見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

地獄極楽図の隠れた名品/ほとけの国の美術(府中市美術館)後期

2024-04-17 22:29:44 | 行ったもの(美術館・見仏)

府中市美術館 企画展・春の江戸絵画まつり『ほとけの国の美術』(2024年3月9日~5月6日)

 3月に前期を見た展覧会、2回目は半額割引の制度を利用して、後期を見て来た。冒頭の京都・二尊院『二十五菩薩来迎図』が撤収かな、と勝手に思っていたら、ここはそのまま。次の一角、敦賀市・西福寺の『観経変相曼荼羅図(当麻曼荼羅)』など、地方に伝わった仏画の逸品が並んでいたところが、ガラリと展示替えになって、金沢市・照円寺の『地獄極楽図』18幅が、まさに所狭しと並んでいた。噂には聞いていたけれど、色鮮やかで(むしろケバケバしくて)圧が強い。作者も制作年も不明だが、江戸時代終わり頃の作と見られている。

 18幅の構成は、はじめに源信和尚図。数珠と尺(?)を持って斜め右向きに椅子に座る図は、典拠の図像があるようだ。黒い衣にやたら派手な袈裟をまとっている。続いて、天道、人道×2幅、阿修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道。人道の1枚目は栄枯盛衰(上臈女房と枯野の老婆)、生老病死の四苦をあらわし、2枚目は死者の九相図。阿修羅道は戦いだけでなく天災の苦しみも描かれている。地獄道は閻魔王による裁きの場だが、なんとなく和風の書記官がいるのが気になった。

 次に地獄図6幅は、等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、大叫喚地獄・叫喚地獄、大焦熱地獄・焦熱地獄、阿鼻地獄。黒と赤を基調としたダイナミックな画面に、わずかに緑や青が入る。炎や熱線の輝く赤に対して、切り刻まれる亡者が流す血潮には、ベタつくような深紅が用いられている。月岡芳年や落合芳幾の「血みどろ絵」の赤と同じだ。どんぐり眼の鬼たちは、マンガのキャラクターのようで意外とかわいい。なお、本作の地獄図は、版本『平かな絵入往生要集』の挿絵を換骨奪胎して、大画面に再構築している、という指摘もおもしろかった。

 続いて極楽図4幅は、聖衆来迎楽、聖衆倶会楽・引接結縁楽・快楽無退楽、五妙境界楽・身相神通楽・蓮華初開楽、増進仏道楽・随心供会楽・見仏聞法楽。描かれている風景は特に珍しくない極楽図なのだが、明るく朗らかな色彩感覚が自由すぎてびっくりした。いや、我々が退色した状態で見ている古い極楽図も、本来はこんな感じだったのかしら。

 ロビーでは、この地獄極楽図でお坊さんが絵解きをするビデオが放映されていた。照円寺、次に金沢に行ったら訪ねてみたい。日本には(地方のお寺には)まだまだ、私の知らない名品が隠れているのかなあ、と思うとわくわくする。

 後半も微妙に展示替えがあったが、来た、来た!とテンションが上がったのは、曾我蕭白の『雪山童子図』。木の上には、福々しい白い肉体に緋色の腰布の童子。下には全身青色の鬼。童子は自分の体を鬼に与えるために飛び降るところ。けれども、決然として喜びにあふれた童子の尊さに比べ、醜怪な鬼が哀れに見えてくる。そう思って解説を読んだら、この鬼は帝釈天の化身で、童子を空中で受け止め、敬礼したという話だった。いや、全然忘れていたが、この鬼、どう見ても帝釈天の面影はないなあ…。

 私はこの作品を見ると、自動的に2005年の京博の曾我蕭白展を思い出して「円山応挙が、なんぼのもんぢゃ」の名コピーが浮かんでしまう。久しぶりに20年後に東京で(しかも?府中で!)見ることができて嬉しかった。また、昨年、奈良博の特別展『聖地 南山城』で、この『雪山童子図』の典拠ではないかと推定される、大智寺(木津川市)の『悉達太子捨身之図』を見たことも思い出したので、ここに再掲しておく。

 そのほか、印象に残ったものに中林竹渓の『観音像』がある。背景を黒一色にした美麗な観音さま。名古屋市・西来寺の『八相涅槃図』は、何度か見ているが、水の生きものが参列しているのが珍しい。鯨は珊瑚を咥えている。蘆雪のやんちゃなわんこをたくさん見ることができたのも嬉しかった。『枯木狗子図』の2匹が肩を寄せ合う後ろ姿の愛らしさ。これは初見のような気がするのだが、こんな名品を見つけ出してくれたことに大感謝である。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOU... | トップ | 虚構の遊楽世界/大吉原展(... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事