金銭面の話題
本来
客商売の最中は
控えるように
言われている
…から
こんな風に
直球で客に伝えることは
店側のスタッフに
見聞きされていないか
と
一瞬
周囲に目を配れば
僕のその挙動に
「…なに?
言っちゃいけない事でも言った?」
僕の
しまったぁ
って空気
読み取ったか
共犯者になろうって事か
単なる好奇心か
僕のやっちゃった感に
便乗するような
小声で聞いてくる客
自分の考察に酔うあまり
僕の発言の
…何が地雷だったか
気付いていない様子
確かに
あれこれ客に要求するのが
キャストの仕事…な訳だから
僕がお金の話をしたとて
違和感なかっただろう
普通にしてれば
そのまま流された話題を…
「…いや
僕の営業が下手な事と
売り上げが良くないって事
…バラシちゃったなぁ…って」
ペラペラと
酔ってる僕は
言っちゃいけないと
思ったセリフを
喋りながら
あわわ…って
軽い口
これ以上余計な事
言わないように
あざとく見えるだろう
けど
発言を留める様
小さく口をつぐめば
「…どうしたんだい?
話すの止めちゃうの?
別にいいんだよ
あれこれ要求してくれても」
この席での注文は
店側のおごり…って事
知ってる僕に
気前のいい客っぷり
口にするけど
客も酔ってて
気が大きくなってるって
把握したうえで
どうせ
戯言で終わるだろ
そう思いつつ
「…今月
彫師のスケジュール
確保できてなくて…」
彫師からの特別扱い
確かにあった
…はずの
これまでとの
変化
僕同様の依頼
する彫師のファンが
何人かいる事
噂では聞いている
そのせいで
揺るぎつつある
特別枠
メンテナンスに必要な
痛み止めや塗り薬の
サービス
断ったから
彫師サイドの好意
無下にしたって格好になった?
正直
本当に僕が
特別な扱い
されてたかは
実感ない部分
ではあるものの
他のユーザーたちの話によれば
彫師本人からの
予定連絡や
ドタキャンが無いのは
珍しいらしく
今も
構図変更の構想中って
連絡が入って以降
次回のアポも取れないまま
放置の継続
別に初めてではない
実際
次の施術までに
アレルギーの検査云々
申し伝えられてる
訳で
その検査結果が
良好でも
気候の
影響も鑑みて
施術予定日
一週間前くらいに
再検査…って
徹底管理が言い渡されてる
スケジュール
それもこれも全部
新しい機材での
トライって事だからって
言われてて
けどそれはすでに
僕以外の人には
使用されてる技術…らしいって事は
風の噂で耳にしてて
客に言っても
しようのない愚痴
ぽろぽろと
語ってしましそうで
デコラティブな瓶
掴んで
ぐっと
残ってた水
飲み干せば
「アルコール
もう抜いちゃう感じ?」
アポが取れないと
愚痴っただけで
言葉数少ない僕からは
面白そうな話題
無さそうだと
察したか
客は
ズボンを捲り上げた僕のひざ下を
なでながら
「…脱毛と墨入れだと
痛みに違いとかは…
あぁ…
君は痛みに強いんだっけ?」
そう
質問を途中で止めて
僕の膝の傷
指で触れ
「…だから
こんな痕が残るんだ」
と
周囲の肌より
ワントーン明るい
盛り上がった傷に
前屈みの姿勢
ぐっとさらに
屈すると
ぺろりと
舐めた
つづく