グローバリズムは新種の「左翼」(3) | 保守と日傘と夏みかん

保守と日傘と夏みかん

政治・経済・保守・反民主主義

フランス革命は、左翼の始まりであると同時に近代保守思想の出発点でもあった。

E・バークがフランス革命を激烈に批判したのは、この革命が「旧体制」の破壊の上に新しい秩序を打ち立てようとしていたからである(『フランス革命の省察』)。
フランスが行っているのは、古い建物を壊していったん更地にし、その上に新しい建物を建てるようなものだ。当世風に言えば、バークは(橋下徹大阪市長のいう)「グレート・リセット」という発想を問題視したのだった。
(中略)
バークは、政治に必要なのは「保存」と「改善」の二原理だという。
複雑な部分の結合体である社会は、全てがうまく機能したり、逆に全てが機能不全に陥るということはない。だから「古い制度の有益な部分」を保存しながら、「疾患のある部分」の修正を行うべきだ、と言う。
この場合、何を保存し、何を修正するかの判断は、先験的な原理に基づくというよりも、経験的なものになる。「国家のなかには、目立たない、ほとんど潜伏しているとも言える諸原因」が無数にあり、その時には有害に見えても後から見れば有益な効果をもたらすかもしれないからである。

バークの思想は、何も奇をてらったところがない、ごく常識的なものである。ここでバークが示した統治の原理は、普通の人々が日常生活の中で行っていることだ。
(中略)
フランス革命は、自由や平等のような抽象的な原理に基づいて、古い国家を壊し、新しい国家を建設しようとした。だが、それは必ず失敗に終わるだろうというのがバークの見立てだった。
もちろんバークも革命の可能性を全く否定しているわけではない。国家がどうしようもなく行き詰まった時は、「最後の手段」として国家の大部分を大幅に改革することがありうるとしているが、その場合でも、新たな国家は歴史から切り離して建設されるべきではない。過去にまったくない仕組みをつくるという大それた考えで建設された国家に、うまくいったためしなどないからである。
この診断は、フランス革命が内戦と粛清で、おびただしい血を流したことによって証明されたと言える。

バークは歴史に学ぶべきだと繰り返し述べているが、それは歴史が失敗の記録に溢れているからである。
「歴史の大部分をなすものは、高慢、野心、貪欲、復讐、情欲、反乱、偽善、抑制なき熱情、その他あらゆる欲望の連続がこの世にもたらした不幸」であり、そのため国家は何度も危機に陥ってきた。
こうした過去の誤謬と人間の弱みに学ぶこと以外に、未来を展望する道はない。人間の善性を過大評価し、社会の複雑性を過小評価した革命や改革は、必ず挫折する。
現にフランス革命や共産主義革命は、手ひどい失敗に終わったのだった。

前世紀末に始まったグローバリズムの実験も、いずれ世界を大混乱に陥れることになるだろう。その理由は、グローバリズムが思想的に間違っているからというだけではない。

「グレート・リセット」などという幼稚な発想に共鳴したり、複雑な力が絡み合って進む歴史の現実を単純化して「これからはグローバル化の時代だ」などと早とちりしたり、国家の難局に焦って「とにかく変えなければならない」とばかりに偽のスローガンに飛びついたりする。この現代人のどうしようもない軽薄さや弱さが、間違ったイデオロギーを政治に呼び込んでいるのだ。
近代保守思想の父は、そう警告している。

『表現者 平成27年11月号』  柴山桂太

 


人気ブログランキングへ