$はそう言うと、道先案内人としての役割を果たしていた。JとLは$の解説に聞き入っていた。
$:「46億年前の先カンブリア時代。生物が生きるには厳しい環境だった。その後、地球の温度が下がり、火山ガスと水蒸気が原始大気を形成し、海が現れた。地球最初の生命体は単細胞の細菌類だった。多細胞植物は8億5000万年前、最初の動物は6億6000万年前に現れた」
L:「そうだったんだ。$の解説はまるで理科の授業のよう」
J:「ほんとだね」
$:「そうかい?そういってもらえると嬉しいよ」
その言葉を受けて、$はJとLが理科の授業を真面目に受けてきたことが分かった。$は二人の気を逸らさないように、注意深くアフリカのケニア風の恐竜の世界を探訪させる。ゆっくりと、だが、力強く。
$がもっと恐竜を間近で見えやすいようにと、レックスに指示を出し、誘導させる。レックスがその指示を聞き入れ、低空飛行する。
$:「あれがプラテオサウルス。生息環境は乾燥した平原、砂漠だ。体長8m、体重4t、食性は植物、少量の肉だ」
J:「かなり大きいね」
L:「でも、恐竜は恐竜でも、植物食で私たちを食べないものもいるんだね。でも、このプラテオサウルスは肉も食べる肉食なんだ」
そう言うと、レックスは少しだけ高度を上げ、警戒心を覗かせた。
$:「カンブリア紀。海生の動物と植物が爆発的に増えたが、陸にはまだ生命の気配がなかった」
L:「地球が水の惑星と言われるゆえんだね」
J:「そこから生命が誕生したんだもんね」
L:「この異世界は地球史探訪でもあるんだね」
$:「そして、デボン紀。陸には大型化した緑色植物が広がった。石炭紀には、地球の大部分は熱帯で、原始の両生類はサンショウウオのような姿だったが、やがてさまざまな形態に進化し、大型化するものも現れた」
$が解説が二人の耳に心地よく響く。うっとりするような説明に心奪われ、二人は感動の中にいた。二人は恐竜の世界を間近で見れて、本当に嬉しかった。まるで自分たちは選ばれた中学生に思え、それだけで多少の優越感に浸った。
この充実感が中学校の所属クラブの卓球でも良いように発揮されることを願って、$はこの世界に連れて来た。
$:「こうした現実とは異なる感覚が君たちには必要だった」
L:「本当に嬉しい。こんな世界が見れるなんて」
J:「まるでアフリカに来たみたいでもある」
$:「君たちにとって今後の財産になる」
$は言葉を選び、そして、慎重に紡いだ。まだ中学生なだけに、どこまで大人の語彙を把握しているか分からない。それでも、それが彼女らの胸に共鳴するだけでも、価値あるものを提供できたと思っていた。
J:「高校に行くと、その授業は生物に変わるんだね」
→Edit→$が魔法の杖を垂直に振り下げる