BETTER MAN ベター・マン
僕とロビーの出会いは、「Feel」という曲のMVを見た時。
メロディと渋い声に惹かれたのを記憶してます。
その後リリースされたアルバム「Intensive Care」の「トリッピング」という曲にハマったのち、ベストアルバムを聴いてました。
当時は彼が「テイク・ザット」に在籍していたことも知らなかったんですが、今度は再結成したテイク・ザットのアルバム「ビューティフル・ワールド」の中の「ペイシェンス」と「シャイン」をヘビロテしてました。
彼らのハーモニーとメロディセンスはすごく親しみがあり口ずさみやすいのが特徴。
さすがUKポップスだなと、当時バンドをやっていた僕にとって大きな刺激にもなりました。
最近だとカタールで開催された「FIFAワールドカップ」でパフォーマンスしていたのが印象的。
僕の大好きな曲「レット・ミー・エンターテイン・ユー」を熱唱していて興奮したのを覚えてます。
今回鑑賞する映画は、そんなボーカルグループを脱退し、イギリスで最大のエンターテイナーへと上り詰めたロビー・ウィリアムスの伝記映画にしてミュージカル映画。
本人が演じるのか?と思ったら、なぜか「猿」が演じてる…。
これはどういうことだ?
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
1990年から1995年、2009年から2011年の間までテイク・ザットのメンバーとして活動し脱退後はソロのアーティストとして7500万枚以上のレコードセールスを記録、全英アルバムチャートで最も首位を獲得し、ブリット・アワード史上最多の受賞歴を誇る世界で最も偉大なエンターテイナーの一人、ロビー・ウィリアムスの波乱の人生を、「グレイテスト・ショーマン」の監督によって製作されたミュージカル映画。
10代にして一躍スターダムにのし上がった主人公の栄光と挫折、そして再生するまでの波乱万丈な人生を、猿の姿という奇抜なアイディアで描きながら、ショーマンの名にふさわしい没入型のミュージカルシーンをふんだんに取り入れた、極上のエンターテインメント映画。
多くのファンに愛されながらも常に他人の目にさらされてきたことで辛さを感じてきたロビーウィリアムス。
自らパフォーミングモンキーと捉えていることから、監督のマイケル・グレイシーはロビーを「サル」の姿に見立て、彼の視点で物語を描くことを決めたそう。
サルと化したロビーはモーションキャプチャーによって描かれるが、声はロビー本人が担当する。
他、「銀河ヒッチハイク・ガイド」のスティーヴ・ペンバートン、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のデイモン・ヘリマンらが出演する。
ロビー自身も真実に忠実な物語だと断言。
問題のある性格や過去をむき出しにして表現できていると太鼓判を押している。
これまでの伝記映画とは一味違う本作。
その型破りな表現と心躍る数々のミュージカルシーンを刮目せよ。
あらすじ
イギリスで生まれたロビー・ウィリアムスは、1990年代初頭にボーイズ・バンド、“テイク・ザット”のメンバーに選ばれ、チャートトップを連発するポップスターになる。
しかし、その一方で10代にして世界的なスターダムにのし上がったことによる不安とあくなき夢を追い求める中で、愛されると同時に常に他人の目に晒される辛さに苦悩する。
仲間や大切な人との出会いと別れ、そして人生の絶頂とどん底を経験した、彼が選んだ人生とは——(HPより抜粋)
感想
東和ピクチャーズから招待され #映画ベターマン 試写。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) March 21, 2025
Let it boil!!
🇬🇧が生んだグレイテストショーマン、ロビー・ウィリアムスを猿に見立て描く令和の「オールザットジャズ」。
沢山の愛を与えられながらも本物の愛を渇望し足掻く男の輝かしい栄光と没落、再び頂点へと向かうラストに涙が溢れた! pic.twitter.com/jM5GO3yO8C
エンターテイナーは見られる商売。
だからこその辛さが画面いっぱいに広がる。
ロビーのヒットパレードに圧巻だけど、意外と幻覚シーン多くてうわっとなるかも。
猿のCGもなかなかでしたね。
以下、ネタバレします。
エンターテイナーの一長一短
いきなり自分の話から入りますが、僕も若い頃はバンドマンとして歌を歌ってたこともあり「客前に立つ」ことによる良い面と悪い面をそれなりに理解しているつもりです。
僕の場合目立ちたがり屋なのに人前だとアガッたり緊張することが多く、当時も今もそれに直面して苦しかったことが多々ありました。
本作は父から「脳なしなのかギフトを持ってるのか」と問われたことがずっと脳内に残っていたせいで、ライブシーンではトラウマの如く過去の自分から追い詰められる描写が多々訪れます。
彼の場合ドラッグやアル中がたたって幻覚を見ていたんでしょう。
とにかく常に不安が付きまとうロビーの姿をずっと見つめることになります。
そんな映画を見ながら、どこか自分が体験した様な辛さが画面いっぱいに広がっていたこともあり、結構辛かったです。
あの時お客さんの顔を見れなかったのは、一体俺を見て彼らは何を思ってるんだろうという邪念を取り払うためでしたが、もしかしたら過去の自分が睨みつけてくるかもしれない、なんて思ってたんでしょうか。
今となっては良い思い出ですが、本作を見てそんなことを思い出してしまいました。
さて本作に関してですが、常に調子乗って自惚れて自己中で勝手気ままなロビー・ウイリアムスを堪能できる伝記映画の姿、そしてどんなにメンタルがズタボロでもオーディエンスを「沸かせろ!」とばかりに懸命に歌い踊り楽しませる、ライブさながらの圧巻のパフォーマンスで見せる音楽映画の姿、そして偉大なミュージシャンなら誰もが通るドラッグ依存における内面崩壊、さらには父や母、そして祖母という家族の愛を渇望した、壮大なドラマでもありました。
全体的な内容としては、少年期からテイクザットのオーディション、ロバートからロビーという仮の姿になったことでもう一人の自分に戸惑いながらも成功を噛みしめる描写、メンバーとの不和により脱退しソロに転向、オールセインツのメンバー・ニコールとの熱愛、どんどんスターダム街道を駆け抜けていくと同時に増えていくドラッグの量、そして祖母との別れから父への思いと、彼の歴史をよく知らない僕でも聞いたことのあるエピソードや歌が並び、これぞエンターテインメントショーといった内容でした。
まるで令和版「オール・ザット・ジャズ」のように、ステージ袖で自分に「沸かせろ」と鼓舞してステージに立つロビーの姿に感動する箇所もあれば、その度に過去の自分と対峙して呼吸が乱れていく葛藤の瞬間が苦しく思うシーンが連続するんですよね。
正直後半あたりからそれが強く描かれるので、見てる側は結構しんどいと思ってしまいそうなんですが、あくまで本作はロビーの視点で描かれてる以上必要な描写だったんでしょう。
吸っては歌い、歌っては酒を飲むことで、ロバートではなくロビーとして表も裏も振る舞う姿は、「ボヘミアンラプソディ」や「ロケットマン」などといったイギリス音楽映画のそれを彷彿させる場面であり、如何にエンターテイナーのメンタルが不安定かが読み取れる映画でもありました。
その最たる理由は、父への過剰なまでの愛だということが見て取れるのではないでしょうか。
僕も男ですから、父に対する思いってのは母親とは違うものだったりします。
男って知らぬ間に父親を追いかけてるところってあるじゃないですか。
ロビーの場合、我々以上に追いかけてたんだなぁ、愛を欲しがってたんだなぁというのが窺える映画でしたね。
司会業やスタンダップコメディアンである父親が、フランシナトラやサミーディヴィスJr.に憧れていたことからロビー自身も好きになり、父親と共にシナトラの「マイウェイ」を歌うシーンから始まるんですが、父親みたいに有名になりたい(実際有名ではないんだけど)と願う息子は、父親から「有名になれる才能があるのか、それともただの脳なしか」と問われて戸惑うロビーの姿が映ります。
しかも父親はFA杯の決勝戦を見に出かけたのをきっかけに家を出て行ってしまうロクでもない父親。
なぜ自分を置いていってしまったのかという思いが、やがて「脳なしだから捨てられた」と追い込まれていくわけです。
こうした子供の頃に受けた出来事はトラウマになりやすいのか、どれだけ有名になってもお金持ちになっても、父親から認めてもらえない、または愛されていないという葛藤を生むことになっていくんですね。
いくら大舞台でライブをしても、ブリットアワードで受賞しても、アルバムをたくさん売っても、満たされない愛。
ファンからたくさんの愛を受け取りながらも埋められない隙間を、身を亡ぼすかのようにドラッグに依存することしかできない辛さ。
きっと音楽を辞めても苦しむんでしょう。
だったら沸かせるために、父に認めてもらうためにやり続けるしかない。
そんな彼の生々しい姿が見られる映画でもありましたね。
何故猿なのか。
しかしなんで猿にしたんでしょうね。
普通に考えれば、俳優をやってないロビーが本人を演じるのもおかしいし、俳優を起用してもロビーそのものを描けることは難しい。
監督のマイケル・グレイシーは「グレイテストショーマン」で大成功を収めたにもかかわらず、大きな映画のオファーを断って、自分の会社を立ち上げ色んな企業から出資してもらって本作を製作したと聞きました。
要するに監督は「挑戦」を選んだんだと思うんですね。
そして挑戦をするなら誰もやったことのないものを。
それがロビーが自身の事を「猿」と呼ぶことをヒントに作ったようなんです。
だからと言って劇中ではこれと言って「猿」である理由を明確にしていません。
自分なりに考えてみます。
猿は、猿回しやサーカス、動物園などで芸を覚えられる動物として「人に見られる=見世物」にしやすいものです。
人に見られてナンボのエンターテイナーは、ある意味猿のようなものですし、それに応えるべくワーキャーはしゃぐロビーは、猿そのものだったんでしょう。
特にテイクザット時代は、マネージャーから酒も薬も女も禁止と厳しい規律がある中で、ゲイリー以下のパフォーマンスと小バカにされながら、やりたいこともできない、いわれたことしかできないという「猿」のような扱いをうけてたわけですし。
とはいえ我々観衆は、そんな素晴らしい芸当を見せたり様々な苦悩を見せる猿を見せられることで興奮を始めとした色んな感情を引き出すことができる。
下手すれば人間以上に色んな感情を引き出せる可能性があるかもしれないと。
それが成功してるかどうかは各々の判断によると思いますが、僕はこの挑戦には肯定的に受け止めています。
こうやって整理してみると、猿であることに合点がいく挑戦だったのではないでしょうか。
圧巻のパフォーマンス
音楽映画の面を強く押し出している本作。
やはりライブパフォーマンスやミュージカルシーンを語らないわけにはいきません。
まず驚いたのはテイクザットデビュー前のドサ周り。
僕自身再結成後のテイクザットしか知らなかったこともあり、まさかゲイバーを回ってお尻丸出しの衣装を着たりレザージャケットを羽織って歌や踊りを披露していたなんて驚き。
その後女性だらけのクラブでのパフォーマンスも、完全にセクシーを売りにしたパフォーマンスで、当時15歳だったロビーはよくこんな屈辱とも取れる衣装で人前に出れたなと。
デビュー決定後の「RockDJ」のシーンは本作一番のハイライトでしょう。
どうやら街を4ブロック使っての撮影だったようで、CGを駆使したハイパフォーマンスは圧巻でした。
実際この曲はロビー自身の曲でテイクザットの曲ではないんですが、5人全員が洋品店のスーツや街を歩く人の服をはぎ取って早着替えをしたり、ホッピングに乗りながらリズムを刻んで踊るシーン、老人が乗るシニアカートにまたがってユニゾンダンスをしたり、OK GoのMVさながらの空撮映像で見せたかと思えば、ラストはマイケル・ジャクソンばりの大人数ロックダンスをかますなど、およそ3分の映像で一気に没入させてれます。
他にも、クルーズ船で新年を祝うシーンでは、恋人になるニコールとの馴れ初めからその後の未来までを網羅した映像になっていると同時に、フィギュアスケートを彷彿とさせるアクロバティック且つエレガントなペアダンスを披露。
名曲「She's the One」を二人で歌いながら互いを求めあう姿は、ミュージカル映画ならではの瞬間だったと思います。
また12万5000人を動員したとされるネブワース・フェスでのライブでは、宙づりになった状態で登場し、代表曲「レット・ミー・エンターテイン・ユー」を熱唱するロビーの姿が超絶カッコイイです。
しかし、ここでは重度のドラッグ依存により意識が朦朧としてる中でのパフォーマンスになっていて、過去の自分の幻影が多数登場。
やがてそれを断ち切るために、猿同士の壮絶なバトル描写へとシフトしていく映像になっておりました。
進撃の巨人のような人体模型的猿の姿が襲ってきたり、KISSの格好をした過去の自分、終いには「プライベートライアン」かよとツッコみたくなる、ナイフをを胸部にゆっくりと刺すシーンがあったりと、中々の映像描写になっておりました。
そしてクライマックス。
ドラッグ依存を克服し復帰した際のアルバートホールでのコンサートでは、幼少期に父とよく歌っていたシナトラの「マイウェイ」を白タキシードを着て披露。
2番に入る手前で父を壇上に上げデュエットを披露するシーンを、縦横無尽のカメラワークでフレキシブルに二人を捉えながら、ようやく父に認めて貰えたことへの喜びと、父からの祝福を表現する映像になっていて、僕は初めて「マイウェイ」を聴いて泣いてしまいましたw
そもそもこの歌は人生を全うした人が過去を振り返る歌。
ぶっちゃけ死ぬ前のような歌ですよw
それを物語の最後で、父が愛した歌を父と歌い、父に認めてもらって、人生道半ばにして酸いも甘いも経験したロビーだからこそ「心のままに」という言葉が説得力のある歌として物語を締めくくるわけです。
これはものすごく最高でした。
最後に
個人的にはもっとヒットチャートを駆け抜けるような成功への道をドラマチックに見せてほしかったんですが、それだときっとただの自慢話になると思ったんでしょう。
あまりそうしたオーディエンスや世間の反応は除外して、ロビーの視点一つに絞って描いたことは正解だったといえるでしょう。
やっぱね、アーティストが自分を切り売りすることって避けて通れない道だと思うんですよ。
それが共感を生んだり、アーティストのドラマやストーリーにもなる。
だから応援したくなるんですよね。
ただ楽しませるだけの歌はその場しのぎで歌い継がれることって大してないと思うんですよね。
だから本作は「RockDJ」や「レット・ミー・エンターテイン・ユー」よりも、「She's the One」や「Angels」のような自分自身を謳ったバラードの方がより鮮明に残る。
もちろんどちらもないと印象に残らないから削るわけにはいかないんですけどね。
しかしオアシスが登場したのは笑ってしまいましたね。
オアシスが売れた90年代中盤は確かにテイクザットと被っていたし、オアシスが好きだってのは本当なんでしょう。親交もあったろうし、きっとどっちが売れるか勝負っていういい意味で張り合ってたんでしょうね。
しかも恋人ニコールはロビーと別れてリアムと結婚て、出来過ぎですよw
兄ノエルは「ファックオフ」しかセリフがないのが最高でしたw
また、これは文句ではなくこうしてほしかったというお願いでもあるんですが、不仲だったテイクザットのメンバーゲイリーとは腹を割って話し合って、テイクザット再結成の際にロビーも参加するという事実があるので、そこで締めても良かったよなぁと思ってしまいました。
今回観賞するうえで、5人そろった時のアルバムを聴いたんですけど、めちゃめちゃカッコよかったんですよ。
それこそザ・キラーズのようなロック調のEDMを基調にしてて、これは聴きごたえあるなと。
特に「SOS」はマジでカッコイイです。
気になる方は是非。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10