韓流時代小説 蜜恋~恋迷宮と涙の決意ー彼の苦しみを私に分けて。私は子供じゃないから | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 蜜恋~お義父さんと呼べなくて~

 第二話 【はまゆうの咲く町から】

 トスの故郷である海辺の町に辿り着いた二人。ここでトスの衝撃の過去が明らかに!

 

 第一話 宵桜

誰か、私にあの男(ひと)を忘れさせて-
義父に対する許されぬ恋情。。。

 

☆ 〝トスおじさんにとって、お母さんは特別な存在なのね。だから、おじさんはお母さんのことをいつも女神(仙女)だなんて呼ぶんだわ〟☆
卿実(キョンシル)は15歳。
母の美瑛(ミヨン)と二人で暮らしている。
 到底、15にもなる娘がいるとは思えない若く美しい母、キョンシルにとっては自慢であもあった。
 〝お母さん、大好きよ〟、甘えて背後から抱きつくキョンシルをそっと包み込んでくれる母の優しい腕の温もりや良い匂いがキョンシルは大好きだった。

 そんな母にただ一つだけ、けして打ち明けられない秘密。それは、キョンシルの初恋だ。キョンシルが生まれて初めて好きになった男-、それはあろうことか、ミヨンの恋人トスだった。
 ミヨンの死をきっかけに、キョンシルとトスの関係が微妙に変わり始めていく。。。

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「どうせ私なんて、何の役にも立たないものね。それどころか、トスおじさんの荷物になるだけの存在だもの」
「キョンシル、俺は」
 言いかけたトスにキョンシルは声高に叫んだ。
「どうせ、私は厄介者なんだから」
 踵を返そうとしたキョンシルの手を咄嗟にトスが握った。
「待て」
「放して」
 涙が溢れそうになる。ここに来るまではトスともう一度解り合えたならと願っていたけれど、キョンシルが幾ら懇願しても、トスは何も応えてはくれない。もう絶望的だ。
「いいや、そなたが何と言おうと、俺は放さない」
 トスはキョンシルの肩を両手で掴むと、強引に自分の方に向かせた。
「俺がお前に何も話さなかったのは―」
「私がトスおじさんにとって取るに足らない存在だったからでしょう」
「違う、そうじゃない」
 押し問答に焦れたのか、トスが怒鳴った。
「人の話を少しは黙って聞け。俺がお前に何も話さなかったのは信用していなかったからじゃない。お前に醜い自分を見せたくなかったからだ」
 キョンシルがうつむけていた顔を上げた。
「醜いですって? 何でトスおじさんが醜いの?」
 トスは長い間しまいこんでいた記憶を探り当てようとするかのようにキョンシルに眼を凝らした。
「俺は人を殺したんだぞ。人殺しは世間では立派な犯罪だ」
 吐いて棄てるような言い方にキョンシルの方が哀しくなる。
「トスおじさんの場合は人殺しなんかじゃないわ。仕方がなかったのに」
 トスは両手のひらをひろげ、眼の前にかざした。裏返したり元に戻したりしながら、しげしげと自分の手を眺める。
「この手は人の血に染まっているんだ」
「仕方なかったのよ。トスおじさんのせいじゃないわ」
「口では何とでも言える」
「でも、他に言い様がないでしょ」
 水掛け論の堂々巡りだ。トスが苛立ちを露わにして言った。
「仕方ない、仕方ない、誰もが口を揃えて俺にそう言った。だが、何百回仕方ないと言っても、死んだ人間は生き返らないし、時間は元に戻らない」
「じゃあ、聞くけど、もしトスおじさんがチョンスさんを止めなければ、シヨンさんはどうなっていたの? おじさんはお姉さんのように大切に思っているシヨンさんが眼の前で乱暴されるのを黙って見ていられたの?」
「―」
 トスの口がうごめき、凍り付いたように固まった。キョンシルはできるだけ優しい口調になることを祈りながら言った。
「トスおじさんが動かなければ、事態はもっと悪くなっていたかもしれないのよ。ねえ、おじさんは起こりうる可能性のあった最悪の悲劇を防いだの。防ごうとして、哀しい出来事が起こってしまったんだわ」
「そなたに一体、俺の何が判るというんだ。人を殺したことのないそなたに俺の気持ちが判るというのか?」
 記憶の重さに打ちひしがれるように、トスはうなだれる。
 キョンシルは心から言った。
「それでも、トスおじさん。この際だから、はっきりと言うわ。、おじさんはシヨンさんの生命を救ったの。考えてもみて。誇り高く育てられた両班のお嬢さまが道端で―しかも身重の身体を手込めにされて、おめおめと生きながらえていると思うの?」
 そのことは先刻、シヨンと話しているときにも感じたことだ。シヨンは、薄紅の花びらを水に落としたような儚い美しさを持っている。だが、その中には両班家の息女としての凜とした心が秘められている。仮に十五年前、阻む者がなくチョンスに辱められていたとしたら、身重のまま自ら生命を絶ったであろうことは容易に想像できた。
「シヨンさんを助けるためには、チョンスさんと闘うしかなかった。その最中にあんなことが起こるなんて、誰も考えもしなかったはずよ。ましてや、トスおじさんは最初からチョンスさんと剣を交えるつもりはなかったんだもの」
「―」
 トスがその場に膝をついた。両眼を閉じ、何かに祈るような表情でうつむいている。固く瞑った双眸から、ひとしずくの涙が流れ落ちた。
「もう、良いのよ。トスおじさんは十分に苦しんだ。そろそろ自分を許してあげることが必要だわ」
 そう、十五年という年月は、あまりにも長すぎた。たとえ人ひとりの生命を結果として奪うことになったとしても、あれは避けられない悲劇であり事故だったのだ。
 一人で背負うには重すぎる罪をトスはたった一人で抱え、その気の遠くなるような年月を孤独に生きてきた。親や友人、すべてを棄て故郷に背を向けて過ごしてきたのだ。
 この辺で彼がその良心の呵責から自らを解き放ったとしても、御仏はお許しになるだろう。
「ね、これ以上、苦しまないで」
 苦しむあなたをこれ以上、見ていられないから。あなたが喘いでいるのを見ると、私まで心が痛くなるから。
 そう叫びたいのを堪え、キョンシルはトスの肩にそっと手をのせた。
「それに、これからは一人で苦しんだり悩んだりしないで。私にもトスおじさんの苦しみを一緒に背負わせて欲しいの」