高関健 東京シティ・フィル 奥井紫麻(ピアノ)(1月17日・東京オペラシティ) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

テーマ:

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番 ト短調を弾いた奥井紫麻(おくい しお)は、今回初めて生演奏に接した。2000年生まれ、今年21歳になる若手だが、素晴らしい。聴けて良かった。

テクニックと音色の美しさにプラス、深い音楽性、叙情性、潤い、人間的な感情まで、総合的なバランスがとれている。

 

プロフィールを読むと、モスクワ音楽院付属中央音楽学校を経て2018年よりグネーシン特別音楽学校でタチアナ・ゼリクマンに師事。2023年にグネーシン特別音楽学校のピアノ科を、特別表彰を受け、首席で卒業。現在ジュネーヴ高等音楽院にてネルソン・ゲルナーに、グネーシン音楽大学にてタチアナ・ゼリクマンに師事、これまでにロシア・ナショナル管弦楽団(ミハイル・プレトニョフ指揮)、ロシア・ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団(ウラディーミル・スピヴァコフ指揮)という錚々たる経歴。

 

ロシアピアニズムの伝統を身に着けた本格的なピアニストであり、ぜひリサイタルを聴いてみたい。アンコールラフマニノフ「前奏曲集より第2番 Op.23-2」。スケールの大きな演奏だった。

高関健東京シティ・フィルの演奏は、サン=サーンスにしては堂々とし過ぎていたような気もした。

 

マーラー:交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」は14型対向配置の演奏。高関はプレトークでマーラー全集の新校訂版をさらに子細に見直し、間違っているところを楽員とともに検証してパート譜を直したと語った。

 

そのこだわりは演奏全体を貫いた。生真面目なほどきっちりとしている。ただ、演奏としての面白さ、意外性、エンタテインメント性は少ない。

 

東京シティ・フィルの演奏はいつも以上に集中度が最高で引き締まり、弦の磨きのかかった音から、金管、木管、打楽器、ハープの大健闘まで熱い演奏が展開された。テノールホルンは佐藤采香。演奏後高関が真っ先に指名する名演奏だった。

 

第1楽章はかっちりとしたまとまりがあった。展開部のクライマックスのアダージョも美しい。再現部は輝きがあった。

 

第2楽章「夜曲」は序奏の2本のホルンはいいが、袖に下がって吹いた「こだま」のホルンは不安定。続くクラリネット、イングリッシュ・ホルン、フルート、ファゴットはしっかりとしていた。主部の行進曲風主題は教科書的にまじめ。

第1トリオのヴァイオリンが過去のシティ・フィルを知る者としては信じられないくらい美しい。

 

第3楽章スケルツォの不気味に奏でられるワルツには怖さはなく、絶対音楽的。トリオは美しい。スケルツォの再現は、不気味さが漂った。

この楽章が始まる前に次の第4楽章で活躍するギターとマンドリン奏者が入場、高関の前に座った。

 

第4楽章「夜曲」は優しい表情があった。マンドリンとギターも緻密。トリオのチェロ。ホルンが立派。弦に厚みもある。第3部のヴァイオリンは磨き抜かれた美しさ。コーダのクラリネットのトリルも決まる。「夜」の雰囲気よりも、ひたすら美しい音楽と言う印象。

 

第5楽章「ロンド-フィナーレ」

唐突に飛び出す主要主題が9回繰り返される。それまでの楽章の雰囲気が、まるで悪夢からの目覚めのように変わる楽章だが、高関のかっちりとした指揮では、意外性はあまり感じられない。

 

この日最も驚いたのは、第1楽章第1主題が回帰して祝典的に終わるコーダ。

高関はそれまでの教科書的な指揮から大変身。打楽器陣をこれでもかと強打させながら、壮大に盛り上げた。その弾けぶり、常軌の逸し方、教科書から狂気(失礼!)への落差は、計算済みなのだろうか。それとも本番の勢いなのだろうか。

最後のデッドヒートで、どんでん返しに会ったような恐るべき衝撃があった。

 

 

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第375回定期演奏会

2025/1/17 (金) 19:00開演 [18:15開場]

◎18:40より指揮者 高関健によるプレ・トークあり

会場:東京オペラシティ コンサートホール

出演

指揮:高関 健(常任指揮者)

ピアノ:奥井 紫麻

 

曲目

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品22

マーラー:交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」

 

奥井紫麻(おくい しお)プロフィール

感性、歌心、技術の全てに恵まれた稀有な存在。2004年5月生まれ。5歳半でピアノを始め、7歳より故エレーナ・アシュケナージに師事。8歳でオーケストラと初共演し、12歳でゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団と共演。10歳よりスピヴァコフと世界各国で共演を重ね、2019年10月にはモスクワ・ヴィルトゥオージ室内管弦楽団のヨーロッパ・ツアーのソリストに起用され、15歳でベルリン・フィルハーモニー、ウィーン・ムジークフェライン、プラハ・スメタナホール、ハンブルク・エルプフィルハーモニーを始めとするヨーロッパの著名ホールにデビュー。9歳から世界各国での音楽祭に招かれ、マリインスキー劇場、Foundation Louis Vuitton、マドリード国立音楽堂等で演奏。各地のオーケストラとも多数共演し、これまでにロシア・ナショナル管弦楽団(ミハイル・プレトニョフ指揮)、ロシア・ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団(ウラディーミル・スピヴァコフ指揮)、タタルスタン国立交響楽団(ウラディミール・フェドセーエフ指揮)、ウクライナ国立交響楽団(ミコラ・ジャジューラ指揮)他、日本ではNHK交響楽団(原田慶太楼指揮)、読売日本交響楽団(広上淳一指揮)、東京交響楽団(秋山和慶指揮)等と共演。
モスクワ音楽院付属中央音楽学校を経て2018年よりグネーシン特別音楽学校でタチアナ・ゼリクマンに師事。2019年12月、国立アレクサンドル・スクリャービン記念博物館より2019年度の「スクリャービン奨学生」に選ばれる。2016年モスクワ国際グランドピアノコンクール最年少受賞、2015年第1回クライネフ・ モスクワ国際ピアノコンクールジュニア部門最年少第1位、2013年第14回ロシア国営文化テレビ主催「若い音楽家のための国際TVコンテスト “くるみ割り人形” 」ピアノ部門第2位及び全部門総合聴衆賞ほか数々の賞を受賞。2021年4月にモスクワのボリショイ劇場で行われた第3回プロフェッショナル音楽賞”BraVo”では”The Most Popular Classical Artist from the Partner Country”を受賞している。2022年11月パデレフスキ国際ピアノ・コンクール入賞。
2023年にグネーシン特別音楽学校のピアノ科を特別表彰を受け、首席で卒業。現在ジュネーヴ高等音楽院にてネルソン・ゲルナーに、グネーシン音楽大学にてタチアナ・ゼリクマンに師事。ウラディーミル・スピヴァコフ国際慈善基金、ロームミュージックファンデーション(2023年度)、International Piano Foundation Theo and Petra Lieven of Hamburg 奨学生。