ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『絶頂の一族』- 15 ( 重光・ダレス会談 )

2024-04-30 17:24:52 | 徒然の記

  〈 第1章 祖父・岸信介 〉・・ ( 重光・ダレス会談  )

  ・岸の運命が急展開するのは、昭和32 ( 1957 ) 年を迎えてだった。石橋湛山が、老人性急性肺炎の発作に襲われたのである。副総理格の岸が、臨時首相代理に就く。

  ・石橋の容体は回復することなく、内閣発足からわずか2ヶ月余りで辞すことになる。後任総理に就いたのが岸だった。

  ・岸60才、巣鴨プリズンから釈放されて8年が経過していた。岸はようやく権力の頂点を極めたのである。この時孫の寛信は4才、晋三は2才だった。安倍晋太郎は、首相秘書官に就いて政界入りを果たした。

 ここから、本題の「60年安保騒動」の説明が始まります。最終目標の「憲法改正」のためには、「日米安全保障条約」の改定が不可欠と考える岸氏が動きます。松田氏が紹介する話は全て初耳で、昭和史秘話ではないかと思いましたが、よく探すとウィキペディアその他も同じ説明をしています。

 出どころが皆『岸信介回顧録』ですから、本を読んだ人には秘話でも何でもなく、単に「ねこ庭」の読書範囲が狭かったということになります。評判の良くない岸氏の「回顧録」がベストセラーにならなかったせいで、学徒の私も気がつかなかったのでしょう。

  ・岸が日米首脳会談のため訪米したのは、総理就任から約4ヶ月後、昭和32 ( 1957 ) 年6月のことだった。岸はホワイトハウスで、アイゼンハワー大統領と会談。

  ・共同声明の作業が終わりかけたのを見計らい、同席していたダレス国務長官に岸はこう切り出したと言う。

 『岸信介回顧録』を引用しながら、松田氏が対話を紹介します。

   岸 ・・・これで日米間は対等になったが、一つだけ非常に対等でないものがある。これを直さなければならない。

   ダレス・・それは何か。

    ・・・安保条約だ

  ・実は、岸がダレス長官を前に安全保障条約改定に触れるのは2度目だった。1度目は昭和30 ( 1955 ) 年6月で、鳩山内閣の幹事長だった時重光外務大臣に同行して訪米していた。

  ・その時重光はダレスに対し、「現在の安保条約は不平等で、日本側としては条約を対等なものに直したい。」と提案した。

  ・しかしダレスにはその提案が意外だったらしく、木で鼻をくくるように一蹴し、次のように吐き捨てたと言います。

    「アメリカとの間に対等の条約を結ぶなど、日本にそんな力はないでないか。」

  ダレスのこの態度が、側で聞いていた岸氏の神経を逆撫でし、その後の安保改定へ走らせる原因になったと松田氏が説明します。

  ・一体ダレスは、改定を求める重光に何を主張したのだろうか。NHK取材班が入手したアメリカの外交文書によると、ダレス・重光会談では以下のようなやり取りがあった。

  ・二人はさらに、海外派兵にかかわる憲法解釈についても応酬している。後の安保改定に至るアメリカ側の狙いが窺える会談なので、少々長いが引用したい。

 わざわざ氏が断りを入れているところをみると、二人の応酬の重要性が伝わります。そうなれば「ねこ庭」も、少々長くなっても紹介します。

   ダレス・・改定は現時点では、時期尚早です。アメリカはいまだ確信が持てません。

   重光 ・・・日本としては、共産主義のブロパガンダとその影響に対処する必要があるのです。現行の安保条約の体制下では、これからも勢力はますます拡大するでしょう。

      ・・・日本は共産主義勢力と戦える武器を持ちたいのです。安保改定によってそれを得たいと考えています。

   ダレス・・ならば日本は何時、自国防衛のために応分の貢献を行なうつもりですか。いつ保守勢力が、共産主義勢力に対抗できる強い力にまとまるのか。

      ・・何時その政治プログラムを実現し、アメリカとの協力関係を作れるようになるのですか。

   重光 ・・・日本はこれから、防衛力をさらに増強していくつもりでいます。

   ダレス・・日本の防衛力が不十分である今の段階で、条約改定の議論をすることはできません。

 アメリカと対等になりたければ証拠を見せろと、ダレス長官が重光外務大臣に迫っています。この時から岸氏は、「保守合同」を本気で進めたということになります。

   ダレス・・万一アメリカが攻撃を受けた場合、日本は軍隊を国外に派遣し、果たしてアメリカを助けてくれるのか。

      ・・日本が妥当な戦力を持ち、改正された憲法を持っているというのなら、状況は変わります。

      ・・例えばグアム等が攻撃された場合、日本はアメリカのため駆けつけることができるのでしょうか。

 議員の3分の2以上の賛成がなければ、「憲法改正」の発議すらできないと、とんでもない条件をつけたのはGHQでしたのに、ダレスは憲法改正をしない日本を批判しています。超大国の身勝手を見せられる思いがします。

   重光 ・・・日本はそうするでしょう。現行の憲法下でも、日本は自衛のための戦力を組織できるのですから。

      ・・・日本はこれから、防衛力をさらに増強していくつもりでいます。

   ダレス・・私が言ったのは、日本の自衛の問題ではありません。アメリカの防衛を言っているのです。

   重光・・・そういう状況が発生したら、日本はまずアメリカと協議を行います。日本の戦力を用いるかどうか、決定することになるでしょう。

   ダレス・・貴方のいう憲法解釈が、今一つ分かりません。日本が憲法上できる最大のことは、日本の防衛においてのみ戦力が使用できるのだと思っていました。

 「日本弱体化」の憲法を与えたアメリカの長官ですから、現行憲法の弱点を熟知しています。重光外務大臣の説明を、鼻先であしらっている様子が見てとれます。

   重光・・・もちろん日本の戦力は、自衛のために用いなければなりません。しかし日本は、安保条約に関する攻撃があった場合、戦力の使用についてアメリカと協議できることになります。

   ダレス・・事実上、日本の憲法が武力の海外派遣を妨げている以上、日本との協議の意味はほとんどないのではないですか。

 これが松田氏の言う、「木で鼻を括り一蹴した」ダレス長官の対応です。岸氏は私と違い「井の中の蛙」でありませんから、二人の応酬を聞きながら怒りと屈辱を堪えたはずです。

 岸氏の動き伝える松田氏の説明は、次回に紹介します。

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