さて、パラフィリアの実態は以上の通りであるが、ここから問題はふたつある。
まず、第一はパラフィリアの原因である。これは新井さんが何人もの精神科医や心理学者を訪ね歩いても明確な答えが得られなかったように、現代科学では原因解明ができないのが実状である。新井さんの告白を受けて、私は母親との関係性を念頭に置いて書いたが、科学的な原因となるとまた別な話だ。いまのところ、誰にもわからないのである。
第二に、パラフィリアの治療である。原因がわからないのだから、当然、治療は至極困難である。パラフィリアの治療法には大きく分けて「ソフト路線」と「ハード路線」のふたつがあるという。
「ソフト路線」は、患者本人が普通の交際やセックスができるように精神療法をしていく方法である。会話練習、デート技術の助言、セックス・セラピーなどが含まれる。
「ハード路線」とは、薬物療法などで性欲を抑える方法である。これは特に、レイプや痴漢などの性犯罪に結びつくのを防止するのに有効である。
パラフィリアによる性犯罪は再犯率が高いので、アメリカなどでは判決で薬物を常時接種するのを義務づけることもある。行動療法などによるパラフィリアの治療を積極的に実施している刑務所もあるほどだ。
私はアメリカのドキュメンタリー番組で、刑務所内での治療を見たことがある。レイプ犯の男が椅子に縛り付けられる。ペニスには勃起反応がわかるセンサーをつけられる。
鼻孔に管を入れられ、体の各所にテープが巻かれる。そして男の目前のテレビで、レイプシーンのビデオが流される。男は興奮する。ブースの中でその様子を観察していた人たちがすかさずボタンを押す。鼻孔の管からアンモニアを嗅がせ、体の各所に電気ショックを与える。男は叩いたり叫んだりしながら、その苦痛に耐え続けるのである。
これは拷問ではない。受刑者の同意のもとで実施している行動療法の一種である。「パブロフの犬」のようなものだ。その男性にレイプ衝動が起きると、アンモニアの臭いや電気ショックの痛みを思い出して、自動的に衝動が抑えられるという効果を狙っているらしかった。
他にもいくつか厳しい治療があったが、それらを長年行っていると、確かに彼のパラフィリアは解消されていった（というストーリーとして制作されていた。無論、出所後の追跡調査はなかった）。
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