武弘・Takehiroの部屋

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明治17年・秩父革命(10)

2024年04月28日 04時07分47秒 | 戯曲・『明治17年・秩父革命』

第3幕

第1場[11月3日早朝、秩父郡役所。 田代、加藤、菊池、井上、高岸、落合、新井周三郎、小柏、飯塚、井出、大野苗吉の他、困民党の主だった幹部が作戦会議を開いている。]

高岸 「きょうは“天長節”だから、ちょうど良い。天皇の軍隊でも警察でも、一網打尽にやっつけるにはもってこいの日だ」

大野 「お恐れながら天朝様に敵対するので加勢しろ、と言ってきたからな」(笑)

小柏 「そうだ、我々全軍で国家権力の部隊を叩きのめそう」

新井 「総理は昨夜、実のお姉さんにも久しぶりに会えたそうで良かったですね」

田代 「ああ、ありがとう。ついつい話し込んでしまったよ」(苦笑)

落合 「寝不足のようですが、体調はいかがですか?」

田代 「まあまあだが、二、三日前から胸の痛みが少し酷くなってね。持病なんだよ、年も年だし」

井上 「けっこう無理をして、頑張ってきましたからね」

田代 「いやいや、皆さんほどには頑張ってこなかったが、やはり年かな。総理は加藤さんに代ってもらった方がいいかもしれない」(笑)

加藤 「何を言われる、総理はあなたしかいないでしょう。 さあ皆さん、作戦会議を始めよう。まず参謀長から意見を聞かせてもらいたい」

菊池 「昨日も述べたように、小川から寄居へかけて軍勢を集中させ、浦和への突破口を開いていくのが最も重要だと考えます。とにかく兵力を集中させなければ、敵に打撃を与えることは出来ないでしょう」

加藤 「しかし、先ほど入った報告によると、憲兵隊や警官隊が吉田方面に進入してきたというが」

菊池 「それはおかしい。警官隊はともかく、憲兵はまだそんなに近くまで来るはずがない。何かの間違いでしょう」

田代 「いや、斥候係りが言ってきたのだから信じるしかないのではないか」

飯塚 「もう一つ、中山道の熊谷駅周辺で一揆が起きた他、寄居や野上の警察署が破壊されたということです。このため、熊谷までは簡単に進めるということですが」

菊池 「誰か、はっきりと確認したのだろうか?」

飯塚 「そこまでは分かりませんが、もしそうなら寄居へ進出する絶好の機会ではないですか」

井上 「どこまで事実か確認のしようがないが、今のところ偵察の報告を信じるしかないだろう」

井出 「いま参謀長が言われたように、寄居方面に軍勢を集中させるのが最も効果的でしょう」

加藤 「いや、敵が吉田に向かってきたというなら、それを迎え撃つべきだ。寄居に進出するのは良いが、背後から攻められて秩父の中心部が征圧されたら終りになる。従って、甲大隊は吉田・小鹿野方面へ向かうべきだ」

井出 「そうすると兵力が分散されますよ、敵に痛撃を加えることができない」

田代 「いや、北から攻められたら、この大宮郷が危うくなる。それに、近くで自警団の動きも出てきそうだ。ここは斥候係りの報告を信じて、甲大隊は吉田方面に行ってもらおう。 新たに創った丙大隊は大宮郷を守るとして、乙大隊は大野原から皆野、寄居方面へ展開してもらえればいい。時間がないので、とにかくそうしよう」

菊池 「仕方がありませんな。それでは、私は飯塚大隊長と共に、乙大隊を率いて皆野の方へ向かいます。そこで、戦線の拡大にともない皆野を“本営”とすることでどうでしょうか」

田代 「それには異存はない、私も皆野へ行こう」

加藤 「私は新井君と共に、甲大隊を引き連れて吉田に向かいます」

 

第2場[11月3日朝、郡役所近くの民家前。 日下藤吉と母のミツ、妹のハル。藤吉は白鉢巻に白ダスキ姿で、腰に刀を差している。]

藤吉 「いよいよ出陣だ。僕は菊池参謀長の伝令係りをしろと言われている」

ハル 「私も付いていきたいけど、駄目かしら」

藤吉 「駄目だよ、女性は“銃後の守り”だ。母さんをしっかりと見守ってほしい」

ミツ 「藤吉、無理をして危ない所に行ったりしないで。お前は若いから血気にはやるので心配だよ」

藤吉 「心配しないで。僕は伝令係りだから、それに徹するよ。むやみに血気にはやったりしない」

ハル 「それならいいけど、兄さんは直ぐに突進していく所があるから。私は母さんと一緒にいるけど、出来るだけ困民党のお手伝いもするわ」

藤吉 「うん、よろしく頼む。いったん戦場に出ると何が起きるか分からないが、出来るだけ連絡を取るようにするよ」(その時、農民1が藤吉の所にやって来る)

農民1 「日下君、参謀長がお呼びだ。出陣の時ですぞ」

藤吉 「はい、それでは二人とも元気でね」

ミツ 「お前も気を付けて」

ハル 「兄さんもご無事で」(藤吉、農民1と共に立ち去る)

 

第3場ーA[11月3日午後、皆野の荒川沿いにある親鼻の渡し場。 飯塚盛蔵、犬木寿作の他に、困民軍の鉄砲隊数十人が警戒に当たっている。そこへ“斥候”係りの農民が飛び込んでくる。]

斥候 「大隊長! 憲兵隊がいま対岸の金崎に現われました!」

飯塚 「なにっ、よし、鉄砲隊は銃撃の用意!」(暫くの間)

犬木 「おお、見えたぞ、見えたぞ。(少しの間) まだ撃つな、敵がもっと近づいたら撃とう」

飯塚 「大した人数ではないな、向うはまだこちらに気付いていない。よし、もう少し引き付けろ」

犬木 「ふむ、あれが天皇の軍隊か、天長節に鉄砲をぶっ放してやるか」

隊員1 「まだですか? 腕がムズムズする・・・」

犬木 「まだまだ、もっと引き寄せろ」

隊員2 「渡し場に近づいてきましたよ」

飯塚 「よ~し、もうちょっと・・・(少しの間) 射程圏内に入ったな、よし、撃てーっ!」(隊員達、一斉に銃を撃つ。ダダダダーン、ババババーンという射撃音が鳴り響く)

第3場ーB[親鼻の渡し場・金崎側。 隈元少尉以下、30人ほどの東京憲兵隊員]

隈元 「敵だーっ、撃ってきたぞー! 応戦の用意!」

憲兵1 「敵は火縄銃ですな、我々の村田銃をぶっ放せば奴らは“イチコロ”だ、ハッハッハッハッハ」

憲兵2 「“おもちゃ”の銃を相手にしているようなものだ」

憲兵3 「どれ、一発かましてやりますか」

憲兵4 「初めて村田銃を撃つぞ、胸がワクワクする」

隈元 「油断は禁物だぞ。全員、射撃用意!(少しの間) よし、撃てーっ!」(ババン、ババンという冴えない音)

憲兵5 「小隊長、私のは弾(たま)が出ません!」

憲兵6 「私も、私もです!」 

隈元 「なにっ、どうした、火薬が湿っているのか?」

憲兵1 「薬莢(やっきょう)が発火しないようです、畜生! 最新式の銃だというのに」

隈元 「何たることだ、発火しない火薬があるか! 畜生、大丈夫だと言われたのに、西南戦争の時の火薬じゃ使い物にならん! 仕方がない、これでは銃撃戦は無理だ。 全員、退却!」(憲兵隊、退却する)

第3場ーC[飯塚、犬木ら困民軍の鉄砲隊]

飯塚 「ウワッハッハッハ、見ろ、あいつらはほとんど銃も撃たずに退却するぞ」

犬木 「あれが天皇の軍隊か、情けない奴らだ」(笑)

隊員1 「勝ったぞ、俺達は天皇の軍隊を打ち負かしたんだ!」

隊員2 「立派な軍服を着ているくせに、からっきし駄目な奴らだな」(笑)

隊員3 「これで皆野を守ったぞ、敵はいつでも来やがれだ!」

飯塚 「よし、勝利を祝して、勝ちどきを上げよう! えいえいお~!」

隊員達 「えいえいお~!」「えいえいお~!!」「えいえいお~!!!」

 

第4場[11月3日午後、秩父郡北方にある大淵村の農家。 加藤織平、新井周三郎、大野苗吉、坂本宗作、島崎嘉四郎、新井悌次郎ら甲大隊の幹部が作戦会議を開いている。]

大野 「小鹿野から下吉田、太田を通って来ましたが、いっこうに敵に出会いませんね」

加藤 「・・・斥候の報告は間違いだったのか、憲兵隊も警官隊もいない。無駄な時間を過ごしたのかな」

周三郎 「そんなことはありませんよ。途中、高利貸しの家を幾つも打ち壊し証書類も焼き捨てたし、農民も随分動員できたでしょう。やることはやってきました」

坂本 「北西の矢納村あたりに、憲兵隊が現われたという報告がありますが」

加藤 「うむ、その連絡もどれほど正確かな・・・信じたいところだが、きょうは敵に遭遇していないからね」

島崎 「確かに、斥候の農民達は慣れないことをしているので、噂や風評に振り回されている面があるかもしれない。しかし、この地域も重要な拠点ではあるので、態勢を強化する必要はあると思います」

加藤 「うむ、引き上げるつもりはないが・・・どうしようか。新井君、君の考えは?」

周三郎 「皆野の本営からは特段の指令は来ていません。従って、我々甲大隊はこの地域に展開していても良いということです。 この際、敵を探索するためにも遊撃隊をつくりませんか」

大野 「それは良い考えだ、私も同感です」

坂本 「私も賛成です」

加藤 「そうか、それならそうしよう。遊撃隊については、新井君の判断に任せる」

周三郎 「それでは遊撃隊を2つつくり、島崎さんと新井悌次郎さんにそれぞれの指揮をお願いしましょう。 島崎さんには日野沢方面に、新井さんには石間(いさま)の方へ出てもらうということで、どうでしょうか」

加藤 「もちろん結構だ。遊撃隊の人数は?」

周三郎 「それぞれ250人とします」

加藤 「大部隊だな、ご両人ともそれで宜しいか?」

島崎 「喜んで遊撃隊を指揮します」

悌次郎 「むろん、それで結構です。2つの遊撃隊が日野沢から石間にかけて展開し、矢納村を包み込むようにして進んで行けば、やがて敵の軍勢とも遭遇するかもしれない」

加藤 「よし、決まった。島崎君と新井君はすぐに出発してもらおう」

島崎 「了解しました」

悌次郎 「それでは出発します」(島崎と悌次郎が出て行く)


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