日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(19-2)

2024年05月01日 03時50分00秒 | Weblog

 校門を出ると、街へ降りる道は三叉路になっており、織田君は疲れているのか少し元気のない声で
 「また、友達に見られて冷かされるのは嫌だし、それに時間も早いようなので、公園で一休みして行こう」
と、杉木立に覆われた坂道の方に歩き出したので、理恵子も彼に並んで自転車を押してゆっくりと歩き、街の中心部が眺望できる見晴らしの良い公園に辿りついた。

 公園の芝草は鮮やかな緑に彩られて、誰もいなく静まりかえっており、風が心地良く頬をなでて流れ、理恵子の髪を揺らしていた。
 織田君は、自転車を置くと運動靴と靴下を脱ぎ捨て、野原の中ほどに向かって素足で駆け出して行き、芝生に仰向けに寝転ぶや
 「あぁ~ 最高に気分がいいわ」
と叫んだので、理恵子も彼の方に駆け寄って行き、真似をして靴下を脱ぎ、隣に仰向けに寝転んだ。
 初夏の陽ざしを一杯に浴びた芝生は柔らかく、久し振りに素足で青草を踏む感触は、普段では味わえない、心が弾む気分にさせてくれた。
 理恵子は、辺りに人の気配も無く誰にもに見られる心配も無いことを確かめ、初めて織田君と二人だけで気遣いなく思う存分話せることが訳もなく嬉しかった。

 理恵子が、均整のとれた素足を横崩しにして、織田君の脇に座りなおすと、彼は
 「理恵子 なんだ腹痛でなかったのか?」 「僕 本当に腹痛を起こしたと思ってビックリしてしまったよ」 「相変わらず、人騒がせなんだから・・」
と、空に向かって独り言のように呟いたので、彼女は
 「そんなに怒らないでょ」 「わたし、咄嗟のことで慌ててしまい、君が近くに居たので周りの人達のことも気にかけず、お願いしてしまって・・」
 「でも、本当に助かったゎ」 
 「簡単に説明すると、わたし女性として順調に育っているとゆうことょ」
と話しながら、再び彼の脇に並んで仰向けに寝転び
 「こうして仰ぎ見る空は透き通っていてとても綺麗だゎ。君と一緒に眺めているせいかしら・・フフッ」
と呟きながら芝草をむしりとり、彼の耳を悪戯っぽく擽っていた。
 織田君は、そんな彼女の仕草を五月蝿がってよけながら、理恵子の白く細い指先をいじりながら
 「言っていることが良くわかんないが、そうだったのか」
と返事をしたあと
 「理恵子 君の新しいお母さんのことは、よく知らないが、今まで通りちゃんと勉強しているの」
 「僕 時々、どうしているのかなぁ。と、気になることがあるんだ。僕が気にしても、どうにもならないが・・」
と聞いたので、彼女は
 「大丈夫ょ。今迄に亡くなった母さんと一緒に何度も訪ねていて、どうゆう訳か自然と心が解け合い、そのときの延長線上みたいで、普段通りの生活ょ」
 「それに、亡くなった母さんが、まだ、何とか元気な頃、今の母さんに顔を合わせる度に、しきりに自分にもしも万一の事があった時は、理恵を頼むわね。と、言っていてくれたので・・」
 「きっと、今頃は天国で私達が仲良くお喋りしていることを喜んで見つめていると思うゎ」
と、寂しそうな表情も見せず穏やかに答えたので、織田君は
 「君は、偉いわ。 生活環境に対する順応性があるとゆうことか。僕が、想像していた以上に大人なんだなぁ」
 「まぁ 考えてみれば、女性はいずれ嫁さんになって人の家で暮らすことになるんだからなぁ」
と言うや、理恵子は
 「そんな言いかたしないでよ。お婿さんを迎えることだってあるんだから」
と答えた。 彼は安堵感から深く息を吸い込んで青空に向かって吐いた。

 理恵子は、そんな織田君の横顔を見ていて、今度は彼の手を握り返して、再び、芝草で彼の鼻先や口元をくすぐりながら
 「織田君 わたしのことを気にかけていてくれたんだぁ~」 「嬉しいゎ~」
と、恥ずかしそうに囁いたので、彼は慌てて
 「オイオイッ! 好きとか恋とかとは別だよ」 「お前は、頭の回転が速いので、ハヤトチリ するなよ」
と、真面目な顔をして答えたので、彼女は
 「なぁんだ つまんないゎ」 「でも、こうして二人で話し合えるだけでも嬉しいゎ」
と言いつつも、少し不満そうな表情をして、再び、彼の脇に並んで仰向けに寝転んでしまった。

 織田君は、黙って空を見上げている彼女の横顔を見て、一寸寂しそうな表情をしているのが気になり、内心、言い方が率直で少し彼女が機嫌を損ねたのかなと思い
 「理恵っ! 誤解するなよ。 別にキライダと言っているんでないからな」
 「この先、どうなるかわ知らんが、今は男と女の先輩後輩、近所同士で互いに一人っ子、良い意味で友達付き合いが気楽に出来るだけでも幸せと思わんければ罰があたるよ」
 「それより、今晩、君の母さんに聞かれたら君との関係をなんと答えれば良いのか、夕飯のことより心配だよ」
 「山上(健太郎)先生は、僕達のことは判っていてくれると思っているので、全然気にならいが・・」
と話すと、彼女は
 「織田君、大きな体の割合に、案外、神経が細かいのね」 
 「さっきも言ったでしょう。昼間の出来事は絶対に口に出さないでょ。普段通り、なんでも好きな様にお喋りすればいいのょ」
 「最も、わたしは、母さんに電話で話しちゃったけれど・・フフッ」「母と娘にしか通じないことってあるものょ」
 「君が心配することではないゎ。判ったはネ!」
と、彼の言葉を突き離す様に答えたが、その表情は何時もと違い明るさがなく、彼には冷たく感じられた。
 彼は頷くこともなく黙って聞いていたが、普段は甘えたり少し威張ったことを言ってる癖にと思いつつ、彼女の生きる心の強さを改めて思い知らされ安心した。

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