MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2573 風が吹けば桶屋が儲かる?

2024年04月21日 | 社会・経済

 ある事態が発生したことにより、一見すると全く関係がないと思われる場所や物事に影響が及ぶことの例えに、「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉があるようです。同様に、最近では「バタフライ効果(butterfly effect)」などという言葉もあって、蝶が羽ばたくようなわずかな事象の影響で、その後の状況に(思いもしなかったような)大きな変化が生まれる可能性なども指摘されているところです。

 桶屋の諺に話に話を戻せば、その因果関係は①大風が吹けば土埃が立つので眼病疾患者が増加する→②増えた盲人などが三味線を生業とし門付で演奏したりするようになるので三味線の需要が増える→③三味線の製造には猫の皮が必要なので巷から猫が減り鼠が増加する→④鼠が増えると桶が齧られることが多くなるので桶屋が儲かる…といった具合です。

 こうした状況であれば、眼医者や害虫苦情業者などの方が桶屋よりも(ずっと)儲かりそうですが、まあ、その論理展開の突飛さがゆえに、「こじつけの理論」を揶揄する際の笑い話として長く語り継がれてきたのでしょう。

 ともあれ、長く人の口の端に上ってきた「諺」の類の多くが、こうして(よくある)人間の愚かな行動を笑い飛ばすための英知であるのも事実です。そうした中、4月9日の日本経済新聞では、編集委員の大林尚氏が『格言で斬る「子育て支援金」』と題する一文を寄せ、岸田首相肝入りの「異次元の少子化対策」の財源に関する政府見解を斬っています。

 岸田文雄首相が唱える「異次元の少子化対策」。必要財源を確保するための焦点となっているのが、健康保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」だと大林氏はこの論考に綴っています。

 支援金は社会保険料だと首相は言うが、これは「負担と給付の関係が明確」という原則に反する。政府の論法は、「①対策が奏功すれば子供が増える→②保険料を払う若者や将来世代が増える→③保険財政にプラス→④健康保険制度の持続性が高まる」というものだが、これはもう「風が吹けば桶屋がもうかる」の論理以外の何物でもないというのが氏の見解です。

 こども庁は、制度が完成する2028年度に(公費を含めた)支援金総額が1兆3000億円になると見積もっている。これは、ざっと計算すると消費税率0.5%分の「増税」に値するが、それでも首相は「実質的な国民負担は増えない」と繰り返していると氏は言います。

 そのからくりは、①「働き手の賃上げ継続」と②「歳出改革に伴う社会保障給付費の圧縮」の2点にある。政府の論理は、社会保障負担率を下げ、その範囲内に支援金の徴収額を収めるというものだが、これは詭弁に過ぎないというのが氏の感覚です。

 そもそも、今回の(支援金の)保険料負担への上乗せと、「賃上げ」や「医療費の抑制」などは関係のない話。実際に賃上げを継続する力を生み出すのは民の創意工夫にあるのであって、それを当て込む政府は「人のふんどしで相撲を取ろうとしている」に他ならないということです。

 社会保障給付費の歳出改革は経済界や財務省が長年、必要性を主張してきたが、いざという段になると改革を阻む政治力に翻弄され、頓挫を繰り返してきた。要は、賃上げ継続も歳出改革も「捕らぬたぬきの皮算用」になる可能性が高いと氏は話しています。

 さらにこの法案の概要には、「国は、少子化対策に必要な費用に充てるため、医療保険者から子ども・子育て支援納付金を徴収する」「医療保険者が被保険者等から徴収する保険料に納付金の納付に要する費用を含める」とある。

 ここで言う「納付金の納付に要する費用」は(まさに)「子育て支援金」のことであり、企業の健康保険組合や協会けんぽなどが被保険者と事業主から集めた健康保険料の一部を支援金としてこども庁が「召し上げる」と読めるということです。

 その実態は、(言うまでもなく)政府が保険料を支援金として流用するというもの。問題は、制度としての熟度が低い支援金について官僚が経済団体や労組団体などを回って「反対せぬように」と根回しをしていたことだと氏はしています。

 かつて国民健康保険の料率決定を市長に委ねる条例が租税法律主義に反するか否かが争われた「旭川訴訟」の判決で、最高裁は料率決定などには議会審議による民主的統制がおよぶ必要性を指摘した。(判決からも判るように)支援金の性格、負担の基準、徴収法などの決定はまさに国会での熟議という民主的統制を及ばせるべきものだというのが、氏が最後に指摘するところです。

 社会保険料は、政府が意のままに操ることができるような財源でないことは言うもでもありません。審議前から反対するなと言いくるめるような、「よらしむべし知らしむべからず」はごめん被りたいと話す大林氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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