未確認人型巨人、襲来

ショート・ショート
土曜日(ショート・ショート)

───2024年夏。うどん県のとある村が一夜にして消滅した。しかし、その真相は政府の手により極秘とされた。調査を重ねた我々が入手した音声データを再生すると、驚愕の証言が記録されていた。これは、その音声を文字に起こしたものである。なお、音声の乱れにより聞き取れない部分には〝ピー〟を代用している。

───あの夜、何があったのですか?(インタビュアーからの質問)

 あの夜は……とてもお月様が綺麗な夜でした……。月の明かりで田んぼがキラキラしていました。私は、夜泣きする娘を抱えて夜のあぜ道を歩いていました。抱っこして歩くと、娘はスヤスヤ眠るのです。子育てで、疲れている妻を少しでも休ませようと思ったのです。それが、あんなことになるなんて……。

 最初の異変は大きな影でした。巨大な巨大な影でした。空にあったはずの月が見えなくなりました。急に……とても大きな壁が目の前に出来たような……私は身の危険を感じました。何も分からぬまま、私は集会場へ飛び込みました。鉄筋コンクリート造の集会場には、青年団、消防団、自治会の役員が集まっていました。

「何かあったんですか?」

 私は彼らに問いかけました。

「巨人が出たんだ。大丈夫か?」

 巨人……急に私は、家に残した妻が心配になりました。泣き叫ぶ娘を抱えて、私は家に向かって走りました。ここからなら……5分もあれば……。その気持ちで集会場を飛び出しました。そして……見てしまったのです───巨人の姿を。

 足と手は……鮮やかな黄色でした。八朔はっさくのような黄色でした。胴体は血のような赤でした。巨人の胸のあたりを見て、私は茫然としました。顔があったのです。とても恐ろしい、黄色い顔の笑顔でした。それが、友人の家を見ています。

 そして……あぁ……取り乱して申し訳ありません。

 巨人は友人の家を踏みつぶしました。友人の家はミニチュアのように、巨大な足に踏みつぶされてしまいました。私の記憶違いかもしれない。でも、友人の悲鳴が聞こえたような気がしました。

 すみません……水を一杯だけ……いただけますか?

 すみません……続きでしたね。今でも夢の中で見ることがあります。あの巨人の顔と、あの異常な行動を……。巨人には体毛と呼ばれるものがありませんでした。頭にもありませんでした。月の明かりを反射して……あたかも二つの月が並んでいるような……。鼻は胸の赤よりも赤く、あれは頬なのでしょうか? それも、鼻と同じ赤でした。

「あーんピーピーち、あーんピーピーち!」

 巨人は声を発しました。教えてください……あーんピーピーち! とは何なのでしょう? 地は裂け、大地は揺らぎ、空は割れる……そんな恐ろしい声でした。私は娘を抱えたまま動けません。すると、青天せいてん霹靂へきれきとでも申しましょうか? 雷と共に降り始めたのです……大粒の雨が。すると、どうでしょう。巨人が苦しみだしたのです。とても、とても、低い声で……「カオガヌレテ、チカラガデナイ」と。巨人は、何度も何度も叫んでいました。

 私は、雨に苦しんでいる巨人の横をすり抜けて、妻を助けに家まで走りました。腰が抜けて動けない妻を抱き上げて、軽トラで町まで逃げようと思いました。土砂降りの雨の中、軽トラに娘と妻を乗せてエンジンを掛けたとき、雨が上がりました。そんなの……私にはどうでもよかった。家族が助かるのなら、私の命なんてどうなっても構わない。私は巨人に向かって、軽トラを走らせました。町へ行くには、この道しかなかったのです……。

 ヘッドライトに当たった巨人の顔が、雨で半分ほど崩れていました。巨人は雨に弱い……これで……助かる。そう思ってホッとしました。そう思い込んでしまったのです。しかし、終わりじゃなかった。月の見える方角から……巨人と瓜二つの顔が飛んで来ました。それが巨人の頭に当たったと思ったら、巨人の首の上で回り出したのです……新しい頭が……グルグルと……。そして、新しい頭がピカリと光ったのです。私の恐怖か確信に変わりました。そう……これは、終わりの始まりなのだと……。そこから先の記憶が……私にはありません。ただ……あの夜を境に、ピーぱんを見るたびに、目に見えぬ恐怖を感じるのは……何故なのでしょう? 教えてください……。

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