「サッカー文化フォーラム」夢追い人のブログ

1993年のJリーグ誕生で芽生えた日本の「サッカー文化」。映像・活字等で記録されている歴史を100年先まで繋ぎ伝えます。

Jリーグ60クラブ時代、各クラブは何を目指して20年、30年やっていくのか?

2023年12月17日 16時53分15秒 | Jリーグ・三大タイトル
2023年の日本のサッカーシーンも終わり、年明け1月1日に行われる日本代表のテストマッチ・タイ戦を待っているところです。

2023年シーズンのJリーグ3大タイトルは、リーグが神戸、ルヴァンを福岡、天皇杯を川崎Fが分け合うという、近年にない顔ぶれとなりました。

30年の歩みを重ねたJリーグも、最初の10年、次の10年、そして直近の10年と、少しづつリーグの「顔」が変わっていることを感じます。

またカテゴリーも、J1、J2、J3と増えて、クラブ数もいつの間にか60クラブになりました。Jリーグの野々村チェアマンによると、これからも入りたいと思っているクラブが20~40もあるといいますから驚きです。

世界各国リーグのほとんどが、一つのカテゴリーのクラブ数を20以内にしていますから、増えていくたびカテゴリーがJ4、J5と増えていくことになると思います。日本のプロサッカーが4部リーグにもなるなんて、ちょっと想像を超えた増え具合です。

野々村チェアマンは「これ、すごいと思うんですよ。ある意味、大成功です。」と地域の盛り上がりを評価していますが、当・夢追い人は、地域の盛り上がりが20年、30年と長続きするのかどうか、よく確かめたい気持ちになっています。

どこの地域も、地元にプロサッカークラブを立ち上げようという時期は、数年間は大きな熱量をもって支援し、応援し、支えようという機運が続きます。

問題は、そのあとです。クラブが何を目指し、地域が何を目指すのか、そこがしっかりしていないと決して長続きはしないと思います。

プロスポーツという産業は、勝ち負けによってクラブの収益も、地域の関心度も大きく変動する難しい産業です。

けれども「だから仕方がない」「負けが込めば落ちるしかない」というところで思考を止めているとクラブの持続的、長期的存続も危うくなるというわけです。

Jリーグがこれほど多くのクラブの参入を可能にしたのは、プロ野球のような「興行主義」「12球団維持」というビジネスモデルを採用せず「地域密着主義」「カテゴリー数増加によるクラブ数拡大」というビジネスモデルを採用したからです。

30年前のこの選択は、日本において新たなプロスポーツが根付くためには、どのようなモデルがいいのか、という手探りの中で、プロサッカー先進国である欧州各国リーグのあり方をモデルにしようという思いが原点となっています。

そこには「地方の小さな都市にも歴史あるプロサッカークラブが根付いていて、そのクラブは地域みんなの宝物、いわば地域の公共財になっている。それこそが日本が目指すべき姿」という強い信念がありました。

30年後の現在、日本の社会におけるプロサッカークラブを取り巻く環境は、いろいろな意味で大きく変わってきました。

その変化の主なものとして、
一つは、日本の社会全体が少子高齢化、地方の衰退の進行など、いろいろな社会課題を抱える社会になっていること。

二つ目には、人々の興味、関心、嗜好といったものが、氾濫する情報の中で、ますます多様化、細分化、個人化していること。

三つ目は、プロスポーツビジネスが、社会において一定のマーケットをとれる状況とみて、バスケットボール、バレーボール、ラグビーなどが次々とプロリーグを立ち上げ、いわば競合他社が一気に増えてきていること。
があげられます。

こうした環境変化の中で、プロサッカークラブ経営を、これまでと同じ考え方、同じビジネスモデルだけでやっていこうとすると、他のプロスポーツとの競合の中で相対的に埋没してしまったり、地域が抱える社会課題に対応できず、地域から評価されないクラブに陥ってしまう可能性が出てきているわけです。

その一方、プロサッカークラブの経営にとって、厳しいことばかりではなく、うまく取り込んでいければ、持続的なクラブ経営が見通せる材料も出てきています。

例えば、少子高齢化の状況は、いわば元気な高齢者が年々拡大再生産されていることになり、健康志向、スポーツ志向の高まりも留まるところを知らない状況を作り出しています。

また、サッカーの世界は、ワールドワイドな世界で、小さな町のクラブに超有名なサッカー選手を呼ぶことも可能なことから、それが、その町と選手の出身国との交流のキッカケを作ることがあるとともに、アジアの国々が日本のJリーグに強い憧れや目標意識をもっている状況もあります。

さらには、近年のさまざまな情報通信技術やテクノロジーの進歩によって、これまでとはまったく違ったツールを経営に取り込むことが可能になり、それをクラブ経営の新たな武器にできるといった状況になっています。

Jリーグ30年を経て勢揃いした60のクラブには、60の経営があります。中にはメガクラブ、ビッグクラブと言われて、クラブの年間予算が100億円超ものクラブもあれば、年間予算僅か数億円といったミニクラブもあります。

では、数億円のミニクラブが将来のないお寒いクラブなのかと言えば、断じてそうではないところがプロサッカークラブ経営の魅力でもあり、資金豊富なクラブといえども、20年先、30年先まで安泰なのかと言えば、断じてそうではないところがプロサッカークラブ経営の難しさだと思います。

そのような中、60ものプロサッカークラブに共通して言える「心しておかなければならないこと」を述べてみたいと思います。

まずプロサッカークラブの経営を、持続的、発展的な軌道に乗せ続けるために何が必要かという点です。それは、先に申し上げたような「社会におけるプロサッカークラブを取り巻く環境変化」を的確に捉えて、それをクラブ経営の変革・革新につなげるクラブとしての「自己革新力」が必須であるということです。

クラブの中には経営母体となる親会社があって、クラブ経営者は親会社から来るといったタイプのクラブもあることでしょう。また別のクラブは地域の中小の熱心なスポンサー企業に支えられて、その関係者がクラブ経営を担っているというケースもあるでしょう。

大切なのは、どこから来た経営者なのかではなく、クラブとして「自己革新力」がある経営ができるかどうかなのです。

その意味で、プロスポーツ業界が、ここ10年ぐらいの間に劇的に変化したと思うのは、トップリーダーが次々と若返っていることで、なぜ若返っているかというと、カテゴリーが上位になればなるほど「自己革新力」のある経営をやっていかないと、次代に生き残れないという強い危機感をもっているからだと思います。

そのいい例がJリーグチェアマンです。前任の村井満チェアマンは8年間の在任中、革新的な経営でJリーグの財政基盤を確固たるものにした、いわば中興の祖とも言うべき功労者の方ですが、その村井チェアマンが、2022年、後任に野々村芳和氏を迎えて勇退しました。

同じようにBリーグ(ジャパン・プロバスケットボールリーグ)チェアマンも、Jリーグ創設の経験を活かしてBリーグ創設に尽力した川淵三郎氏の後任として活躍した大河チェアマンが、在任4年の2020年、後任に島田慎二氏を迎えています。

新チェアマンに共通しているのは、スポーツクラブ経営者として確固たる実績を残し、かつ年齢的にも若く革新的な考えと行動力を備えている、まさに「自己革新力」を持ったリーダーであることです。

さらに、今回、日本サッカー協会が、新会長に46歳の宮本恒靖氏を迎える予定になっています。この人選も、日本サッカー協会が、これからの時代を乗り切っていくため必要な能力と行動力、決断力を備えた人物でなければならないという強い危機感から出た人選であるように感じました。

このように、プロスポーツ業界は「現状維持は退歩を意味する」という厳しい考え方で新陳代謝を繰り返していく業界です。
60クラブの経営者の皆さんも、同じ認識を共有されているとは思いますが、認識が認識だけに終わることのないよう、行動で自己革新を図っていただきたいものです。

さて、チェアマンの交代で話題にしたBリーグですが、そのビジョンも革新的なもので、Jリーグ各クラブがむしろお手本にすべきではないかと思うほどの内容ですので、ぜひご紹介したいと思います。

Bリーグが現在進めているプロジェクトは「B・革新2026」と名付けられたプロジェクトで、2026年から新しいBリーグとしてのレギュレーションをスタートさせる内容となっています。

その考え方や方向性を列挙して見ると、プロスポーツとしては先輩のはずのJリーグが、うっかりしていると置いていかれそうな内容です。

何より刺激的なのが「Jリーグのビジネスモデルからの脱却」です。Bリーグもまずは「地域密着」型をビジネスモデルとしてスタートしたと言います。それを次に「地域愛着型」そして「地域創生型」ビジネスモデルにステップアップさせていくというのです。

以下、島田慎二チェアマンが、これからの地域経済をつくるための祭典「POTLUCK FES’23 -Autumn-」のオープニングセッション「地域密着から地域愛着、そして地域創生へ。Bリーグの「ココロ、たぎる」挑戦。」で講演され、また会場からの質疑応答に応えられた内容を、記事にまとめられたwebメディア「LOCAL LETTER」サイトの河瀬 佳代子氏のレポートから多くを引用してご紹介します。

島田慎二チェアマンによれば「地域で商いをする以上は地域密着が当たり前で、そこから地元の評価が上がって価値も上がり、外部から人を吸引できるレベルにいく状態が地域愛着です。」とのこと、その上で「バスケとその舞台であるアリーナを通して地域を盛り上げ、地域活性化と地域創生に寄与していくレベルを目指すのです」というわけです。

そのために2026年からどういうBリーグにしていくか。
まず、勝敗による昇格降格制は廃止します。一定の事業規模に達したクラブから順にカテゴリー分けをします。

「B.LEAGUE PREMIER(プレミア)」は世界で通用する日本代表の強化、地域活性化のシンボリックな存在になっていくクラブです。
「B.LEAGUE PREMIER(プレミア)」の基準は、平均の入場者数4000人、売上高が12億円、基準を満たすアリーナを保有しているかの3つです。

お客様や事業規模も増やし、我々が目指しているような世界観のアリーナが準備できない場合は、どんなに勝利してもトップカテゴリーには行けません。

次のカテゴリーの「B.LEAGUE ONE(ワン)」は全国の一番クラブ数が多いディビジョンで、一番下の「B.LEAGUE NEXT」は新しいクラブに登竜門として来てもらう役割になります。

事業規模がトップカテゴリーの基準を満たせば、「B.LEAGUE PREMIER(プレミア)」所属のクラブは増える一方ですし、基準を満たすクラブが現れなければ、いつまでも増えません。そこが勝敗あきりではないことの特徴です。

勝敗による昇格降格がなければ、クラブは選手の給料を上げるために稼ぐのではなく、地域のために稼いだ結果、投資できる範囲内で選手に投資する考え方に変えることができます。それが本来のビジネスの在り方であり、そのように変えるべきというのが「B.革新」の本筋です。

まずクラブが地域にとって「勝てなくても存在価値のあるクラブ」になり、地域がクラブ事業に投資ができる仕組みにすることでスポンサー・自治体・商店街等、地域のステークホルダーとの結びつきを強化し、チームの勝敗に依存しないビジネスモデルに転換して息長く繁栄する状況に変えることを目指すのです。

その促進により地域が活性化し、チームの存在価値がさらに上がる。チーム人気が上がると収入も増え、資金が選手に回り始めます。

そのような「B.革新」を成功させるために重要なのは「経営力・社会性・日本代表の強化」です。

「経営力」なくして地域を盛り上げていく活力はないため、クラブの経営力がまずは大切になります。経験ある経営者が地域内にいらっしゃっることに越したことはないですが、外部から呼ぶとなると報酬が高くなります。「資金がないので呼べない→呼べないからクラブが稼げない→稼げないから経営がきつい」というループがずっとありました。

今、Bリーグの成長に期待してくださる経営者が増えM&Aが多く起きています。そのため大企業の資金力を持ってして、いい人材を確保できています。我々が経営者を育成するのは簡単なことではありませんが、Bリーグの可能性を標榜することでM&Aを通じて経営者を変えていくのがトレンドかと思います。

また、スポンサーもいつまでも応援してくれる甘い時代ではないため、地域に必要とされるリーグになるために「社会性」は必須です。
これまでのスポーツ界の経営においてはどこかで無理をしたり、巨額のマネーが入ってこないと成り立たなくなることが通例でしたが、そうではなく身の丈に合った経営にしたいと考えていました。地域経済に負荷がかかりすぎる、極端な値段にしないと観客が会場に来れない、地元がスポンサードしても価値を見いだせないなど、相手にされない構造になってしまうと厳しいです。その点バスケットボールはある程度成長性を保ちながらも地域で支えられるスポーツコンテンツという意味で、ジャストフィットするサイズです。

一方で、地域密着から地域愛着、そして地域創生というと全てを地域で完結するように聞こえてしまうかもしれません。そういうクラブもたくさんあります。現行のB1・B2・B3では下のカテゴリーであればあるほどその要素が強く、上に行くほど地域だけで支えるのみならず外からの投資が起こって動いています。それなりの事業規模でないと戦えないのが実情です。

改革後の最上位カテゴリーになる「B.LEAGUE PREMIER」は、現行のB1よりもさらに一段上のグローバルなスケールのクラブを作り、選手を輩出していきます。資金面では地域だけで完結できなくなってきますので、ナショナルクライアントからの資金、さらに海外からの投資も呼び込んでいきます。

これから、多くの地域が、通年で応援するようなスポーツ好きな人たちを、幾つかのプロスポーツチームが互いに取り合っていく時代になります。

「スポーツ渋滞」といって1つの地域に支えるべきスポーツが多すぎてしまうと、地域で支えることが困難になります。1つの地域にプロスポーツチームがいくつも固まることが本当に必要なのか、考える時期に来ていると思います。

その意味で我々はコンパクトである程度のメジャーであること、競技者人口も若くビジネスの体現を明確に示していて、このスポーツ渋滞の中で勝ち抜くために手を打っています。

規模が大きい所が勝つわけではなく、要はクラブの存在価値です。そこを見誤らないようにしないといけない。野球とサッカーが強くて次をバスケットボールが追いかけているね、という序列にとらわれすぎることがないようにしたい。街おこしのやり方はいくらでもあります。

以上が、webメディア「LOCAL LETTER」サイトの河瀬 佳代子氏のレポートによる、Bリーグ・島田慎二チェアマンのプロジェクトです。
このプロジェクトには、もっと踏み込んだ「Bリーグが目指す5つのコミュニティ」といったプログラムもあります。

60のJリーグクラブは、当然「B・革新」のプログラムを勉強していることと思います。いいところはどんどんパクって欲しいと思います。各種目同士が競争し合う関係になっていく時代ですから・・・。

最後にサッカー界から出されている提言で、印象に残ったものを一つ。さる2021年2月6日放送のテレビ東京「FOOT×BRAIN」に当時「日本サッカー協会・欧州駐在強化担当部長」という肩書で出演された元日本代表、ジュビロ磐田の黄金期メンバーの藤田俊哉氏の提言です。

欧州では、サッカースタジアムの中に立派なラウンジがあり、地域の経済人、ビジネスマンが商談・接待などに普通に利用しています。試合観戦という楽しみとビジネスを結びつけ、食事をとりながらミーティングしているのです。

ここからは当・夢追い人が付け加える提案ですが、日本のスタジアムにもそういうところが出てきましたが、まだこれからです。地域経済のためにも、スタジアム内に商談用ラウンジを併設する動きが加速していけばと思います。

これまでスタジアムにあるラウンジというと、VIPルームのような個室程度のスペースが主流ですが、もっと広い数人程度が会食できるルームを2~3室、現在のスタジアムにも増設できるような建築基準法上の工夫も含めた対応策が欲しいと思います。

建築上の制約を取り除いた上で、すべてのクラブがホームスタジアムに必ず数人程度が会食できるラウンジを2~3室設置することを義務付けるよう進めて欲しいと思います。

仮に公営のスタジアムでも、例えば県の三役さん、部長さんがミーティングの場を設けるニーズがあってもおかしくないと思います。要はビジネス的な使い方を欧州では普通にやっているというわけです。

【ここからの部分は2024年1月16日に加筆しました】
さる2015年5月15日に放送されたテレビ東京のサッカー番組「FOOT×BRAIN」に、当時、川崎Fのプロモーション部長をされていた天野春果部長が招かれ、ホームスタジアムの等々力競技場の改修計画で実現した、さまざまなプランを紹介していました。

川崎市という公営のスタジアム、等々力緑地公園という都市公園法の規制を受けるところに立地している制約、さらには一般的な制約である建築基準法上の制約に縛られながら「じゃあ、あきらめるしかない」というスタンスではなく「その制約の中でできる最大限のことをやる」というスタンスで行った改修計画で「スカイテラス」という部屋は、まさに商談が可能なラウンジといったコンセプトのようです。

また「ファミリーシート」といって、ちょうどお花見の時に敷く大家族用のシートの大きさぐらいの席を作り、観戦に集中できない乳幼児連れのご家族の利便を図る席も作ったようです。

天野部長という方は、川崎Fが地域密着のお手本クラブと評されるぐらいになった、さまざまな仕掛けを打ち出した原動力となった方で、昨年12月22日に開催された今季限りでの退職をねぎらうかわさきFM主催のトークイベント「アマトーーク FINAL」には、天野氏の貢献を知る850人の参加者が集ったそうです。

他のクラブから見れば「ああいう人がいたから出来たこと」という見方もあると思いますし、また、我がスタジアムもとっくにそうしています、というクラブも多いかも知れません。とはいえ全部で60にも増えたクラブです。まだまだだと思い書き足しました。

では、また。















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