ヒマローグ

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2024-05-08 08:22:49 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「よく分かっていらっしゃる」4月29日
 『高校までに「自己調整力」を』という見出しの記事が掲載されました。『アクティブラーニングや大学改革の研究を通して、大学生や社会人に求められる「資質・能力」を育成するには、「大学からでは時すでに遅し」と訴えるAL研究の第一人者、溝上慎一・元京都大教授』へのインタビュー記事です。
 溝上氏の話されることを読むと、同氏が学校の授業についてよく理解なさっていることが分かりました。まず、『子どもは興味がある課題であれば、前のめりに楽しく勉強できます。好奇心を育てたり、興味を持たせたりする授業をする力は、学校の先生にはあります』という言葉です。
 学校の教員については、一方的に知識を与えるだけの古い授業しかできないなどの的外れな批判をする「専門家気取り」の人が多い中、溝上氏の的確な評価を目にすると、嬉しくなってきます。決して授業力が高いとは言えない教員であった私も、実は「好奇心を育てたり、興味を持たせたりする授業」の実践家でした。
 実際に自動車を分解したり、当時の橋作りの大変さを感じ取らせるために直径60cm以上の丸太を鋸で切らせたり、分業と流れ作業の効率性としんどさを理解させるために班で一口感想に使う用紙づくりをさせたりと、さまざまな工夫をし、「もう一度やりたい!」「休み時間いらないから続けてやりたい」という声を引き出したものです。
 そして私が特に感心したのが、上記の言葉に続く『しかし、今求められているのは、与えられた興味・関心でやる気になる段階から一歩進んで、粘り強く、主体的に学ぶ力です。学習目標を立てて、やる気がない時にでもやる気を出す方略を身につけることや、小さい目標の達成を繰り返して自分を鼓舞するといった「自己調整型」の力と言われています。医学部生を例にとると、膨大な症例を頭に詰め込むことやドイツ語や英語を身につけるのは楽しいことばかりではないと思いますが、将来の職業に必要だから努力することが必要です』でした。
 溝上氏の教員の指導力に関する現状認識を要約すれば、好奇心を育て興味関心をもたせることは大部分の教員ができているが、当初の興味関心が薄れ、困難な壁に直面して学ぶ意欲が萎えかけたときにも、自分でスモールステップ型の目標を立て地道に一つ一つ目標を達成していくことができるような子供を育てる授業は多くの教員ができていない、ということになるでしょう。
 そしてその認識は正しいのです。私自身の経験、指導主事として多くの授業を見てきた経験からしても、導入部分で「びっくり資料」や初めての経験を子供にぶつけ、歓声を挙げさせ、子供の意欲をかき立てることは、少し経験を積み力のある教員であれば、さほど難しいことではありません。しかし、授業の実態を知らない似非専門家は、そうした授業を見て、「子供が生き生きと活動していた」などと称賛してしまうのです。全く教員を馬鹿にした話です。
 私は、授業を独楽に例えます。教員の工夫により、初めは勢いよく回っている独楽も段々と勢いを失い、フラフラしだすのです。放置しておけば、やがて独楽は倒れてしまいます。面白そうだと思って初めはノッていた子供たちが、「難しい」「分かんない」「どうすればいいの」「先生、教えてよ」と自分で解決する自信も意欲も失った状態です。
 独楽が完全に倒れてしまえば、授業は失敗です。一度フラフラし始めた独楽に再び勢いを取り戻させる技を持つか否か、それが平均的な教員とスーパー教員の分かれ目なのです。溝上氏のように、授業の難しさの実態を知る「専門家」が増えてくれれば、学校教育改革も実のあるものになるはずです。

 

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