手でコップをつかんだり椅子から立ち上がったりという動作をするのとは違い、心臓が拍動するなどの内臓のはたらきや涙やよだれが分泌されるなどは、意識をしなくても自律神経が自動的に行っていることは広く知られていることです。
そして、この自律神経というのは、私たちのからだを正常に維持するための機能です。
この機能があるために私たちは、体温や血圧、血糖値などの複雑な調整を適切に行い生存することができます。
しかし、この自律神経のバランスがさまざまな要因によって乱れてしまうのも事実です。
その要因とは、気温の寒暖差が大きかったり、気圧の乱高下であったりという環境の要因もさることながら、今日でもっとも多いのは、やはり心因的なストレスです。
たとえば、人間関係のストレスが強い、または長時間集中して仕事を続けなければならない環境、また、常に緊張を強いられる生活などは、自律神経のバランスを崩す大きな原因になります。
大まかに言って、自律神経は、交感神経と副交感神経に分かれ、交感神経は活動状態、副交感神経は、休養・回復状態をそれぞれ担当しています。
そして、交感神経が優位なときは、活動するのに都合のいいように心臓の拍動リズムは促進され、内臓の働きは抑制されます。
一方で、休養・回復状態の副交感神経が優位なときは、心臓の拍動リズムは落ち着き、内臓が活動し、胃液、膵液などの分泌は、促進されます。
さて、現代の私たちの生活は、活動する神経つまり交感神経を常に働かせている状態です。
本来は交感神経と副交感神経は、バランス良く交代しなければならないのに交感神経のスイッチが入りっぱなしで、なかなか副交感神経にスイッチが入らない状態になっています。
このため、からだは常に活動状態に置かれ、休養・回復がしづらい状態になっています。
先ほども書いたとおり、内臓は副交感神経が入らなければ、うまく働くことができません。
この状態が長く続けば、健康が害されることは容易に想像ができることでしょう。
さらに、交感神経が優位な時は、血管が収縮して筋肉への血流は、低下した状態になります。
これは、闘うときなどに、ケガをしても出血量が少なくて済むためのものですが、この状態が長く続けば、筋肉への酸素や栄養の供給は低下し、老廃物の回収も低下している状態です。
これが、筋肉の疲労やコリを蓄積し、回復を阻害していることはお分かりでしょう。
また、自律神経の中枢である視床下部は、体温調節・摂食および血糖調節・日内リズム・ホルモン分泌の調整などを司るため、自律神経のみだれは、これらのからだの機能にも影響します。
このため、頭痛・めまい・立ち眩み・冷え・のぼせ・吐き気・便秘・下痢など多くの不定愁訴を引き起こします。
自律神経のみだれとは、ほんの些細なことがきっかけで始まることもあるわりには、その影響は多岐に渡り、深刻な状況に至ることもあります。
この自律神経のバランスを取り戻すために大切なことは、昂進してしまっている交感神経を鎮め、副交感神経とのバランスを取ることです。
その方法としては、心身ともに緊張を和らげるのが肝要ですが、順番としてからだの緊張を先に取り除くことが早道となります。
自律神経のみだれている方は、交感神経が興奮しているだけではなく、からだも緊張しています。このことはご本人も気づいていないことが多く、当院にいらっしゃる患者さんも施術を受けて初めてご自身のからだの緊張に気づかれることも少なくありません。
このご自身の状態をご自身で気づかれるということが、回復への近道なのです。
多くの方がご存知のように、精神と身体とは密接な関係にあり、精神と身体は一方が緊張すれば、もう一方も緊張するのですが、一方が安らげば、もう一方も安らぐ関係にあります。
そして、自律神経のバランスが崩れるほどストレスがかかり交感神経が昂っている方にとって、精神的にリラックスする方法で交感神経を鎮めることは難しいことが多く、あれやこれやの方法もなかなかうまくいかないようです。
しかし、からだの緊張を取り去り、心地よい感覚を味わうことで、交感神経の昂りを鎮めることはそれほど難しいことではありません。
施術を受けた後、その晩ぐっすり眠れるのは、交感神経の緊張が鎮まり副交感神経と良好なバトンタッチができたことの現れです。
かなり強い緊張のある状態であっても、からだの緊張を取り去り、心地よい感覚を味わうことを繰り返していくことで、昂進した交感神経も鎮まりやすくなっていきます。
心にとっても身体にとっても、緊張のない穏やかで安らかな状態を思い出すことは、とても大切なことなのです。
こうして、間断のない緊張状態から解放され、休養と安堵の状態を思い出したからだは、本来の姿に戻っていきます。