エッシェンバッハ指揮N響 オール・シューマン・プログラム(4月24日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。



4月20日NHKホールで聴いたブルックナー「交響曲第7番」では辛口のレヴューを書いたエッシェンバッハN響の演奏だが、今日のオール・シューマン・プログラムは、そのまろやかで美しく尖ったところのない響きと、内声部まで丁寧に描かれていく指揮がシューマンの世界にピタリと合致して素晴らしかった。
コンサートマスターは前半が郷古廉、後半の交響曲第2番は川崎洋介と交互に務めた。二人は終始並んで演奏した。


シューマン「歌劇《ゲノヴェーヴァ》序曲」

とてもバランスの良い響き。まろやかに音が溶け合う。ブルックナーでは物足りないと思った尖ったところのない音が豊かな響きをつくる。

 

シューマン「チェロ協奏曲 イ短調 作品129」

キアン・ソルターニのチェロはシンプルな美しさ。木目(もくめ)を思わせる響きの良い音。シューマンにしては明るい音だが、ロマンティックな表情は充分。エッシェンバッハN響はゲノヴェーヴァと同じく、バランスの良い演奏でソルターニのチェロを包み込む。オケは14型。

エッシェンバッハ指揮SWR交響楽団との演奏がyoutube↓にあった。

Schumann Cello Concerto op 129 | Kian Soltani | Christoph Eschenbach | SWR Symphonieorchester | HD (youtube.com)

 

ソルターニのアンコールは『自分の作品です』と紹介しながら、「ペルシアの火の踊り」というタイトルの曲を演奏した。ペルシャの伝統音楽の旋法のひとつチャハルガーを使ったものらしい。

1992年生まれのソルターニが20歳の時に演奏した映像がyoutube↓にあった。
Kian Soltani ... Persian Fire Dance (youtube.com)

 

 

シューマン「交響曲 第2番 ハ長調 作品61」

N響は16型。

これも素晴らしい演奏。ブルックナーでは少し物足りなかったエッシェンバッハの音楽性がシューマンではぴったりとはまる。ゲノヴェーヴァ同様、全体のバランスが整えられ、弦、木管、金管の音が絶妙に混じり合う。対抗配置。ヴィオラの内声部が特に美しい。

第1楽章序奏ではホルン、トランペット、トロンボーンによるモットー動機が全体に溶け込む。付点リズムの第1主題が生き生きと演奏される。

 

第2楽章スケルツォの第2トリオのヴィオラの対旋律がとても美しい。

 

第3楽章アダージョ・エスプレッシーヴォは端正な表情で、しかし充分な情感を込めて演奏される。

コーダが消えていくところで地震が起きる。震源地は茨城県で震度4、港区の震度は1だったが会場全体が一瞬ビリビリと揺れ、『あ!地震!』という声も上がる。エッシェンバッハとN響は構わずアタッカで第4楽章に入っていく。

 

この楽章は輝かしかった。地震のために活が入ったということはないだろうが、それまでとは表情ががらりと変わった。アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェの序奏は躍動し、行進曲風の第1主題は覇気に満ちる。第2主題の木管と弦も柔らかく温かい。

展開部からコーダまで、序奏の動機やオーボエに出る動機とともに、輝かしく盛り上げていく。対位法的に支えるヴィオラをはじめ低弦部の動きも生き生きとしていた。金管の音が弦とバランスよく溶け合った壮大なコーダも格調が高かった。

 

ブラヴォも飛び、エッシェンバッハへのソロ・カーテンコールとなった。