沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」

白黒イラスト素材【シルエットAC】
沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」チラシ

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※現在、「紡ぐプロジェクト」へリダイレクト

東京・国立博物館にて。
2022年5月3日(火・祝)~6月26日(日)まで。

沖縄復帰50周年に因んだ特別展。
そして、工芸品の保全の試みをまとめた展覧会でもあった。
沖縄県立美術館・博物館でも行われた、2021年の『よみがえる正倉院宝物展』の再現模造に通じるものがある。

展示されている工芸品は異国情緒にあふれている。日本人として近しい、と思う意識を持ちつつも、どこか異なる文化圏。
本州(ナイチャー)にとって沖縄(ウチナー)とは……やはり遠い存在なのだろうか?

そういったイメージの根底にあるものを、ほんの少し垣間見たような気がした。


海上貿易の中継地

海運、交易で発展した琉球。
琉球には異国趣味――珍しいもの――が多数入っていたことを伺わせる。
展示された物品には東南アジアの短剣・クリスにローマ帝国貨幣、オスマン帝国貨幣もあった!
…直接交易したというよりも中国や東南アジア諸国を介して、だとは思うが。
以前、足を運んだことがある勝連城跡(※1)から出土したものもあった。
信仰の場所であり、按司(琉球で地方豪族の首長、貴人の称号)の居城、防衛と貿易の拠点でもあった(グスク)
会場では(グスク)について深く言及されていなかったが、そうしたものが出土する理由を想起する。

琉球の文化(王権・宮廷)

第一尚氏(※2)の時代には、文書にはひらがなが用いられていた。
琉球は明の影響を強く受けていると思っていた私には、この書は新鮮だった。
日本との繋がりというか、共通項を感じた。

私にとって興味深かったのは、琉球の煎茶文化(それに付随するであろう香の方に興味があったのだが)。
日本の茶道、明清の煎茶を取り入れ、嗜んだらしい。
しかし、豊かな土壌を伺わせる現存作品が少ないとの事。琉球の喫茶研究の進展が期待される…
褐釉(かつゆう) 天目には天界寺(※3)と墨書がされていた。
そもそも、何故、現代に琉球の煎茶道が伝わってないのだろうか?担っていた人間は途絶えたのか?
それは琉球処分のせいだろうか?
それとも沖縄戦のため焼失した?
戦後の本州の茶道と異なり、庶民にそうした教養は再興・普及しなかったのだろうか……

立花(華道の)は、茶道と同じく琉球士族に必要とされる教養だったそう。
……香は?
そう考えていたら、香炉が展示されていた。
それは香道で拝見するものとは異なっていた。

呉須絵擬宝珠形丁字風炉》(沖縄県立博物館)

上部の釜に水を張り、丁子(クローブ)を浮かべる。下部に炭を入れて火を熾し、煎じて香りを楽しむ。琉球では王家や上流階級層の間でこうした丁子風炉が愛用されたことが記録に残る。

香りの立たせ方が炭と灰が入った香炉を用いた燃焼とは異なる点や、丁子という刺激のあるものを嗜んだ点が、暑い琉球の気候に合っていると思った。うだるような暑さの時にあの香はすっきりした気分にしてくれるのではないか?丁子には虫除け効果があることでも有名なので、理にかなってもいると思った。

私的な雑感と歴史観

工芸品は球国内で嗜まれるというよりも、輸出製品――現代産業に置き換えて例えるなら、日本の半導体、中国の大量生産品という感じ――だった。

私事だが、以前、沖縄で暮らしたことがある。その時、沖縄の 風土が本州とあまりに異なる事、新鮮な文化にただただ感嘆した。
個人的に調べたり、行けるところには足を運んで、体感的に私は「日本と沖縄は文化圏が全く異なる」という考えに至る。
自然崇拝、先祖崇拝的な信仰に共感するも、その信仰形態は本州の神社仏閣とは異なる事に気づく。
学生時代に民俗学に関心を持ち、柳田国男や折口信夫を調べた事もあったので、日琉同祖論、日琉語族論のイメージを漠然とながら持っていたのだが、それに違和感を覚えた。
結局のところ、それらはこじつけに過ぎず、やはり独特の文化形態を持っていたと思う。
それは日本と中国のハイブリッド文化であり、それを“独自”としているのだろう。

…しかし“独自”というには中国の伝統的な意匠や表現に倣っており、琉球を象徴する動植物が描かれているものは見当たらなかった。
今回の展覧会で私が感じたのは、琉球の文化とは、琉球の人々にとって“異国趣味”だったのではないか、という事だった。

尚氏一族が琉球を統一し、明との交易に力を入れた。
大陸の大国なのだから、そちらと交易した方が利益になるのは言わずもがな。
その後、島津の支配を受ける訳だが、何となく、長い物には巻かれる方針が見て取れる。“異国趣味”もその表れではあるまいか?

19世紀に入り、清が欧州によって分割統治されるのを目の当たりにしながらも、欧州諸国に両属体制を訴えるも、相手にされなかったようだ。
そもそも、対抗する武力を持ち合わせていなかったのも要因だが……
周りが海であることから、諸外国に武力で支配されるという危機感に疎かったのはあるかも知れない(日本もそうだけど)。

では、沖縄の人にとっての工芸のアイデンティティーは何なのだろう?
輸出入によって財を成した琉球王朝。その華やかな文化は外交目的で、貴賓を出迎えるおもてなし文化だ。
しかし、庶民にその文化が普及した印象が全くない。
王朝の人間と、庶民の間に越えられない壁を感じてしまう。
今に続く沖縄の人々の庶民文化は、素朴で……貧しい中での創意工夫によって生み出されているものだと思う。

そもそも、沖縄――琉球――はやせた土地。
そして平地が少ないので、大規模農耕には不向きな土地だろう。
泡盛に使う原料ですら、外国産米(現在は主にタイ米)を輸入して用いている。
原材料を輸入し、加工し、再輸出する。
海上貿易の中間マージンと付加価値によって財を成した訳だが、その財の恩恵を受けたのは上流階級の人間だけだったように感じる。

貝の文化・螺鈿細工

第2会場は、王朝以前の文化――先史や庶民文化として沖縄独自の信仰形態が紹介されていた。
沖縄本島のものというより、奄美大島のものが中心だったが。

垣間見えるのは、海洋国家であるが故に、先史は貝の文化であった事が伺える。
日本列島は当時、北海道の続縄文文化、本州・四国・九州の弥生文化、琉球列島の貝塚文化という文化圏に分かれていた模様。

特に奄美黄島が交易の拠点となり、沖縄近海で摂れる夜光貝を用いた工芸品が作られた。
酒盃、容器、螺鈿細工など。
これらが後に発展し、中国から螺鈿技術、日本から伝わった黒漆を組み合わせ、今も伝統工芸・琉球螺鈿として受け継がれているようだ。

第1会場の工芸品の中にも贅を尽くした螺鈿細工の品があった。
葵のご紋を中心に螺鈿細工と蒔絵が施されていたが、その豪奢さは中華的で、異国感があった。

琉球/沖縄の信仰

琉球の庶民文化…という括りはなかったが、それに相当するものは、本州とはまた異なる、独自の信仰形態だろう。
第2会場の信仰についての紹介が、今も伝わる沖縄らしさを強く意識させた。

本州の八百万の神々とは異なる神話体系。
先祖崇拝と自然神への信仰が織り交ざったような世界観。
女性が祭祀を司り、姉妹が兄弟を霊的に守護するおなり神信仰。

ノロ(神女)が身につけていた、《玉ハベル》や《玉ダスキ》(装身具)などが展示されていた。
それははガラス玉を編み繋いだもので、色彩豊かだ。文献などから白装束を身に纏って先祖崇拝と自然信仰が一体となった原初的な信仰形態だと思っていたが、文化的な祈りを強く意識させた。

パネルや映像などで、にぎやかな奉納芸能を紹介していた。
エイサーについては言及していなかったけど。

紡ぐプロジェクト

今回の展覧会は、日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト(※4)」文化財の保護・修理・公開を目的としたもののようだ。失われた琉球王国文化の集積・再興事業として、会場では模造復元された円覚寺仁王像が展示されていた。

ウチナーとナイチャー 罪悪感と温度差

本州(ナイチャー)にとって沖縄(ウチナー)とは……
日本でありながら日本で.はない、異国のような存在のままだろうか。
ナイチャーは罪悪感のようなものを、抱え続けている気がする。

島津による琉球侵攻、明治の琉球処分……特に、太平洋戦争で米軍との地上戦になってしまったこと(結果、首里城は焼失し、宮廷文化資料も多くは失われた)事は、日本の文化遺産保護の観点から見ても甚大な損失だった。

紡ぐプロジェクト」は、ナイチャーの先の戦争で唯一の地上戦となり歴史的遺産をほとんど焼失した事に対する罪滅ぼしのようなものだろうか…?

しかし、2019年10月末に首里城は火災により焼失した。
その出火原因はイベントのため設置された電気系統のトラブルが有力視されているものの、原因やその責任追及はうやむやのままだ(2022年当時)。

その雑な扱いに、私は首里城は沖縄のアイデンティティーでも何でもないハリボテのように思った(※5)。

紡ぐプロジェクト」然り、沖縄の信仰体系に原初日本のそれを見出そうとした柳田邦男、紅型の研究に首里城再建の資料を遺した鎌倉芳太郎、伊東忠太らは、ナイチャーだ。ウチナーの人々からそうした動きが出なかった事に疑問を覚える。

そう考えてしまうのは、私がくされナイチャーに過ぎないからかも知れない。

他、メディアやサブカルチャーなど

他、会場外ではNHKの朝ドラ『ちむどんどん』(※6)の紹介。
…私は朝ドラ見てないけれど、かなり不評だったのは耳に届いている。朝ドラって、何故ちゃんとモティーフを取材してリアリズムを表現しないの?
きっとこの場合も、別に沖縄でなくても良くね?って思う内容だったのだろう。

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ブラウザゲーム『刀剣乱舞』(※7)の琉球宝刀組・千代金丸北谷菜切治金丸のパネル展示。
この三振りはこの展覧会でも展示されていた。
色の三原色を明るめにした、ライトブルー、ピンク、ライトイエローの三人だった。…あんまり琉球の色味っぽくなくて、ゲーム未プレイの私はがっかりした。

お土産の話――泡盛、香など

最近の展覧会の楽しみと言えば、そう…展覧会オリジナル・限定アイテム!!
前述の『刀剣乱舞』のキャラクターアイテムが大々的?に紹介されていたが、私が気になったのは沖縄名物・泡盛と今回の展覧会にちなんで作られた創作香。

「琉球」展お土産。琉球泡盛。創作香2種 熟香「首里城」、祥香「ニライカナイ」

琉球泡盛 『ちむどんどん』


(2024/2/12確認)

記念ボトルのモダンなデザインがお洒落で一目ぼれ…ジャケ買いした一本。
凄く飲みやすかった!
お酒に弱い私にとって泡盛のイメージは、独特な臭みや強いアルコール度数ゆえに、ハードルが高く、滅多に飲まないのだが。
臭みが少なく清酒のような香りで飲みやすい。とはいえアルコール度数は高いので(30度)ゆえにちびちびと飲んで長く楽しめた。

創作香「ニライカナイ

沖縄の異界・ニライカナイへの祈りを込めて作られたもの。
沖縄らしい、月桃とピパーチ(島コショウ)を使った爽やかな香りの抹香。 《呉須絵擬宝珠形丁字風炉》でも思ったけれど、本州とは異なるうだる蒸し暑い気候では、辛みのあるツンとした香りの方が気分がすっきりとする。
この項には乳香も入っている。キリスト教のミサでも使われる乳香は清涼感のある香りで、これもまた沖縄の気候に合っていると思った。

創作香「首里城

解説文に‘国王が賓客のために首里城で薫いていたような香り’とあるように、正に高貴な調香だった。
伽羅は言わずもがな、天然麝香、龍脳(※8)に希少な龍涎香(※9)まで使っているとあって驚愕…!!
意識して聞いたことがない貴重な香料の数々に、手が伸びてしまった……
焚かなくても箱から、やわらかな甘く爽やかな香りがする。その甘さも単一ではなく色が変わるようにころころと様相を変えてくる。上品さがある。

これら香セット、とにかく本格的なセットとして販売されていて驚いた。
香だけでなく、灰と炭団がついている。さすがに香炉は付いていないけれど……

調香されたのは香研究家・渡辺えり代さん。プロフィールを拝見すると日本の伝統的な香道との関連は無さそう。芸術関係に携われている方のようだ(※10)。

あとはちんすこうの詰め合わせなど。沖縄土産の定番(笑)。


番外:『沖ツラ』アニメ化!!

私生活が慌ただしく、まとめるのに2年も要してしまった……
その間にcovid-19は5類へと分類されたことで何となくコロナ禍以前の雰囲気になったように思う。
また沖縄に足を運んでみたい。

2022年は沖縄復帰50周年という節目だったが、2024年にも私は楽しみな事がある。 うちなーぐち(沖縄方言)と沖縄あるある、愛あふれるカルチャーショックをまとめている青春ギャグマンガ、『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』のアニメ化!!
ようやく始動し始めた!楽しみ。

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  1. いつの間にか入場料が必要になってた!私が沖縄にいたときは、無料だったのに……
    でもこれも遺跡保全に繋がると信じてる。

    (2024/2/8確認)
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  5. モモト Momoto Magazine Vol.45/首里
    「首里城=沖縄アイデンティティなの?」という問題

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