人の考えは変わる。そう信じ、門戸を開くのがヒロシマでなかったか。


今日の筆洗

2024年05月31日 | Weblog

津軽出身の吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』は40年前の発売。その7年前に『俺はぜったい!プレスリー』が売れたが人気は長続きせず、雌伏の日々の末の再ヒットだった▼自著によると、周囲の態度は一変。旧知のテレビマンは局で会っても「生きてたか。まぁ頑張れや」と上から目線だったのに「吉先生、ぜひ番組にご出演を」と電話してきたという▼先生と言えば、北海道選出で自民党の長谷川岳参院議員の悪評を聞く。吉さんがユーチューブで航空機内の態度が横柄だったと指摘し、北海道や札幌市などの職員への威圧的言動も次々露見した▼会議で「僕はぶち切れるよ」と発言。「クビにしてやる」と言われた省庁職員もいると報じられた。道幹部は関係予算を含む国の予算成立時にお礼のメールを一斉に送信。長谷川氏との面会のみを目的とする道の出張は昨年度118回で、他の道内選出議員はいずれも5回以下だったという。「○○さ行ぐだ」という訛(なま)りは札幌では聞かないが、怒らせないために何度も東京さ行ったのか▼40年前のヒットで態度を一変させたテレビマンの出演依頼は、吉さんの日程の都合で実現しなかった。「アレは僕が育てたようなもんですから、僕の言うことだったら何でも聞きますよ」と局で大見えを切っていたと後に知ったという▼偉そうにした人のことを、された側は忘れぬものである。