「ウイング ~大いなる翼~ 2」から続いて───

 

 

 

ドラゴンは、

少年の前に降り立つと言いました。

 

「ワシが

人間の言葉を話せるのを

不思議がっているようだな」

 

ドラゴンは狡猾な笑みを浮かべました。

 

「この世界では、

人間の言葉を話すのは、

〝悪者〟しかいない……」

 

少年は、後ずさりしました。

 

「安心しろ。

 

この世界では、

ワシは〝悪さ〟をしない」

 

そして少年の厳しい眼差しを

見つめながら話します。

 

「魔法、呪文、憎しみ、怒り、

嫉妬、争い、犯罪、復讐、欲望、

災害、事故、戦争……

 

おまえたちの世界は、

はるか昔から、

何かにつけてワシを呼んできた。

 

ワシはそのたびに、

大暴れしてやったものだ」

 

「その世界の住人が、

ここにやって来たのは、

何かの予兆だ。

 

こんどは、

どんなワケで、

ワシは呼ばれるのかな?」

 

 

すると遠くの空間で、

大きくて〝光るトンネル〟

のようなものが広がりました。

 

「ほう……やっぱりだ。

 

久しぶりに、暴れてみるか」

 

そう言い残してドラゴンは、

〝光るトンネル〟

目指して飛び去りました。

 

 

少年は途方に暮れました。

ドラゴンは少年がいた世界を

メチャクチャにするに違いありません。

 

でもウイングがいない、

今の少年には、

為す術がなかったのでした。

 

 

そのとき遠くから、

馬の鳴き声がしてきました。

 

少年を探していたウイングが、

こちらに駆けてきたのです。

 

 

 

ウイングは、

少年に愛しくすり寄ってきます。

 

「ウイング……ごめんね。

 

もとの世界に

戻らなくちゃいけないんだ。

 

僕がいた世界が危ないんだ!」

 

少年はウイングに乗ると、

小さく萎んで消えかかっていた

〝光のトンネル〟へ飛び上がりました。

 

 

 

消えかかった〝光のトンネル〟を、

かろうじてくぐり抜けると、

どこかの研究所にいました。

 

ドラゴンが暴れたのか、

実験装置は粉々に破壊されて、

所内の人たちは

逃げたのか一人もいません。

 
 

 

少年を乗せたウイングは、

大空に舞い上がりました。

 

スクランブル発進してきた

ジェット戦闘機が、

猛スピードで飛んで行きました。

 

 

 

ドラゴンは、

ジェット戦闘機を迎え撃ちました。

 

ドラゴンの体は、

みるみるうちに巨大化しました。

この世界では体の大きさを

自在に変えられるようでした。

 

戦闘機が放つ

ミサイルが炸裂しても、

ドラゴンはびくともしません。

 

ドラゴンは高笑いしました。

 

「この世界の武器なんか、

ワシにはぜんぜん効かないぞ!」

 

ドラゴンは、

ブンブンと振り回す尻尾で、

戦闘機を次々と払い落とすと、

そこから飛び去りました。

 

 

 

ドラゴンがとうとう街にやってきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンは、

街のあちこちで暴れ回ると、

この世界の主のように鎮座しました。

 

 

 

少年とウイングが、

街の大通りに到着すると、

車の残骸で埋め尽くされていました。

 

「ひどいことをする……」

 

大通りの惨状を目にして、

少年は言いました。

 

 

 

少年とウイングが、

ビルの谷間に差し掛かったときです。

 

待ち伏せていたドラゴンが、

急に巨大化して、

後ろから襲いかかりました。

 

ドラゴンは、

バッと広げた大きな翼と尻尾で、

少年とウイングをはじきました。

 

ウイングは遠くに飛ばされて、

投げ出された少年は

路上に転がりました。

 

 

 

体に痛みが走ったものの、

どうにか怪我がなかった少年が、

すぐに起き上がろうとしました。

 

ドラゴンが空中に浮かびながら、

こちらを睨んでいます。

 

「あの世界にいたら、

いいものを……

 

ここは、

子どもが来るところじゃない。

 

今からでも、

あの世界に、

あの馬といっしょに戻れ!」

 

少年は負けじと、

にらみ返して言います。

 

「嫌だ!!」

 

ドラゴンは不思議がりました。

 

「なぜだ?……

あの世界に行けたのは、

ここにはいられない、

理由があったからだろう?

 

この世界を恐れたり、

この世界を憎んだり、

この世界にいられない、

深い理由があるんじゃないのか?」

 

少年は、

歯を食いしばりながら、

言い放ちました。

 

「でも……僕は、

やっぱりこの世界が好きだ!

 

この世界にしかいられないんだ!」

 

そのとき少年は、

路上に短剣が落ちていることに気づきました。

 

 

 

それは 「湖のほとりの〝姉妹〟」から、

少年がやさしく寄り添って、

なぐさめてくれたお礼に、

「旅のお守り」と

プレゼントされたものでした。

 

言葉が通じないものの、

テレパシーのように

意志や感情を通じ合える、

神秘的な姉妹でした。

 

もらったときは、

手の平に収まるほどの

小さくて青く輝く玉でしたが、

少年のポケットから転がるなり、

短剣になったのでした。

 

 

「ならば、

この世界で消えるんだな!」

 

鋭い爪で襲いかかってくる

ドラゴンの手に、

少年は短剣を拾って、

突き刺しました。

 

ドラゴンは、

悲鳴のような声を上げると、

ひるんで尻餅をつきました。

 

「なぜ、それを持っている?」

 

不意打ちにあったドラゴンは、

その場から飛び去りました。

 

 

決心してうなづいた少年は、

高いビルを探して飛び込むと、

非常階段を駆け上がって、

屋上まで行きました。

 

屋上に立った少年は、

息を切らせながら

大声で叫びました。

 

「僕は、ここにいるぞ!」

 

呼ばれたかのように、

ビルの陰から姿を現した

ドラゴンが飛来します。

 

 

 

少年は、

向かってくるドラゴンに、

ジャンプしました。

 

ドラゴンに飛びついた少年は、

力いっぱい頭の上に、

短剣を突き立てました。

 

ドラゴンの悲鳴が響き渡りました。

 

少年は、

地上に振り落とされてしまいました。

 

 

 

そこへ飛んで来たウイングが、

少年を背中ですくい止めました。

 

少年は、

ウイングを抱きしめました。

 

「ウイング……無事だったんだね」

 

 

 

ドラゴンの頭に突き刺さった

短剣めがけて、

空から稲妻が落ちてきました。

 

衝撃で短剣は弾け散りましたが、

ドラゴンは地上に倒れ込みました。

 

 

 

倒れて動かなくなった

ドラゴンのまわりに、

逃げたり隠れていた人々が集まりました。

 

ドラゴンはみんなの前で、

小さく縮むと、

跡形もなく消えていきました……。

 

 

 

地上に降りてきた少年とウイングを、

たくさんの人々が歓迎しました。

 

街に来ていた、

お父さんとお母さんの姿もあります。

 

「ただいま……」

 

「おかえり」

 

「おかえりなさい……」

 

少年とお母さんとお父さんは、

再会に抱き合いました。

 

 

 

もうこの世界で、

少年とウイングの

邪魔をしようとする人たちはいません。

 

少年とウイングは、

「英雄」として、

この世界に迎え入れられたのです……。

 

 

 

 

~ おわり ~

 

 

 

(その後、街に「ドラゴン博物館」が建てられました)

 

 

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※ この物語はフィクションであり、
実在の人物・団体等とは一切関係ありません。