現在、地域紛争といえば、ウクライナやパレスチナが大きく報じられていますが、日本にもっと身近な東南アジアのミャンマーでもずっと紛争が続いています。
今回のSWL日記はそのミャンマーの反政府組織による放送です。
世界の放送局の中には clandestine stations という一群があり、日本語では「地下放送局」、「秘密放送局」などと呼ばれます。
反政府組織が国内の隠れ家や国外から居場所(放送局の所在地)を隠して行う反政府放送が代表的なもので、とりわけ冷戦時代には多くみられました。以前、ベトナムの声放送の記事で触れた「パテトラオ放送」や、1968年にワルシャワ条約機構軍がチェコスロヴァキアに侵攻した時、抵抗組織によって行われた「自由プラハ放送」などもその類です。
また、多民族国家で抑圧されている、いわゆる少数民族が自らの主張の手段として放送する場合もあります。
今回紹介する放送はそれらのひとつ、ラジオNUG(Radio NUG)です。
東南アジアに位置するミャンマー(ビルマ)は1948年の独立後、政治には軍が大きく関与していて、2015年の選挙で、アウンサンスーチー率いる"民主派"が勝利したにもかかわらず、軍が影響力を強め、2021年、ついにクーデターをおこし、政権を奪取しました。アウンサンスーチーが現在軟禁状態にあるのはよく知られていることです。
そういった状況下で、民主派は独自の政府を樹立します。
ウィンミンを大統領、アウンサンスーチーを国家顧問とする国民統一政府(National Unity Government~NUG)です。NUGを中心とする民主化運動は「春革命~spring revolution」と呼ばれています。
このNUGが自らの主張の場として2021年のクーデター直後に立ち上げたのが「Radio NUG(for Myanmar Spring Revolution)」で、地下組織でありながら、充実したウェブページを持っていて、インターネットで放送を聴くこともできます。ただし、使用言語はミャンマー語のため、そのことばを知らない私は内容を理解できません。
それにしても、冷戦時代の「地下局」からは想像もできないくらい、堂々としています。
ラジオNUGは短波も用い、1日2回、中華台北(台湾)の褒忠(パオチュン)にある送信所から方位角205°(ミャンマー方向)で送信され、現在、日本時間11時から17,790 kHz、23時から11,940 kHzで、それぞれ30分間放送しています。
開始音楽とともに「This is Radio NUG, the Voice of National Unity Government of Myanmar・・・」という英語アナウンス、放送スケジュールの紹介があり、すぐにミャンマー語になって、ニュース等が続きます。
日本でも、少なくともここ名古屋ではどちらの時間帯でも非常に強力に入感しますが、日によっては間歇的にジャミング(妨害波)を受けます。ですから、SINPOコードで表すと、通常は55544と良好ですが、時に最悪で52442にまでなってしまいます。
受信状態が良好といっても、いかんせん、私はミャンマー語を全く理解できないため、せいぜい、国名、地名などの固有名詞の一部が聞き取れる程度です。
地下局なので、放送局の住所を知る由もなく、ホームページからダウンロードしたグーグルフォームかE-mailで受信報告を送ると、受信(確認)証(eQSL)が返信されます。
英国BBCのeQSLと違い、受信者、日時等がコピーされています。
ただし、私の受信報告が役に立っているかどうかはわかりません。私はターゲット・パーソンではないですし、趣味の短波愛好家のために放送しているわけでもないでしょうから。
ミャンマー語が理解できる人は是非お聴きください。NUGからみた現在のミャンマーを知ることができるでしょう。
日本は現在の軍事政権を否定していないため、一方で民主派に理解を示し、一方でミャンマー軍事政権に対する経済支援を行うという苦しい立場をとっていています。
力のある政治家がいれば、「ここぞ日本の出番」と、両者の仲介をするのでしょうが・・・
この他にもアジア、アフリカを中心にいくつかの地下放送局があります。
機会があったら、また記事にします。
これまでのSWL日記/BCL史はこちらをご覧ください。
地域別インデックスも用意しましたのでご利用ください。
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