バーミンガム市交響楽団音楽監督を務める山田和樹。イギリス音楽は今後も必須のレパートリー。今日のプログラムは、《威風堂々》第1番以外は、山田にとって初挑戦となる。
山田が高校の吹奏楽部で指揮した思い出の曲、エルガー:行進曲《威風堂々》第1番。「日本フィルもさんざん演奏してきたので、どうリフレッシュするか気をつけたい」とインタヴューで語っているが、それは成功していた。
何度も聴いた作品だが、今日の演奏は英国老紳士の《威風堂々》ではなく、フレッシュな新人が指揮するような印象があった。元気いっぱいで、若々しい。スポーツの祭典のよう。「希望と栄光の国」のタイトルで歌詞がつけられ英国第二の国歌になったトリオの2回目では、スレイベル(ジングルベル)を両手に持ち、客席を向いてリズムをとる。お客様に拍手を促したかに見えたが、山田がすぐ演奏に集中したため、手拍子の応答はなかった。
2曲目ヴォーン・ウィリアムズ:揚げひばりは、山田が初挑戦する作品。
「イギリスの自然や風景と音楽に強い結びつきを感じる。大切なのはイマジネーション」という山田。ソリストは歌心が素晴らしいと山田が評価する周防亮介。
ステージに山田と登場した銀色のスパンコールが輝く衣裳に身を固めた周防の姿に驚愕。イギリスの自然や風景のイメージではなく、まるでロックスターのよう。エルトン・ジョンや氷川きよしを思わせた。
しかし、演奏は繊細極まるものがあり、特に最高音の弱音のニュアンスの細やかさが素晴らしく、ボウイングの安定感と弱音のコントロールは信じがたいものがあった。
山田日本フィルの演奏も繊細。中間部のホルン、フルートが表情豊か。消え入るようなヴァイオリンとオーケストラのコーダが幻想的な雰囲気を醸した。
周防のアンコールは、パガニーニ:イギリス国歌「God Save the King」の主題による変奏曲。左手のピッツィカートの伴奏や、重音を多用する中でイギリス国歌が変奏されていった。1829年作曲当時の国王はジョージ4世(在位:1820 - 1830年)と思われる。
これも山田にとって初挑戦のエルガー:交響曲第2番。演奏時間が平均よりも10分ほど長く63分ほどかかった。特に第2楽章はラルゲットよりも遅いアダージョのようだった。
演奏の印象を一言で言うと、フレッシュで輝くばかりのエルガー。特に各楽章のクライマックスに若々しい勢いがあった。
第1楽章は日本フィルがイギリスのオーケストラに変身したよう。弦が磨き抜かれ品格がある。金管もパワフルに輝く。バーミンガムのシンフォニーホールを思わせる響き。このホールはポップスのコンサートで一度行っただけだが、音の反響がなんとなくバーミンガムのホールのアコースティックを思い出させた。
第2主題による提示部の頂点は、フレッシュで輝きがあった。
展開部も金管が充実。ファンファーレ風の部分では、若々しい勢いに満ちる。
コーダの金管も気持ちよく、抜けのよい音。イギリスで受けそうな響きだった。
第2楽章ラルゲットは遅い。主要主題による葬送行進曲はさみしげで、引きずるように進んでいく。第2楽章の頂点は荘厳で輝かしい。
第3楽章、ロンド、プレストは軽やかに進む。弦の主題は明晰な響き。トリオの弦は繊細。低弦が重厚。第1楽章展開部で登場した旋律が現れ高揚する頂点は、激しく狂乱的。戦争場面を思わせた。コーダの高揚も激しい。
第4楽章モデラート・エ・マエストーソ。ホルン合奏による主題の提示が輝く。ヴァイオリンに出る第2主題はノーブルな表情。
展開部はじっくりと進めていく。
再現部は弦が艶々としている。
コーダは「荘重で光り輝くばかりの静けさ」というエルガーの言葉以上に壮大で、
R.シュトラウス「交響詩《英雄の生涯》」の最後を思わせる、堂々とした威厳があった。
山田は20秒ほどの静寂を維持してタクトを下した。
終演後、ホルン奏者で日本フィルのインスペクターを35年間務めた宇田紀夫が退団することになり、楽員から花束が贈呈された。山田は本当にお世話になった方と話しており、何度も何度も宇田を立たせ、感謝を捧げていた。
日本フィルハーモニー交響楽団 第767回東京定期演奏会
2025年1月18日 (土)
14:00 開演 サントリーホール
指揮:山田和樹
ヴァイオリン:周防亮介
コンサートマスター:扇谷泰朋
曲目
エルガー:行進曲《威風堂々》第1番 ニ長調 op.39-1
ヴォーン・ウィリアムズ:揚げひばり
ソリストアンコール:パガニーニ:イギリス国歌「God Save the King」の主題による変奏曲
エルガー:交響曲第2番 変ホ長調 op.63